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僕の彼氏と私の彼女  作者: 響城藍
第五話「初めてって本当ですか?」
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【二章】初めての……?

 それからどれ位の時間が過ぎたのか。時間を忘れる位に見つめ合って、だけどやはりここから動きたくなくて。そろそろ帰らないといけない事は解っている。だけど、このまま、もう少しだけ。


「凛……」

「……なに?」


 肩を掴まれて、凛はドキリと心臓が音を立てたのが判った。葵はまた少し距離を縮める。このままだと顔がくっつきそうで。でもきっと、葵はそれを望んでいるのだろうと、そんな表情(かお)と視線が合っていて。


「目、瞑ってくれる……?」

「……う、ん」


 凛はゆっくりと目を瞑る。鼓動の音が煩いと感じていれば、掴まれている肩に力が入ったのが判った。とても長く感じる時間。葵が何をしたいのか凛には解っている。近付いてくる熱を感じるだけでこんなにも身体が熱くなるのだなと、そう思っていたら触れた熱。それは一瞬だったけれども、とても長い時間の様にも思えてしまう。離れて行った熱を追う様に、ゆっくりと目を開ければ、熱を帯びたその表情(かお)は真っ直ぐに向けられていた。吸い込まれる様にずっと見てしまって、時が止まったのかと思う位に目が離せなくて。


(初めて……した)


 凛にとって誰かと付き合う事も初めてなので、色々なドキドキで溢れる日々。だけど今日のドキドキはいつもと違って、辺りの景色の色さえも変わって見える。照れながら見つめられて、葵からの愛を感じて。好きだな、なんて思って見つめ返していれば、帰る事すらも忘れてしまう。そうやって見つめていたら葵は突然凛を抱きしめた。


「……見ないで」


 照れ隠しの様にそう耳元で呟かれて、凛の顔は真っ赤に染まっていく。こんな可愛い葵を知っているのは自分だけなのだと思うと、特別なのだと感じて嬉しくなる。ずっと抱きしめられていて、こんなに照れる葵は初めてかもしれない。


「……初めて、だったから……だから今凄い顔してると思う……」

「え……」


 葵のその言葉に凛は目を丸くした。初めてと言うのはどういう事だろう。いつも慣れた様な素振りをしていたのはそう見えない様にしていたのだとでも言うのだろうか。でも葵はモテるし過去に誰かと付き合った事があると当然の様に思っていたのだが。


「こんなに好きになったのは、凛が初めてなんだよ……」


 すごく光栄な事だと思って、凛は嬉しくて葵の背中を優しく包んだ。葵が今どんな顔をしているのか気になってしまう。鼓動が早いのが伝わって来て、葵は女の子なんだなって思うと愛おしくなってしまう。格好良い葵も、可愛い葵も凛は大好きだと背中に回した手に少しだけ力を込める。触れる身体が温かくて、ずっとこのまま抱きしめ合っていたい。でももうすぐ日が暮れる。外は寒くなる一方だ。早く帰らなければ、でもこのままずっとこうしていたい。


「くちゅん」


 葵の腕の中で聞こえた小さな声に、葵は凛から体を離した。鼻を赤くしている凛を見て心配そうに眉を下げる。


「……帰ろうか」

「……うん」


 帰りたくないけれども、このままこうしていたら冷えてしまう。くしゃみが出る程凛は寒いだろうし、早く家に帰って温まって欲しいと、葵は凛の手を握ってゆっくり歩いて行く。凛はその隣をゆっくり歩いていた。



 *


 

 昨日はとても楽しかった。初めて行った動物園。初めてのデート。そして初めて好きになった人とキスをした。夢の様な時間で延々と続いて欲しかった。だから我儘を言って葵を引き留めてしまった。なので、これは罰なのかもしれない。


(熱……下がらない)


 凛はベッドに横になりながら体温を計る。三十八度程の熱は朝から続いていて、解熱剤を飲んだので少しずつ下がって行って欲しいと、苦しく呼吸をしながら目を瞑る。


(葵は、風邪ひいてないよね?)


 今日は平日だ。学校を休んでしまったので葵が元気なのかは判らない。だけどこんな風に苦しんで欲しくないので元気である事を願っている。早く風邪を治して学校に行きたい。葵に会いたい。凛はベッドの中で丸くなりながら、葵の事を思い浮かべる。授業が終わったら連絡が来るだろうか、なんて期待してしまって。それまでに熱を下げて、元気に返事をしたいと思いながら、深い眠りに落ちて行った。

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