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薬草採取のこと

「人食い熊が出没する山に行ってこの草をカゴ一杯集めてきてくれない? あ、大丈夫だよ、百回に一回くらいしか遭わないから。遭ったら逃げてきてもいいよ」


 大丈夫だろうか。


 さて、薬草採取は低ランク冒険者定番の仕事である。

 採取してきた薬草の処置が悪く受付で査定が下がってもめるところまでお約束だ。


 簡単な仕事と思わせて実はそう簡単でもないということが、テンプレ中でも示されているわけだが実際のところどうなのだろうか。


 現実世界に準拠して考えると、薬草採取はとても難しい仕事であると思われる。

 キノコほどとは言わずとも、野生の植物の扱いは気を配る必要がある。

 まず毒性のある植物は想像以上に多い。摂取しなければ問題ない物から、触るだけで危険なものまで。

 例えば日本の山に入れば触ってしまうとかぶれてしまう木がよく生えている。

 目立つ木なので知っていれば回避できるが、知らなければ翌日には、いやその日のうちにひどい目に合うことだろう。

 かぶれる程度で済めばいいが、実際のところどんな植物が生えているか。

 さらに、よく似た植物があるかもしれない。現実世界には見た目よく似た植物が似たような場所に生えていることはよくあることだ。

 目的の植物だけ知っていればいいというわけではないのだ。

 危険がある植物を含め、そのあたりで見られる植物について一通り把握しておかなければ安全に、とはいかない。

 そしてそれは植物だけではない。虫もいるし、そして当然魔物もいる。


 魔物はいったん置いておいて。

 植物を探して山や森を歩くことはそれ自体も危険である。

 登山が趣味の方ならよく知っているだろう。

 道があっても迷ったり滑落したり思わぬ危険に遭遇することがあるというのに、素人が森や山をさ迷い歩く?

 危険性を知っていれば正気を疑うレベルの暴挙である。

 そういった場所で迷わない知識と技術を持っていなければ遭難することが目に見えている。

 冒険者のフィールドであるから大丈夫、とはならない。

 なぜなら冒険者の中でも低ランクの者が受けるのが定番だからだ。

 彼らは相応の技術と知識を持っているだろうか?

 植物の知識も併せて、初心者向けの仕事とはちょっと思えない。

 薬草採取にもピンキリあって、容易なもののみが駆け出しランクに割り振られる、としても、森に入るなら遭難のリスクは変わらないだろう。

 身に着けるのにどれだけ時間がかかるだろうか。年単位でみたほうが良いと思える。


 と以上は現実の話をもとに考えた懸念である。

 冒険者ギルドのある世界ではまた違った事情があるかもしれない。


 魔物のリスクがあるだけで採取できる場所までの道は整備されており迷う余地がないというのはどうだろう。

 あるいは混在していないというのは。

 別の世界であるからできる設定を考えればどうにでもなる。

 ただそれでも駆け出し冒険者は失敗するのだが。そして主人公は簡単にこなすのだ。


 そして改めて魔物である。

 現実世界で人間が無傷で勝てる動物はとても少ない。

 そして魔物は冒険者に対処を押し付ける程度には危険な生き物である。

 甘く見ても野良犬の群れくらいの脅威は見るべきだろう。

 そして人食い熊くらいに見込めば足りないことはあるまい。普通の人では勝てないという点で。

 出会ってしまえば襲われる公算が高く、その遭遇頻度がどの程度かでリスクは変わるが、それがゼロでない時点で繰り返していればいつか遭遇する。

 少なくとも一般人にとっては脅威である相手と遭遇する可能性があるわけだ。

 一般人に毛が生えた程度の駆け出し冒険者向けの仕事であるというのは本当なのだろうか?


 本当である。

 そうでなければならない。


 というのは、冒険者のステップアップを考えれば、まず魔物に遭わない街中の仕事、弱い魔物に遭う「かもしれない」仕事、弱い魔物と戦う仕事という順にならざるを得ないからである。

 命の危険を冒して金を得るのが冒険者だ。

 それが嫌なら街中の仕事を続けて最低ランクに甘んじるしかない。


 魔物と戦い生き延びなければ将来はないのだから、どんなに危険でもやるしかないのである。

 「かもしれない」ですむ薬草採取はやはり楽なほうなのだ。


 ただし知識と技術が必要だが。


 結論としては現実世界を参考にすれば薬草採取は高難易度の仕事であるが、魔物に対する危険度だけを見ればはマシなほうである、ということだ。魔物についてだけを見れば確かに駆け出し向けであった。


 そして難易度を上げる要因である技術と知識を考えれば初めて受注した際は失敗するのは当然である。

 あるいはこうして痛い目を見せて自ら学ぶことを体得させようというのかもしれない。そう考えれば、お約束も成立するし。





 次に、依頼を出す側から考えてみよう。

 薬草はその名の通り薬の原料である。

 命に関わる重要なものだ。

 使うときにはけがや病気で命が脅かされている状態なのだから間違えましたでは済まない。

 だが、冒険者ギルドは失敗が定番になるほどこの仕事に対して緩い。


 もしかして、なのだが。

 冒険者ギルドにとって薬草採取はさほど重要でないのではないだろうか。

 例えば取引先に必要十分な量は別の手段で確保できており、駆け出し冒険者から入手する分は予備や保険にすぎないであるとか。

 すべて失敗というのはまずいとしても、いくらか失敗してもどうにかなる程度に余裕があると。

 そうであれば失敗に寛容になるのもわからなくもない。

 つまりこの仕事に失敗することが冒険者の教育、あるいは選別につながる要素であり成否はどちらでもいいのだ。

 つまり街中の仕事と同様に、冒険者のための福利厚生の一部であると同時にふるいにかける手段の一つであると。

 そういう説はどうだろうか。


 そして薬草採取以外にも魔物と遭遇する「かもしれない」駆け出し向けのステップアップ用の仕事を用意しているのかもしれない。

 その中から薬草採取の知識や経験を持っている者が選んで受ける、別の仕事が得意ならそちらを受ける、というように。

 そしてその中で薬草採取は待遇がよい。なぜなら、薬草という副産物に価値があるから。だから薬草採取の技術と知識がない者も受注して失敗するので、それが定番となるのだ、という説はどうか。



 逆に薬草需要を賄うのに必須な供給源だったとしたらどうか。

 蔑まれがちな低ランク冒険者の仕事で失敗も多くある状況を依頼人はどう思うだろうか。

 冒険者ギルドに苦情を入れて安定供給を要求しないだろうか。

 力を尽くしてそれなら仕方がないが、放任で失敗するのでは話が違う。

 だが結果として、受付で駆け出し冒険者はもめているし主人公は受付嬢に「こんなきれいに薬草採取してきてくれる方は初めてです!」と褒められる。

 つまり依頼人にとっては不十分だろう。

 物は薬草であり、命にかかわる物資のはずだ。

 そう考えるとやはり供給に余裕があるとみるべきか。

 あるいはそもそも薬草が命に係わる物資ではなくさほど利益にもならないのか。

 だとするとやはり冒険者の踏み台、あるいは試金石としての仕事なのではないだろうか。

 ギルドの利益は赤が出ない程度で、中堅冒険者から子どもの使いと煽られるような位置づけにして次のランクを目指させる。



 まとめると、薬草採取はいくつかある一般人から冒険者になる過渡期向けの仕事の一種である。と考える。

 ただし、薬草採取の中でも駆け出し向けのものに限り、より危険だったり貴重なものの入手はまた別のジャンルになるだろう。

 あくまで常時買取を受け付けているような駆け出し向けのものについてである。


 次回は受付嬢についてかいくつかの細かいことについて。

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