KD航路 新顔
貿易始まりました。
概要で終わりで、人物は台詞は出ません。
短いです。
KD航路に新たな船が現れた。
タンカーとバラ積み貨物船である。前者は原油をディッツ帝国へ。後者は石炭をディッツ帝国に運び帰りにはアルミ地金を積んで帰るのだった。お茶を運ぶ貨物船とは分けられた。なぜなら問題が有って、石炭の後はどう掃除しても帰りの荷が汚れるのである。多少シートをしても隙間から入り込んでしまう。
お茶専用船は綿花・綿糸・綿織物、少々の酒を積んで帰ってくるのだった。紅茶の他に緑茶・ほうじ茶・抹茶などを提案してみたがどうもお気に召さなかったようだ。
綿花と綿織物は問題なかったものの、綿糸は地球の規格と微妙に太さが違っており日本側が合わせるかディッツ帝国側に日本向けとして専用の設備・規格で作って貰うかは検討中だ。
今、通産省は日本酒や壽屋のウィスキーを輸出できないか検討中である。ビールには似たものが有ったので、焦ることはないとされた。
ただ、壽屋自体は乗り気ではなかった。生産設備の関係でとても輸出できる量が作れないのである。日本酒やワインなら仕込んだ次の年には出荷できるがウィスキーは違う。何年か寝かせる必要がある。
そこで壽屋は、北海道の余市でウィスキーを造るべく開発をしている蔵を通産省に紹介した。そこの社長はスコットランドへ修行に行った人間で社長夫人はスコットランド出身だ。国外と取引するならそういう人材は貴重であろうとも。
接触当初、出雲丸が生糸と絹織物をディッツ帝国の商人に見せていた。彼等にも絹織物はあったがここまでこだわった物は無かったようである。*見せたのは加賀友禅、有田焼、輪島塗、ノリタケなど。真珠も見せていた。
加賀友禅は着物として各種留め袖と振り袖、訪問着でありモデルは出雲丸女性パーサーであった。彼女たちは恐らく一生着ることが無いと思われた超高級着物に恐れおののいていたという。汚したら首?弁償?無理、絶対無理。と言っていやがったという。(注) その代わり真珠のモデルの時は、率先して行ったらしい。
商人や招待された人達はその美しさに目を見張ったという。
ただ品質や美しさは素晴らしいものの、図柄が彼等にはうけなかったのとその驚くべき価格に手を出すのをためらったらしい。
有田焼や輪島塗も同じだった。
うけたのはノリタケであった。ノリタケの洋食器である。真珠もその輝きが女性には注目されたが養殖と知られると敬遠された。天然信奉は強いようである。
飲食物は人種的影響が分からないとして遠慮をした。紫原中佐を初めとする駐在員の身をもって試しているところであるが、特段の影響は無いようである。
ディッツ帝国から切に要望の強かったカヒの原料であるコーヒー豆であるが、レンネル島で商業的な採取を開始。またコーヒー農園を作るのであった。味は、そこそこ良いという判断だった。今後の品種改良が期待される。農園の人手はキナム教国で迫害されていた人達を連れてきていた。解放されたとは言え未だに他の人間を見ると怯えるような感じで、ここで集団生活を送り心を落ち着かせるのと共に安い労働力としていた。
マラリアに当然のごとく感染するのであるが、キニーネの投与でかなり軽快した。ただ副作用もあり過剰な投与は控えるよう言っておいたのだが、当初は用法が良くわからなかったのか重篤な副作用に苦しむこともあったという。予防薬として飲むにも味がとにかくまずく(注二)飲まなかった事例も多数あったようである。
マラリアは旧エルラン帝国やササデュール共和国は勿論のこと、ディッツ帝国に存在していた。
当時のマラリアに対しての薬はエルラン帝国やササデュール共和国の人口を支えるだけの量は有ったのであるが、ディッツ帝国の人口が多すぎて足りなかった。ディッツ帝国の抗マラリア薬は植民地で作られており当然こちらの世界にはなかった。在庫だけであるが三年分を確保していたのである。
そしてそれが無くなりかけていたところへ日本との接触であった。レンネル島で日本が抗マラリア薬としてキニーネを持っていることを知ると、ディッツ帝国の医師が売ってくれと言ってきた。
事情を聞くと在庫が少なくなっているらしい。日本は売却を快諾した。何しろ一九四〇年当時で世界第二位のキニーネ生産量を持ち輸出もしていたのである。新たな輸出先を確保した業者はホッとしている。
もう一つ重要な輸出物があった。蚊取り線香である。日本の誇るあのグルグルである。
日本の蚊取り線香ですぐ落ちる蚊と違い、南方の蚊は根性があった。有効成分を数倍にして南方で効く物が作られた。(注三)
これもディッツ帝国向けの重要輸出品になった。
対してディッツ帝国からは、アルミ地金と綿製品の他は酒と小麦が主力であった。
酒はワインとブランデーが主でシードルは少量だった。味はフランス産の物に対しても引けを取らなかった。後に日本でワインとブランデーと言えばディッツ産となっていく。日本で消費される綿は全てディッツ帝国産となった事もあり、これでは不味いとシベリア大陸で栽培を始めた。
正式な国交はまだ無いが、経済の方が先になるのはどの世界でも同様のようである。特に近代国家は産業に占める地下資源が重要なファクターを占めており、不足イコール国が傾くと言うことであった。
この先もお互い手が届く範囲で唯一の近代国家と言うこともあり、貿易は盛んになっていくのである。
ディッツ帝国ではクロム、日本ではニッケルが不足していることで、バーター取引に出来ないか現在交渉中である。日本の方が金額ベースで多くなりそうなので、日本は原油代金も含めての相殺に持って行こうとしている。日本のクロムは南アタリナ島で最初の発見されたアレである。
他にも幾つかの地下資源が交渉のまな板に上がった。
ディッツ帝国に運ぶ原油のうち、いくらかは洋上でディッツ帝国のタンカーに引き渡された。最初に交渉したあの島付近の海上で行うのである。往復で二日ほど近くなるので歓迎された。
情報によるとディッツ帝国では日本の軍艦から商船までの船形を観察しており、外洋型の艦隊と商船団を作るつもりらしかった。
貿易上手くいけばいいのですが。
注 今の金額で推定四〇〇万円くらい?肌着から帯まで一式の着物と足袋と草履です。庶民ならビビりますよね。かなりの上物を持って行った模様。
注二 ゲロまずの模様
注三 事実らしいです。金鳥のHPに合ったと思います
次回 十二月二十六日 05:00予定