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KD航路 山東半島列伝

少し個人に当ててみました

「クソ、こんな所にいやがる。ジョス、そっち行ったぞ」

「任せろ。ヨッ」


 俺たちは冒険者だ。と言っても偉そうには出来ない二級から四級の集まりだ。

 今は依頼で山の中。まあ、山の中と言っても麓だけどな。奥へ行くには俺たちではランクが低いので希望しても許可は出ない。

 俺、グレンは剣士でリーダーだ。と言っても臨時パーティーであり一時的だけどな。

 他に

 スジャータ 魔法使い 四級 女

 ユリア   剣士   三級 女

 ジョス   重戦士  三級 男

 ネムセル  盾使い  二級 男

 ウラニエ  薬師   二級 女

 フォランティエ 弓士 二級 男

 

 この七人で臨時パーティーを組んでいる。リーダーの俺は四級だ。勿論男だ。


 

 あの日エルラン帝国は終わった。ササデュール共和国軍が怒濤の勢いで攻めてきた。抵抗はしたが圧倒的な数の前に押し切られてしまった。

 俺たちの生活は変わった。税金が四公六民から五公五民へと一割引き上げられた。収入が一割減った上にその減り分を取り戻そうとする奴らのおかげで物価が上がった。実質は四民に減らされたようなものだった。

 冒険者にも当然その余波は訪れ依頼達成金や報奨金の減額と、生活費や装備品の値上がりなどダブルパンチだった。

 平気だったのはおいしい依頼や高額の納品が多い六級以上の冒険者達だった。ただその上級冒険者も戦争で数が減っていて、上級の依頼は滞り気味だった。

 かと言って、下級冒険者が手を出せばどうなるかは火を見るより明らかだった。

 だいたいその下級冒険者の数も戦争で減っているのだ。下級冒険者宛の依頼もギリギリこなしているような状態だった。働き手が戦争で減り、下級の依頼が増えていることも原因だった。

 それでも戦争から二年経って世の中も落ち着きを見せ冒険者も新たな世代が入ってきていた。


 俺も十歳だったが冒険者になった。勿論混沌獣の相手など出来ない。街の雑用や近隣での安価な薬草採取で糊口をしのいでいた。

 世の中が落ち着いたと言っても戦争で荒れた経済は復旧には遠く、我が家の暮らしも苦しかった。十歳という最低年齢で冒険者になる者は多かった。俺もそうだ。それでも我が家の暮らしはかなり楽になったと言って母に褒められた。父は兵士として出征しササデュール共和国軍との戦いから帰ってこなかった。

 時には怪我をしながらも階級を上げていき十六歳の時、遂に三級になった。俺の活躍はこれからだと思った。

 その頃だ、空が金色に光り轟音と振動が襲ってきた。奴らがやってきたのだった。ディッツ帝国だ。

 しばらくして戦争になった。奴らは異常とも言える数とササデュール共和国軍の鉄砲とは性能が違いすぎる鉄砲を多数揃えて襲いかかってきた。

 俺たちは押されに押されて後退していく。勿論それなりの損害を与えてはいた。やがて、ササデュール共和国軍が崩壊し首都も制圧され、戦争は終わった。

 俺は家に帰った。どんなになっていても現実を認めようと思って。

 不思議なことに、戦場以外は荒らされていなかった。まるで用がないか、荒らすのは不名誉な事だと言わんばかりに軍や戦場以外は綺麗だった。勿論全て綺麗だったわけではない。流れ弾や運悪く戦場にされた場所は酷いものだった。

 後で聞くところによると、ディッツ帝国軍は住民への攻撃は厳禁だったという。勿論抵抗するものには容赦なかったようだが、それでも戦場の常である乱暴狼藉や搾取・強奪・破壊はされていなかった。

 俺は母と妹と抱き合って無事をかみしめた。


 失った仲間は多かったが、それでも動き出さないと生活が出来なかった。すぐに冒険者として活動を始めた。

 しばらくして、何故か普人族以外の人間が集められ収容所に送られた。抵抗してもあの戦力には無力だと言うことは戦争の時分かったので抵抗する者は少なかった。

 俺と家族も収容所という名のだだっ広い空き地に放り込まれてテント暮らしが始まった。

 徐々に宿舎は建てられているものの入ってくる人数が多くて追いつかなかった。食糧の供給も少なめであり、いつも飢えていた。

 それでも不思議なことに奴らは俺たちを殺すこと無く、病気になれば医者に掛かることも出来た。

 そんな日が続いたある日、徐々に食料や宿舎の提供が増えてきているのに気がついた。それは、ここから何処かへ連れ出される人間が出始めたのと同時期だった。

 殺されるのか?いや、殺すなら扱いが良くならないだろう。では何故だ?

 その答えが「君達には新しい生活場所が出来た。そこに移住して貰う。これは決定事項であり、移住が終わるまでは諸君の生活を保障する。ディッツ帝国皇帝 アドルフ・シルバーバウム」というお触れが回った。

 ディッツ帝国の奴に聞いてもそいつもよく知らないと言って、他の場所に移っていった。 

 その後徐々にディッツ帝国経由の正式な情報やしょうもない噂話が飛びかった。

 正式な情報としては、

 移住する順番は収容所生活の長い者から優先される。

 移住先には開拓地が用意されている。

 移住後しばらくの生活は移住先である日本が保証する。

 など生活面での情報が多かった。

 噂話では、

 むこうで****される。

 むこうで***になる。

 奴隷が欲しいのさ。

 等しょうもない噂が多かった。


 しばらくして移住先である日本から人がやってきた。

 ディッツ帝国からもたらされた情報は正しいとし、噂は全部否定した。

 奴隷はいらない。娼婦が欲しいわけでも無い。自己判断で動ける者が欲しい。

 特に冒険者や魔道具職人は歓迎する。

 生活は一年は保証する。

 宿舎と農地も用意している。慣れない土地だが頑張って欲しい。


 最後に、これは公式には出来ないが「希望すればエルラン帝国を移住先で再建しても構わない」と言った。


 何故こんなに接してくれるのだと言ったら「あなた方の仲間に助けられたので今度はあなた方を助ける番です」と言って帰っていった。


 その後、順番が来た俺たち家族は家族向けの船 普通の船よりも若干豪華だという に乗船しカラン港を目指した。

 その船の大きさに皆驚いているが川舟以外は見たことの無い俺には良くわからなかった。ただ横を航行するでかい戦艦という船には驚いた。あの馬鹿でかい鉄砲で何の相手をするのだろう。


 途中で休憩させられた島はとても暑かったが、皆船に疲れていたのでありがたかった。海とはこんなに綺麗なのか。波打ち際で妹ははしゃぎ回っている。周りも見れば老若男女皆騒いでいた。

 そのうちに後ろで何か作業が始まったので見ていると、これは浜焼きだよと言われた。魚や貝を鉄板や網の上で焼くのだという。うん、分かる。これはとても良いものだ。匂いが凶暴だった。腹に早く入れろと俺の腹が主張した。その日本人は笑って俺に焼いた魚と貝を渡してくれた。とても旨い。川魚しか食べたことの無い俺には海の貝の味は衝撃だった。

 皆が集まってきた。匂いに釣られたのだろう。お兄ちゃんずるいと妹が拗ねる。可愛いなお前。でも腹が主張しているぞ。食わせろと。

 そこで一泊して再び船の旅だ。そしてカラン港に着いた。

 

 驚いた。獣人やエルフがそこかしこに居た。日本人に混ざって普通に働いている。半信半疑だった俺たちは信じて良い気持ちになった。

 そして、連れて行かれた宿舎も想像を絶していた。風呂が入り放題とか、個室があるとか。

 船でも風呂は入れたがここまで良い風呂では無かった。船に乗ったことのある人に聞くと船で風呂自体信じられないと言っていたが。

 その面接があり希望する働き方を聞かれた。勿論冒険者だ。母と妹には悪いが、俺はやる。ただ級が低く、危険な場所には向かわされる事は無い。と言われた。

 母と妹は農作業を希望した。女だけでは未開地での農作業はいくらある程度耕されていてもつらいと思ったのだろう。日本の既に在る農地で農業をしたいと言っている。幸いなことに日本での募集枠に大きく空きがあり日本へ行くことになった。


 母と妹に別れを告げ、と言っても手紙は自由に出せるらしいので生き別れになるわけじゃ無い。それでも母と妹は泣いていた。


 俺たち冒険者は一箇所に集められ級別に分けられた。ちゃんと冒険者ギルドの職員もいる。

 そこで、色々説明を受けた。

 稼ぎがいいのは東鳥島であるが、大型上位種が確認されており危険である。

 この地、山東半島奥にある混沌領域では上位種は確認されて無い。恐らく上位種が生まれない規模の混沌領域であろうと予想されると言った。 

 そして冒険者ギルドの職員が言うには、四級以下は全員この地に留まって貰う。しばらく様子を見て希望者には東鳥島に行く機会を与える。


 そして俺の冒険者生活は再び始まった。

 五級以上の冒険者は数が少なく、クランの結成は遅れていた。五級以上の冒険者が交代で東鳥島に行くなら、複数の五級以上の冒険者がクランに必要になってくる。それもあって遅れていた。

 チームの結成は進んでいるが、以前組んでいたチームやクランがバラバラになっていることが多くお試しチームが多かった。

 俺もお試しチームの幾つかを経てようやく四級に上がった。

 

 四級に上がったところでギルドに呼ばれた。


「すまんが、一級と二級の育成をやって欲しい。君の経歴を見ると地道にやってきたようだ。こういうことは一発屋には頼めん。他の四級と三級の人間にも頼んである。是非お願いしたい。これはギルドからの要請なので、特別依頼として別途指導料を払うが如何だろう」


 まあ特別手当が別途支給なら言うことは無い。受けた。

 そして指導する相手として

 ジョス   重戦士  二級 男

 ネムセル  盾使い  一級 男

 ウラニエ  薬師   一級 女

 フォランティエ 弓士 一級 男

 と同じく指導側の

 スジャータ 魔法使い 四級 女

 ユリア   剣士   三級 女

 とチームを組んで依頼を受けている日々だ。先日ようやくジョス・ネムセル・ウラニエ・フォランティエの級が上がった。

 ユリアはあと少しで四級になれると言っている。

 俺とスジャータはあと一年くらいやらないと五級への推薦を受けられないとギルドでは言っている。


こういう感じで旧エルラン帝国民の山東半島開発が進んでいくというのを列伝としてみたいと思います


次回 一月五日 05:00予定

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