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バイクと車、どちらが危険?

作者: たかあきら

 某エッセイに感想を送ったところ、削除されてないけど、されそうなのでそのテーマでエッセイを一本。


 結論から言うと、「同じ基準で比較する対象ではないから、比較するだけ無駄」です。よく「事故発生率」とか「死亡率」とかで分析しようとする人がいますけど、それさえ無駄。単純に言うと、公道を走っている自動車とバイクの実数は、おおよそ20:1。令和三年8月末時点でのデータによると、自動車は約八千万台、バイクは約四百万台なんです。極論で考えると、「隕石が落ちてきて、周囲1kmがクレーターと化した。自動車が千台巻き込まれたけど、バイクは二十台程度で済んだ。バイクの被害が少ないのは、バイクは機動力が高いから隕石を回避出来たからだ!」などと言っても、阿呆としか思われないでしょう。

 そして、事故に至った段階での、死亡率や遺体損壊率を比較することも、また無意味。それを言ったら「バスは一台の事故(単独事故)で数十人の死傷者が出るけど、バイクは一台の事故(単独事故)では最大二人の死者しか出ない。だからバスよりバイクの方が安全だ」という結論にもなりますから。


 だから、比較する意味がないのです。


 だから、危険性を考えるのなら、その事故の原因に着目する必要があります。

 その、事故が起こる原因。運転技術の未熟、不注意、外部からの貰い事故、等。

 これらを順に分析してみますと。


 運転技術の未熟。これは昨今、「自動車のドライバーは、年齢が上がると自身の技術に自信を持つようになる」という事実が取り沙汰されています。

 MS&ADインシュアランスグループのMS&ADインターリスク総研株式会社が2021年7月に、全国の日常的に自動車を運転している1,000人を対象に、「自動車運転をテーマとするアンケート調査」、および、運転免許証を返納した1,000人を対象に「運転免許証の返納をテーマとするアンケート調査」を実施したそうです。

 その結果、「運転技術に自信がある」と答えた世代は、64歳以下の層は40%前後、けれどそこから年代層が上がるにつれてパーセンテージも増え、80歳以上の年齢層の実に70%以上(2017年時調査では61%程度)が「運転に自信がある」と答えています。

 対して「自信がない」と答える世代は、64歳以下の層は30%前後、だけどそれ以上の年齢層では15%前後になり、80歳以上の年齢層では「自信がない」と答えるのは12%(2017年時調査では5%程度)に減少するのだそうです。

 けれど、百歩譲って技術は経年により蓄積されるのだとしても、認知機能は加齢に反比例して衰えます。「運転に自信がない」30代の運転手と、「運転に自信がある」80代の運転手の、どちらの運転を貴方は信頼しますか?


 運転時の不注意。若年層は不注意で、壮年層は注意深い。これは、一つの真理です。

 だけど、同時に前述の認知速度の低下を加味すると。これは30-50代あたりがピークラインになり、その年代に至るまでは事故回避率が上がり、そしてその年代を過ぎたら下がっていくのでしょう。

 ちなみに前記の調査によりますと、「ヒヤリ・ハット」を経験したことがあるかという問いに対しては、60代前半までは60%弱程度が「経験がある」で、60代後半になるといきなり50%程度に低下し、70代以上で「経験がある」と答えた人は40%程度なのだそうです。対して「経験がない」という回答では、同じく60代前半までは40%程度だったのが60代後半になると50%程度にまで増加し、70代以上は60%近くが経験したことが無いと言います。これは明らかに、加齢によって認知機能が低下するという証でしょう。


 貰い事故。これは、回避不可能。……なのでしょうか? 一定レベルのリスク管理で、これはある程度までは回避可能です。それこそ冒頭のたとえのように「隕石が落ちてきた!」なんていうのは対処不可能にしても、「暴走トラックが突っ込んできた!」なんていう例ならば、どの時点でその事実を認知し、認知してから適切な回避行動を判断するまでのどの程度の時間を要し、且つその判断に基づいて適切な回避行動に移るまでにどの程度の時間を要するか。それによって結果は変わるでしょう。


 さて。ここに来て、表題に戻ります。「バイクと車、どちらが危険?」。


 技術の未熟さに起因する事故。バイクは、これが簡単に起こります。未熟でありながら、オーバースピードや車体を倒し過ぎたことによるスリップ転倒。これが死亡事故につながる可能性は、決して低くありません。

 対して自動車は、その場合対物事故に至ることがあっても、死亡事故に至る可能性は、意外に低いのです。……これについては後述します。


 不注意に起因する事故。バイクでは、極論道路上に落ちている空缶ひとつを原因として、死亡事故に至ります。だからそれさえ捕捉出来るだけの注意力が求められます。

 対して自動車は、空き缶を踏んづけた程度では事故に至りません。


 貰い事故。これはレベルにもよりますが、先述の「認知・判断・行動」に関しては、バイクの方が実は対応の為の選択肢が多くあります。極論、バイクを捨てて飛び出せば、怪我をすることはあっても死亡事故は免れる可能性があるのですから。

 対して自動車は、この場合選べる選択肢はそれほど多くありません。車体重量(質量)がバイクより大きい為、その慣性を殺し、或いは捻じ曲げるだけの手段が限られてしまうからです。それが出来ないにもかかわらずそれを為し得ようと努力すれば、貰い事故は回避しても車体のコントロールを失い自損事故に至ってしまうでしょう。


 では改めて、「本当に、バイクと車、どちらが危険?」


 技術の未熟さに起因する事故。バイクの場合、これはライダーの技量を高め、或いは自身の伎倆に見合った安全運転を心がけることでしか回避出来ません。そしてその「安全運転」の中には、「安全規格をクリアしているヘルメットを被る」「プロテクターその他の装備を着装する」「危険運転をしない」なども含まれます。

 対して自動車の場合、ドライバーの伎倆だけではなく、数々の最新安全運転サポート技術などでも危険を回避する一助になります。また、事故に至った段階でも、車体の剛性やシートベルト、エアバッグ等でドライバーの命を守ることも出来るでしょう。


 不注意に起因する事故。バイクの場合、それを機械的技術で回避することは、完全な意味で不可能です。だから、ライダーの伎倆頼り(「不注意しない」という、矛盾した結論ですが)になります。

 対して自動車の場合、「ふらつき(居眠り)防止アラート」「走行車線遵守アラート」「衝突防止装置」など、近年の自動車の安全運転サポート技術は進化していますから、かなりの範囲でドライバーの不注意をシステムが補正してくれます。なら、「貴方は安全をカネで買いますか? それともカネを惜しんで安全性を捨てますか?」という選択になるのです。

 もっとも。筆者の実体験なのですが、中央道恵那山トンネルを走行中。一直線なので、眠くなり。けど車線を跨ごうとするとアラームが鳴り且つハンドルが強制補正してくれるので、むしろその刺激で意識が戻りました。安全運転サポート技術のおかげで事故を防げたのか、それともそこまでサポートしてくれるから気が緩むのか、そのあたりは謎ですけど。

 ちなみにその時は、後続車がクラクションを鳴らしてくれ、それが喝になりしっかり意識を保ってトンネルを抜けられましたけど。


 貰い事故に起因する事故。これもバイクの場合、機械的技術により回避することは不可能。回避可能性も、ライダーの伎倆頼りです。

 そして自動車の場合。先述の通り「回避」はバイクより難しいですけど、事故に至った段階でのドライバー保護機能は(カネを掛ければ)充実しています。


 こうやって考えると、「バイクと車、どちらが危険?」という疑問は、ひとつの答えに辿り着きます。


「ライダーは、身の程を弁えろ。いつでも事故が起こると覚悟して、それに備えてヘルメットやサポーターを着装しろ。そして技術を磨け。だけどそれを過信するな。少しでも認知力の衰えを感じたら、バイクを下りる勇気を持て」


「ドライバーは、安全運転サポート技術にカネを出し惜しみするな。伎倆で回避出来る危険のレベルはバイクよりはるかに低いと心得て、頼れるものは何にでも頼れ。でも経済力等の問題で安全運転サポート技術を搭載出来ないとか、安全基準が普通乗用車より低い軽自動車に乗るとかというのなら、より一層安全運転を心がけ、むしろ高速道路や長距離運転などを避けるようにしろ」


 最後は、運転者の意識に帰結するというのがありきたりな結論ですが。

 事故を起こさないように、各人一層奮起努力することとしましょう。

(3,553文字:2021/11/22初稿)

・ 当エッセイは、『バイクは車より安全というのは嘘』(n8309ei)というエッセイに対する感想返信、という形で執筆しました。なお拙エッセイ冒頭の言葉は、そのエッセイのオマージュです。

・ 「高齢者の自動車運転および運転免許証の返納に関する実態と意識について(2021年09月27日)」(https://www.irric.co.jp/topics/press/2021/0927.php)

・ 同じ自動車でも、軽と普通乗用車。同じバイクでも、原付と自動二輪。

 或いは、車の場合サンデードライバーと商用ドライバー。でもバイクは基本全員「ホリデーライダー」扱いされるから。

 そのあたりの基準も踏まえないと、両者の比較なんて出来るはずはないんです。


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