第41話【暴走する思い】
無事、ベスト3に入った鈴木さんを祝い、その時には焼き肉大会となった。
獅童さん達も誘ったのだが、ランキング7位との試合が決まり、獅童さんは自分のジムで仕上げを行うとの事だ。
ついでに三国のあの態度について言及するつもりらしい。
そんな焼き肉大会も大詰めになった頃、坂田さんからチャンピオンカーニバルについての話が出る。
今年は流行り病のせいで延期されていたが、また盛り上げる為に行われる事が決まったのだ。
チャンピオンカーニバルの流れは日本タイトル最強挑戦者決定戦を制してからチャンピオンとの試合が行われる事となる。
鈴木さんはランキング1位との試合がある為に温存と云う形になったので、今回は誰が出るのかはまだ予想も出来ない。
それから数日後、俺は誰かに見られているような気配を感じるようになる。
しかも、無言電話や「あいしている」なんて血文字の文面まで送られるようになって来た。
母さんもだが、俺も薄気味悪くて怖くて仕方がない。
誰だか解らないが、こんな悪質なストーカーまがいの事をする人物には心当たりがない。
ーーいや、一人いる。三国泰だ。
獅童さん曰く、あの試合以降、三国は出稽古に出たまま帰ってこないらしい。
プロでもよくある事らしく、まだ証拠もない。
それでも確信めいたものはある。
これは三国の仕業であると・・・。
勿論、警察にも届けたが、証拠不十分で三国についてはそれっきりであった。
そんな三国と再び会ったのはプロテスト当日であった。
「多田野さん。お久しぶりですね」
そんな声に振り返ると三国らしき人物が会場前で俺を待っていた。
整形でもしたのか、一瞬、誰なのか解らなかったが、あの不気味な眼差しを三国だと解った。
「プロテスト前に少しお話でも、どうですか?」
「折角の機会ですが、鈴木さんを待たせているので今度で構いませんか?」
そう言いつつ、俺は三国を避けるようにそう言って試験会場に向かおうとする。
そんな俺の腕を三国が掴んで止める。
その瞬間、あの不気味なモノを三国から再び感じた。
「鈴木鈴木って何で俺を見てくれないんですか?
やっぱり、あの男が多田野さんを縛っているんですか?」
「み、三国?」
「やっぱり、あいつはぶち壊す必要があるようですね?
そうすれば、多田野さんも振り向いてくれますよね?」
なんだ?これ?
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい・・・。
得体の知れない三国の行動にただ、俺は怯える他なかった。
そんな中、現れたのは獅童さんだった。
「それくらいにしたら、どうだい三国君ーーと言うか、久しぶりだね?」
獅童さんがそう言って三国の腕を捻ると二人はお互いを睨む。
「色々と言いたい事がある。この間の試合についても、今の多田野さんの対応についてもだ」
「ちょっとした激励ですよ、獅童先輩。
大した事じゃありませんって・・・」
「・・・」
そこで獅童さんは三国の腕を放し、三国も俺の腕を掴んでいた手を放す。
「多田野さん。鈴木を倒したら、またすぐ階級さげるんで、その時はお互いに死力を尽くしましょう」
「ちょっと待ちなよ。君、また階級戻すのかい?」
「ええ。それが目的なので・・・それじゃあ、多田野さん。待ってますからね?」
そんな事を言って、三国は再び去っていった。
獅童さんもそんな三国を睨んでから震える俺に視線を戻す。
何がなんなのか解らない。
少なくとも三国が俺に特殊な感情を抱いているのは解った。
それが不気味過ぎて、俺はプロテストどころではない。
「・・・鈴木さんや坂田さんに話しましょう。
出稽古以外は僕も極力、ジムにいて三国を監視するんで安心して下さい」
そうなだめる獅童さんの言葉を聞いても、俺の不安と恐怖は拭えなかった。
そして、坂田さんや鈴木さん、獅童さんとも相談して、俺はプロテストを受けるのを諦めた。
ーー数日後、自宅の電話のFAXから「なんで」「どうして」と言うメッセージが大量に送られる事となる。
最早、三国が犯人であるのは疑いがないが、その三国は出稽古を理由に音沙汰がなくなる。
そんな中、獅童さんの試合が決まった。
相手はランキング7位の宮川利刹と言う選手である。
今回は坂田さんが別ジムながらトレーナーとして参加するらしい。
今回の場合は坂田さんが頼んでの事で向こうのトレーナーさんとオーナーに獅童選手がどうすれば、力を発揮するのかを伝授するのが目的なんだとか・・・。
まあ、面倒見のいい坂田さんの事だから、恐らく、また獅童さんの付き添いはするんだろうけれど。
坂田さんがいるのなら、獅童さんも十分な実力が出せるだろう。
それは出稽古でずっと通って来た獅童さんを見てれば、解る。
かくして、俺と鈴木さんは獅童さんの試合を観戦しに現地に赴くのだった。




