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黒巫女2

「ふふふ、あっはっはっはっは!!! 燃えろ、燃えろ、燃えろぉう!」


彼女は俺たちが異能結社『異界の森』の一人だ。俺らは完全に異能側の力しか使えないが、彼女は魔術回路を異能のリソースとしてつかっている節がある。

その力の逆算ができれば、俺の異能も次の段階に進めるかもしれない。彼女は重要なカギとなる。

異能を超えた超次元的な力を必ず手に入れる。

……精神状態が不安定すぎるのが不安だが、この町一つくらい捧げてやろう。


「燃やす、今夜、全部炎にくべる、灰になってしまえぇ!!」


今夜、このアジトも捨てることになるかもな。

彼女の異名は『焼死の魔女』、自分の命よりも人を燃やし殺すことに心血を注ぐその姿からつけられた異名だ。彼女は異国の孤児院の跡地で発見した。もちろんその孤児院の跡地には焼死体が何体もあったそうだ。


◇◇◇


「どんな顔してたっけなぁ?」


胃に栄養が入ると、脳と心臓もクールダウンしたらしい。さっきの出来事を冷静に思い出していた。

彼女とはいうが、黒っぽいカッコをしていたくらいしか思い出せない。はっきりと罵倒されたはずなのに、内容もどんどん忘れてきている気がする。

恐怖心はもうすっかり無くなっていた。


「これが噂の怪奇現象なんだろうか」


自分の記憶能力の無さを棚に上げるくらいは余裕が生まれ、走ってきた汗が蒸発したからか、体も冷えてきていた。


「おやぁ? これはこれは、夏休み初日からぼっち飯とは悲しいやつだなぁ?」

「げっ、喜楽満きらくみつる

「そんな可哀想な君のところに僕も座ってあげよう」


図々しい態度で俺の対面に座ったのはバイト先の同期の1人、喜楽満きらくみつるという名前の男だ。金髪に、白いパーカーに白いパンツ、外国人顔負けのルックス、それら全てで人の目を集めていた。

実際、こいつには金もある。ある会社の御曹司の従兄弟?だったはずで、中高一貫のおぼっちゃま高校に通っている。

何かと気に食わないやつだ。言動、などなど。


「てか、お前もひとりじゃないか。俺をぼっちっていうのはいいけど、お前にも刺さるからな」

「ブーメランというやつだね? しかし残念ながら、君と違って僕は友人を必要としない一日を送っているのだよ。今日はそういう日ということだよ」


言ってる意味はイマイチ理解出来ないし、喜楽の友人関係など微塵もないが、『じゃあ、違う席に座れよ』という言葉を言うのだけは止めておいた。友人だと思われる席に座った男が追い出され、もう1回定員さんに案内し直されるとか憐れで不憫すぎる。


「で? お前は飯を食べに来たのか?」

「ノンノン! 恥ずかしながら少し匂いに釣られてね」


そんなにこのファミレスから匂いなんて漂っていたっけ? まぁこいつはアホだから仕方ないな。


「ただもうほとんど消えているようだね、安心したよ。では、オレンジジュースを頂こうかな」

「お前……財布は持っているんだろうな」

「ははっ、持ってきてるわけがないじゃないか!」

「ははっ、大人しく帰れよ」


自分が財布を持っていないのに、店に入るのは躊躇しない。そして、財布を持っているか?という質問に対して疑問符を浮かべるやつだ。アホなのだ。


「仕方ない。大人しく帰るとしよう」

「そーだそーだ、はよ帰れ」


本当にこいつは何をしに来たんだ……


「あまり変なことに首を突っ込むなよ? 僕が面倒だ」


なんで俺がお前に心配されにゃならんのだ、過保護な親戚のおばちゃんか! ……いや、知らんけど。


アホが移りそうで怖いので、黙っていた。喜楽はそのまま手をヒラヒラと振って退店していった。もちろん定員は貼り付けた営業スマイルで『ありがとうございましたぁ!』と元気よくやつを見送っていた。


喜楽満はアホだ。

それが再確認出来た夏休み初日の昼だった。


俺はそのままファミレスに滞在していた。まぁドリンクバーも頼んでいたし、一応学校から課されているワーク類も持っきていたので、時間を有意義に使えた。


18時ファミレス退店。

横のスーパーマーケットでたこ焼きの材料を購入し、家に帰ろうとしていた。



ーーーー気持ち悪い、偽物



背筋にゾワッとした感覚が襲いかかった。冷や汗が頬をつたい、ゆっくりと周りを見渡す。

昼のアレだ。感覚がそれに似ている。周りのことが見えなくなり、自分の中に飲み込まれそうな感覚になる。

だが、いくら周りを見渡しても彼女は見当たらない。

それに、周りの人々は何も違和感がないようだ。


「き、気の所為?」


勘違いだった。違うのかもしれないが、そう思い込ませ、再び足を家に向かって動かした。


ーーーー気持ち悪い、偽物


「またっ、くそ!!」


勘違い。勘違い。勘違い。勘違い。勘違い。勘違い。


足がだんだん早くなる。何度も後ろをふりかえって誰も追いかけてきていないことを確認しても足の速さは緩められない。


「いひっ、ひゃっはっはっ、あぁあーーー! 気持ちいいぃ〜〜〜!!」


すれ違った女の子も発狂した。

勘違いじゃない。勘違い。勘違い。偶然。思い込み。


「ひゃはっ、炭みっけぇえ!」

「はっ!?」


ぱちぱちと火花が散るような音が聞こえたと思ったら、たこ焼きの材料が入った袋が燃え始めた。とてもではないが持っていられるような耐久性は袋にも、俺の手にもない。熱すぎるのでさっさと投げ捨てる。


「なんで燃えたんだ!?」


いくら猛暑日でも袋がいきなり燃えるなんて……あるのか??!!


「そんなわけあるかぁ!!」


自分でボケて自分で突っ込むほど悲しいことはない。

なんて言っている場合じゃないし、現実、言うまでもなく体は全力で走り始めている。


「灰? まだ炭が残ってますねぇ!」


なんか追ってくる!?

さっき発狂してた女の子が完全に頭のねじを吹き飛ばした感じの表情で忍者走りで追ってくる。たぶん普通に走る方が速いと思う。


「はいばぁーん!」

「は?」


女の子が大きく両手を振り下ろした。驚くべきはそのあとだ。

さっきの袋が燃える時とは別次元の勢いで郵便ポストが燃え盛る。もはや燃えるというより爆発するに近い勢いだ。


「避けて!!」----偽物め


視界に黒い影が飛び込んでくる。

身体の物理的な熱さを一瞬精神的な寒気が塗りつぶす。


「ジャック!!」

『はいよぉ! てか昼間の青年じゃねぇか悪運つよいねぇー』


俺に向かって飛び散ってきた郵便ポストの破片が影の塊(?)によってはじかれた。

どうやら黒装束の彼女が、追いかけてくる発狂中のパーカー少女から助けてくれたようだ。

しかし、寒気はより強まり、幻聴も耳から離れない。

消えろ、死ね、気持ち悪い、偽物……俺の心を抉り出す言葉は絶えず頭の中に響いてくる。


「ごめんなさい表の人。ジャック」

『はいよぉ。わりぃが寝ててくれ』

「あがっ!?」


脳が揺れる?? 意識が揺れる、めまいが止まらない。

だ、めだ。


◇◇◇


ーーーーここはどこだ?


真っ暗で何も見えない。裸で水の中に浮かんでいるような感覚だ。何してたんだっけ? 

今は夢を見ているのか?


『おい』


ーーーー誰だ?


『お前の名前はなんだ?』


ーーーー…………分からない


『オレの名前は表裏唯人ひょうりただひとだ』


ーーーーそれは俺のっ!


『ばぁか、おせぇよ』


◇◇◇


「ジャック、彼女よね?」

『ああ、今回のターゲット『異能の森』のメンバーの一人だなぁ』

「狂気に飲まれてるっぽいよね、簡単に済むかな?」

『そぉはいかないよーだぜ?』


「ひひっ、増えたぁ!」


彼女の力は燃焼の系統だろう。見る感じ特異な能力には見えない。任意座標の爆破だが、人体そのものは燃やせないだろう。

ポケットから鎌の形をした銀の装飾品を取り出す。


「ジャック、霊装連結!」

『はいよぉ!』


手のひらサイズだった鎌の中にジャックが吸い込まれるように飲み込まれ、鎌は150センチを超える大きさになった。銀色だった鎌は、ジャックと同じ黒色に染まっている。


ジャックの能力は色々な物を狂気で狂わせること。さっきは青年の意識を狂わせ、意識を落とすように仕向けた。

ジャックはこの世界の全ての力の中でも強い方なので、なかなか強い。


そんなジャックが憑依した霊装はほぼ、壊れることなく半永久的に使うことが出来る。

霊装とは力の存在を補助する物のことで、この銀の鎌は重さが軽いため重宝している。


「燃えろ、燃えて燃えてお日様になれぇー!」

「えやぁ!」


四方から襲いかかってきた火を切り裂き、『焼死の魔女』との距離を詰める。今の攻撃から火を生み出すだけでなく、操れることも分かった。

遠距離型の相手には距離を詰めるのが1番だ。


「これでおしまい!」


鎌をすくい上げるように下から振るう。右手に力を込め、鎌の刃が『焼死の魔女』の腹から斜めにズブリと入り、血が


『後ろだっ!!!』


ジャックが強引に私の後ろを横薙ぎにするように鎌を動かした。ジャックが私の体を気遣わず振り抜いた渾身の一撃だ。

私は鎌の勢いに引っ張られ、体を回転させる。

『チッ、逃げるぞ! 今すぐだァー!』


ジャックは勘違いをしていた。

彼には力として分離する才能がないと思っていた。だが、それが大きな間違いだったのだ。

彼は無意識にその力を感じとり、分離しないように押しとどめていたのだ。

それが今、私たちの狂気によって溢れ出した。


「起源展開ーーーー【虚構空妄フィクティブ・デ・リュージョン】」


バケモノは笑顔だった。

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