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僕の彼氏と私の彼女  作者: 響城藍
第十話「紅茶には砂糖をひとつ」
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【四章】ケーキの中にある果物は何

 双子にとって比べられることは苦痛だ。比べられて指摘されて、自分は劣化品なのだと何度も傷ついてきた。なのに、どうして今自分が傷をつける立場になってしまったのだろう。昔から自分は素直じゃない性格だと理解していたし、それを直そうともした。だけど直せないまま二十歳を過ぎ社会に出ている。もう一人の自分には彼女がいて、仕事でも成果を上げている。なのに自分は何か成果を上げられたことがあっただろうか。大切な妹さえも巻き込んで何をやっているのだろう、と陽斗はただコーヒーカップを見続ける事しか出来ずにいる。

 その様子を横目で見ていた海斗は何度か口を開けたけれども、どの言葉が適切なのか解らずに飲み込んで、沈黙が続く。痛いほどに伝わる気持ちは双子だからだろう。


「陽……」


 言葉と一緒に向けられた視線を捉えて、だけどすぐに視線はコーヒーカップに戻ってしまう。どの言葉が適切なのか解らないのは海斗だけではない。


「……オレは、」

「うん」

「ただ、照れちまっただけなんだ……」

「うん……そうだと思ってた」


 素直に呟かれた言葉に、海斗は小さく笑った。昔から変わらないだけで、不器用なもう一人の自分はコーヒーをかき混ぜてできた渦巻きを眺めている。


「まだ全然知らねーんだけどさ、なんかこのまま関係が続けばいいのになって思っちまって。でも向こうはそうじゃないかもしれねーし、そもそも高校生に手はだせねー。だから、どうしたらいいのか不安になっちまってるのかもしれねぇ……」

「たしかに、そうかもしれない……けどさ、陽は関係が続いて欲しいって思ってるんだよね」

「そう、だな……」

「だったら……関係を続ければいいんじゃないかな」


 思わず顔を上げて海斗を見ると、何でも知っているという笑みを浮かべていた。言葉にするのは簡単だろう。行動に移せる自信が無いから悩んでいるのに、肝心な所で尻込みしてしまうのは昔から変わらない自分の短所。自信が無くてまたコーヒーカップの中身が渦巻くのを見つめる。


「葵に言えばさ、また会えると思うんだ……葵が会わせたくないって言うかもしれないけど……」

「……そう言われたらそれまでだろ」

「嘘つきだなぁ、陽は」

 

 くすくす、と面白そうに笑う顔は簡単に想像出来てしまったので視線は向けない。だってそうしたらその言葉を肯定したようなものだ。どんな手を使ってでももう一度会いたいと思う気持ちは、海斗にとっては簡単に見抜ける程度の事なのだろう。それはたとえ妹に引かれてしまう行動だとしても、それ位に関係が終わるのが嫌だというのが陽斗の本心だ。

 もう一度コーヒーカップの中に渦を作りながら、どうするべきか考え始める。


「じゃあさ……どうしてそんなに気になるの?」

「……どうしてだろーな。オレにもわかんねーや。だた、初めて見た時にもしかしたらオレらと同じ双子なのかもしれねえって思って、そしたら案の定そうだったからさー。うまく言えねーけど……」

「陽……そういうのを女子たちは、運命って言うらしいんだ」


「彼女がよく言うんだけど、俺はそういうの分からなくて」なんて不安そうに呟く海斗の顔に穴が開く程視線を送る。その言葉の意味を調べようかなんて思ってしまう程に信じられない言葉は聞き間違いだったのかもしれない。


「たとえば俺たち双子が同じ双子に会える確率がどの位とかそういう確率論的な事を運命と言うのかもしれない……」

「い、いや、うん、そーだな……」


 真剣に考え始める海斗に問題はそこだったかなんて呆れつつも、海斗が真剣になったら答えを出すまで集中しだすから放っておく事にした。ただ海斗の言う通り、双子が双子に合う確率は低い。そもそも双子が生まれる確率からも言える事なのだが、その中でこうして出会えた事を仮に運命というのだとしたら、運命とは偶然という事になると陽斗の頭の中で答えが出る。

 その偶然は前回初めて会った時と今日の二回ともあったのだ。前回は杏も同じことを考えて花見会場に尾行してきていたし、今回は予定が偶然重なってこうして会う事が出来た。まあ今日は海斗が強引に陽斗を連れ出して帰って来ただけなのだが。では次に同じような偶然があるのはいつになるのか、と考えるよりは強引にでも約束をした方が確実である事は頭の悪い陽斗でもすぐに解かる。問題はどうやって約束をするかだが。


「陽……、ここは一か八か賭けに出るべきだと思うんだ」

「……は? 何をだよ?」

「このまま終わるのだったら、思い切り振られた方がスッキリする気がするし、成功なら望みは叶うだろ?」

「…………は?」


 意味が分からないという陽斗の顔に、海斗は段々と不安の色が滲み出て来た。何故この流れで告白をする事になっているのだろう。そう言うのは所謂アオハルというやつで、思い当たる節がなく意味が分からなくて首を傾げる。すると海斗は顔を青ざめながら震えていた。


「陽……その、もしかして無意識……?」

「だから何がだよ?」

「あ、そうだよね……陽は昔から恋には鈍感だったもんね……」


 海斗の溜息交じりの言葉に陽斗は今までにない位に目を見開いた。上がって来る体温は顔の色を変えているだろうと思えるくらいに熱くて、思わず机を叩いてしまう。だけど何を言えばいいのか解らなかった。だって自分の気持ちも解らなかったのに、それを言葉にする術を陽斗はまだ知らない。

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