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「今月も無事帰ってきたってことは、締切終わったの?」
「まぁ、なんとかな。」
申し遅れたが、俺の職業は、そんな時代の最先端技術が込められた「漫画家」だ。
別段画力を持ち合わせていない俺でも漫画家として飯を食っていけるのは、最早漫画が「描く」物では無くなったからだ。
古の創作者たちの原稿に向けるべき長い年月と莫大な努力が積み重なって出来た『デベロタブレット』で脳内に描いた創造がそのままデータと化し、それをデベログラスで他者に共有出来る、というのが今の漫画のスタイルなのだ。
だから素敵な絵が描けなくても、素敵な絵を想像さえ出来たら、誰でも素敵な絵の漫画を作ることが出来る。
……なんて、言葉にすれば簡単だけれど。
「あ、もしかして夕飯用意してくれた?私の分も?気が利くー!」
「俺のを食われたら堪んないから仕方なく、な。ほら、レトルトのだけど。」
「やった!私これ大好き!」
幼馴染はハンバーグを2つテーブルに置いて、座る。俺はその向かいに座って、温めたスープを各々の前に置いた。
「いただきまーす!」
「温かいご飯…良い匂い…。」
「私、未だにアンタの漫画、見付けられないんだよね。」
「見付けなくていいよ。知り合いに見られるの恥ずかしいし。」
「なに、成人向けなケモ耳幼女の百合モノとか?」
「よくそんな単語がスラスラと出てくるな。」
「まぁ、なんだっていいわよ。アンタが漫画家なおかげで私はこうして立派なお部屋に住まわせていただけるんだから。」
「それなー。」
漫画家は、仕事場の他に必ず自宅を持たなければいけない。そして最低でも月に一度は必ず帰宅する。という規則がある。
勿論家賃補助があって、調子に乗った俺は8階建てマンションの6階、2LDKの部屋を買った。買ってから、その広さを持て余すことと、月に一度しか帰宅しない状態では部屋の劣化が心配などという問題が出てきて、幼馴染に部屋を貸すことになったのだ。
最初は不安しかなかったけれど、意外にもこの同居への不満はとくになく、上手くやれている。
幼馴染はタダで立派な部屋に住めて、俺は……まぁ、色々とメリットがあるのだ。色々と。