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自分を変えたい元社会人のボクシングライフ  作者: 陰猫(改)
第2章【勝負への葛藤】
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第6話【鈴木宗成対モンスター東山野】

 早めに到着した俺と坂田さんはリングの近くで他の対戦も観戦した。

 血塗れでアザだらけでリングで戦うボクサーを見て、少し逃げ腰になってしまう。

「君がリングに本当に上がるかは解らないが、ここで怯んでいたって、はじまらないだろう?」

 坂田さんにそう言われて、俺は固唾を飲んで頷く。

 そして、とうとう、鈴木さんの試合になる。

 鈴木さんの相手はモンスター東山野と言うらしい。

 その姿はどちらかと言えば、プロレスラーに近い。


「気付いたと思うけど、東山野は元プロレスラーさ。

 それもヒール・・・つまり、悪役タイプだ。

 そして、プロレスで鍛えたあの肉体はかなりの強度を誇る。

 普通に戦っても、かなりの強敵だよ」

「そんな相手に鈴木さんは・・・」

「だから、もしかするとがある訳さ」


 坂田さんがそう説明してくれた瞬間、ゴングが鳴った。

 先に仕掛けたのは東山野だった。


 いきなりのストレートパンチ。


 それもかなりの大振りだ。

 これなら、普段の鈴木さんなら、簡単に避けられるだろう。


 だが、鈴木さんは敢えて、ガードした。

 いや、咄嗟にガードしたように見える。


 その一撃をガードした鈴木さんは慌てて距離を取り、相手の出方を窺う。


「早速、東山野の術中にハマったな」

「え?どういう事ですか?」

「プロのデビュー戦って云うのは普段よりも当然、緊張するものさ。まだ試合慣れしていないからね。

 東山野が新人を狙うのは今の内に自分に脅威になりそうな芽を潰すのに絶好の機会って訳だよ」

「じゃあ・・・」

「このままだと、宗成君は会場の空気と東山野のプレッシャーに潰されるだろうね。

 その証拠に宗成君の足が震えているだろう?」


 そう言われれば、鈴木さんが小刻みに震えている。

 呼吸も1ラウンド目だと言うのにかなり乱れているようだ。


 再び、東山野が仕掛けた瞬間、鈴木さんは怯えた様子で逃げる。

 これがあの鈴木さんなんだろうか?


 自分の目が信じられない。


「恐らく、東山野は試合慣れする3ラウンド以内に宗成君を仕留めようとするだろう。猫が獲物をいたぶるようにね?」

「なにか手はないんですか?」

「3ラウンド以内に宗成君がいつものペースを取り戻せば、勝機はあるだろう。

 ただ、東山野もそれを読んでいる筈だ」


 そんな話をしている間に1ラウンドが終わる。

 会長さんが鈴木さんに落ち着くようにアドバイスしているようだが、鈴木さんは天井を見上げて、荒い息を吐きながらコーナーに座っていた。


 そんな鈴木さんを坂田さんは冷静に分析する。


「あの様子では会長さんの声も届いてないな。もし、俺が東山野なら、次で闘志をへし折りに仕掛ける」

「まだです。まだ、鈴木さんは・・・」

「これが現実さ。彼もただの人間だ。

 如何なる理由があろうとへし折られた闘志は簡単には戻らないさ」


 坂田さんがそう告げた瞬間、2ラウンド目が始まる。


 鈴木さんは見るも無惨なくらいに逃げ腰だった。

 そんな鈴木さんに東山野が前に出る。

 当然、鈴木さんは逃げようとするが、その瞬間、信じられない事が起こった。


 なんと、東山野が明らかに故意で左に避けた鈴木さんの足を踏んだのだ。

 足を踏まれて立ち止まった鈴木さんにもろに東山野の拳がぶち当たり、鈴木さんはダウンする。


 勿論、東山野は減点を貰い、ブーイングが起こるが、当の本人はまったく気にしている様子はない。


 鈴木さんは足を押さえながら、ロープで身体を支えに立ち上がる。


「やはり、仕掛けたか・・・」


 そんな東山野を睨みながら、坂田さんはポツリと呟く。


 ロープに身を預ける鈴木さんはその後、東山野にサンドバック代わりに殴られる。

 東山野自身の攻撃は大振りだったが、鈴木さんはそれをひたすらガードして耐える。


「・・・足を痛めたな」


 坂田さんの言うように鈴木さんは踏まれた足を浮かせ、ただ東山野の攻撃を受け続けた。

 そんな鈴木さんにだめ押しと言わんばかりに拳を引き際に肘でガードを弾き、そのまま、鈴木さんの顔を何度も殴る。


 それでも、鈴木さんは倒れない。

 いや、倒れる事すらさせてもらえない。


 これが東山野の戦法なのか・・・。


 こんなのってない!


「鈴木さん!」


 俺はいてもたってもいられなくなり、席から立ち上がって鈴木さんの近くに寄る。


「鈴木さん!反撃して!」


 俺の声に反応してか、鈴木さんは東山野に抱き着く。

 その東山野が鈴木さんを投げ倒したと同時に再びゴングが鳴った。


 鈴木さんは会長さんに支えられながら、コーナーへと戻る。

 明らかに打たれ過ぎて、焦点があってない。

 口からは血がこぼれ、左の瞼が大きく膨れ上がっている。

 そんな鈴木さんを見て、俺は言葉も出なかった。


「これ以上は危険だ。棄権しよう」


 会長さんから聞きたくもない言葉が聞こえた。


 鈴木さんが負けるのか?

 あんな卑怯な手を使う相手に?


「・・・会長。やらせてくれませんか?」


 そんな会長さんに鈴木さんはそう呟く。

 鈴木の言葉に会長さんは驚いた顔をするが、すぐに表情を戻し、首を左右に振る。


「許可出来んな」

「お願いします。あと1ラウンドでいいので」


 そう告げた鈴木さんと一瞬、目が合う。

 その目はいつもの鈴木さんの目だった。


「会長さん」


 悩んでいる会長さんに坂田さんもやって来て、会長さんに頭を下げる。


「宗成君のわがままに付き合って下さい」

「糀君まで・・・」


 会長さんは坂田さんや鈴木さんの言葉にしばらく考え込むとポツリと呟く。


「・・・1分だ。それ以上、長引くようならタオルを投げる」

「・・・わかりました」


 鈴木さんが頷くとゴングが鳴り、東山野が猛進してくる。

 その瞬間、鈴木さんは後ろに下がった。

 東山野が更に襲い掛かり、あっと言う間にロープへと鈴木さんを追い詰める。


「・・・なるほどな」


 そんな坂田さんの呟きと共に東山野の拳が鈴木さんを捉える。

 その瞬間、鈴木さんはロープに身を預けーー


 鮮血がリングに飛び散った。


「足を痛め、ダメージも大きい。

 なら、最適のタイミングで最適の動きをするしかない」


 そう坂田さんが呟いた瞬間、鈴木さんがロープに支えられながらダウンするのに耐え、東山野が前のめりにダウンする。


「ロープの反動と東山野自身のフィニッシュブローに合わせたクロスカウンターか・・・見事だったよ、宗成君」


 そう坂田さんが呟いた瞬間、会長さんがタオルを投げ入れた。




 ーー鈴木さんは3ラウンド1分5秒で棄権負けとなる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 試合に負けて勝負に勝った感じですね。 鈴木さんにこれから良い王者とかに出会ったら更に強くなってリベンジできそうですね!
[一言] おぉ! 負けてしまいましたがしてやったりって感じ嫌いじゃないです!
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