第21話【刹那的勝敗】
大会当日まで俺はイメージトレーニングばかりしていた。
坂田さん曰く、アマチュアの基準は如何に基本に忠実かとか、攻め手が多いかなどの基準があるらしい。
今回は基本的なスタイルで如何に手数を出したかが評価基準となるらしい。
これまでオーソドックススタイルでの牽制を練習していた。
この大会でその成果が出せるかも知れない。
俺は両手にテーピングをしてグローブをはめる。
まだ出番と云う訳ではないが、やはり緊張する。
「あれ?多田野さんじゃないですか?」
「え?」
その声に振り返ると厳つい顔の男性が俺に声を掛けてきた。
その身体は鍛え抜かれた筋肉ではち切れんばかりである。
はて?少し怖いが、この人、何処か会った事があるような・・・。
「いや~あの時は本当に世話になりました!
まあ、会長にはどやされてしまいましたけどね!」
そう言うと男性は豪快に笑う。
あ、今の発言とこの豪快さは覚えがある。
「えっと、三国さんですか?」
「はい!多田野さんに助けて貰った三国泰です!
いや~こんなところでまさか、多田野さんと出会えるなんて思ってませんでしたよ!」
そう言うと三国さんは俺の背中をバシバシ叩く。
三国さんの手にもグローブをはめられている為、少しは緩和されているが、それでも痛い。
ーーって、あれ?
「三国さんもこの大会に出るんですか?」
「え?自分も?」
そこで三国さんは俺の格好にようやく気付いたらしい。
そうしたら、なにやら気まずそうにしている。
「あー。多田野さんもこの大会の選手なんですか」
「ええ。でも、三国さんはなんで?」
「自分はスタイルが独特過ぎるらしくて、その癖を直す為に訓練しようって話になりまして・・・あ!勿論、多田野さんと試合になったら加減はしますよ!」
その言葉に少しカチンと来る。
まるで勝つ事が前提で三国さんは話しているからなのだ。
なので、俺は首を左右に振った。
「いえいえ。お互いにいい試合をする為にも全力を出しましょう。俺もただでは負けませんよ」
「本当にいいんですか?」
「ええ。俺も全力でお相手しますから」
俺が少し意地になって、そう言うと三国さんは明るく笑った。
「わかりました!この三国泰!多田野さんと本気でお相手しましょう!まあ、お互いに勝ち進めたらですけどね!」
このナチュラルに煽って来る三国さんの姿勢に半ば苛立ちはしたので、俺は三国さんと手短に会話を終えると鈴木さん達の元へと戻る。
「多田野さん。どうですか?もう会場の空気に慣れましたか?」
「ええ。ただ、あまり会いたくない人に会ったので、少し肩が力んでしまっているかも知れません」
「それが自覚出来ているだけ、多田野さんも成長しているんですよ。その怒りはその相手との試合に備えて溜め込んでおきましょう」
「ええ。それで俺の相手って誰でしたっけ?」
「試合表を見てなかったんですか?
最初の試合は三国泰って選手ですよ」
「・・・はっ?」
この時ばかりは俺も間の抜けた声を出してしまった。
まさか、初戦から三国さんと戦う事になるとは・・・。
でも、それなら俺も本気で三国さんと試合をするようだな。
ここまで練習して来たんだ。
圧倒的なポイント差で勝つくらいの勢いで勝利をもぎ取ってやる。
そして、いざ、試合になると俺と三国さんはリングへと上がり、対峙する。
俺は佐藤さんにヘッドギアを被せて貰ってゴングが鳴るのを待つ。
そして、ゴングが鳴ったと同時に前に出ようとしてーー
世界が暗転する。
なにがどうなったのかなんて解らない。
佐藤さんや鈴木さんがリングの外から何かを叫んでいるのは解る。
だが、その言葉までは解らない。
気付いた時、俺は自身がダウンを取られているんだと自覚し、そのまま、朦朧とする意識で瞼を閉じた。




