表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/219

東大陸 派遣

まずは準備から。


油槽艦をタンカーと改めます。

書いていて輸送艦との間違いが多いので。

以前の文中に登場する油槽艦も随時タンカーと改めます。

 東大陸からかえってきた派遣艦隊幹部は、報告のため首相官邸に向かった。

 驚いたことにもう首相が替わっていた。鳩村首相退陣早すぎませんかね。

 内政問題だけ対処していればボロも出なかっただろうが、事もあろうにまだ正体も分からないディッツ帝国と早急に平和条約を結ぶべきだと。そうすれば軍備の縮小も出来るだろうと。朝と毎の新聞は絶賛し擁護したが、他の新聞や週刊誌・論客などに叩かれ、自ら反論する度に支離滅裂な答えを返しているのだった。

 最後には朝と毎からも見放され孤立無援となり辞任したのである。朝と毎はまた信用度を下げた。


 民主光輝党から新たに選ばれた首相は、過去に政権与党で有った自由党から飛び出して民主光輝党に入った人間で筒井直人といった。自由党時代はそこそこ実績もあり、今回の首班指名には党外からも期待されている。

 前首相がアレと言えばアレ過ぎたのだが。



「では、派遣艦隊全体の意見としては政治的には介入すべきではないと。ただし、向こうで希望している人類生存領域の拡大には協力すると?」


 筒井首相だ。


「そうです。当地の政権はどちらに転んでもおかしくないとの感触を得ています。ただ、どちらの陣営にも共通するのが人類生存領域の拡大です。混沌獣に押されて経済的に行き詰まる事を恐れています。政治的には協力できないが、その件については協力できるだろうと連邦主席とも合意は取れています」


 日本外務省東地域統括局長、佐々成重が言う。佐々は実際に主席と交渉をしている。


「しかし、そのような重大事を本国に諮らずに決めてきたのか」


 原野外務大臣が問う。


「この程度でしたら、出港時に渡された条件の範囲内ですが」


 佐々が言う。


「確かにそうだな。我々が出した条件から逸脱するものでは無い。失礼した」


 原野が負けた。


「では艦隊としてどうするかは決めてきたと言ったな。どうするのだ。この報告書を見ると一部部隊の派遣となっているが」


 首相だ。


「それにつきまして海軍からは、偵察機と支援部隊一式。海洋性混沌獣対策として捕漁船と捕魚母船の派遣。少数の補給部隊と護衛艦隊の派遣です。規模的には東海域捜索隊の三分の一程度です」


 海軍次官から説明があった。海軍大臣は素人で頷くだけであった。


「陸軍からは、少数の戦車や装甲車と支援部隊です。多くても一個連隊は超えないかと」


 陸軍大臣が言った。陸軍大臣は民主光輝党で今は退役しているが陸士出身である。やりにくいことこの上ない。


「では、全体の規模としてはどのくらいになる?」


 首相が聞く。


「東海域捜索隊の半分程度です。戦艦と空母の数は減らします。陸軍さんの補給や兵員輸送もあり、補給艦と輸送艦は増えます」


 海軍次官の答えだ。


「貿易はどうなる?」


 坂口通産大臣が聞く。


「向こうで良い感触があった物を中心に持って行きます。向こうは経済的に苦しいので見返りは余り期待できないでしょう。産物も港や首都で見た限りでは、期待できないでしょう。しばらくは持ち出しかと」

 

 佐々が答える。


「何とかならないのですか」


 女性としては明治以降三人目の入閣を果たした、川井大蔵大臣が聞く。


「難しいでしょう。まだ深い関係になっていません。それにかの国はまだ蒸気機関の導入にも至っておりません。鉱山も金銀銅鉄と鉛くらいで、細かい分類をする学問も育っていないようです。時期尚早と判断します」


「では我が国の国庫からの持ち出しは続くと」


「かの国の情勢がはっきりしてからで無いと深入りは危険です」


「でも限界は決めておいた方が良いかと思いますが」


 川井大蔵大臣が問う。


「確かにそうだな。際限なく続けるわけにも行くまい」


 首相である。

 その後いろいろな意見が出る。

 結局、南大陸の時に初期投資として金五十トンが許されたのだから、今回も金額的に金五十トンの範囲でとされた。

 前例主義である。前政権の気前よさに助けられた。

 ただ、今回は艦隊派遣費用も人件費もこの中に含めるかどうかで議論になった。人件費は固定費だから含めないでくれと言う実施側と全部込みでと言う政府側との交渉で、通常国内勤務時の給料分は除くとされた。それ以外は全部負担せよと言うことになった。

 艦隊派遣費用も国交以外は利が見いだせないとして、半額は政府で負担。残りは出せとなった。


 東海域捜索隊の派遣費用は大凡、金四トン相当だった。金食い虫の大型正規空母三隻と大和級戦艦一隻の存在が大きかった。

 ざっくりとした見積もりでは、次回から現地活動費も含めて一回辺り金一トン相当ですむだろうというどんぶり勘定であった。これなら多少費用が増えても四十回くらいは往復できる。 

 転移後の年四六〇日でも年十往復として四年分は有る。はずだ。さらにボラールやシロッキの販売代金が別途計上されるので、も少し余裕が有る。はず。と言う何という皮算用。

 四年後は情勢を見て再び検討と言うことになった。それまで民主光輝党は政権維持できるのだろうか。


「それでは、海軍と陸軍で戦力を出すのだが絶対に深入りはしないように。ディッツ帝国と違いまだ駐在員は置けない。佐々君は国内情勢の見極めを。いいね」


「了解しました」


 首相のまとめで会合は終了した。



 海軍省では、軍令部や艦隊側の意見を聞き継続して派遣する艦隊の規模を考えていた。

 まず金の掛かる戦艦は含めないことは決定事項だった。

 空母も七航戦の大型正規空母は避け雲龍級二隻とした。ただし完成し艦隊編入するばかりの船は移住者艦隊に取られて(買われて)しまい、あと二航海は七航戦である。ただし海龍と第四直衛隊は外れた。その後は現在鋭意慣熟中の雲龍級二隻体制である。

 旗艦は初めから旗艦任務を考えて建造された越百級重巡がその任に就く。

 護衛は一個水雷戦隊、軽巡一隻駆逐艦十六隻の完全編成では無く、軽巡一隻駆逐艦十二隻とされた。

 駆逐艦は二個駆逐隊が松級とされ一個駆逐隊は夕雲級である。

 

 編成案 


 越百級重巡 一隻 艦隊旗艦

 阿賀野級軽巡二隻 うち一隻は水雷戦隊旗艦

 三個駆逐隊 二個駆逐隊は松級 一個駆逐隊は夕雲級

 航空戦隊

 雲龍級二隻 一個直衛隊 

  搭載機は旧型の九十七艦攻、九九艦爆、零戦とする

 艦隊型輸送艦二隻

 艦隊型補給艦二隻

 艦隊型タンカー二隻


 病院船として民間徴用の貨客船一隻

 巡航十八ノット可能な船は全て移住者輸送に従事しているので、その中から一隻徴用する


 捕漁船二隻

 捕魚母船一隻

 冷凍船一隻


 現地で活動する偵察機として、

 水上機母艦一隻(零式三座水偵八機、瑞雲八機、補用機各二機)

 別途九十七大艇四機を派遣

 水上機支援用に

  艦隊型輸送艦一隻

  艦隊型補給艦一隻

  艦隊型タンカー一隻


 他陸軍船舶


 以上とした案を出した。


 これに対しては

 戦艦は必要では無いのか。

 航路上南北三百海里に陸地は無く、敵対勢力は確認されなかった。

 として意見を退けた。実際は戦艦を入れると経費が掛かりすぎてしまうからである。

 日本艦艇以外の電波源も無く、同等の戦力は居ないだろうという判断もあった。

 戦艦が必要な事態になれば、別途協議するとした。


 空母搭載機が新鋭機では無く旧型なのは何故か。

 後述の九十七大艇まで含めて、全て金星発動機である。遠隔地であり、整備性と補給の容易さを優先させた。


 九十七大艇では古くないか。既に生産停止後三年経っている。正式採用後では八年だ。

 前述にあるように金星発動機で有ると言うのが主な理由である。最終型の二十三型を確保して使用する考えである。

 二十三型は金星の出力が一千四百馬力まで上がり性能が向上しているし、自動操縦装置も改良されていて操縦員の負担も少なくなっている。

 問題は人気があり、生産数が四十機と少ないことだ。現存数は三十五機と報告を受けている。


 捕漁船は分かるが冷凍船とは何か。お前達は漁師か。

 捕漁船と捕魚母船は乗り組み員を全て海軍出身者で揃えたと言ってもれっきとした民間船である。

 漁師で問題は無い。

 冷凍船もその一環であり、現地に提供する分以外で冷凍船に余るほどの漁獲があれば現地で売却する。


 捕漁船団には護衛が着かないのか。

 直接は着かない。艦隊で対処する。

 軽巡一隻と一個駆逐隊を廻す予定である。


 軍令部と艦隊にも概ね理解が得られ、海軍の分は決定で有る。



 陸軍は揉めていた。

 行かないでは無く、行かせろである。


 話は単純で要は活躍させろ。俺の部隊をな。活躍するのは俺の部隊だ。

 行きたい奴が多すぎた。

 東鳥島での第十三師団の活躍とその後を知った彼等は、俺にもその機会をと以前から活躍の場を求めていたのだった。

 そこに今回の話である。しかも、派遣されるのは全体で連隊以下。

 三個大隊のうち一個大隊は輜重と工兵であろう。

 一個大隊は戦車と決まっている。

 純粋な歩兵部隊は一個大隊しか無い。

 醜い争いがあった。

 陸軍省の同期を頼る者。同じく故郷を頼りにする者。上官に****する者。

 上官に****する者。は当然、厳重注意の他、左遷や降格など各種処分に遭っていた。


 狂騒する歩兵部隊をよそに、戦車部隊は醒めていた。

 何しろ有名人がいる。ロスオリンピック馬術金メダル西辻少佐がいた。

 決まりみたいなものだ。


 歩兵大隊は香川の善通寺連隊から選ばれた。

 矢野轍と言う学生予備仕官は狂喜していたという。(注)


 派遣される工兵部隊と輜重部隊は外地経験の有る部隊から抽出された。

 当然これらの部隊からは怨嗟の声が上がるのだが、命令は命令として粛々と出動するのであった。

(注)

 偶然にも同連隊に学生予備仕官として任官していた矢野轍という人物は後年ギルガメス王国連邦について多くの著書を残している。

 SF作家としての名が有名であるが、ギルガメス王国連邦を研究する人達からはSF作家としてでは無くギルガメス紀行記などギルガメス関連の著者として有名である。

 だが彼が有名になるには後二十年の日々を擁した。


 学生予備仕官

 大学生や高専生を1年間予備士官候補生として採用して軍人教育をして軍務になれさせる。

 緊急時には予備仕官として徴用する。また卒業後予備仕官として軍に志願可能であった。この場合は兵学校や士官学校に特別コースが有り中途入学という形が取られている。

 学生側のメリットとしては、学校側で単位に含まれる。人物考査の評価が高くなる。就職の際非常に有利である。入学が帝大並みに困難な兵学校に中途入学でも入れて海軍の正規士官になれる。陸士も兵学校ほどでは無いが難関であり、同じくだった。

 ただ、彼等は正規士官になっても入隊後の席次は下位の方で有ると言うことを知らなかった。



金相場は国外との相場は形成されていない

国内相場は転移後の混乱を防ぐために金の放出を続けており、転移前グラム当たり四円だった相場を二円まで下げてからは固定相場とした。日本以外で換金が出来ないため政府・日銀は固定でも困らない。実際には市場でだぶつき気味であり、変動制とすれば二割くらい下がると予想されている。それでは困るので未だ経済は混乱中として変動制には動かない。現実にも経済は外国貿易が若干再開されたとは言え混乱中である。

これは、大規模な国債発行の前に見せ金として使っている物だが、実際に国債を金に兌換できる量の金地金が日銀大金庫に収まっている。管理者が何というか分からないが、神倉庫にはそれ以上の量が入っている。

人手不足を背景とした給与の上昇を受け物価は上昇中であるが、政府・日銀が大量の金地金を持っていることは公表されており、信用不安による急激な物価上昇は避けられている。

正和二十年で物価上昇率は六%程度であり、景気は良い。ただ政府としては3%前後に落ち着かせたい。

これは転移時の政権の考えであり、民主光輝党がどう考えているかは分からない。


現在との物価換算だと大雑把ですがグラム四円は四千~八千円前後と思われます。正確な換算は不可能です。


ディッツ帝国とは政府間バーター取引が基本である。大まかな価格調整は付いているが両国とも経済が混乱しており落ち着くまでは民間が主導する国際市場は形成しない合意が出来ている。


ギルガメス王国連邦は、貿易開始と共に恐らく一方的に負けることが予想されるのでこの国は国際相場の形成対象外である。

貿易で相手国を混乱させることは転移時の日本政府は望んでおらず、国策関係者の中には暗黙の了解として受け取られている。

民主光輝党がどう動くかは分からない。しかし、自由党の人間が少数ながら合流しており制限が掛かる物と思われている。


次回 一月一二日 05:00予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 名前に鳩がつく政治家はやばいはっきりわかんだね あと、建艦する費用なら空母より戦艦の方が高いと思いますけど運用するとなると空母の方が高くつきそう… パイロットを育てなきゃいけませんし 航空…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ