黒巫女3
たーーーーくさん殺した
たーーーくさん殺した
たーーくさん殺した
たーくさん殺した
たくさん殺した
そして価値が生まれた
価値は世界を引き寄せた
究極の自己中心的世界
幸せで楽に生きられる世界に戻る
俺は望みを叶えた
オレは俺を許せない
◇◇◇
目の前のヒトを見ているだけで震えが止まらない。
ジャックが私の体を気遣う余裕もなく振り抜いた鎌は、何故かヒトの体をすり抜けていた。
ジャックが逃げろと叫んでいるのは聞こえるが、体が反応してくれない。
「………ジャック、怖いよ」
『格が違うな、何者だ』
「あっはっはっはっは! 燃焼の超越者と狂気の根源者か? いや、根源者じゃねぇな……イマイチ正体がわからないな。別にいいか! 外に出られたのは初めてだ!!」
聞きなれない単語があるせいで、要領を得ない。ただひとつ分かることがある。
これは、さっきとは別人だ。
『超越者とか起源者っていうのは聞いたことねぇーな』
「なんだ、こっち側じゃねぇのか。簡単に言うと」
「燃えろ、気持ち悪いのは燃えろぉ!!」
「超越者如きがうるさいぞ、黙って家に帰れ」
ヒトの真上に大きな火球が現れた。
「あれ?」
「話を戻すぞ」
次の瞬間、その火球は無くなっていた。
無くなったのはそれだけではない。
「燃えない、燃えない、燃えない、燃えないぃ!!」
「うるさいぞ、家に帰れと言っただろう。言う事聞かないと殺すぞ」
「ひぃっ!? 帰る、帰って燃やすぅ!!」
さっきまでこの世界全てを燃やす勢いだった焼死の魔女が、逃げた。何度も修羅場をくぐりぬけてきたであろう焼死の魔女が、目の前の恐ろしいヒトの殺すという一言で、逃げた。
「まったく、初めからそうしてくれ。話を戻すが、超越者は魔術回路と異能回路を持ち合わせた人間のことだ。根源者からは特異だな。そもそも魔術師と異能者がいて、その上に特異者がいる。上と言っても潜在能力だけだから、力が必ず魔術師と異能者よりも上という訳では無い」
『待て待て待て、待ってくれ。この世の超次元的な力は明確に区別されているのか!?』
「されているが、知っているのは魔術側の人間だけだろうな。異能側の人間はほとんど組織化されないからな」
ジャックがヒトと話しているが、目の前の恐怖を前に理解が追いつかない。
ジャックは私がこの恐怖に慣れるための時間稼ぎとして会話を始めてくれたけど、ごめん多分無理だ、慣れることなんてできっこない。
「ま、本格的に知りたかったらイギリスの聖教会か、フランスの薔薇十字、インドの神仏天のどれかに入ってみるんだな。三大組織って感じでバケモノ揃いだぜ」
『はは、世界が広がるねぇー』
私達も色々経験してきたが、異能側にしかほぼ触れていない。霊装は魔術側の道具だが、魔術師から買っただけだ。
知らない世界が広がる。けれど、殺し屋をしている今、それは別に必要じゃない。
「お話はここまでだぜ。オレは今気分がいい。このまま立ち去るなら殺さないと約束する。根源はともかく顔は良い。オレが俺なら惚れてるぜ」
「わ、分かった。このまま立ち去る。最後にあなたの名前を教えて欲しい」
「オレの名前は表裏唯人ひょうりただひとだ。べっぴんなお前の名前も教えてくれよ」
「私の名前は黒咲リア。なら、立ち去るわ」
足を地面から引き剥がす。鎌を抱いてゆっくりだが、全速力でその場から立ち去ろうとする。
私が3歩ほど歩けた時、体にかかっていたプレッシャーがふっと消えた。
急に喉を空気が通り抜け、咳き込んでしまう。どうやら、呼吸がとても浅くなっていたみたいだ。まったくそれに気づいていなかった。
『振り返るなよ』
「うん」
プレッシャーが消えたからと言って振り返る勇気はない。このまま立ち去るなら殺さないと言った彼の言葉を信じ、立ち去る以外の行動をしてはいけない。それ以外をする勇気がない。
殺し屋をやってきた中で色々あったが、こんなことは初めてだ。
緊張が少し緩んだせいで、ちょっと、本当にちょっとだけ漏らしてしまった。
「本当に上手くやったな、俺は。クソ野郎が」
急に聞こえた後ろの表裏唯人の声に体がビクッと反応した。
ちょっとじゃなくなった。
「だ、大丈夫!!?」
◇◇◇
初めて顔を見たから初めて出会ったと言っても過言じゃないはずだ。
超がつくほどの美少女が道端で漏らしていた。
「だ、大丈夫!!?」
声をかけ、その美少女に駆け寄ると、俺を見た美少女がへたりこんでしまった。
「大丈夫? 何かあったの?」
「……もう、嫌だぁー!」
彼女はそう言って泣き始めた。
何が何だか分からないが顔は可愛い。
うん、可愛い。
「えっと、名前はなんて言うの?」
「黒咲リアだってさっきも言ったもん! ていうか、パーカー被った少女に襲われてたはずでしょ!? もっと他にも疑問とか聞きたいことあるでしょ!?」
「えっと、黒咲さん。なんで漏らしてるの?」
「そ、そうじゃないのぉ!! あなたのせいだけど、あなたじゃないし、もう嫌だァ!」
………とりあえず、家に連れて帰ることにした。
◇◇◇
「おいおい、何があったんだ?」
街を全て燃やすと意気込んでいたはずの焼死の魔女が大粒の涙を頬に伝わせながら帰ってきた。
「ない、無くなったのぉ!!」




