第29話【プロテストの為の特訓】
「ガードテクニックについてはこんなモノかな。基本的な事は教えたし、あとは身体で覚えるといいよ。
スパーリングの機会もこれから増えるだろうからね?」
坂田さんはゴングが鳴ると構えを解き、呼吸が乱れ、動くのもしんどい俺にそう告げる。
「はあ・・・はあ・・・」
「気付いたかも知れないけれど、連打の空振りは精神的にも肉体的にも疲労感が蓄積される。
無闇に手を出さず、フェイントなどで相手の動きを誘発したり、相手の動きを観察するのも必要だよ」
「はあ・・・はあ・・・は、はい!」
俺は呼吸を整えながら坂田さんに返事をした。
坂田さんもブランクがあるのか、俺と同じ位に汗を掻いている。
その割に呼吸が乱れてないのは流石だろう。
「それとこれからは正樹君には俺の作った筆記テストを受けて貰うよ」
「筆記テスト、ですか?」
「まあ、資格を取る訳だからね。基本的なルールなんかのおさらいだと思って貰えばいいよ」
そう言うと坂田さんはリングから降りてグローブを外し、自分が愛用している皮のビジネスバックの中から何らかの資料集を取り出す。
「俺や宗成君が経験した筆記試験を参考に作った資料だ。基礎的な内容が書かれている。
それ以外にもルールやリングについて書いてあるよ」
坂田さんはそう言うと同じくリングから降りてグローブを外す俺に差し出す。
「期限は1週間後にしよう。それまでにその資料を参考に勉強するといいさ」
「はい!ありがとうございます!」
俺は坂田さんのお手製である参考資料を受け取ると頭を下げて礼を言った。
練習を終えて家に帰ると俺は早速、プロボクサーになる為の試験に備え、坂田さんの作った資料を元に勉強を始めた。
筆記テスト自体は基本的な事なので大丈夫だろうとは坂田さんも言っていたが、万が一と言う事もある。
実技テストの方はアマチュア同様にヘッドギアの着用があるらしく、普段の練習通りに行えば、問題はないだろう。
俺は午前中にパートの仕事をして午後に練習に励み、夜には坂田さんの作った資料集を元に勉強すると云うスタンスをしばらく、継続する事となった。
24歳にもなって勉強を再びするとは思わなかったが、なんとか頭の中に叩き込む事が出来たと思う。
しかし、坂田さんの作った資料集を見ているとボクシングの事をより深く知る事が出来る。
例えば、普段使うリングの広さや急所、ルールなどがあるが、この基礎だけでも中々奥が深い。
まあ、基本的な事の反復なのだが、それでも活字にするとまた違った見方も出来るのだなと感じる。
参考資料を作ってくれた坂田さんには本当に頭が上がらない。
こうして、あっと言う間に1週間が過ぎていく。
そして、迎えた坂田さんの模擬テスト当日、俺は勉強やトレーニングで学んだ事を坂田さんの作った問題に答えを書いていく。
坂田さんは俺が一息吐いて「終わりました」と告げるのを待ってからテストの答案を俺から回収して答え合わせを始めた。
「ふむ。よく勉強したね?」
「かなり、苦労しましたよ」
「俺の作ったテストで80点台まで取れれば、問題はないだろう。
まあ、これはあくまでも目安だからね。
俺や宗成君の頃よりもテスト内容が若干、異なるかも知れない。
いずれにせよ、油断はしない事だ。
プロテストがあるまではしばらく、これを続けよう」
「はい!わかりました!」
俺は坂田さんに返事すると一息吐く。
坂田さんって、ボクサーやビジネスマンとか以外に教師とかにも向いているんじゃないか?
流石は坂田さんだ。
もし、セコンドについて貰えるのなら、会長さんよりも心強いかも知れない。
さて、筆記テストも終わったし、練習を再開しよう。
課題はガードテクニックだったな。
まあ、頑張るか・・・。




