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第46話【葛藤】

 そして、夏に入る。


 強化合宿前に獅童さんから三国に動きがあり、石脇選手に挑む準備を始めているとの事を聞いた。

 これで本当に三国が一位になったら、ただでは済まないだろう。


 それだけは避けたいが、今の三国なら本当に日本ライト級一位になりかねない。

 その原動力は何かは考えたくはないが、恐らくは俺関連なのだろう。


 そんな俺の心中を知ってか、俺は坂田さんから砂浜でのランニングが勧められた。

「迷っているのなら身体を動かして忘れてみたらどうだい?」ーーと言うのが坂田さんからのアドバイスであった。


 そのアドバイスに従い、俺は砂浜をひたすら走る。

 生憎、流行り病の影響で夏だと云うのに人はいない。

 それどころか、クラゲの大量発生で遊泳などは禁止されているなど海の家で働く人などを含め、今年は閉店やら廃業する店があとを絶たない。

 俺自身も今後の就職生活などの様々な面で不安だとも言える。


 ダメだな。やはり、一人で練習しているとあれこれと考えてしまう。


 だが、俺以上に色々と抱え込んでしまっているのは鈴木さんだ。


 鈴木さんは俺の支えだ。

 それがきっかけで俺がボクシングにハマり、同時に三国泰と云う不安要素を産むきっかけとなってしまった。

 鈴木さんは恐らく、責任を感じている筈だ。

 そして、正義感が強い分、苦しんでいるだろう。


 そんな鈴木さんと一緒に以前のように接するのはどうかと思い、最近、俺は鈴木さんに対して、よそよそしくなってしまった。

 三国から守って貰い、家にまで匿って貰っていると云うのに俺はどんな顔で鈴木さんと接して良いか解らなくなってしまったらしい。


 そんな俺に対して、鈴木さんは何も言わない。

 声には出さないが、練習中の鈴木さんの姿は迷いや寂しさを感じるものだった。


 このままでは鈴木さんも三国の餌食となってしまうかも知れない。

 そう思うと怖かったが、そんな鈴木さんになんと声を掛けるべきかも迷う。


 そんな合宿二日目の夜に坂田さんが俺の部屋にやって来た。


「やあ。少しいいかな?」

「あ、はい。どうぞ」


 俺は坂田さんを部屋に招くと二人して向かい合うようにして椅子に座る。


「最近、宗成君の調子が悪い。理由は解っているんだが、俺もどうすべきか迷っているんだ。

 下手をすれば、逆効果になりかねないからね?」


 俺はなんとなく予想がつきながらも坂田さんに質問した。

 いや、坂田さんも恐らく、この質問は予想はしていただろう。

 それ程、シンプルかつ重要な内容であった。


「何を悩んでいるんですか?」

「君と宗成君のわだかまりを取り除く方法だよ」


 やはり、そうかと思いつつ、俺は坂田さんの案を聞く。


「1つは君だけ先に帰らせるか。もう1つはこのまま、残すか。

 どちらにしろ、いまの宗成君には逆効果になりかねない。俺としてはそこを心配している」

「なら、どうしたら・・・」

「だから、俺の導き出せる可能性はもう1つある」


 坂田さんはそう告げると真剣な表情でまっすぐに俺を見詰める。


「あの時の答えを教えてくれ。

 君なりの答えで良い。迷いがあっても良い。

 ただ、いまの君なりの声を宗成君に届けてくれれば良い」

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