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祈らない者、灰になる  作者: twin
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序章「青い炎」

 孤児である私たちはいつか兵士になる。

 家代わりの教会から私たちは神学校に送り出される。

 全ては神のため、王のためと……血を流して瀕死の状態でも死にきれず、薬で再生しては再び戦争に参加する事を強要される。

 呪い子となれば追われ、いずれか殺される。

 神を崇め、狂った人々。

 だから、私たち3人はあの時の綺麗な手で約束をした。


「ギフト、こゆびイタイ!」

「マールわるい……キャロルもイタくない?」

「キャロルはダイジョウブ。はやくやくそくしようよ。忘れちゃう!」


 3人一緒に頷く。そして、同じような声色で交わした。


『どんなときも、3人はずっといっしょ』


 欠けるなんて事は絶対にないはずだった。


        そんな約束。

        そんな記憶。




 寝静まった夜の街で灰がかかった青色の目を光らせ、水色の一つ結びをなびかせながら、マールは走る。

 外は冬のような寒さで、息を吸うと肺を苦しくさせる。

 それでも、止まってはいけない。

 身体中から冷や汗が噴き出す。

 何かに恐怖を覚えるよう、走りながら後ろを見る。

 遠くでは青い炎が学校の教会を燃やし、近くでは白いケープやコートを着た男女の兵士達が逃すものかとマールを追いかける。

 ……聞かずともわかる。あの火災の原因はマールだ。

 長い時間と道を走り、入り組んだ道を探しては壁にぶつかりながら曲がっていく。

 流石に体力の限界が近づいて来た。

 そう思っていると、右に薄暗い路地を見つける。

 兵はまださっきの角を曲がっていない。なら、今飛び込むしかない。

 酸素に飢えている肺を抑えて、息を潜める。

 少しして兵の焦燥した声と足音が聞こえてきた。


「早く見つけろ!隊長に迷惑がかかるぞ!」


 隊長と言う言葉にマールは眉を顰める。

 この小隊の隊長はあいつしかいない。


「ギフト……あんたとは敵同士か……」


 ギフトが隊長になった事はシスター兵だった頃も今でも、正直言って不満だった。

 彼はそれなりの実績も能力も持っていた。

 だが、不満の理由は嫉妬ではない。彼の神への信仰心がより強くなった事だ。

 普通の事。普通の事だけども、マールはギフトにいつしか嫌悪感を感じていた。

 このまま信仰に没頭したら、ギフトの中で3人との約束は消えていってしまうのではないのかと……。

 ずっとそんな事を考えている。

 いつの間にか、兵達の声と足音は消えていた。

 路地から出て辺りを確認する。完全に見失ってくれたようだ。

 ここで隠れていても朝や昼にはこの街は人で溢れる。

 呼吸を整えるようにゆっくりと歩き出す。

 教会の火災は大き過ぎて消火しきれていない。

 青い炎が教会全体を飲み込む。

 あの中にはキャロルが居たはずだが、思い出してみると確か逃げる途中にギフトが避難させていた。

 良かった……死んではなかった。


「……キャロル、ごめん……」


 嫌いだった場所が、3人といた場所が真っ黒な炭へと変わっていく。

 街の人が火災に気付くまでずっと見つめる。

 戻ればまたキャロルとギフトといられる、でも殺される。

 例えば……そう、あの兵隊さんとかに。


「ギフト……」


 殺気が身体中から溢れている幼馴染が、ゆっくり歩きながら近付いてくる。

 それを見たマールは一歩ずつ後ろに下がる。


「大人しくしてくれないか。逃げても居場所はないだろ。この反逆者が……」

「違う。勘違いしないで……あれは、意図的にやろうとしたわけではないんだ」


 あの火災にはちゃんとした理由はある。

 だが、言っても言い訳だと流されるだろう。

 ギフトは目撃者の中の1人だから。


「ギフトは昔と変わり過ぎだ。

 もう……3人の友情なんて神の前では薄いものなんだろ?私がこんな事になってもあんたは……くそ……」


 ギフトが太ももにある、白銀のナイフに手を伸ばす。


「マールは俺達の絆を使って逃げようとしているのか。ズルいな。

 俺が1番大っ嫌いなやり方だ……」

「しまっ──」


 ギフトは持ち前の身体能力で一瞬のうちに距離を縮めマールの首を片手で掴み上げる。

 ナイフで斬るのではなく、すぐに死ぬ事のできない方を選んだ。

 ……躊躇しているのだろうか。

 少しずつギフトの指が首に食い込んでいく。

 頭の中で走馬灯が流れる。


 私が普通だったら、ギフトとは敵同士にならずに済んだのに。

 私が普通だったら、キャロルと甘いものが作れたのに。

 私が普通だったら、2人と一緒にこの先もずっといられたのに。

 私が普通だったら。

 私がこんなんでなければ。


 少しずつ息が薄れていく。

 目の前の幼馴染は結局、学校や街の人々の仲間入りになってしまった。

 多分このまま、キャロルも。

 神がいなければこんな事にならなかった。


「しぶといな、マール。早く神の前から消えてくれないか。

 せっかくだから余談でもしようか……思い出すな、あの時の約束を。俺はこんな悪魔と約束をしていたんだな。全く……悲しいよ……」

「あく……ま……」


 私は悪魔なのか。そうか。そうなのか。

 ……なら、もう後戻りはできない。

 目を閉じ弱っていく力を振り絞って、ギフトの右腕に両手を添える。


「私は後悔しないから、あんたも後悔しないでね」

「……後悔なんて、するわけないだろ」


 目の前にいるギフトと教会にいるキャロルとの約束は果たせなかった。

 それでも絆を信じてまた約束ができる事を願おう。

 マールは笑顔で別れを告げる。


「この世界に光あれ……。信じてるから」


 ギフトが咄嗟に手を離す。

 そして自身の右手を見ると、マールに攻撃的な目つきを向ける。

 それもそのはず、右手は青い炎で燃えているからだ。

 しかも、マールによって。


「呪い子めッ!!!!」


 次会うときは敵同士。

 神に背くのに、理由や目的はある。

 ……大丈夫。


 私は振り返らずに狂信者の前から夜の闇へと消える。


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