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09 アジト

 壁を叩く音に、ボウロウは目を覚ました。

「洗濯物」

 陰気な女の声に、寝床から声を掛ける。

「入れ」

 カチャカチャと足枷の音を立てて女が部屋に入ってくると、手押し車に積まれている服の塊を示した。ボウロウは、そこから自分の出した衣類を回収し、部屋の机に置く。

 ここは遺跡の一室だった。宿だったのだろうか、似た形の小さな部屋がたくさんあった。ただしその多くは壊れており、ボウロウはそのうちのまともな方の一つを使っていた。

 平べったい低い台は、寝床として使い、その正面にある腰の高さまでの奥行き二掌ほどの台は、机として使っている。ただし椅子はなく、手紙などを書く用事も器具もないので、荷物置き場でしかない。

「次のは――」

 言いかけると女が手を挙げた。

「混ざっちまうから、後で取りに来るよ」

 そう言えば、そうだった。任せているだけだと、なかなか仕組みを覚えられない。いや、覚える気がないのだ。

「あの娘は使えそうか?」

 出て行こうとしていた女に声を掛けると、ボウロウに目を向けた。珍しく、いつも淀んだ目に、僅かながら光が宿った。

「はん、まさかアンタにあんな趣味があったなんてねぇ」

 言われた意味を理解して、ボウロウはカッとなった。荷車を押さえて、女の動きを間接的に止めると、腰の短刀を抜く。

「口に気をつけろ、女」

 が、ボウロウは刃を女の喉元に突き付けず、短刀をゆっくりと鞘に収めた。死にたがっている者に脅しを掛けても意味がないからだ。

「だったら、何のために、あんな小娘を連れて来たんだい? まさか、アタシの為なんかじゃないだろう?」

 女が自嘲気味に笑った。

 確かに、ボウロウは女の手伝いのために娘を連れて来たわけではなかった。……では、何の為か。自問しても、ハッキリしない微妙な問題だった。

 他の者が戦利品の回収に躍起になる中、ボウロウはずっと何かを逃した違和感に苛まれていた。だから、(かしら)が撤収を宣言した時に、念の為調べると残ったのだ。

 目撃者を残さないことは、盗賊行為を続ける上で大切なことだった。正体が知られなければ、衛兵や賞金稼ぎも狙いようがないからだ。

 果たして、生存者はいた。しかも、それは年端のいかぬ小娘だった。ボウロウは、生存者がいれば殺すつもりだったが、まさか子供がここまで慎重に隠れられると思っていなかったので、興味を覚えた。

 娘はあまり話さなかったが、どうやら親が狩人だったらしく、逃げるためには隠れ続ける事が重要と教わっていたようだった。ボウロウは会ってもいないその親にも感心し、娘の才能に――そう、惚れ込んだのだ。

 それまでボウロウは、いかに自分一人でやり遂げていくかを考えていた。あの時不意に、いつの間にか自分が次の世代に技術を継ぐ順番が回ってきたのを悟った。

「いや、そうだな。趣味と言えば趣味だ。俺はあの娘に期待している」

「はっ。蕾が花開くのを待つってわけね」

「いや、そういうわけでもない」

 言ってから、遅れてある危険に気付く。

「待て。もしかして、そういう趣味の者が居るのか?」

「さあね。でも、あの歯抜けは、女だったら誰でもいいと、ヨダレ流していたね」

「ちっ!」

 ボウロウは舌打ちをすると、のれんを打ち払って、外に飛び出す。女たちの部屋は下だ。階段の手摺りを滑るように下りると、既に始まっていた。

 建物の中央は外から光が差すようになっている。ボウロウが娘を連れ帰った後、疲れて横になっていた時間は半刻も経っていなかったようだ。日は未だ傾いていなかったからだ。しかし、天井にある水晶は不思議な力で、日が傾いていようとその明かりは、建物の広範囲に拡散される。日の傾きによって変わるのは、暗さより色だった。

 とはいえ、やはり上層より下層の方が暗いのは暗い。ボウロウは、目を慣らすために数回瞬きをした。

 男が三人と、娘が一人いた。男の一人が娘を突き飛ばしたところだった。娘は地べたを這いつくばっていた。

「おら、もっと泣き喚け! 俺はそっちの方が燃えるんだよ」

 娘の近くにいる男が怒鳴り、それを見ている二人がゲラゲラと笑う。

「お前は本当に酷え畜生だよ」

 そう言っても助ける様子はない。楽しんでいるのだ。

 ()れた。

 ボウロウの頭には、既に三人を殺す絵が浮かんでいた。短刀で、先頭の男の首を掻き切り、驚いている残りの一人に短刀を投げつける。最後の一人は、正確には絵が浮かんでいなかったが、どうとでもなった。殺した者から武器を奪ってもいいし、もう一本短刀を抜いても良い。

 十数拍。それで全て終わる。

 だが、ボウロウは思い浮かんだ通りに事を進めなかった。そうした所で、未だ五人近い相手が残っている。さすがに、それらを片付ける姿は浮かばなかった。一気に囲まれればもちろん負けるが、上手く立ち回れば生き残れるかもしれない。危うい橋だ。だが、そこまで危険を冒して、娘を助ける意味などなかった。

「おい」

 声を掛けると、先頭の男がボウロウを向いた。洗濯女の言うとおり、前歯が一部欠けた男だ。

「おう。ボウロウの旦那。珍しい土産だな」

 言うと、歯抜けの男はまた娘を見下ろす。

「ひん剥いてやろうと思ったんだが、皮の胴着がジャマでよぉ」

 それは、ボウロウが最初に娘を見た時に感心した対象の一つだ。大人であれば、皮の胴着くらい身に着けるのが普通だが、子供用にしつらえられているのは珍しい。何事にも余裕のある貴族なら別だが、平民がそこまで手間と金を掛けて安全に気を払っているのは、敬意を払うに値する。

「もちろん、最初はあんたに譲るぜ。へへ、あんたとは気が合いそうだ」

 抜けた歯の間から汚れた息を吐きかけられそうに感じて、ボウロウは思わず顔を逸らした。お前とは趣味は合わない、と思ったが、口にせず、娘に声を掛ける。

「おい、立て」

 娘は視線を下ろしたまま、のろのろと立ち上がる。ボウロウはまた感心した。娘の目に、怯えがないのは予想していた。ボウロウが娘を連れて来た時、そうだったからだ。もしかすると今は暴力を振るわれた事への怒りの光が目に宿っているかも知れない、と思った。怯えと怒り、どちらの光にせよ、歯抜けの男からすれば、殴りたくなる刺激になるに違いない。そのきっかけを与えないのは正しい。

 娘は立ち上がると、歯抜けの男から距離を取るように迂回して、ボウロウの元へ駆けて来た。ただし、両足は綱で繋がれている。だから、走り幅は小股で、時々よろめく。不安定だったせいもあったからか、娘はボウロウの元へ来ると、手を繋ごうとした。子供なりの防衛反応なのかも知れない。少なくとも、ここへ連れて来る時は、手を引いてきた。歩く速度を保つためと、逃げられない為だ。娘はその名残として手を繋ごうとしたのかもしれない。いずれにせよ、その反応は失敗だった。「娘を既に手懐けている」と思われると、無用な騒動を生みかねない。

 ボウロウは手を振り払うと、先に上へ上がるよう手振りで示す。娘がそれに従うと、男たちから不満の声が上がる。

「おい、ここでヤらねえのかよ!」

 歯抜けの男に詰め寄られて、仕方なくボウロウが答える。

「あのガキは、掃除や洗濯の手伝いをさせるように連れて来た。お前らが、遊びすぎて、洗濯の暇がなさそうだったからな」

 これに、奥の二人の男が笑った。が、歯抜けの男は未だ不満顔だ。

「ガキがいるなら、俺はババアなんかじゃ遊ばねえよ。ババアの代わりになるんだから、十分なお手伝いじゃねえか」

 恐ろしい事に言い分として理由が通っていた。だから、ボウロウは言い切る。

(かしら)に話を付けてくる」

 男たちが互いに目配せをする。緊張か。ボウロウは、未だ(かしら)の影響力が効いているのを意識した。そのまま、男たちを置いて、階段へ向かう。

 娘は階段の途中で待っていた。

「ありがとう」

 近くに来ると、見上げてボソリと言われた。ボウロウは無視する。情を移しすぎるのは、本能的に危険だと感じていた。次の階層に来ると、洗濯女が廊下で荷車を押していた。足枷を付けているせいで当然足取りは重い。ボウロウは、女に追いつくと声を掛ける。

「仕事を手伝わせろ」

 女は、ボウロウをちらりと見上げ、娘を見下げるとぼそりと言う。

「じゃあ、そろそろ、洗い物を集めようかね。まずは、旦那の服を取っておいで」

 荷車の中身は減っていた。次に配布すれば終わりらしい。ボウロウは頷くと、自分の部屋の入り口を指さす。

「あの部屋に入って取って来い。机の手前側にある衣類だ」

 娘が綱で繋がれた足を動かして、言われた場所へ向かう。ボウロウはそれを見送ると、洗濯女に言う。

「あの娘を守ってやれ」

 次の瞬間、女の目に怒りの炎が灯った。

「はん! 自分の身が守れないのに、守ってやれ、ですって? 子供には優しいんだね。あたしは誰が守ってくれるって言うんだい!」

 正直なところ、ボウロウは女の身に興味はなかった。盗賊に捕まった女が、こういう目に遭わされるのは、捕まった本人も知っていたはずだ。だが、女の言い分はもっともだと思った。多少は希望がなければ、他人を助ける気も湧いてはこないだろう。

「お前が娘を助けてやるなら、俺がお前を助けてやらなくもない」

「はん! どう助けてくれるんだね。夜の相手をアンタが代わりをしてくれるってのかい?」

 挑発され、ボウロウは手を上げた。が、平手打ちを振り下ろす前に自制できた。ボウロウの部屋から、娘が衣類を抱いて出てきた。成り行きを窺う目をしていたので、ボウロウは手を下した。ここで、女をぶつのは簡単だが、それで娘から信頼が失われてしまうのを恐れた。そう思ってから、そこまで気を遣う自分が本当に正しいのか、自信が持てなくなった。

 ボウロウは女たちを放っておいて、さらに階段を上がる。この建物は中央にらせん状に階段があった。階層ごとに途切れてはいるが、螺旋の中央は吹き抜けになっている。

 女が娘に、服を抱えたまま付いてくるように言っているのが聞こえた。ひとまず、娘の相手をする気にはなったようだ。

 上の階も、基本的な構造は他の階と同じだった。螺旋階段の周りが廊下になっており、廊下には外側を囲むように扉が並んでいる。扉はほとんどが開いたままになっていた。壊れて扉がない部屋もたくさんあった。ボウロウの部屋が、その扉がない部屋の一つだった。地下の部屋は崩れて使えない場所がいくつかあった。逆に、上の階層では、壊れている部屋は少なかった。三つ、扉が閉まっている部屋があり、そのうちの一つが(かしら)の部屋だった。唯一、扉を不思議な力で開け閉めできる部屋だった。

 ボウロウは、石の扉を力強く叩く。しばらくして、扉が音もなく、横にずれて開いていく。一歩入ったところに、半裸の若い女が立っていた。壁にある石を操作して、この扉を開けたのだ。

「ああ、あんた」

 さして興味なさそうに言うと、若い女は白い尻を揺らして、部屋の奥へ走って行く。裸足の足には枷は付いていない。代わりに、首に革のベルトが巻かれていた。

 この部屋はボウロウの部屋の倍近い広さがあった。置いてある物は、ボウロウの部屋と変わらずほとんどないが、寝床の広さは倍ある。そこに、裸の男が半身を起こして座っていた。三十代半ばだろう。ボウロウとほとんど年は変わらないはずだ。女は、この男の横に飛び込むと、腕を男の胴に回す。

「おう。ボウロウ。小娘を連れ帰ったらしいな。はっ、女に手を出さないと思っていたら、そういう趣味だったわけか」

 また勝手な解釈をされたが、こうも続くともう怒りは沸かない。

「その事で話がある」

「何だ?」

 言いながら(かしら)が女の胸を触り、女が嬌声を上げた。

「歯の抜けた男が、娘に手を出そうとしていた。……」

 そう言ってから、ボウロウはそれが本質的な内容ではないと気付いた。どう話すべきか考え、話が途切れてしまうと、(かしら)は思い出すように話し出す。

「ああ。ドルスの奴か。……そういえば、あいつはそういう趣味だったな」

 その時にはボウロウも、何に焦点を絞るべきか決まっていた。

「そいつだけじゃない。他の奴にも、娘には手を出さないようにして欲しい。そういうつもりで連れ帰ったのではない」

「……ほう。じゃあ、どういうつもりだ?」

「あの娘は見込みがある」

 ボウロウの確信を、しかし(かしら)は理解しない。

「見込み? どういう意味だ」

「あの娘は明け方までずっと潜んでいた。普通の者にはできない事だ。俺たちの手を初めて逃れようとした」

「……だから、どうした? ただの娘じゃねえか」

 ボウロウは表情を変えなかったが、頭の中では、自分の感覚が伝わらないと理解した。だったら、わかるように話をしなければならない。

「斥候として使える。手なずけて訓練すれば、相手に気取られない優秀な斥候になれる。いや、見つかっても子供だったら怪しまれない。うまく罠に誘い出すのも容易いだろう」

「……そんなに上手くいくのか? 斥候に出したつもりが、そのまま逃げちまうんじゃねえか」

「そうならないためにも、娘を……オモチャとして扱わない方がいい」

「……幾つだ?」

 ボウロウは知らなかった。連れて来る時に聞いても良かったと今更思う。

「いや、知らない」

「あと五年、いや三年もすれば、女として使えるようになるか?」

 ボウロウは答えなかった。わからないし、結局そう使わないでくれという訴えが伝わっていないのはわかった。

 代わりに、若い女が反応した。

「私はイヤよ。あんなガキ、とっとと追っ払ってちょうだいよ」

 甘えるように(かしら)に縋りつく若い女を、ボウロウは冷ややかに見つめる。この若い女も、洗濯女と同じく、盗賊に捕まった女だった。最初は、同じように慰み者にされ、数日間、泣きわめいて暮らしていた。が、それからこの女は(かしら)に取り入ることを覚えた。それが、この女なりの処世術だったのだ。賢いなとは思うが、尊敬はできない。

「うるせえな。それは俺が決める。お前は、とっとと服を着て、飯を作って来い」

 頭が若い女の腕を引っ張ると、その尻を叩いた。

「いやよ。私はあんたの隣を離れたくないの。飯は、あのジイナのおばさんにやらせりゃいいじゃない」

「あの女に刃物を持たしたら、誰かが刺されるだろ。お前がやらなきゃならねえんだよ。ほら、行って来い」

 再度、尻を叩かれて、ようやく女が部屋を出て行った。(かしら)の手振りで、扉を閉めるように指示されたボウロウは、壁にある石を下にずらす。浅い溝の中を上下にずらすことで、扉が開いたり閉まったりする仕組みなのだ。

「ボウロウ、前から一度聞いておこうと思っていたんだ。なぜお前は、女を抱かない? 別に、マリリを貸してやってもいいんだぜ?」

「……俺は、商売女が好みだ。後腐れないからな」

 これは真実だった。ただ、他の連中と同じ病気に罹りたくない、という理由もあった。

「へえ、そうか。だったら、それはいい。だが、小娘を斥候として育てるにしても、女になったら、他と同じように体を使って働いてもらう。いいな?」

「……わかった」

 そう答えたが、ボウロウは心の中では同意していなかった。ただ、それほど長くいるつもりがなかったので、話に合わせたのだ。娘が本当に見込みのある存在なら、ボウロウが足抜けする時に連れて行けばいい。もし、思い違いだったら、置いていけばいいのだ。

「よし。……他にはあるのか?」

 そう言われて、ボウロウは他にも問題があったのを思い出した。

「娘は、奥の建物に隠れていた。いや、隠れていたというより、部屋の隅で縮こまっていただけだった。あそこを担当した者の失敗だ」

「……うむ。次は、しっかり調べるように言っておこう」

 ボウロウは、心の中で「ダメだな」と思った。気が抜けていることが問題なのだ。それをすぐに引き締め直さない姿勢が間違っている。

「もう一点。商人に加わっていた者は、娘がいるのを知っていたはずだ。しかし、その報告がなかった」

 商人たちを始末した後で、ボウロウがまだ何かがいる気配がすると主張した際、娘がいないことを商人たちに紛れていた仲間はすぐに教えるべきだった。戦利品を回収するのに夢中で、この情報共有がおざなりになっていたことは、組織として問題だった。

「それは、引き揚げている最中に聞いたから問題ない。娘はもう逃げているか、隠れているならお前が見つけて始末するだろうと思っていた。まさか、連れ帰って来るとは思っていなかったがな」

 (かしら)がニヤリと笑った。やはり、ボウロウが問題だという点を理解していない。やはり、この盗賊団は長く続かないな、と改めて思う。

「よし。いいぞ。飯を食った後、次の仕事の準備に掛かれ」

 これには驚いて、ボウロウは思わず返してしまう。

「次? もう次の襲撃について動くのか?」

 (かしら)の眉が吊り上がった。寝床の脇に立てかけていた、両手持ちの斧に手を伸ばす。

「ボウロウ、調子に乗るなよ。俺が、次だと言えば次なんだよ!」

 (かしら)が斧を支えにして、立ち上がった。筋肉を隆起させ、それを肩に担ぐ。しかし、ボウロウは全く怖くなかった。(かしら)とは数歩の距離だ。いかに大斧の殺傷力が高くとも、飛びかかってしまえば振り回す余地はない。

「……しかし、頻度が高くなると、警戒される。警護が厚くなると厄介だ」

「そうだとしても、俺たちは食っていかなきゃならねえんだよ。女たちを含めて十二名。小娘が増えたから十三名だ。それだけの人間が毎日食うんだ。戦利品を売りさばいて、金にして、そこから食料を調達するのには何日も掛かるんだ。前もって動いていかねえと回らねえんだよ」

 ボウロウは神妙に頷いた。(かしら)はわかっていない、と思っていたが、盗賊団を維持していくための考えは、ボウロウの方が浅かったと自覚した。少なくとも、回していかなくてはいけない、と思っているだけでも、この男には(かしら)としての資質があった。

「だったら、獣を狩る猟をするのはどうだ?」

「ああ? 誰が捌くんだよ? 次は肉屋でも連れ帰ってくれるのか?」

 確かに、獣を狩ったとして、そこからうまく肉を得る技術は訓練していない者でないと得ていない。寄せ集めの盗賊団に、そのような技術を都合よく有している者はいるとは考えにくい。

「慣れるしかなかろう。うまく肉を取れなかったとしても、何もないよりましなはずだ。それに、猟をすることで、見張りにもなる」

 (かしら)が考え込む顔つきになると、抱えていた斧を下す。

「……なるほどな。考えておこう」

 ボウロウはホッと息を吐いた。緊張がほぐれたからではない。盗賊行為を始めておよそ一ヶ月。それだけ持っている理由は、確かにあるのだと思えたからだ。全く無能な(かしら)だったら、ここまで続いていないだろう。

「よし、いいぞ」

 追い払われるように手を振られ、ボウロウは会釈をすると、部屋を出た。扉を閉めるのは中からしかできない。(かしら)はすぐにそれをするつもりはないようだった。

 しかし――。ボウロウは心の中でつぶやく。六ヶ月、そこらが潮時だな。人知れず、そっと決意を固めた。

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