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東大陸 揚陸

戦車揚陸艇、発進。


 セーラム男爵に首都と連絡を取って貰った東海域捜索隊は、早速キドレン河を遡行する準備をするのだった。

 揚陸場所は以前ボラールを運んだところだという。

 そこから川沿いに20キロほど上流へ行くと混沌領域が在りまずはそこでお試しと言うことだった。

 偵察に水上機を使うのだが、キドレン河に水上機が着水することは許可を取ってある。河川航行の邪魔をしなければ良いと。

 まずは千歳の飛行長他数名が使用水面の安全性を確認するため大発で先行する。前回捕漁船が遡ったので水上機の離着水に問題は無いはずだが、それでも確認するのが仕事だ。零式三座水偵と瑞雲だけならここまで念入りにしないだろうが、今回は九十七大艇がやってくる。一応キドレン河には入らないことになっているが念のためだ。

 大艇は海岸線に間口百メートル奥行き三百メートル✕幅二百メートルほどの入り江を見つけたので、そこを係留場所とすることになった。岸辺は傾斜地で奥は森と山だった。近々スロープと格納庫を設置する予定だ。周囲が山で囲われており港にする価値は無かったのだろう。

 何か深入りをしないと言っていたのに大規模になってきている気がするが、気のせいだろう。機械力を持つ軍を支援すると言うことは後方能力が全てと言うことだ。

 対混沌獣支援に限定されるはずだ。



 艦隊側の騒ぎをよそに橿原丸の面々は交易に精を出している。

 昨日は恐ろしかった。阪急・南海・阪神など各百貨店の売り出しや「えべっさん」の方がおとなしいと思ってしまうほどだった。

 シロッキを揚げた後で、「艶髪」を揚げたのだがその時の女達の目つきと言ったら夢に出てきてうなされそうだった。

 帰ったらビリケンさんを撫でに行こう。結構な人間がそう思った。

 勿論販売は、日本側はノータッチで行った。海運ギルドと統合ギルドと分けて卸したのだが、いきなり「どっちが安いの」「どれだけ買えるの」「もっといいの無いの」酷いのになると「全部頂戴」。

 橿原丸の面々はドン引きだった。


 価格は前回里崎が一方的に決めた価格だ。それでも当初日本側が設定していた最低価格の倍である。

 卸価格を六割としても最低価格でも利益率は四割である。経費を引いても純利として二割は残る値付けだ。

 

「それでいいのか?」

「最初期ですから多少の付加価値は」

「多少かね?」

「大丈夫です。徐々に行き渡るにつれてお値段も下げていきましょう。普及品は最終的に初期設定の最低値に落ち着くと思います。高級品の値段は生産者達の努力次第でしょう。それに連邦中に普及するのにどれだけ時間が掛かると御思いですか。それまでは儲けましょう」

「そ っそうかね」(やだ、この女恐ろしい。俺も従兄弟の南雲忠一に習って引退するか)南雲忠治橿原丸船長は思った。

「船長、いいですか。初期と言うことで普及品でも結構いい容器を使っています。これを安い物に換えれば値下げが可能です」

「ではそう報告書に書いて提出するように」

「了解です」


 前回の時各種酒類を披露したのだが、一番人気が泡盛だった。芋焼酎は例によって例のごとく好きな人はとても好きだがと言う結果になった。ウォトカはそれ以前に飲める飲めないだった。

 日本酒は結構受けた。だが日本酒のような醸造酒よりも蒸留酒に人気があった。聞けば現地では蒸留酒が主流で有ると言う。トウモロコシが多く収穫されるので酒もトウモロコシを主原料とする地球で言うコーンウィスキーやバーボンが主流だという。


 ビールとワインは有った。ウィスキーらしき物もあった。ウィスキーらしき物は、どうも工程に差が有るようで香りが違っている。壽屋や余市から見学の問い合わせが有るがまだ国交も無い状態でそこまで要求は出来ないと言って断った。


 今回は、新たにディッツ帝国産の酒を持ってきている。ワインとブランデーだが好評で有り、仕入れると言って貰えた。


 酒に関するこだわりは強かった。ワインは女と飲み始めた年の頃の少年が飲む物。ビールは挨拶代わり。男は強い酒。変なこだわりである。酒なら何でも良い呑兵衛というわけでは無いようだ。

 そんなお国柄なので酒での事故や事件は過去現在とも多く、かなり厳しい規則がある。

 聞いた中では、十五歳以下の飲酒厳禁と、飲めない人間への飲酒強要厳禁が有る。

 十五歳以下の飲酒厳禁は長い歴史の中で決められたそうだ。成長期に余り大量の酒を飲むと成長や健康に良くないと統計が有るらしい。

 飲めない人間への飲酒強要厳禁は、ある王国の嫡男が飲めないのに飲酒を強要され中毒死してしまった事件が契機になった。その国は次男がいて継いだそうだが、飲ませた側は長期にわたっての賠償と謝罪をする事に成った。貴族界では大変な事件で有り醜聞になった。

 どちらも違反すれば王侯貴族などの立場に関わりなく厳しい処分が有ると言う。


 ディッツ帝国に売れた物も持ってきてみたが、陶磁器は連邦内でかなり良い物を作っており売れそうには無いと言われた。

 鰹節は「これ食べ物じゃ無いだろう」まで言われる。

 そんな中で螺鈿製品はその繊細さと美しさが人気を集めた。

 これも高い物はとことん高いのでほどほどの物が人気になった。

 絹製品は美しいが柄がねと言われた。反物の幅が決まっているのも問題とされた。勿論特注で出来るのだが、更に値段がドンであった。

 真珠はやはり養殖がネックになった。美しさは同じでも天然をありがたがるのだった。

 

 他にはディッツ帝国でも拒否された「納豆・くさや」はここでも拒否された。

 ニシンの缶詰と言う名の臭気兵器も拒否された。

 南雲船長曰く、

 会社の偉いさんが面白がって仕入れたがほとんど売れなかったという。

 捨てるのも何だから海外で売れるなら売ってこいと言われたと。

 船長権限で危険物は帰路の途中、海洋投棄されることになった。 


 今回艦隊は二週間はいる。陸軍部隊の展開を見届けてから帰国の途に就く予定だ。

 それまでに売れるといいな。そこには希望の希の字も無い。


 日本に対する輸出可能品目としては酒であるが、トウモロコシ系は癖があり日本人には好まれなかった。芋焼酎と同じで好きな人は好きだがと言う奴だ。

 

 最初の時にセーラム港の市場と連邦首都エンキドの市場を見て回ったが、これと言って訴える物は無かった。

 植物の持ち込みは未だ厳しい規制がされている。いかにおいしいと言われる果物や野菜があっても日本には持ち帰ることが出来なかった。

 味についても日本人達は食中毒防止として現地ではよく火の通った物以外飲食禁止であった為、現地の評判を信じるしか無かった。

 現地食を許可される見込みの陸軍部隊は人身御供とも言えた。

 神様情報による現地の人が大丈夫なら多分大丈夫。当言葉が支えだ。

 ちなみに見つかったのはクランベリーとブルーベリーだった。クランベリーは現地で加工食品として、ブルーベリーも同じだが一部は冷凍して持ち帰ることにした。検疫の結果、加工食品の流通は認められたが必ず殺菌の魔道具を使用することが条件だった。

 他にも有ったが保存の利かない旬こそ命の果物であり、日本で食べたければ日本で栽培しないと無理だった。


 日本陸軍第一戦車師団第二連隊第一大隊は一部車両を残しギルガメス王国連邦に来ていた。一個大隊百四十四両だが、百十両に減った。 

 美保の能力の都合で全ての戦車が載らなかったのである。これは戦車揚陸艇と架橋戦車と戦車回収車を多めに積んできたためだった。美保は初めての実戦運用であり、これも戦訓となった。

 戦車師団の構成から外れた軽戦車を三十両輸送艦に載せている。ケロであった。


 転移前、戦車部隊は一個小隊四両、四個小隊で一個中隊、四個中隊で一個大隊である。これはあくまでも編成上のことで実数が配備されたことは無かった。実際は中隊以上は半分充足されていれば御の字であった。ロシア支援部隊は大隊規模だったがさすがに充足されていた。

 転移後しばらくして、対混沌獣と言う実戦に出てからは実数と編成表が合わないという声が大きくなり、小隊四両は同じだが、三個小隊で中隊、三個中隊で大隊と改められた。一個師団で一千三百両余りであるが、単位が大きすぎるとしてこれを割って二個師団になる予定だ。

 これに各種補助車両数十台で初めて部隊として行動できた。今回補助車両は戦車回収車を除いては輸送艦に積んである。ただ通常連隊以上に配備される架橋戦車を持ってきていた。

 長距離移動用の戦車運搬車は持ってきていない。現地の道路状況が不明なためだ。道路が軟弱だったり細い山道など戦車運搬車が行動できない道が多いと考えられている。そのため足回りの故障は多いと予想され整備部隊は増量されている。

 今回は戦車回収車を通常配備数よりも十両追加。架橋戦車は八両であった。


 美保が船尾の扉を開放し徐々に船尾を下げていく。

 最初の戦車揚陸艇が滑り出す。次々と発進していく。

 一人の艇長が「本日天気晴朗、うねりも弱く絶好の揚陸日和」と言ったとか言わないとか。

 揚陸艇は大発の先導を受けて次々とキドレン河を遡っていく。幸い前回設置したブイは流されずに残っていた。

 万が一のために捕漁船が最後尾に付いている。揚陸後離岸できなかった場合は引っ張って貰うのだ。 

 部隊は途中で一泊し翌日揚陸地点に到着した。

 今回も見物人は一杯である。色々店が出てお祭り騒ぎだ。

 今回の派遣で中佐に昇進した、大隊長の西住中佐から無線で檄が入る。

「総員、あの観衆の前で無様を晒すな。オリンピックだと思え」

「「「「おお!!」」」

 艇首を川下に若干向けて接岸。ゴゴゴと轟音がする。観客は大喜びである。

 艇尾の碇を投入。流されたが岸に直角になった。

「前扉開放」

「解放します」

「解放良し」

「戦車前進」

「前進」

 観客は突然板が倒れたと思ったらその中から出てきたのは鉄の怪物だった。

 混乱する観客。それをなだめる警備隊。だが、警備隊もへっぴり腰である。

 大騒ぎだった。

 かくして西住戦車隊は大騒ぎの中、ギルガメス王国連邦に上陸した。

まあ大騒ぎですよね。


出してしまった。くさやとニシンの缶詰。最臭兵器である。


次回 一月十六日 05:00予定

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― 新着の感想 ―
[一言] さて、ギルガメス王国連邦における混沌獣退治はどうなるのか。
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