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番外 冒険者ギルドの歴史

 冒険者ギルドの始まりは酒場だった。


 荒くれが集まり、時に旅人が立ち寄る下町の酒場。

 亭主は商売柄顔が広く、また客にも顔が利く。つけを返せといえばちょっとした頼みを押し付けられる。


 映像イメージが欲しければ、ロードオブザリングで風呂度がストライダーと初めて会う酒場を思い起こしてみるといいだろう。

 賑やかで、無鉄砲な若者やワシの若かった頃はと話がないおっさんが集まって時に喧嘩になり時にお大尽で盛り上がる。


 そんな酒場の亭主にちょっとした頼まれごとが持ち込まれる。顔が広いということはそうやって頼られることもあるのだ。

 そうしてやってきた頼まれごとを解決するのに適当なものが常連の中に居れば紹介する。

 これが冒険者ギルドの前段階の冒険者の酒場あるいは店、もしくは宿の、第一歩だと思われる。


 冒険者の、とつくようになったのはおそらくTRPGが発端ではないだろうか。またウィザードリィが端緒であったかはわからないがイメージを広めるのに大きく貢献したことは間違いないと思う。


 TRPGにおいて導入に都合がよい舞台装置として冒険者の酒場が採用され、ついでに都合がいいので酒場が付属した宿になる。

 TRPGは時間がかかる遊びで、遊ぶためには複数人数のスケジュール調整が必要なこともあり、時間は貴重である。

 ゲームマスターがシナリオを用意してこれに沿ってプレイするのだが、その導入部分で意外と手こずることがある。

 酒場の親父との会話だとか、プレイヤーキャラクターの合流のための茶番だとか、これが結構面白かったりするのだが、それだけで用意した時間が終わってしまってはシナリオを作ってきたゲームマスターは大変残念な思いをすることになる。

 そこまで極端ではなくても、いいところで時間切れになったりすることは多々ある。

 そこで発明されたのが窓口を統一して導入を省くことである。

 それが冒険者パーティと冒険者の店からの依頼という導入だった。

 君たちは冒険者パーティで依頼を受けたところです、から始めればすぐにシナリオを展開できる。

 これは例えばモンスターハンターがメインコンテンツの狩りを楽しむために仕事探しの手間を省いたり生息地自体を探すことやそこまで移動をすっ飛ばしてすぐ狩りを楽しめるようにしたことと同系統の工夫だ。

 これはこういうものというお約束を共有することでメリハリをつけより描写したい部分に注力できる。せっかく作ってきたシナリオにしっかり時間を使えるのでゲームマスターもにっこりだ。


 お約束はイメージを共有するうえでとても楽なので大変に便利だ。

 ソードワールドRPGのころには冒険者の店が採用され、その展開の中で冒険者ギルドとも呼ばれることが出てきた。

 ロードス島戦記にも冒険者の店が出てくるし、発端はともかく、少なくとも発信に貢献したのはグループSNEの界隈になるのだろうか。

 カードワースなどもそのころのものだ。

 この時点では親父と看板娘というのが鉄板で、冒険者の店同士の横のつながりはあったとしても小さな情報交換くらいのものだった。なんなら対立していることもある。

 同業者組合と呼ぶには大げさすぎる。冒険者の立場もチンピラ同然だった。



 冒険者ギルドが大規模な組織となったのはいつからだろうか。

 フォーチュンクエストは1989年。現在の冒険者ギルドに近い冒険者支援グループという国際組織が登場する。かの作品はTRPGを意識したものなので、このころにはそういう発想はあったのだろう。時期としてはソードワールドRPGと近い時期だ。

 参考までに近い時期のスレイヤーズ!(1990~)ではリナもガウリイも冒険者ではなく、酒場で情報収集するのがお決まりで、仕事を受けるのもたいてい酒場である。ほかの作品と比較しても、どちらかといえばスレイヤーズが当時の界隈の感覚に近く、フォーチュンクエストのほうが先鋭的だったと思われる。

 そして特定の作品の独特の舞台装置から、テンプレにまでなったのはネットゲーム、マルチプレイゲームの誕生が大きいのではないか。


 MMPRPGラグナロクオンラインに強く影響を受けたアリアンロッドRPGが神殿を後ろ盾にした国際組織冒険者ギルドを採用したのは無関係ではないだろう。

 ネットゲームの世界をTRPGでプレイしたいというムーブはTRPG界隈でそれなりにあった。それはネットゲームに限らなかったが。はやりのコンテンツをTRPGに落とし込む試みは大小さまざまにあった。

 モンスターハンターなどのように窓口を置き、前置きなしでメインのゲーム部分に集中できるようにしたシステム。

 ネットゲームのクエストで一人のイベントNPCに大量のプレイヤーが集まる光景。もっと手続きが楽ならいいのにと多くのプレイヤーは思っただろう。あの頃のMMORPGのメインコンテンツははハクスラであり、ストーリィは味付けで、プレイ時間の大半はモンスターを狩る作業あるいはだらだらチャットだった。狩りの効率化のための労力は惜しまないが、フレーバーテキストやシナリオはともかく、お使いで走り回ること自体は余計なものと感じる者も多かった。

 また、街を移動しても同じサービスを受けることができるシステム。ネットゲームでは公平なプレイ環境のため必要だったし、ナンバリングタイトルのゲームでは発展はともかく劣化してはファンを逃がすので洗練することはあれど不便さになってもらっても困る。カプラサービスやハンターズギルドは冒険者ギルドに影響を与えているのではないか。

 TRPGにおいても、導入部分を大きくはしょれる冒険者の店は有用だったし、それが発展する形で冒険者ギルドは大規模化したのではないか。

 ネットゲームをはじめとするシステムを剣と魔法のファンタジーに逆輸入するには冒険者ギルドはいかにも都合がよかった。

 それまでの冒険者の店という文脈と、フォーチュンクエストという前例、そして新たなビデオゲーム界隈で育ったシステム、これらの要素があわさることで、新たな冒険者ギルドが生まれたのだ。


 また、ファンタジーとは違うジャンル、SFやスペースオペラに未来、宇宙ならではの情報共有手段による広範囲で活動する組織、例えば賞金稼ぎギルドのようなものがあったかもしれない。例えばスター・ウォーズに登場するようだ。こちらの界隈はファンタジー界隈以上に詳しくないのであまり語らない。

 このようなファンタジー界隈以外のジャンルからも発想は輸入されているかもしれない。



 そして、なろうに現れたときには冒険者ギルドはすでに生まれていたようだ。

 これはなろうの中でさらに便利に使い倒されることになる。

 テンプレ化するほど共通したイメージが作られたのはなろう以前からのゲームをプレイするのに都合がよいように進化した流れに、こんどは小説を書くのに都合がいい舞台装置としての文脈が混ざっていったからだろう。


 ただ、テンプレはあっても実際のところ定義はあいまいだ。

 テンプレを外してくることもあるし、そう狙ったわけでもなく独自に練った解釈をする作者もいる。

 冒険者ギルドの設定は都合がいいように変わっていいし、これからも変わっていくだろう。

 みんなの都合の中にそれぞれ冒険者ギルドはあるのである。


 なんて都合がいいギルド!

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