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受付嬢のこと

「私は受付のジョー。文句があるならかかってきな。塵一つ残さず消滅させてやるよ」


 冒頭の一文に意味はありません。


 さて。

 冒険者ギルドの受付には若い女性が座っている。

 一昔前は冒険者の応対をするのは宿の親父だったものだが、今では若い娘に代わっている。

 武闘派で教養が低く中にはガラが悪いのも紛れている冒険者に直接応対する受付嬢。

 時に冒険者ともめごとになる受付嬢。

 用心棒らしきものはフロアにいない。新人冒険者がチンピラ冒険者に絡まれても用心棒が動かないことがその証拠。

 時に無理難題を押し付けてくる質の悪い冒険者に怒鳴り込まれる受付嬢。

 失敗した原因を押し付けられそうになる受付嬢。


 受付嬢は今日も頑張っている。


 だがちょっと待ってほしい。

 冷静に考えてみるとおかしくないだろうか。

 受付嬢大丈夫か。

 カウンターひとつを挟んで冒険者と対等に渡り合う?

 暴力で金を稼いでいる荒くれものを相手に?

 質の悪いチンピラや主人公に強盗を働き返り討ちに合うような連中もいるのに?

 どいつもこいつも武器を引っ提げていて、なんなら大規模攻撃魔法とか使えたりする相手に?

 うら若い女性の見た目では抑止力にもならないだろう。


 受付嬢、恐怖心とか持っているのだろうか。

 というか「ちょっとこれ処理が雑ですから査定下げますねー普通金貨100枚ですけどこれだと50枚ですわ」とか言った日の帰りに逆恨みで襲われたりしないの?


 なぜ年若い女性にこんなハードな仕事が務まるのか。

 現実世界でもヤの付く自営業の方に対応するマルボウの方は強面のお兄さんで私服だとどっちがどっちだかわからないこともある、そんな舐められないような外見の方が選ばれる。

 危険な魔物と渡り合う者たちに応対する者が若い女性というのは、いろんな意味で務まるのだろうか。命とか貞操とか大丈夫?

 若い女性でなくとも、冒険者ににらみを利かせられるような人材でなければ務まらないのではないだろうか。


 さらに。

 冒険者ギルドの受付は読み書きができなければならない。最低でも掲示される依頼票を読めなければ始まらない。受け付けたものを記録する必要もあるだろう。

 なかなか高度な教育を受けている必要がある。

 それだけではない。

 様々な依頼に詳しくなければならないし、冒険者ギルドのシステムについてもしっかり理解しておかなければならない。

 薬草の種類や周辺に出現する魔物について、さらには地理も把握しておく必要があるだろう。

 そこらの冒険者よりも深い知識を要するのだ。わからなくて先輩に頼るとしても、何がわからないかわかる程度には知っておかなければならない。

 そんな教育を受けた若い女性でなければ務まらない。




 ここで逆に考えてみよう。

 つまり暴力の権化である現役冒険者ににらみを利かせられるのであれば受付業務は務まるということになる。


 つまり受付嬢最強説。

 最強は言い過ぎとしても、受付嬢はそこらの冒険者よりも強いのだ。何なら最高ランク冒険者の資格を持っている。冒険者ともめようが暴れようが歯牙にもかけない、闇討ちされても返り討ちにできるそれだけの力を持っているのだ、という説。

 元冒険者なら冒険者に必要な知識はあるわけで尋ねられても応えることは可能。


 ただし、若くしてそれほどの力をつけた女性冒険者がどれほどの数用意できるかという問題がある。

 それだけ有能ならば冒険者業にいそしんだほうが稼げそうだし、受付嬢として礼儀作法を身に着けているくらいだから高貴な女性の護衛などのため引き抜きたい有力者はわんさかいるのではなかろうか。

 この説を採るのであれば、受付の仕事はとんでもない高給でなければならない。引き抜き防止のために。

 若い娘(冒険者以上に強く冒険者に必要な知識を網羅し礼儀作法も身に着け読み書き計算もできる高給取り)

 そんな逸材を各町に最低一人以上配置できる組織なのだろうか。

 ちょっとこれは無理があるかもしれない。

 それなりに歳のいった経験豊富なお姉さまであればまだしも、若い女性となると。

 というわけでこの説は信憑性低めとしておこう。



 次に受付嬢使い捨て説。

 闇討ちされていなくなるなら入れ替えればいい、という考えのブラック労働受付嬢。

 これはないだろう。

 受付嬢に必要なスキルは強さを除いても多い。

 そのうえで、仮に弱くても恐ろしい冒険者を相手にする度胸も必要だ。

 強くなくとも十分貴重な人材なのである。

 それを消耗品のように使い捨てるのは人材が不足することだろう。

 これはなし。



 つづいて分業説。

 順当なのはこれだ。

 ギルド職員の中に一人ないし数名が実力者でにらみを利かせ、難しい知識もギルド職員それぞれ分けて覚えているという説である。

 これなら受付嬢に求められる能力は格段に減る。

 しかし、冒険者の矢面に立つ度胸と逆恨みからの闇討ちへの対策はこれでは解決しない。


 後先考えないバカがいるのは主人公に襲い掛かる者が定番であることから証明されているので、受付嬢も日々襲われる危険にさらされているはず。

 ――という点を、主人公周りだけが特別でそこまでの愚か者はそんなにいないと考えれば成立するかもしれないが、実際のところはどうだろうか。


 強い職員が送り迎えしているとか、寮住まいとか、思いとどまらせる程度の対策はしている、ごくまれに実際に襲われることもあるがそれは一般の犯罪率とそう変わらない程度である、というのであれば、どうだろう。

 信憑性はまあまあといったところか。



 最後、受付嬢アイドル説。

 みんなのアイドル受付嬢を冒険者たちが自発的に守っているという説だ。

 冒険者が互いに見張りあうことで受付嬢に近寄る危険を排除しているのである。

 何かしようとしたら冒険者仲間から袋叩きにされるのだ。

 送り迎えも出待ちしている冒険者が複数いるので安心だね。


 この説の弱点は、すべての場所でうまく調整できるとは思えないこと、抜け駆けする奴がまず間違いなく出ること、そうなれば地獄絵図である。

 またアイドルであるために恋愛や結婚に支障が出る受付嬢もかわいそうだ。

 というわけでこの説の信憑性はネタである。


 どうもピンとくる説をでっちあげられなかったので何か面白い説があったらお教え願いたい。

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― 新着の感想 ―
楽しく読ませていただきました。面白いです。 個人的に考えてみた考察。 受付嬢は中〜下級貴族の令嬢説。 要するにある程度の能力を持った令嬢を社会勉強のため、もしくは何らかのペナルティのため使わしていると…
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