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冒険者ギルドにおけるランク制度について

 二回目で突飛なことは大体言い終わったのであとは蛇足だろうけれどももうちょっとだけ。


 冒険者ギルドにおけるランク制度について。

 冒険者ギルドにはランク制度がある。

 下はGやF、EDCBAときてその上にSやSS、SSSなどがあったりなかったりするのがお約束である。

 登録直後は最低ランクであり、実績を積めばランクが上がっていく仕組みだ。


 細かい名称は置いておいて、冒険者ギルドはこのランクによって冒険者を分別し、扱いを変えている。

 基本的には高ランク者に利権を与え、代わりに義務を負わせる形だろう。

 利権としては受注可能な依頼の増加、報酬の優遇、指揮権など。

 義務としては特定の指名依頼の受注強制などの冒険者ギルドからの強制力のある命令に従う義務など。


 そして、低ランク者はさげすまれ、高ランク者は敬われる。

 特に年齢を重ねている者が低ランクだと大変である。

 これは我々が想像する以上に強固なである。

 前歴や能力にかかわらず低ランクであるというだけで軽く見られるほど。

 システム上、本人の能力や前歴にかかわらず最低ランクなのだが、最低ランク者は最低ランク者としてしか見られず、その能力も最低ランク者として扱われる。

 これは冒険者ギルド内のシステムのことではなく、冒険者の感覚についてのことだ。

 つまり、主人公などが中堅下位のチンピラ冒険者に絡まれて撃退するわけだが、この際チンピラ冒険者はランクのみを見て主人公を見ない。

 たとえ、主人公が元騎士で活躍した実績があったとしてもランクしか見ないで絡んで返り討ちにあうし、直前に高ランクでなければ倒せない魔物を納品していても盗んだとか詐欺だとか絡んで撃退される。


 ランク至上主義……というよりはランクに目がくらんでいる。もちろん悪い意味で。

 これは主人公たちを除けばほぼほぼランク相応の能力の持ち主しか存在しないことを裏付けると考えられる。

 ただそれでも、登録直後の最低ランク、しかも不思議と装備が整っているような相手に関してはもう少し慎重になってもいいだろう。一般的な社会からドロップアウトして仕方なく冒険者になった無能者ではないことは見てわかりそうなものだ。


 だが、彼らチンピラ冒険者はそうならない。

 そこにはもう少し理由があるかもしれない。ただ材料が不足して想像しかできない。


 冒険者ギルド内でのマウント取りがそれほど重要なのか。ギルド職員が見ている前でいさかいを起こすほどそれは重要なのか。

 冒険者の価値はより多くの魔物に対処できることのはずである。直接脅かしてもさほど意味はないように思える。

 あるいは単に頭が悪いのか。

 登録担当の受付に惚れていて強いところを見せたい説はどうだろうか。アプローチの仕方としては劣悪だが、発想としては全く理解できないというわけでもない。

 しかしそればかりとも思えない。


 実はチンピラ冒険者めちゃくちゃお節介ないい人説はどうだろうか。

 冒険者はよく死ぬ。魔物が相手なのだ。普通の人なら死ぬから冒険者に仕事が回ってくる。登録したては冒険者もは普通の人の域を出ない。

 そして運がよくても調子に乗ったやつから死んでいく。調子に乗ったやつは油断するからだ。命がけの仕事なのだ、油断したら死ぬ。当然だ。

 チンピラ冒険者はチンピラ冒険者なりに新人に教えているのではないか。調子に乗ってそうな、命がけの仕事を軽く見ていそうな低ランク冒険者に、調子に乗ってはいけないと。

 そしてギルド職員もそれを知っているからチンピラ冒険者を基本的にとがめないのではないか。


 その派生で冒険者ギルドから調子に乗っていそうな新人に痛い目を見せて気を引き締めさせる依頼が裏で出されている説。さすがに考えすぎだろうか。放任主義の冒険者ギルドである。

 だがギルドの方針が放任自己責任でも、死にゆく冒険者と顔を合わせる受付嬢はどうだろうか。

 危険な仕事を受けて帰ってこない若い冒険者を見て何も思わないのだろうか。

 受付嬢などギルド職員個人の判断で、そういうお節介を働くことはないだろうか。これもギルド職員が口を出さない理由にもなる。


 とはいえこれらは個別事例としてはあるかもしれない、という程度で普遍的なパターンにはなりそうもない。


 ひとまずこの問題は置いておき、別の話をしよう。



 区別して扱いを変える、という話を聞いて思い出す言葉がある。

 分断して統治せよ、という言葉だ。

 これは欧米に古くから伝わる言葉で、被支配者の意識を支配者からそらして相争わせ目をそらさせるといいよ、という意味である。

 具体例を挙げると古代ローマにいて支配下の都市の処遇を変えた手法、大航海時代以降の植民地で特定の民族を優遇し中間支配層とし、他を抑圧することでいがみ合わせたなど手法だ。


 冒険者ギルドのランク制度はこれに似ているところがある。

 低ランクを蔑み、高ランクを優遇。

 上のランクの者は下を虐げ、ギルド職員はこれを見逃す。

 同じランクの中でも上を目指すものとそのランクで満足する者を分断。

 実力主義、実績主義の裏側で分断統治が行われていたのである!


 いたのである! といわれてもいやいやそんな馬鹿なと思う方もいるだろう。

 だが、以前に挙げた説を採れば、この説は補強される。

 セーフティネット間引き選別説だ。


 行き場のない犯罪者予備軍を犯罪者に落ちることを予防し、間引きを行うことが一つの目的であるとすれば。

 分断統治を適用することは順当ではないだろうか。


 ランク制度で扱いを変えることで上を目指し下を見下す風潮を作り出し、ランクを上げることで現状の不満を打破できるという希望を与える。

 間引きと選別双方に有効であり、また犯罪にならなくとも状況を改善する手段を制度として提示することで犯罪者化を防ぐことにもつながる。


 これがランク制度がなくなんとなく有能なものを優遇しなんとなく無能なものを抑圧していたらどうだろうか。

 分断は可能だ。しかしその区別がギルド職員個人の恣意にゆだねられることになる。

 そうなると冒険者ギルドの受付をはじめとする職員が恨まれかねない。

 しかし制度があれば制度を盾にすることができる。

 つまり、ランク制度はギルド職員の身を守る一助ともなる。


 ランク制度はセーフティネット間引き選別説の目的に合うものであった。



 では逆にセーフティネット間引き選別説を採用しない場合はどうだろうか。

 その場合ギルドの目的に裏はなく冒険者の活動を助けることが目的の組織となるだろう。

 問題はそれなのに冒険者の育成に後ろ向きなことだ。

 そのうえで、ランク制度によって冒険者を急き立てている。

 ランク制度が冒険者の向上心をあおる作用があることは間違いないことだと思う。

 しかし、それは冒険者に無理な仕事をさせることにもつながるだろう。

 ランクを上げて優遇を受けるために仕事を詰め込んだり適性以上の難易度の仕事を受けようとするということだ。

 間引き説を採らないのであれば、冒険者の死は冒険者ギルドにとって不本意なものである。

 しかしながらその対策があまりにずさんで、逆効果の施策まで採っている。


 やるべきことをできない、やらない理由はなにか。

 多くの場合予算不足あるいは人手不足だろう。単純に問題に気付いていないケースもあるだろうか。

 教育にはコストがかかる。金と時間両方だ。

 日本でも新入社員がものになるのに一年から三年程度は見込まれるだろう。これは高度な義務教育を土台とし、さらなる高等教育を受けたうえでのことである。

 冒険者になるような者の多くは土台となる教育など受けていない。受けているとしても親の仕事にかかわる範囲であり、冒険者の仕事に役立つ内容は限定的だ。

 それどころか、並べない、行進できない、順番にしゃべれない、もちろん字も読み書きできないなんてのが当たり前にあるだろう。幼稚園児をそのまま大きくしたような教養の程度であってもおかしくないのである。

 そこに必要な教育を施そうというのは確かに恐ろしくコストがかかることだろう。

 小学六年生が毎日五時間を六年間という教育を受けた結果であることを考えてみてほしい。

 冒険者に登録を希望する者すべてに同等の教育を行うことができるだろうか。


 そんなことができるなら中世やってない。


 それでも、難易度の高い依頼は増えていくし、かといって右も左もわからない者にそれらを担当させるわけにもいかず、すべての冒険者の能力を把握しておくというのも難しいし無視すると自己責任で死んでしまう。


 そこでランク制度である。

 能力の目安と、勝手に死にに行かないようにという受注制限。冒険者の命を守るためのランク制度だったのだ。


 だがそうなると、低ランク蔑視問題は冒険者ギルドが狙った効果ではないことになる。

 しかし、これについては別の視点から説明できなくもない。

 というのは、つまり冒険者がそもそも社会からドロップアウトした蔑視される存在であるからだ、ということだ。

 そしてランクを上げることができた者はその中でも例外となり、高ランクになる者は逆転するのだ、という考え方だ。

 魔物は人類共通の脅威であり、魔物と戦いうち滅ぼす存在は歓迎されてしかるべきなのである。


 というわけでセーフティネット間引き選別説の採用不採用双方から見たランク制度について考えてみた。

 次回は薬草採取について触れてみたい。

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