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僕の彼氏と私の彼女  作者: 響城藍
第五話「初めてって本当ですか?」
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【一章】初めてのデート

 年が明けて半月程経ち、冬の寒さが本格化し始めた今日は晴天だ。それでも外に出れば家に戻りたくなってしまう程の寒さ。だけど今日は早く行きたくて足が軽くなる。地元の駅前に着いて、背の高いその姿はすぐに見つけられた。


「おはよう!」

「おはよう。今日も寒いね」


 マフラーに手袋姿で駆けて来る凛を見て葵は可愛いなと微笑んだ。

 葵もマフラーをしているが、凛ほど厚着ではない。寒くないのだろうか、と凛は不安に思い、凛はいつもの様に葵の手を握った。


(葵の手、あったかい)


 手袋をしている凛でも葵の手の温度は伝わって来て、手から視線を上げれば、不思議そうな視線と交わった。どうしたの?なんて声が聞こえて来そうで、凛は照れたように視線を外した。葵は小さく笑うと凛の手を引っ張って改札へ向かった。


 数駅電車に乗り、徒歩で少しの所にその動物園はある。今日は付き合ってから初めてのデートだ。どこに行きたいかと話をしていたら沢山行きたい所があって、その中から悩んで絞った。他に候補の出た所へはまた今度行こうと約束して、また何度もこうしてデートが出来る事が嬉しいと二人は思う。

 入場券を買って園内に入ると、見渡すだけでも楽しくなってしまう程興味を惹かれる動物が沢山だ。目を輝かせてどこから見て行こうと辺りを見渡す凛を見て、葵は笑いながら凛の手に引かれるまま隣を歩いていた。

 何個かのエリアを見て回って、それでも早く色んな動物を見たいと楽しそうにする凛の隣で葵は笑っている。

 

「そんなに走らなくても動物は逃げないよ?」

「あ、そうだね……! 動物園来たの初めてだからワクワクしちゃって!」

「そっか。でも急ぐと疲れちゃうから、ゆっくり見て回ろう?」

「うん!」


 歩く速度を落としながら次のエリアへ向かう。見えて来たのは猿がいる山だ。凛はワクワクしながら近くに寄ると、様々な行動を取る猿たちが居て面白そうに眺めていた。

 しばらく眺めていると一匹の猿が檻の近くへ来て凛を見ている。近付いてきた事が嬉しくて凛は笑みを浮かべていると、その猿は威嚇をし始めて来た。驚いて隣に居た葵に抱き着きながら猿を見ていた。そうしているともう一匹檻の近くへ来て威嚇をし始めた。怖くなりながらも猿を見続けて、凛は徐に葵から離れて猿に向き合った。


「わ、私だって強いんだぞ! き、キミたちになんか負けるもんか!」


 少し震えながら凛も威嚇する。睨み合い緊張した空気が流れる。葵はその様子を震えながら見つめていた。そうしてしばらく沈黙が続き、どちらが勝つのかという空気になって行く。


「ふはっ……」

「……っ、わ、笑うなー!」


 威嚇し合う凛と猿の様子が面白くて、葵はついに吹き出して笑い始める。緊張した空気が壊れ、猿は興味が無くなったのか檻の傍から離れていく。凛は口を尖らせながら葵を睨むが、葵は腹を抱えて笑ったままだった。不機嫌になった凛は葵を置いて次のエリアへ向かって行く。涙が出る位笑ってしまって、楽しいななんて思いながら葵はゆっくり凛を追いかけた。



 *



 その後ゆっくり園内を回って昼食を摂りながら休憩をしていた。日曜なので人も多く、あっという間にお昼になっていた事に驚きだ。食べながら回ってない所を確認して、そこを見たら帰ろうとなる。


「葵って動物慣れてるよね」

「ん? 普通じゃないかな? ああでも昔から動物は飼ってるからそれもあるかも」

「いいなぁ。うちはママとお姉ちゃんが動物苦手だから近くで見るのが初めてなんだ」


 凛の家庭事情を聞いて、それであんなにワクワクしていたのかと葵は納得する。確かに新鮮な反応をしていたし、動物園に来るのも初めてだと言っていたから、だから一番行きたい場所として選んだのだろう。

 

「僕の家さ、犬飼ってるんだけど、今度遊びに来る?」

「え! 行きたい!」

「ふふ、今度母さんに言っておくね」


 葵の誘いに目を輝かせる凛。犬と戯れるのも初めてなので、どんな犬がいるのか想像するだけで楽しくなってしまう。それに葵の家に行くのも初めてなので楽しみであると同時に緊張してしまう。凛の自室は可愛い雰囲気であるが、葵の部屋はどんな雰囲気なのだろう。きっと綺麗に整頓されているのは間違いが無いと想像が出来る。ただそれ以外は想像が出来なくて、その日が早く来るといいなと楽しみが増えていく。


「そろそろ行こうか? また睨み合わないでね?」

「うー葵のいじわる……」


 余程印象に残ったのか、先程の猿の山での出来事を思い出して葵は笑う。その笑みを見た凛は、少し動物に慣れているからって余裕そうに……と思いながら、差し出された手を握らずに速足で歩いて行く。それが面白くて、葵は笑いながら後を追った。

 

 そうして残りのエリアをすべて見終えた頃にはもう昼を過ぎていた。夕方に近くなるにつれ動物たちも疲れて動きが無くなっていく。それでも凛は楽しそうに見て回って、満足そうにお土産を買うと葵と手を繋ぎながら帰る為に出口へと歩いていた。


「楽しかったね!」

「うん。楽しそうな凛も見れたしね」

「……ちゃんと動物見てた?」


 「ん?」なんて微笑む辺り、動物を見ていたのか凛を見ていたのか怪しいと思った。でもその微笑みからは今日が楽しかったんだなと伝わって来たので、深くは考えない事にした。

 出口が見えて来た所で凛は、このまま最寄り駅に着いたらいつもの様に家の前まで送ってくれて、そこで別れるのだと理解してしまった。


「……、凛?」

「…………」


 立ち止まって俯いてしまった凛を見て葵は不安そうに見つめる。具合でも悪くなったのだろうか。足が痛いのだろうか。一旦どこかに座って休憩をするべきかと思い、凛に声を掛けようと葵は凛に近付く。


「……帰りたくない」


 俯いていた凛は少しだけ顔を上げて、葵を見つめた。少し目が潤んでいて、そんな凛が可愛いと思って、素直に口に出されて照れてしまうなんて。


「……帰りたくないね」


 葵は顔を真っ赤に染めながら本音を口にする。楽しい時間は延々に続いて欲しい。そう思う位に二人にとって今日は楽しかったのだ。

 手を繋いだままじっと、お互いを見続けてしまっていた。

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