KD航路 カムラン港
南では
サブタイトルにKD航路と付けました
ディッツ帝国カムラン港では今日もまた、移住者の集結そして日本船団への乗り込みが行われていた。
紫原中佐はもう何回目かになる見送りをしていた。いつも思うのだが俺を船に乗せろ。
思えば、あの初期の接触で選ばれてしまった不運よ。アレさえ無ければ未だ雪風艦長で居られただろう。
最近は一回三千人と決まっているが、始めた頃は酷かった。
どれだけ運べるかと言って、一万五千人とか言う人数を運んでみたら、非効率の極みだった。カムラン側の上船待ちで三日、それ以前に集結しても宿舎が無いので野宿とか。集められた人間には悪いことをしてしまった。さらに途中の休憩でも同じ事が起こった。極め付けはカラン港である。上陸に四日掛かった。
奥の開拓地に行くのにも足が無く、カラン港宿舎が空になるのに一ヶ月以上掛かったという話だ。
現在は一回三千人として月四回、計一万二千人がカラン港に向かう。
年でいけば十七万人近くがシベリア大陸に向かうことになる。順調に行けば、最大でも十年以内に移住作業は終了することになる。その前には配置転換があるだろう。あって欲しいな。
最近は、シベリア大陸側で受け入れ体制の拡充と開拓地の拡大もあり、かなりスムーズにはけていくと聞いた。
一部では一回当たりの人数を増やそうかという話もあるようだ。いやそれは違うぞ。回数を増やすようだ。護衛艦隊の充実をもって、月四回を月六回程度に増やすと。
また船会社としては単独航行の方が効率よいので、海軍や移住者護衛艦隊にお願いをしているようだが、未だに周辺の安全確認が出来ていない状況では船団での運用は続けられるだろう。傭船料や油は全て移住者護衛艦隊持ちだ。無理に単独航行しない方が良いと思うがなと紫原は思う。
そこにこの問題である。最初の百五十万人と言うのはなんだったのだろうと思う。
問題は、獣人・エルフ・ドワーフ達が増えていることだな。大陸の何処かに隠れていた連中や山奥にいた連中だ。カラン村の人間と接触した移住者達が戻ってきて、彼等を説得しているという。一緒に行こうと。
エルラン帝国時代の推定では二百万人以上三百万人以下という振れ幅が大きい推定人口だった。これは戸籍制度や租税制度の問題であり、完全な人口の把握は地球でも困難だったのである。
エルラン帝国の租税制度が人頭税と売上税が主体なので子供の数を少なく申告するというのは常套手段である。地方領主も手間を考えると細かく調べることがなかったし、今まで問題なかったのでこれからも問題ないだろうという考えだった。
さらに普人族も旧エルラン帝国民を中心として数十万人規模で移住希望が出されていると聞く。
ディッツ帝国は人口一億二千万人を数えており、大陸を実効支配できれば大陸先住民が減っても問題ないという考えらしい。
実際には出来れば出て言って欲しいのが実情だったが。
ただこれに対しては一部の知識層から旧住民の見識は是非必要で有ると言う意見が出され、政府上層部で協議中である。こちらに非協力的である旧エルラン帝国の人間は全て移住させ、協力的なササデュール共和国住民やケルツ国民は残そうという案が主流で有ると言う。キナム教国はフェザー平原を取り上げた後に旧聖都キナムより西に封じ込めるという方針だった。これはササデュール共和国が実行したことで、キナムは更地にされていた。聞けばかなり過激な宗教であり、人種差別と選民思想が行き着くところまで行ったという感じの宗教だという。教国内でも人種差別と弾圧が激しくササデュール共和国軍が制圧した頃にはまともな思考能力と行動力を持つ人間は国外に出て行った後だったという。残っていたのは抑圧された人達と特権階級の司祭達と狂信的教徒だった。武力としての聖騎士団はすりつぶされて跡形も無かった。
これを聞いたディッツ帝国では即座に禁教としたほどである。ササデュール共和国軍と共に抑圧された人達の救出は行ったが、皆精神的に追い詰められており保護したものの扱いに困っているという。
その際に狂信的な人達との激しい戦闘が有り、一方的に殲滅したという。
部族連合はこちらに過度の干渉をしなければ大陸の覇権などどうでも良いという感じであったので、そのままにしておいた。ただし、日本とカラン村のことは伝えてある。希望者がいればディッツ帝国が取り持ってくれる手筈になっている。
紫原中佐は大陸中を駆け回ったと思った。自動車での移動はもう御免して欲しかったが、ディッツ帝国外では鉄道が無く自動車に頼るしか無かった。
「紫原中佐、実はお願いがある」
「なんですか、シュタインメッツ子爵」
「お恥ずかしい話なのだが、資源が枯渇し始めているのだ。日本から提供して貰えないだろうか」
「枯渇ですか。それはまた深刻な悩みですね」
「深刻なのだ。我が帝国は豊富な産出量を誇る地下資源の多くが本国外に有ってな。帝国がこの世界に飛ばされたときには付いてこなかった。帝国内でも産出はするが絶対量が足りない。協力しては貰えないだろうか」
「正直に話されますね。日本としても協力は出来ると思いますが、まずは本国に確認してみましょう」
「よろしくお願いする。これがリストだ」
「早いですね」
と言いながらチラ見をする。主に燃料関係か。
「余り余裕が無い。この大陸を制覇したのも地下資源を求めてと言うのが実情だ」
「無いのですか、この大陸に」
「それが分からないのだ。小さな鉱山はあるが、どうも本格的な調査がされていないようで、どこにどの資源があるのかさえも分からないのが現実だ」
「調べてはいるのですよね」
「当然だ。だが三年やそこらで調査が終わるわけも無く機材も多くが海外に在ったので、はかばかしくないのだ」
「ふーむ。そうですね、貸しで行きましょう。将来的に採掘量が増えれば現物で返却して貰って結構です。恐らく本国でもこのくらいなら許可が出ると思われます」
「恐らく石炭と石油はすぐに許可が出るでしょう」
オハの油田がとんでもない事態になったのは聞いている。原油があふれ出るというのだ。油井を絞っても地面から流れ出るらしい。現在は他の油田の生産を絞ってオハの油を全力で採掘している。それでも湧出に対してギリギリであり、また国内の備蓄に回すにも既にタンクは一杯のところが多かった。これ以上は海軍に一生懸命消費して貰おうかという冗談まで出るという。
下手をするとオホーツク海や間宮海峡まで流れ出しかねない。深刻な海洋汚染を引き起こす危険があった。
冬季のオホーツク海凍結になる前にパイプラインを前泊まで設置しようとしているが総延長八百キロを超える大事業だ。
それに南方で油の固まる心配が無い南アタリナ島と違い保温装置も必要だろう。いつ完成するのか。
間宮海峡側なら流氷は来ても凍結は遅いので間宮海峡側に沖桟橋を作り積み出し港にする案も実行に移されるという。事態は緊急を要していた。神倉庫にも事情を話して受け入れて貰ったが、もう少しで引き出した量と同量に達するという。
紫原の所にもディッツ帝国に売れないかという打診が来ていた。
何か都合が良すぎる気がする。紫原は思う。
「それは有り難い。どのくらい供給して貰えるのだろうか」
「少しお待ちください。調べてきます」
本国からは出来れば月間十万トンから二十万トンという打診を受けていた。これが国内で消費しきれない分だった。出来ればこれ以上という話だ。
転移前の節約から一転して浪費しろという話だが、常に節約してきた人間がいきなり浪費しろと言っても無意識に節約してしまうので消費量は中々増えないと言ってきている。
「お待たせしました。原油を月間二十万トンは可能であると資料にはあります」
「二十万トンですか。有り難い。いつ頃供給されます」
「そうですね。今の船団が日本に着いてからの話ですので四十日後くらいかと」
「是非お願いしたい。本当に将来の補填でいいのか」
「かまいません。こちらはそちらの懐事情を知っています。無理に払えとは言いません」
「本当に前皇帝は祟ってくれる。いやこれは失礼」
「それで油質ですが、お分かりになりますか」
「油質とは?」
「そうですね。硬いとか軟らかいとか不純物が多いとかですね。こちらを渡しておきます。専門家なら分かるでしょう」
「では預かるが良いのか」
「よろしいですよ。事前に精製施設の調整も必要でしょうし」
シュタインメッツ子爵は何度も礼を言って帰った。
さて、今度の入港は明日か。水偵を赤道多島海に飛ばして貰ってガダルカナルから長波で大艇を呼び寄せてと、日本まで五日かな。ガダルカナルに都合良く大艇が居るとも思えん。
ご都合主義か
溢れる原油は天照大御神が頑張りすぎたせい?
次回 十二月二十一日 05:00予定