6
「そうそう、この間の給料日に、ついに買っちゃったの!アイネクライネ社の新作デベログラス!」
「マジで!?リアルを越える高音質って本当か!?」
「やっぱり音のアイネクライネって言われるだけあって、音が本当にリアル。素人の同人でも現実の音に聞こえるくらい凄いよ!まぁ、画質はやっぱりウッデン社の新作には負けるかなぁ。それでも本当に凄いけど。」
「ぶっちゃけ画質はそこまで上げなくていいんだよ、作る側としては。」
「私も音質派。本当は高感触が一番だけど、『小春様』には触れられないもん。」
「!」
「小春様のあの鈴のようで、でも凛と通った可愛い声が耳元で聞けるだけで私は…お仕事頑張れる…!」
「……。」
世間は今、ひとりの女の子に夢中だ。
彼女の名は桜月小春。
アーモンド形の大きな瞳に見つめられると、素直にお喋りできなくなる。小さいのにふっくらとした唇から発せられる鈴のように可愛い声がなにを言おうと、うんうんと頷いてしまう。パーツがこぼれ落ちてしまうのではないかというくらい小さな顔、そのもちもちほっぺいっぱいに大好物のチョコレートを詰め込みたくなるし、ただ低い位置で二つに縛っただけの黒髪も、飾り過ぎない彼女の魅力を最大限に引き立てている。
彼女の言葉、服装、持ち物、行き先、香水など、たくさんの人が真似をする。『最早社会現象』とニュースに取り上げられるほど、彼女の人気は偉大であった。
しかしこの人気は、彼女がただ魅力的なだけでは、ここまで拡がることはなかっただろう。
『桜月小春』は、漫画『チョコのオマケは召使い』(通称チョコ召)の主人公。
『行く』時代を代表する、老若男女に一番人気の漫画キャラクターだ。
今目の前にいる幼馴染みも、そんな桜月小春に心奪われた一人である。