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「っていうかさ、聞いてよ。今日昼に牛丼食べたんだけど、そこの店員さんに、小春様に似てるって言われたの!」
「、」
「やっぱり結構似てるよね、私!」
そりゃあそうだろう。
……という言葉は、ゆっくりと飲み込む。
「こんなに似てるんだし、アンタよりずっと絵も上手いし、綺麗な創造出来るし、砂糖先生に会えたら、夢のアシスタントになれると思うんだけどなぁ。」
「どうだろうねぇ。」
チョコ召の作者、『砂糖菓子屋』は、その素性が一切明かされていない『生ける幻の漫画家』と呼ばれている。年齢や容姿はもちろん、性別さえも不明で、AIなのではないかという噂が濃厚とされているくらいだ。
作品もチョコ召ただひとつ。アシスタントは漫画界一の狭き門な上に、仕事場は完全に別で、直接先生とやり取りが出来るのは限られた者のみという徹底ぶりなのだ。
「どんな人なのかなぁ。やっぱり見目麗しいんだろうなぁ。」
……それはない、と思う。
「色仕掛けでなんとか、付け入れないかなぁ。」
それは無理だと思う。いや、無理だ。
「本当、私の夢は砂糖先生のアシスタントになること、それだけなのになぁ。」
それは。
それは、絶対に無理だ。
だって……―――――
「……あ、通信。」
デベログラスが着信を告げる。担当さんからだ。幼馴染みには聞かれたくないので一旦遮断し、デベログラスを携帯に持ち掛けて、ベランダに出る。外はすっかり真っ暗で、星だけが俺を見ている。
「……もしもし。」
『あ、先生、今大丈夫?』
「はい、ひとりです。」
喋ると息が白く昇って、星に吸い込まれていくようだ。
……今のフレーズ、使えるな。
『おめでとう。今回も圧倒的人気で一位だったわよ、新刊売り上げ。』
「表紙気合い入れましたからね。」
『本当、人気が衰えることを知らないわね。桜月小春は。』
「そりゃあ、頭を痛めて産んだ大事な愛娘ですから。」
俺の職業は、漫画家。
『次も期待してるわよ。砂糖菓子屋先生。』
代表作は『チョコのオマケは召使い』
今、漫画界で最も注目されている、『生ける幻の漫画家』だ。