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僕の彼氏と私の彼女  作者: 響城藍
第六話「My sister!」
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【三章】二人のお姫様

 トントン、と杏の部屋のドアをノックするのはこれで三度目だ。ドアを押しても開かないのでドアの前に座っているのか開かない様に物を置いているかと考えられる。どうして返事をしてくれないのか、予想は出来るがそれが真実な訳ではない。人の気持ちは当人に聞かなければ解らないのだ。だから杏の気持ちを聞かせて欲しいと思っているのだが、会話が出来ないのでは意味がない。


「杏ー、ケーキあるから一緒に食べようー?」


 凛の問いかけに返事は無い。本当に部屋の中にいるのかすら疑ってしまう程に静かで、益々心配になってしまう。少しだけ待ってみればドアが開いて出てくるかもしれない。そう思って待ってみても一向に変化がないまま時間は過ぎる。困った顔をしながらドアを見つめる凛の肩を優しく叩いて葵はドアに近付く。


「初めまして。凛から貴女の事を聞いてお邪魔してます」


 ドアの向こうから微かに杏が動いた音がした。聞いてくれてるのだと安心して、葵はそのまま杏に声を掛ける。


「昨日は間違えてしまってごめんなさい。でも凄く心配なんだ。良かったら話を聞かせてくれると嬉しいなって」


 ドアの向こうで音はしない。だけど気配は感じられた。少しだけ様子を見ようと反応を待ってみる。程なくしてドアが開いた。だけどそれは、ほんの数センチ。その隙間から杏はこちらの様子を伺っていた。


「僕は三田葵。貴女の名前を教えて欲しいな」

「……っ」


 そう微笑んだ葵に動揺したのか、杏は少しだけドアを閉める。でも少ししてドアの隙間を広げてじっと葵を見つめた。優しそうに微笑むその表情(かお)に杏は目を大きくして見つめ続けた。


「杏……っていいます」

「杏さん、良かったら一緒にケーキ食べませんか? ……って僕が用意した訳じゃないんだけど」

「……少し、待っていてください」


 そう言って杏は再びドアを閉めてしまった。部屋の中で足音が聞こえて何をしているのだろうと疑問に思いながら待っていると、ドアが開いた。今度は一人分通れる程に。身だしなみを整えていたのか、まるで出かける前の様に綺麗な姿で杏は廊下に立つ葵を見つめた。


「行きましょうか」

「……あ、はい」


 自然に手を差し伸べられて杏は目を丸くしたが、そういうものなのだろうと納得して、葵の手を控えめに掴んで少し後ろを歩く。凛はお姫様を二人先導する様に前を歩いていた。



 *



 リビングへ着き、凛の隣に杏は座る。話しやすい様に葵は杏の正面へ移動していた。追加のケーキと淹れたての紅茶が運ばれてきて、杏は緊張した素振りで紅茶を飲む。視線を感じたのか杏は顔を上げると、先程の笑みとは違う、安心する様な微笑みを浮かべる葵と視線が交わる。


「この紅茶美味しくて吃驚しちゃったんだ。杏さんは紅茶好きですか?」

「あ、えっと、好き……です」

 

 小さな声で杏は緊張しながら返事をした。その言葉に再び微笑む葵の事をずっと見つめていた。


「杏、なんか今日いつもと……――」


 凛が疑問に思いながら声を掛けていると、途中で凛は痛みに悶えてしまった。テーブルの下で杏が蹴ったのだと葵は気付かないフリをする。凛の事も心配だが、今は目の前の子に集中したいのだ。心の中で凛に謝罪をしながら、葵は杏の様子を伺いながら紅茶を飲む。じっと見つめられている気がして、葵は杏へ視線を向けると、頬を紅潮させた杏と視線が交わった。


「……そんなに見られちゃうと照れちゃいますね」

「……っ――――」


 視線が擽ったくて葵は照れながら小さく笑った。その笑みを見た杏は目を丸くする。刹那、何かが割れた音が聞こえた気がして。否それはティーカップが割れた音だった。


「杏!?」

「杏さん!?」


 床に倒れた杏へ慌てて駆け寄る凛と葵。気絶していてどうしてと二人が顔を蒼くしていれば、母が様子を見に来て「あらあら」なんて微笑んでいた。笑っている場合ではないのだと思うのだが、母からすれば心配はいらないらしい。それでも急に気絶したら心配にはなるのだ。


「ちょっと刺激が強かったのかもね~」


 母のその言葉の意味は凛と葵には理解が出来なかった。母が杏をソファに連れて行って、別の部屋から持ってきた毛布を掛けて安静にさせた。「その内目が覚めると思うから、大丈夫よ~」なんて言うが本当に大丈夫なのだろうか。でも心なしか杏の表情(かお)は良い夢でも見ているかの様にも見えた。


 その後、目が覚めた杏と少しだけ話をしてから、葵は北川家を後にした。凛と杏はそれぞれの自室へ入って行く。杏が凄く照れて動揺していたので、昨日の出来事をもう一度葵に確かめないとと凛は思った。でも杏がいつもの調子に戻って来ているので感謝の気持ちも込めてお礼もしたい。何が良いかなと考える時間も凛は好きだ。そういえばもうすぐ二月だ。二月の中旬の行事を思い出して、凛はまた一つ特別な思い出を作りたいと、胸を高鳴らせた。



<七話へ続く>

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