KD航路 山東半島列伝 三
今度はドワーフ製の武器の話です
冒険者達は次の部屋に案内された。
絶句する者。うめく者。腰を抜かしかける者。思わず逃げに入る者。戦闘態勢を取ろうとした者。
色々だった。
そこにあったのは魚型巨大混沌獣の頭部標本であった。意地の悪いことに口を開けてある。作った奴の性格が表れているようだ。
「なあこれはなんだ」
「なんだと言っても魚ですよ。見れば分かるでしょう」
ギルド職員もあっさりとしている。もうこの反応は飽きた。
「だからなんだと聞いているんだよ」
「帝国魔道院の教頭も「常識知らず」も文献で見たことが無いそうです。まだ名前はありません。日本は他に国が有ればそこで名前が有るかもしれないと言って、名前は付けないそうです。通称「巨大魚」です」
「不便じゃ無いのか」
「今のところそれ一種類なのでいいみたいです。その時はその時と言っていますよ」
「なんか適当だな」
「困ってないからいいそうです」
「そんなもんか」
「ちょっと待て-!」
一人が大声を出した。
「何ですか」
「こいつを日本は狩れるというのか」
「週二匹は狩っていますよ。彼等は捕漁と言っていますが」
皆があきれるやらなんやら。ざわつく室内。
「あのな、こんな事言うとなんだけど漁業なのか。おい、日本人はこれを漁業にしていると?」
「有り体に言えば」
「冗談だろ」
「本気でやっていますよ日本人は。そのための専用船も作ったと言いますし」
「なんだと」
静まりかえる室内。あきれてものも言えないようだ。
「いいですか?では次に行きます。それと言い忘れました。本日の昼食はこの魚です」
「「「うそだろー」」」
「待て待て、こいつは混沌獣と言ったな?魔石があるのだろう。どのくらい大きいんだ」
「そうですね。このくらいかな。重さは二十キロくらいらしいです」
「何だよそれ」
「キロだと」
「グレーボアでどのくらいだ」
「いいとこ百グラム」
「二百倍か、値段もその大きさだと凄いよな」
「現在値段はありません」
「無いだと」
「比較できる物が無くて値段が付けられないと。魔石の能力的には小型の上位種を上回るらしいです」
「「「は?」」」
「上位種のオーク以上モスサイ以下というところだそうです」
「あー、その、なんだ。確かに値段は有ってないようなもんだな」
「ちなみに、かの「常識知らず」さんは、この魔石を見て狂喜したようです」
「おおう、想像できそうだ」
「確かにな」
「そんなにでかくて使い道があるのか」
「使い道はあります。今までは小さい魔石で苦労して動かしていた大怪我用の魔方陣が長期連続稼働できています。魔力の少ない人でも楽に起動と維持が出来るということです」
「それは凄いな。助かる人も多そうだ」
「実際役に立っています。中級の魔石でも十回も作動できなかった魔方陣です。魔石確保の苦労が無くなりました」
「うーん。それだけか。それだけで定期的に狩るのか」
「食料や良質の肥料になります」
「まあ。混沌獣は沸いて出るしな」
「では行きますよ。着いてきて下さい」
「ハイよ~」
ゾロゾロと力の抜けた冒険者達は続く。精神的に疲れたようだ。
次の部屋にはドワーフが待ち受けていた。
「ドワーフなのか」
「まあな。街ドワーフじゃ無いぞ。ちゃんと鍛冶をやる」
「いや、見れば分かるから。そうじゃなくてなんでここにという疑問だ」
「まあこれを見ろ。驚くぞ」
期待の目をする冒険者達。数人のドワーフで台の上の布をめくる。
「なんだこれは」
「何か凄そう」
など好きなことを言って近寄って見る。
「なあこの剣だけど、凄そうに見える。触ってもいいか?」
「ああ、いいぞ。試し切りなら外でやれよ。そこに何本か違う太さの木があるだろ」
「用意がいいな。まあ選んでからだ」
「自信作だ。ただ軽いかもしれん」
「軽い?」
「見ただろ魚を。そいつのウロコとか骨で出来ている」
「ほんとかよ。普通の鉄の剣とどっちが上なんだ」
「勿論ウロコの剣だ。ただ軽いからな。叩きつける奴には向いていない」
「じゃあ切ればいいのか」
「そうだ。包丁と同じ扱いならよく切れる」
「丈夫さはどうだ」
「鉄より強いぞ」
「信じられんが、ちょっと試すか」
「じゃあこの槍を」
「俺はこれだな。両手剣だ」
「じゃあ外に行こうか」
「「おう」」
三人が得物を持って外に出た。皆見に来る。
「じゃあやるぞ」
「はよやれ」
「あ、済まん。こいつ壊したらどうしよう」
「気にするな。どうせ材料は沢山在る。これも日本に頼まれている物だ。経費でいいとよ」
「おお、日本太っ腹だな」
「だからさっさとやれ」
そいつは片手剣と中型の盾を持っている。
「軽くてやりずらいんだが」
「軽いと言ったろうに。使う気なら慣れろ。錘を仕込んでもいいし、鉄で補強するのも有りだ」
「よし、やるぞ」
「さっきからやれって言ってるだろ」
観客と化した冒険者からからかいが起こる。
「へいへい、ビビってるぜー」
「お前の腰はずいぶん後ろだな」(注)
「きれまちゅか~」
「うるせえ、この野郎。喰らえ、オリャー」
少し細めの木だがあっさり両断された。
切った本人は
「嘘だろ。いままで使っていた鉄の剣なら、こんなにアッサリと切れん。切り口も綺麗だ。こいつは凄い」
「じゃあ次はこいつだ」
「無理だろ。太さ五割増しじゃないか」
「ところが無理じゃ無いんだ。お前魔力扱えるか」
「少しならいける。魔法使いほどじゃないが」
「そうか。その剣にな、少し魔力を込めてみろ。面白いぞ」
「どうなるんだ?え!何これ?嘘だろ、魔法剣なのか」
剣と盾が青く光り出した。
皆ざわめく。魔法剣などと言うとんでもない物が現れたからだ。
「慌てるな。こいつは魔法剣じゃない。かといって普通の剣でも無い。いいかそれであの木を切ってみろ」
「あ、ああ。びっくりしたぜ。本当に魔法剣じゃないんだな」
「文句の多い奴だな。大丈夫だ。炎も風も氷も出ない。さあやれ」
皆が見つめる中そいつは動いた。
「フン!」
「え?」
切った本人が驚いたらしい。
「ウソ。抵抗を感じなかったんだが」
皆がざわめく。「魔法剣じゃないにしても凄いな」「とんでもない物が有るもんだ」「アレなら買いだな」
「そうだ。こいつは魔力を込めると凄く切れるようになる。どうだ、買うか」
「買う。絶対買う。いくらだ」
「まあ、落ち着け。次は槍の兄さんだ」
「おお、やるぜ」
そいつは中くらいの太さの木を選んだ。
「まずは普通に扱え。魔力は後だ」
「分かった」
「エイ」
槍は貫通した。いい腕だ。だが抜けない。
「おい、抜けないだろ」
「まあ今抜くから」
木に足をかけようとした奴を待たせる。
「まあ待て。その状態で魔力を込めてみろ」
「分かった。やるぞ」
槍が青く光る。
「やったな。そうしたらそのまま力を入れて上か下に槍を動かしてみろ」
「やるぞ。ッと。なんだこれ?切れるぞ」
槍を上に上げたのだろう。木を切り裂いて上に槍が出た。
またざわついた。普通ならあり得ない事だ。
「すげーな。親方、是非売ってくれ」
「後でな。次は両手剣の小僧だ」
「小僧言うな。これでも五級だ」
またからかいが有った。
「よう、金級になるんだって?」
「お前扱えるのか」
「恥さらすなよ」
「うるせーよ。俺はやる。いずれは金だ」
「おお、いいんじゃないか。諦めるなよ。金級に使って貰えるとなればドワーフとしても誇りだからな」
「任せろ」
「じゃあ、こいつな」
「え?親方、ちょっと待ってくれ。そいつは自信が無い」
「何だよ意気地がねーな」
ドワーフ、最初にカラン村に居着いた六人組の親方ガドルが言った。
「どれ、貸してみな」
「ああ」
そしてガドルが魔力を込め青く光らせた両手剣でさっき槍をさして切り裂いた木を切る。アッサリと切れた。再びざわめく冒険者達。「あのオッサン、普通に五級くらいの力はありそうだ」「ドワーフは試し切りばかりしているからな。切るのは旨いぞ」などと言う。
「見本は見せた。さあやれ。あ、最初は魔力無しな」
「やってやるさ。行くぞ。ウリャ-」
半分も行かずに止まった。周りで笑いが起きる。
顔を真っ赤にして剣を抜こうとするが抜けない。
「おい、小僧。魔力だ」
「あ、ハイ」
「抜けた。こんなアッサリと」
「じゃあ次は魔力を込めながら切れ。違うとこな」
「ハイ」
素直になった小僧は再び切りつけた。如何だろうか。
おお、冒険者達がざわめく。サクッと言う感じでも無いがそれでも両断できたのだ。
「すげー。この剣すげー」
「そいつは高いからな」
「え?」
「高いから。手間掛かってんだよ」
周りから笑いが起きる。「小僧買う金有るのか」「お小遣いならあげないわよ」色々言われる。
顔を再び真っ赤にして「絶対買ってやる。それまで取っといてくれ」と言う。
「いや、これ型作って量産するはずだから。多分いつでもあるぞ」
「それでもこれがいい」
「そうか。なら取っておこう。後で書類書くな」
「ありがとうございます」
そして女性から声が掛かった。
「ねえ、杖は無いの」
「あるぜ。お嬢さん」
「親方、かっこつけても杖は苦手でしょう。俺がやります。俺作なので」
「え?そうなんですか。じゃあ作った人でお願いします」
「ヘリウス、任せた」
「へい、任されました」
他の冒険者が剣や槍、盾、籠手などの品定めと試し切りをしている間に、魔法使い達に杖を見せていた。
「ねえ、これもあの剣と同じで魔力を込めると青く光るの?」
「そうなんです。有る意味困りますよね。これから魔法を使うぞ、って分かるんですから」
「それは困るな」
他の魔法使いが言う。ベテランのようだ。
「そんなあなたにこれをお薦めです。これは表面に着色して光が漏れないようにしてあります。勿論手で持つところは着色せずに魔力が良く通るように考えてあります」
「考えてはあるのよね」
「そりゃーそうです。こいつは実用品で、飾りじゃ有りません。光る奴は見本です。何かのお祭りや儀式の時は目立っていいのですがね」
「これで誰か魔法を使ったの?」
「帝国魔道院の教頭と「常識知らずさん」が。ほかは帝国の近衛の人です」
「凄いな。それで如何だった」
「威力は、上級品に匹敵すると。トレントにも劣らないという評価でした」
「「とんでもないな(わね)」」
「強力すぎて生半可な魔法使いじゃあ使いこなせません。かえって暴走の危険があるみたいですよ」
「私なら使えるが、君達は如何なのかな」
ベテランは残りの魔法使い四人に聞いた。
何やら怪しく青光りする剣や盾に杖。
派手な戦闘になりそうですが、こっそり魔法を使いたい人には向いておりません。
魔法の言葉はアブラカタブラ。
ああ難しい。中二に戻って考えねば。
「お前の腰はずいぶん後ろだな」(注)
「腰が引けてる」とか「へっぴり腰」という使い方
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