KD航路 山東半島列伝 二
新しく来た冒険者達のお話
ほぼ解説かな
本日はこれ一話
五級以上の冒険者は交代でこの地と東鳥島で活動して欲しいと。
質問がいくつも飛んだが、その中で特筆すべきは
「大型上位種に対抗出来る金級の奴は居るのか?」
「居ない。居るのは銀級と八級が一人ずつだ。ただ、対抗困難な上位種には日本軍が対応するので問題は無いと考える」
「軍で対応可能なのか」
「大型上位種も倒している。不意打ちにならなければ可能だ」
「先に発見できるのか」
「飛行機という物で空から常に偵察が行われている。その結果を基に行動する。会敵率は高いし、大規模な群れとの不意遭遇戦も少なくなる」
「それはいいな」
「ただ、スタンピートの回数が多いように思われるので注意してくれ」
「多いとはどのくらいだ」
「二年で四回起きている。三箇所の混沌領域でだ」
「多いなんてもんじゃ無いだろ。間引きはどうなっている」
「そこを知ったのが二年前だからな。間引きなんてしていない新規の場所だ」
「じゃあおいしい薬草や混沌獣が居るな」
「まあな。日本に頼んで七級を一人派遣して貰ったが、かなり有望だそうだ」
「日本に七級が居るのか」
場がざわついた。
「君らは知らないかな。カラン村を。そこの冒険者だ。日本には足になって貰った」
ギルド職員は内心ため息をついた。この説明は何度目だろうか。この間大型上位種を倒したので少し内容が変更になったのだが。
「七級なら知られているだろう。誰なんだ」
「ロウガ」
「ロウガって、「銀のロウガ」なのか」
「そうだ。受付会場にもたまに顔を出すようだが、君達の時は居なかったな」
場がざわついた。
「何でそのカラン村に居るんだ」
「皇帝陛下の命で第二皇女様を避難させたのだが、その時一緒になったと言うことだ。現地のギルドが依頼を出した」
「本当なのか」
「依頼書は魔法契約された最上級の物だ。本物だ」
再びざわめく会場。魔法契約は契約内容が失敗した場合、失敗内容によって依頼者・預託者・受注者のいずれかあるいは三方全てを縛るきついペナルティーがある。滅多に使われない。
「無事で級落ちも無いと言うことは成功したのか」
「第二皇女様は無事でいらっしゃる」
「「「おお!!」」」
彼等は来る途中で言われたエルラン帝国復活も夢では無いことを実感した。どこの国でも良かったが寄る辺はなじみが有る方が良かった。
「なあ、第二皇女様なんだけどお前は見たのか」
「一回、拝謁させて頂いた」
「どんなだった。もう十四くらいだろ」
「カラン村の教育方針なのか。ご自分で望まれたのかは分からないが、普通の村娘だったぞ。ご自分で身の回りのことはやっているし食料調達もすると言われた」
「自分がそういう存在だと知っているのか」
「自覚していらっしゃる。帝国復興なら旗頭になりますとおっしゃって頂けた」
またまたざわめく会場。
「カラン村には帝国魔道院の「常識知らず」がいるのだろう。よくまともに育ったな」
酷い言われようである。ケイルラウ。
「侍女や侍従も一緒だからな。そう滅多なことはないと思うよ」
「姫様らしく育てなかったのは何故だ」
「それは私も気になって聞いてみたのだが、カラン村の人口は百五十人くらいだ。たどり着いて村を作った時はもう少し居たが怪我や病気で減ったそうだ。その中ではとてもお姫様扱いなど出来なかったらしい」
「過酷だな。お姫様専従で何人も付けられないと言うことか」
「そうらしい」
「今でも食料調達はされているのか」
「今でもやっていると言われた。周りに聞くと、日本との取引でもう十分村は金持ちだそうだ。だからお姫様然としてもいいのだろうが、ご自分は今の生活がいいらしい」
「おお、けなげだ」
そこかしこで「お守りせねば」とか「お労しい」などの声が上がる。
「日本と取引と言うが、カラン村に特産はあるのか」
「それか。日本向けには魔道具・魔方陣と、薬草で作った薬だな。凄い売れ行きだそうだ」
「なんだ。日本には無いのか」
「日本はディッツ帝国と同じで転移してきた国だそうだ。しかも、ディッツ帝国とは違って魔法も薬草も無いそうだ。勿論共通語のきっかけを与えてくれる教会や祭壇も無いという」
「魔法が無くて大型上位種を狩れるのか」
「軍隊は強力だぞ。多分質ならディッツより上だ」
「なあ、それなら「言うなよ、日本はやる気は無いそうだ。魔王相手ならともかく、それ以外は自衛戦闘以外はやらないと言っている」・・」
「ちくしょう、なんでだよ」
「じゃああのまま殺されていたかも知れない状況を救ってくれた日本に文句を言うのか」
「殺されていた?」
「ディッツ帝国では俺たちを皆殺しにしようという勢力の勢いが強かったそうだ」
静まりかえる会場。
「日本に色々言いたいことはあるが、言ったら俺たちが恥をかくのだな?」
「そこまでは言っていない。日本人も、恨まれるのは分かる。ただあの時は一番良いと思ったから行動したと言っている」
その場を切り替えようとして、こう言った。
「既に多数の冒険者が活動している。お前達にはそこに参加して貰いたい」
「参加だと」
「そうだ、既に先行している冒険者との交代要員として、参加して欲しい。これはギルドからの正式な要請でもある」
「では相当な支援はあるのだな」
「ギルドにはまだそれだけの力は無い。日本軍が代わって支援してくれる」
「大丈夫なのか」
まあ冒険者のやり方でいいのかという意味だろう。
「大丈夫だ。かなり慣れてきている。今まで問題も無い。宿屋もあるし、薬師もいる」
「それだけあるのか。それにさっきのなんて言ったかな。ひ・ひこ?」
「飛行機か?」
「そうそれ」
「飛行機は空を飛ぶ機械だ。それで上空から偵察をする。その結果をギルドも受け取りかなり詳しい状況が分かる」
「でも絶対じゃ無いんだな」
「そうだ。見落としもあるし、時間のズレもある。いつもと同じだよ。ただ少し詳しく分かるだけだ」
「いや、それでも相当な違いがあるだろう。お前らどう思う」
「偉そうにいわんでもよ。まあ助かるわな。正しい情報はそれだけでも有り難い」
「その日本軍はもっと間引きはしないのか」
「日本軍か。彼等は自分の兵士の強化に使っている。これ以上間引きをする気は無いようだ」
「狂ってるな」
「確かにな。でもそれだけ武力に自信があるのだろう。それが後ろを守ってくれるのか」
「そういう意味でいい。後ろに抜けられても宿屋までは通さない。だから安全と休養は高い水準で得られる」
「なあ、その東鳥島か?混沌領域は三箇所で間違いないんだろうな」
ギルド職員は少し沈黙した。
冒険者達はそれがいいことじゃないことを知っている。
「え~とだ。ひょっとしてもっとあるのかな?」
「後六箇所だ。いずれも未接触で中がどうなっているか分からない。最初は小規模だと判断したらしいが偵察を繰り返す内に今までの三箇所と同規模か大きいと分かった。周辺の混沌獣の多さから碌でもないのは間違いない」
「かなり危険?」
「日本軍が大雑把な掃除はするみたいだ。俺たちはその後で個別案件の処理だな」
「今すぐにか?」
「違う。日本軍は今三箇所の混沌領域周辺を安全にしようとしている。封じ込めだな。その後で間引きをして弱めるらしい」
「潰さないのか」
「混沌領域を潰すと何処かにダンジョンが出来るのは知っていたよ。だから潰さずに弱らせるそうだ」
「ダンジョンはお宝の山なのにな」
「危険度は混沌領域と違わないから五級では苦しいぞ」
「俺は金級になる男だぜ」
全員一斉に笑いが起こった。
「このやろー。そこまで笑わなくても」
「いやあ、久しぶりに笑わせて貰った」
「おい、肝心なことを聞いていない。どんな奴が出るんだ」
「これを見てくれ」
そう言って、隣の部屋に移動する。そこには地図と共に絵が有った。絵?絵だよな。やけに綺麗だし本物そっくりだぞ。そんな言葉が有った。
「それは絵じゃ無い。写真という。本物だよそれは」
「「なに!」」
「おい、上位種も、ケンネルにオーク、サイモスだと」
「キンキュウガヒツヨウデスネ」
「お前なに棒読みしているんだ」
「日本軍は本当にこいつらを倒したのか?」
「これを見てみればいい。皆着いてきてくれ」
「なんだ。次の部屋か」
ギルド職員は皆が部屋に入ったのを見ると、日本人に「お願いします」といった。
「では始めましょう。カーテンを閉めてくれ」
他の日本人達がカーテンを閉めた。
「これからは映画という物を見て貰います。実物では無いので襲ってきませんから落ち着いて下さいね」
どうやら慌て者がいたようだ。
何か明かりが白い幕に向かっている。
「始まります」
皆は黙っている。
ざわつく室内。本当か。なんだあの数は。本当に千いるんだ。
そしてケンネル上位種がサイモスの上に乗って出てきたところで静まった。
そして怒濤の攻撃が始まる。サイモスが一撃で倒れる攻撃にケンネルが耐えたのを見て「化け物だな」という声がようやく出た。
その後の二人の日本人による特攻を見て「日本人にもいるんだな。バカは」と呟く。
皆、見た後で静かになった。
「日本軍の威力はとんでもないな」
「何だよあの上位種は。食って復活とか冗談じゃ無い」
「おーい、静かにしてくれ」
ギルド職員が言う。その後カーテンが開けられ明るくなった。皆緊張していたようで、力が向けたのかホッとしている。
「日本軍の佐々木中尉です。ただ今見て貰ったのは実際に有ったことです。サイモスの骨と小型上位種の骨は標本にしてありますので、見る機会も有るでしょう」
「皆さんにアレと当たれとか酷いことは言いません」
そこで失笑が起きた。
「今のところ確認されているのが、上位種はケンネル・オーク・サイモスの三種類です。ケンネルはバカですがサイモスはかなり頭がいいです。おまけにケンネルとオークを一緒に群れに入れて使います」
「ケンネルとオークが一緒にいるだと。本当なのか」
「本当です。写真は有りませんが大勢が見ています」
「他の種類は」
「通常のケンネルが一番多いですね。次いでウザミ。ゲズミは少ないです。我々はケンネル達の食料になっているのではと考えています。その次に多いのがオークです。グレーボアはいますが少ないです。アレは肉が旨いのですが。ハイジカは結構いますね。アレの肉はボアほどでは無いですが旨い。後要注意なのが希に居る、ハイタイガーです。戦闘力ではオークを超えます。潜むのが上手いので厄介です。我々も結構損害を受けています。複数の五級か単独なら六級で当たらないと不味いそうですね。数が少ないのが幸いです」
「そして絶対に欲しいのがグレーカウです。最高に旨いですよ。上位種のモスサイよりも旨いです」
「何だよ。食ったのか上位種を」
「はい、さすがにケンネルとオークは食べませんよ」
グレーカウなんて初めて知ったぞ。と言う声も多かった。ついでそんなに旨いのかという声も。
まだ続きが有るのになと中尉は思う。今回もアレを見て驚くんだろう。
混沌獣の種類はいずれ上げようと思います。
続きとは?まあアレなんですが。魚屋のオッサンが驚いた「 」と言う奴です。
三十三話で写真と映画撮影という話を書いておいて良かったと思います。
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