第43話【ストーカー対策】
数週間後、俺達はいつものように各々の練習をしていた。
そんな練習をしている時に出稽古に訪れた獅童さんの意見でたまには同じ筋トレをしようと言う話しになる。
俺達は腹筋、背筋などを行って、身体を解す。
大分、慣れたつもりだったが、鈴木さんと獅童さんにはついていけない。
そこは少し悔しくもある。
「少し休みますか、多田野さん?」
「だ、大丈夫ですよ、鈴木さん」
「いや、鈴木さんの言う通り、少し休んだら、どうかな?
無理すると余計に身体を痛めるよ?」
鈴木さんだけでなく、獅童さんにそう言われ、俺は渋々ながら休憩する。
二人は腕立てに入り、お互いに競うように繰り返す。
獅童さんは涼しい顔で平然と腕立てをしているが、鈴木さんは汗を描きつつ黙々と行っている。
汗の量からすれば、鈴木さんの方が獅童さんよりも多い。
また、回数を重ねる毎に鈴木さんの動きが鈍くなっている。
いや、獅童さんがペースが早いだけなのかも知れないが・・・。
そして、100回に到達した段階で二人は一息吐く。
「やりますね、獅童さん」
「練習量なら負けてませんよ。鈴木さんこそ、やりますね」
「これでも腕立てには自信があったんですがね。
まさか、負けるとは思ってませんでしたよ。自分も歳ですかね?」
「そう言えば、僕は今年で20歳になるのですが、お二人は幾つなんですか?」
獅童さんがふと、疑問に思ったのか、歳の話しをして来たので俺は「今年で24ですよ」と告げると獅童さんは目を丸くした。
「え?多田野さんって年上なんですか?
全然、そうは見えなかったですよ?」
そんなに意外だろうか?
確かに年齢をしたに見られる事はよくあるが・・・。
「因みに自分は今年で28です」
「そうなんですね。道理で鈴木さんからは貫禄を感じる筈です」
獅童さんがそう鈴木さんに言うと鈴木さんは「それは老けて見えるって事ですか?」と返す。
勿論、獅童さんにそんな他意はないので「すみません」とだけ言って練習に戻る。
思えば、あれから数年経ったのか・・・。
早いものだ。鈴木さんと出会ったのが、ついこの間のように思い出せるのに・・・。
お互い、随分と歩んで来たと思う。
それ故にアマチュアに甘んじている自分が情けなく感じる。
「どうかしましたか、多田野さん?」
顔に出ていたのか、鈴木さんに尋ねられ、俺は「なんでもありませんよ」と返して練習を再開する。
「あ、そうだ。多田野さんに伝えなければ、ならない事があったんでした」
練習が一段落ついたところで獅童さんーー今更、獅童君と呼ぶのも変だし、彼の方が俺よりも先輩なのは間違いないので、このままでいいだろうーーが声を掛けてくる。
「三国君ーーいえ、三国泰についてです」
「三国についてですか?」
「ええ。ようやく、彼を捕まえたんで例の試合についてや多田野さんのストーカーについて問いただしたんです」
「・・・どうでした?」
俺の問いに獅童さんは真剣な表情でーーいや、少し怒気を含んだ顔で次のように告げた。
「ーー愛故に、だそうです」
「え?」
「三国泰は多田野さんしか見ていません。
それはある意味、性的な意味で言っているのかも知れませんが・・・そして、試合についてですが、多田野さんに格好良いところを見せたかったからとの事です」
その言葉を聞いて、俺はうすら寒くなる。
三国にそんな感情を持たれる記憶もないし、彼と出会ったのはアマチュアで試合をして圧勝されたのが最初だ。
これだけ見ても、三国が俺に好意を寄せる意味が解らない。
やっぱり、三国がこわい。
そんな俺の様子に気付いたのか、獅童さんが俺に尋ねる。
「ストーカーの注意を警察に通報して注意勧告する事は出来ます。
ですが、ストーカー罪は禁固2年です。
警察もストーカーの禁止命令をする事は出来ますが、三国が止まるかどうか・・・」
「・・・なら、どうすれば?」
「しばらくは鈴木さんの家で厄介になってて下さい。
同じジムの人間として僕にも三国を止める義務がありますから」
獅童さんがそう告げると鈴木さんも良い顔をしない。
三国を止めるにはどうするべきなんだろうか?
そんな風に悩んでいると獅童さんが笑う。
「安心して下さい。三国は僕が必ず止めます。
それこそ、こんな真似が出来ないようにスパーで思い知らせようかとーー」
「いや、それだけで三国が止まるとは思えませんね。
寧ろ、焚き付けるだけかも知れません」
断言する獅童さんに鈴木さんがそう言うと俺達はこれからどうするべきかを悩む。
三国泰。本当に厄介な人物である。
いまはまだ良いかも知れないが、その内、実力行使に出てくるかも知れない。
鈴木さんや坂田さん、獅童さんにも今以上に迷惑を掛けるだろう。
そう考えるとゾッとするものがある。
いずれにしろ、打開策が思い浮かぶのはまだまだ先の話しだろう。
本当に迷惑な奴である。
一体、俺のなにが良いんだか・・・。
とりあえず、獅童さんの話しを元に俺は母さんや会長さん達と共に警察にストーカー被害にあっている事を相談しに行く。
それからは警察が釘を刺したのもあって三国のストーカー行為は収まった。
ーーとは言え、油断は出来ない。
俺は母さんとの相談の末に引っ越しする事を視野に入れる事を決意するのであった。
勿論、まだ決定しただけで本格的に引っ越すのにはまだ時間を有するが、いずれは必要になる事だ。
その時には坂田さんや鈴木さんと別れなければならないが、仕方のない事だろう。
それまでに三国が大人しくしていれば良いのだが・・・。




