冒険者が街に家を構えて定住すること
都市の強固な壁の内側に居を構えるというのは極めて重要な利権である。
支配者、まあ領主だろうか、彼らと彼らに必要な機能を守るための重要な設備であり、壁と防衛用の戦力を確保し、また内外の問題を処理し円滑に維持し続けることは並大抵の労力ではなく、コストもかかる。
そのおこぼれにあずかろうというのだから簡単なことではない。
なにせ、何より重要な安全を買えるし、流通も用意してくれている。
魔物が出る世界ではなおさらだ。
また、守りの内側に入れる者には気を付けなければならない。反乱でも起こされたらたまらない。
支配者はしっかりと壁の内側に住まうもの、つまり自身が守り自身のために役立つものを選別する義務と権利がある。
街を守るための軍事設備。人や装備を収容する場所、訓練する場所。
街を守る施設や装備を作る生産設備。
大きな土地を必要とする農業などはコスト上街の中に組み込むことは難しいが、加工品の生産は守る価値が大いにある。
それらに携わる者の生活に必要なものを供給し、利益を上げる商業設備。
などなど、街を維持し利益を生み出すための人と設備が優先される。
定住が許されるのはその関係者で、働く組織の後ろ盾をうけ、一定の信用を得て、安くない税を支払うことで定住権を得ている。
基本的に街の機能を維持するための席は埋まっており、予備が席が空くのを待っている。ギルドなどがその管理を請け負っていることが多いだろう。街の規模が変わるなどなければギルドの株は定数が決まっており、必要十分な生産活動やサービスの提供が行われるように調整されている。
なぜならそれらの数を管理しなければ街の維持運営に支障が出るからだ。
なのでよそ者を無制限に迎え入れることはやらないしできない。反乱やスパイも警戒しなければならないし既得権益者を脅かすような真似はまずしない。街が機能しなくなっては困るからだ。
必要ならば変化も受け入れるだろうが、基本的には慎重だ。特に既得権益を侵されれば過剰に反応する排他的側面も持つだろう。既得権益は悪ではなく現状維持、今までの生活を守ることなのであって、利益とは人の生活だ。ただ蓄財に励むだけの者もいるかもしれないが、利益のほとんどはその日の誰かの食事に化けるものなだ。
話がとっちらかってきたが、要は都市の広さと抱えられる人口に限界がある以上、定住する者は信用され都市に利するものでなければならず、厳しい線引きがるはずで、その席はたいてい埋まっているはずであるということだ。
税を課すため、犯罪や犯罪防止のために管理されている。管理の行き届いていないスラムなどはまた別の問題があるため都市に定住とは違うだろう。
さて、冒険者は必要な存在であると同時に不要な存在である。
魔物に対応する存在は必要だが、その出身の多くはあぶれものである。間引き選別説を採用するならなおさらだ。
高ランク冒険者は引き抜きを受けるくらいには有用で、需要がある。
活躍して家を賜るなんてこともあるかもしれない。彼らは引き留めて定住させる価値がある存在だ。
だが高ランク未満の冒険者はどうか。
その街出身で家族に頼れるなどでなければ安宿暮らし。時には馬小屋に泊めてもらうまで定番である。
税金払っているかどうかもわからない。
街の外で魔物と戦い、いつ死ぬかもわからないし大体数年内に死ぬ。
遠くまで出かけて何か月あるいは何年も留守にすることもあるし帰ってこないこともある。
武器を持ち歩き治安を乱す輩も混ざっている。
そもそも低ランク冒険者は軽蔑の対象。
余裕が出てきた中堅も昼間から酒場でたむろしたり。
さて低ランク冒険者は信用を持ち都市に利益を生み出し、家を構える権利を認められるだろうか。
まず税を払えるかが問題であるし、保証人を用意できるかも課題である。現代ですら賃貸には保証人が必要で購入にもたくさんの書類に記入する必要がある。
都市に居を構えて定住するのであれば、最低限、身元保証と税を含む様々な支出に耐える収入=仕事を持つことが必要だろう。そうでなければ貴重な壁の内側の土地を割く価値はないはず。
だが、長期間宿に泊まるのは高いから家を買おう、あるいは借りようという例をしばしば見かける。中にはペーペーの低落く冒険者がシェアハウスしたりも。
なぜこんな軽い感じで認められるのか。
低ランク冒険者など厄介者で、宿に金を落としているから、もしくは馬小屋なんぞに泊まっている哀れな奴らだから許されているようなものではないのか。
隣に出身不明の武装集団がすみ着いたら非武装の都市民はどう思うの。歓迎するの?
まず考えられるのは前提が間違っている場合。
どこの都市も移住者ばっちこいで仕事に空きもあるし土地も余っているし冒険者歓迎で蔑みなどなくみんな幸せに暮らしましためでたしめでたし。
さすがにこれは冒険者必要ないんじゃないかとなりそうなのでちょっとないんじゃないだろうか。
部分的に見落としていてここまで極端ではないというのであればまあ。
身元保証と支払い保証、少なくともこの二つは満たさなければ住まわせるリスクを負う価値はない。その上で何かなければメリットがない。
なので、誰が身元を保証してくれるか、どうやって支払いを保証するか、どんなメリットというか需要があるか、という視点で考えてみたい。
ただ、支払い保証については、これまで考えてきた冒険者の経済状況からして考えにくいため、あまり触れられない。
身元を保証してくれそうなのは誰か。
まずは冒険者ギルドである。
候補としてはここが一番だろう。だが、宿屋の権益を冒してまで木っ端冒険者に家をあてがうだろうか。
そうまでするにも理由があるはずだ。
例えば低ランクだが有能なので囲っておきたい場合。
冒険者ギルドのランク制は将来性を勘定に入れないので、有望な低ランクがそうでない有象無象と一緒くたに扱われかねない。
そこで有望なものをこっそり優遇する。その一環として住居の保証人となる、という説。
あるいは、冒険者の頭数が不足していて少しでも数が必要な場合。
根無し草の冒険者は儲からないと思ったらよそに出ていくこともあるだろう。
そうなると冒険者にとって利益が出にくい街では冒険者全体の数が不足する。
これに対する方策というわけだ。適用する冒険者は有能なほうがいいが、単純な頭数が足りなければそうもいっていられない。まず隗より始めよだ。
次に身元保証してくれそうなのは商人、それも街中に複数の建物を所持しているそこそこ以上の商人だ。
彼らが低ランク冒険者に家を与えて利益を生むビジネスモデルを生み出したとすればどうだろう。
例えば、留守中の管理を商人が請け負い一定期間連絡が途絶えたら家財ごと所有権が商人の元へ戻る、といった契約を結んで冒険者に販売または貸与する。
冒険者は数年でだいたい死ぬので家に蓄えた資産ごと戻ってくるというわけだ。
一儲けして調子に乗っている冒険者がねらい目である。あっさり次の仕事で全滅したりするのだ。
そして逆に生き残ってしまった場合。
有能な冒険者ということになる。となればそれはそれで役に立つコネとなるだろう。
商人同士の権益の奪い合いは日常茶飯事なので宿屋の権益を冒しても勢力次第で問題にはならない。ここは状況次第である。宿屋でも似たようなことをやっているだろうから、奪い合いだ。
冒険者が問題を起こしたら商人に責任が及ぶが、それを込みで契約条項を調整するだろう。総額の差し引きで利益になるなら商人ならやってもおかしくはない。
住居をほかの住民とは離れた場所にするくらいはするだろうか。
次に、冒険者の身内だ。
家族と同居するとか恋人の家に転がり込むとか定住権を持つ頼れる相手に頼るというもの。
身内なので信用はある。ご近所で噂になって気まずい思いはするかもしれない。
続いて引き抜きかその前段階。
高ランクでなくとも街で需要がある仕事がある。
用心棒だ。
冒険者崩れの用心棒、これもまたテンプレだろう。
給料の一部として住まいを提供、住み込みであったりやり方は様々。
わるいやつはスラムに勢力を持ち住処を確保していたりもするだろう。その場合税金も払わないわけだ。わるいやつやで。
それから、支配者。領主などだ。
これは高ランク冒険者向けだろう。引き抜きの一環過疎の一歩手前か。わざわざ領主が動くとなれば相応の成果があったと思われる。
そうでなければ冒険者誘致政策の一環だろうか。
冒険者ギルドに任せず、街を挙げて冒険者を呼びたいというのもよほどのことだ。
そういう街であれば冒険者の扱いは他よりはよいだろうが、必要だから呼ぶ以上、仕事も多くなり、試行回数が増えればハズレを引く数も増えていく。冒険者の消耗も増えるだろう。
需要というのは相対的なものなので、平均的に見れ場冒険者の立場が低く隔意を持たれていたとしても、状況次第で強く必要とされることもある。
街から街へ移動する個人はのはまず行商人か冒険者であり、新たに人を根付かせたいのであればまず狙われる対象になりうる。
個別のケースを見れば事情があり理由がある。
しかし、全体で見れば立場も低く稼ぎも少ない冒険者に家を持たせて定住させる価値はないだろう。
特例は存在するし特例を見て全体がそうだと考えるのもマズいことだ。
特例を設定するならその背景も含めて考えていきたいところである。
次回も未定。




