KD航路 日本 遂に原油輸出国になる
憧れの産油国?
サブタイトルにKD航路と付けました
その場所はパニックだった。
おかしいのだ。明らかに出すぎである。
せっせとポンプで吸い出していたはずが自噴てなに?
バルブを閉めたら一本吹き飛んで辺り一面真っ黒で刺激臭が漂う。勿論火気厳禁である。
さっきもタバコに火を付けた奴を殴り倒した。そう全員でだ。誰もが火だるまになりたく無い。
「所長、早いとこタンカーが来ないと不味いです」
「あとどのくらいの余裕だ」
「二日後には全てのタンクが満タンになります」
「もっと絞れんか」
「今でさえ限界近いです。先ほども1箇所継ぎ手のパッキンが破損しました。むしろ緩めないとまた吹き飛びます」
「なんでこんな事に成ったんだろうな」
「皆で天照様が頑張りすぎたせいじゃないかと」
ここらは日本の北限であり、恐らく旧来の地面と日本の地面の境目で圧力が掛かっているのでは?と言う意見があった。本当のことは誰も分からない。
「神様じゃあ、文句は言えんか」
「はい。ですからタンカーが早く来ないと」
「タンカーは速くて明日の早朝だと」
「でかいのじゃ無くていいですから、数が来てくれれば」
「小さい奴じゃあ、あそこら辺に漂っている流氷に負けるだろ」
一面に漂う流氷を見渡す。こんな事態で無ければ一見の価値がある。
「まだ凍結期では無いだけ良かったという事ですね」
今は日本時間正和二〇年〇一月、転移歴〇三年〇六月のことであった。この地では春を迎える時期だ。転移歴で一月二月三月は真冬だ。全面凍結する。五月になって大型タンカーが流氷を押しのけながらやってきた。このタンカーも外板の厚い特別仕様だ。通常のタンカーは七月になってやっとやってくる。
これから十六月までの十一ヶ月間がタンカーの運航できる期間である。通常のタンカーは七月から十五月初めまでだ。
先日また歴が変わった。一年四百六十日とし一月は十日で後は一ヶ月三十日とした暦だ。早いとこ確定してくれんかなと皆が思う。一年が十六ヶ月になった。
オホーツク海が凍結する時期は油井を絞って地上タンクに溜めておくだけだったが、転移後何故かタンクが増えていた。いわゆる神タンクである。元々冬季の海上輸送停止を考えていてタンクは多めになっている。五十万トンが備蓄可能だった。それが倍になっているのだ。日本各地にこのような神・・・と名が付く物が多数あるそうな。
「所長、海軍からですが大きな流氷は艦砲で壊しながらタンカーを護送してくると言っています」
「そこまでやってくれるのか。こちらとしては助かるが大変だな海軍さんも」
「やってくるのは日向だそうです」
「戦艦じゃ無いか」
「ついでに精製済みの船舶重油を腹一杯にすると言っています」
「じゃあバースは空けないといかんか」
「来るのはタンカー三杯と戦艦と駆逐艦だそうです」
「順番は何か言っていたか」
「戦艦を先に給油、その後駆逐艦だそうです。タンカーは最後だと言っています」
「まあいいが、四基のバースを全部使うぞ。三基はタンカーで一基は海軍さんだ」
「了解です」
特別仕様のタンカー三杯が船腹一杯に原油を積んで出航した頃海軍さんがやってきた。吃水がやけに上がっているじゃ無いか。砲弾が減ったのと重油タンクが空らしい。
タンカ-をバースに付けた後、日向が接岸した。タグボートは苦労している。初めての戦艦である。かなり重いらしい。
日向の艦長がやってきてバースは二基じゃ無かったのかと問うが、二基は転移後増えていた、いわゆる神バースだというと納得していた。そこら中にあるらしい。未だ混乱は収まらないのであった。
海軍とタンカーは原油と重油を腹一杯にして帰って行った。これで前に出た三杯のタンカーと併せて六万トンが減った。積み込んでいる間に二万トン増えたが。都合四万トン減った。早く次の便が来ないと大変だ。
季節の移ろいと共に小型のタンカーもやってくるようになった。こうなるとバースの順番待ちも出てくる。タンク群は最近ようやく十万トンの空きが出るようになった。もう少し余裕を持ちたい。噴出事故で原油が混じった土砂はようやく撤去が終わり、今は北千島でせっせと焼却処分中だ。風向きによっては真っ黒いカスが落ちてくる可能性がある。人気のないところでやって貰わないと。
砕氷タンカーの建造も始まっているらしい。突貫工事らしいが就航後が不安だ。
前泊までのパイプラインは現在三百キロメートル進んでいる。所々の軟弱地盤が工事の進捗を妨げるらしい。噂ではドワーフや獣人達を高給で釣って作業員に混ぜているらしい。
間宮海峡側には既にパイプラインは伸びた。ただ資材的に直径の大きい物は間に合わなかったので少し細い。流動性を確保するための保温対策も完成するようだ。
そして連日のようにタンカーがやってくるようになった。聞くとディッツ帝国に出荷するという。月二十万トン以上を出すという。これならタンクは空きが出る。冬になってもタンクが持つかも知れない。
遂に日本が石油輸入国ではなく石油輸出国になった瞬間だった。
紫原中佐は久しぶりに日本へ帰ってきていた。
軽巡に無理を言って水偵を出させ、後席に乗ったのだ。零式三座水偵なら届く距離まで軽巡で行き、そこからガダルカナルへ向かった。ガダルカナルでは期待の大艇は居なかった。仕方がないので呼び寄せる。水偵はここで軽巡を待つという。
ガダルカナルまで二日だった。飛び寄せに一日。その日は大艇の補給と整備で翌日、離水。大阪に着いたのは五日後だった。現状ではこれ以上早くしようがない。連絡用だけのためにガダルカナル島に大艇を置くわけにはいかなかった。山下少将に言って大艇を二機買って貰おうと思う。護衛艦隊所属でだ。
「紫原、久しぶりだな」
「少将もお元気そうで」
「用はなんだ。これでも忙しい」
「ディッツ帝国で地下資源を輸入したいとのことです」
「輸入だ?」
「はい。どうも地下資源の探査が上手くいっていないようです。備蓄が尽きる前に輸入したいようです」
「なんと答えた」
「石油と石炭なら可能だろうと」
「オハか」
「そうです。後は国内の炭鉱が石油に押され暇になっているとも聞きました」
「鉄道がな、蒸気を止めてディーゼルに換えている」
「蒸気の方が馬力が有るのではないのですか」
「最近のディーゼルは強力だと。それに蒸気は色々と設備が必要で手間が掛かると言うことだ」
「確かに一回蒸気を落とすと大変ですからね」
「機関長の苦労もわかろうというものだ」
「で、どのくらい欲しいのだ」
「一応石油なら月二十万トンと言っておきました。石炭は分からないと」
「うん、それでいい。では通産省に行こうか」
「はい」
「私が通産大臣谷中源三郎です。こちらは次官の大江賢次です」
「移住者護衛艦隊司令官山下少将です。こちらはディッツ帝国駐在武官紫原中佐です」
「して、どのようなお話でしょう」
「ディッツ帝国で地下資源を欲しています。特に燃料関係」
「ほう」
「紫原」
「はっ。ディッツ帝国の内情はご存じかと思います。このランエールに来るときに海外資産と植民地・属国を全て失ったと」
「存じています」
「南の大陸を制圧したのですが、地下資源の探査が上手くいっていないようで、燃料関係の備蓄が尽きそうだと」
「初めて聞きますな」
「私も聞いたのが六日前です」
「ではかなり急いでこられたのですな」
「最短で5日かですから。それで石油を二十万トンとりあえず緊急で出荷して頂きたい。航路の護衛は護衛艦隊が引き受けます」
「お待ちください」次官が言った。
「原油なのですか。精製済みの製品なのでしょうか」
「原油です。こちらが資料になります。日本と規格は違うようで精製済みの製品を持って行ってもすぐには使えないでしょう」
「確かにこれなら原油で持って行った方が良さそうですね」
「大江君、どの程度出せるね」
「月五十万トンまでなら可能ですが、タンカーが足りなくなりそうです」
「そう言えば十八ノットで二週間でしたっけ。少将」
「直通なら十日です。移住者の精神的安定のために途中二日の休憩を入れます。休憩無しなら十日です」
「ディッツ帝国まで行くのですか」
「いえ、行くのは最初だけで、途中からは赤道多島海で向こうの船に積み替えようかと思います」
「口金の規格は違いますよね」
「そこは工事します」
「場所はどちらですか」
「マライタ島です。南部中央に水深三十メートルの湾があります。そこで停泊して行います」
「距離が良くわからないのですが」
「オハからはおよそ七千キロ、ディッツ帝国からは四千キロです」
「そんな距離を十日で行けるものなのですか」
「十日はカラン港からです。オハからだとさらに四日掛かりそうです」
「では遅い船だとさらにですね」
「勿論です。ですから現在十八ノット巡行が可能な優秀船のみで運行をしています」
「遅い船でも大丈夫なのですか」
「とりあえず第一陣は足の早い船にします。次いでマライタ島までは遅い船でも大丈夫です」
「それならいいかな。大江君運輸省に問い合わせてくれ」
「畏まりました」
大江が退出した。
「さて、他には石炭ですかな」
「そうですね。出来れば月三十万トンとなっています」
「現在の国内需要の一割強ですな」
「可能でしょうか」
「可能か不可能かと言われれば、可能であるとお答えいたしましょう」
「では」
「いえ、その前に船がありません」
「船?」
「優秀船が皆移住者用に改装しておりますよ」
「そうでした。では遅い船で行きましょう。外航船は空いていますでしょう」
その後大江が帰ってきて、運輸省の了解が得られたと言った。
石炭は一時期輸出国だったのですよ。
次回 十二月二十一日 〇六:〇〇予定