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今日から僕らはすれ違う 1

「君はどう死ぬ?」


この世界には不都合なことばかりでいつも何かにがんじがらめな生活を強いられる。


すべてを分かったような気になって、セオリーの中に押しとどめようとする大人たち

自分主義でちっぽけな価値観を押し付けようとする子供たち


こんな世界なんかで生きていても希望なんてない。

これからも後悔を積み重ね、罪悪感と欺瞞に満ちた責任感で自分を社会の歯車に押し込んだままいきていくのだろう。


「死にたくなんてない」


だからって死ねるわけがない。

生きる道に希望がなくたって、死ぬ理由になるほどの絶望にはなりえない。


生きたい理由がないからって逝きたいとは思わない。根底にある欲は生存欲だ。


「はは、君は醜いな。この状況でもまだ君は生きたいとのたまうのか、自分だけ生きたいと、そう言うのか?」

「すべてをお前に奪われたから、だから死にたいなんて思わない」


失ったものを理由に死にたいなんて思わない。


「自分の死は自分で手に入れる」


この状況がいくら絶望的でも、家族が惨殺され、その犯人が俺の正面に立っていたとしても……死ぬ理由にはならない。


「お前は何者なんだ! 俺の家族がなぜ死ななきゃならなかったんだ!!」


人の形をしている。

でも、人の顔のパーツは目が二つ、鼻が一つ、口が一つだ。

ただ目の前の化け物は目が三つ、口が二つ、更には腕が八本だ。


「こいつらから聞いたことはないのか?」


死体をガスっと蹴飛ばしながら俺の顔に異形の顔が近づいてくる。


「怪異、妖怪、呼び方はいろいろあるがそんな感じの、人の上位存在だ」

「くせぇよ顔近づけんな」


こいつの声は不快だ。耳障りでしかない。

愉悦が隠しきれていない抑揚と、ニタニタと笑う三つの目と一つの口、今すぐ殺してやりたい。


「さて、そろそろ死ぬ時間だ。改めてどう死にたい? こいつらと違って恨みはないから死に方くらい選ばせてやるよ」

こいつに、俺の両親を殺した奴に最後まで従って死ぬなんて、吐き気がする。相手の言うとおりに死ぬことを受け入れるなんて気持ち悪い。


「お前なんかに俺の死を決めさせる気はない!!」

「うっ!? 痛てえじゃねぇか!!」


おあつらえ向きに近づいてきた顔に頭突きをする。今いた居間を出て台所へと走る。

ーーーー自決するために


怪異や妖怪っていうのは人の恐れや恨みからくるものだろ? 

今ある殺意の矛先はすでに決まっている。


台所の包丁を持ってすぐさま自分の首を掻き切る。

精一杯の殺意を親の死体の上に足をのせている化け物に向けて


「呪い殺しに戻るから首洗って待っていやがれ!!」


満面の恨み顔でやつを睨みつけ、生まれ変わってでもぶっ殺すと誓って……自分の死を勝ち取った。


痛み、殺意、痛み、殺意、交互に感情と間隔がチカチカ入れ替わる。


夢を見た。

俺の挙動一つ一つに反応して化け物が逃げ回り、その甲斐なく血しぶきをあげている夢だ。

死ぬ前には走馬灯を見るというけど、はは、俺らしい最後だ。


〇〇〇


「さすがはあの人たちの子だ。あなたたちの死は決して無駄にはならなかった」


呪羽甲斐人のろはかいと特級隊士49歳・殉職

呪羽アヤメ特異隊士37歳・殉職


5月17日


呪羽凱のろはがい・兆しあり

※末世級【殺怨嶽羅】の化身アバターの消滅を確認、本人に自覚なし。


呪羽甲斐人と呪羽アヤメの遺言により一級隊士、波伊庭はいば しんの下で、あくまで自己防衛の手段を身に着けるため、対異士として育てる。

報告は以上、今後の異界戦争において呪羽凱の関与の一切を禁ずる。これが破られた場合、波伊庭一族は対異界隊から強制除名とする。


〇〇〇


四年後、春

呪羽凱18歳


「ちょっと呪羽! こいつここでも寝てるの?!」

「はは、人数合わせの幽霊部員だから来てくれるだけで充分だよ」


ここで寝てないという気はない。俺はこの三坂みさか きりが苦手なのだ。


とりあえず今俺が置かれている状況を説明しよう。

俺はこの幽香高校の三年で、この探偵同好会にはなんやかんやあって半年前から所属している。同好会メンバーは俺と会長の二人だけだ。今日は、それが問題にされた。

活動不足、メンバー不足、理由は多々あるが生徒会が探偵同好会にやってきた。

その筆頭、生徒会長が三坂桐だ。

まさかの三年連続同じクラス。委員長タイプの三坂桐は不真面目な俺をこの二年間更生させようとして、最近諦めてくれたところだ。


「闇風先生が部長なのはおいといて、部員が少なすぎます!!」

「同好会だし、部長じゃなくて会長なんだけどね」

「そういう問題じゃありません!」


そろそろ助け船をださないと会長がかわいそうだな。


「三坂、そこまでにしてやれよ」

「一番の問題はあなたよ! 半年で何も活動してないじゃない!?」

「それはまぁ、準備期間? そう準備期間だ! これからこれから」

「はぁ、今日は小言を言いに来たんじゃないのよ。探偵同好会に依頼よ、活動してもらうために持ってきたわ」


これは、生徒会から探偵同好会に助け船を出してくれているのか? めんどくさいけどありがたいか。


「依頼って?」

「この学校に学年クラス不明の生徒が紛れ込んでいるそうなのよ。その生徒を探し出してどこの学校の人なのか、目的は何なのかを探って頂戴! 生徒一覧はこれよ。名前と顔写真が全員分のっているわ」

「見間違いじゃないのか?」


まず、全校生徒の顔を覚えている奴がいないと発覚しない問題じゃないか。そんなやついるのか?


「私がみたのよ! あれはここの生徒じゃなかったのよ」

「お前かよ!」

「私だよ!」


確かにこいつなら全校生徒の顔と名前くらい覚えているかもしれない。


「ん? 三坂その時に問いたださなかったのか?」

「それがおかしいのよね。問いただそうと近づいたらたまたま頭が痛くなっちゃって、痛みが引いたときにはどっか行っちゃってたのよ」

「へぇ、おかしなこともあるもんだな。とりあえずやれるだけやってみるさ」


頼んだわよって言って生徒会は去っていく。これ三坂だけこればよかったのではと思うが、まぁ生徒会もひまなんだろ。


「会長、どうします?」

「今日はとりあえず帰っていいよ。明日からがんばろうね」

「では、また明日ですね。戸締り頼んでもいいですか」

「うん、今日は冷えるし暖かくいて寝なよ」

「? ありがとうございます? さようなら」


そんなに寒くないけど、夜は冷えるのかな?


〇〇〇


「はぁはぁはぁ、これでよかったのよね!?」

『ああ、これでいいぞ? だがお前にはまだやってもらうことがある。猫をおびき寄せるエサはまいた。次はねずみ取り屋をおびき寄せるために働いてもらうぞ』

「呪羽や生徒には手を出さないで!」

『それはお前次第だ』


私はあの日、知らない生徒に話しかけたときから化け物に取りつかれている。人と似た特徴はどこにもなく、大きな目玉から複数の手が伸び、そのうち一つが私の首をつかみ続けている。

日中もこのままだが、気づいてくれる人はいなかった。

今日探偵同好会に行ったのもこいつの命令だ。


しんどい


つらい


たすけて





「やはり、ね。忠告はしたわよ」


物陰から異形を見つめる視線に異形は気づかない。

そして、視線の主も何もしない。

どちらが悪か、それを決める男はまだ気づかない。

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