交渉
今回は短いです。
書きかけとも言う。
事情が出来てしまいまして、これで。
こちらの世界での挨拶は知らない。カラン村や元帝国民達から聞いた礼儀作法でよかったのだろうか。
とりあえずは険悪な表情をされなかったので良しとしよう。
佐々は思った。
「此度はボラール一匹丸々の進呈だと言うの。これは連邦政府への贈り物だと」
「如何にも」
「そなた達はセーラムで色々やっているようだが、こちらの政治状況を知っての事であろうな」
「勿論でございます」
「それはどちらにも与しないという事で良いのか」
「はい」
「私としては立場上有り難いと言っておこう。ただ聞きたいのは何故どちらかに肩入れしない?」
「私たちはこの国の事を何も知りません。軽々とどちらかの勢力に与することは避けたいのです」
「連邦主席として、礼を言う」
「有り難く」
そこへドスドスという感じで入ってきた男がいた。レオン・ガンベタ外務卿である。
太い。全員が思った。しかも悪趣味な光り物を多数身につけている。日本側が誰だこいつと思ったのは間違いない。
そして、いきなり日本側を無視してしゃべり出した。
「主席閣下、日本なる失礼な国が我が国と国交を交わそうとしていると伺います。いかにお考えか。お答えによってはガンベタ一族の力を持って日本なる国を攻め滅ぼさんと思いますぞ」
主席は思わず右手で額を押さえた。セルネルカ卿とダイクストラ卿は思わず天を仰ぐ。同席している法務卿ジュリオ・メディチ侯爵は唖然としている。軍務卿アレックス・ファンラード伯爵はゴミを見るような目で見ている。工部卿キース・エンメルカ侯爵はこめかみに怒りマークが浮かんでいる。顔は真っ赤だ。
そうキース・エンメルカ侯爵はエンメルカ侯爵家の勢力を代表するエンメルカ侯爵家当主だった。
彼が怒り狂うのは、外務卿はエンメルカ派閥だったからに他ならない。
「外務卿、私は発言を求めていないし許してもいない。静かにするように」
「しかし」
「くどい」
「・・・」
主席はエンメルカ侯爵を見る。侯爵は頷き首を切る仕草をする。主席が頷く。外務卿が首になった瞬間だった。物理的なのか、役職的なのかは知らない。それは侯爵の決めることだった。
エンメルカ侯爵はガンベタ侯爵を押し込んできた連邦東部の王国から「事件を起こしたら罷免するなり処刑するなりご自由に」と言われたのを思い出した。厄介払いをしたかったのかと今になって思い出した。
「衛兵、外務卿を退出させるよう」軍務卿が言った。
衛兵は主席を思わず見るが、主席が手で払う仕草を見せると「外務卿、こちらへ」と言って強引に退出させた。
「主席、このようなことをすると後悔しますぞ」三下の台詞だった。
「日本の皆さん、此度は斯様な事態になり申し訳ない。ついては日を改めて協議したいがどうであろうか」
「主席閣下、我々はこのまま協議に入りたいと考えます」
「さようか。ではこのまま続けよう」
「では失礼しまして、日本の基本姿勢をお知らせいたします」
連邦主席を始めとする各閣僚は頷く。
「日本としては極力ギルガメス王国連邦内の問題には関与したく有りません。これは行き過ぎると内政干渉になるからです。ご理解いただきますようお願い申し上げます」
「うむ、分かった。大変結構である。では続けたまえ」
「我が国の軍事力を背景とした交渉も行いません。実力行使はできるだけしないことが最優先の命令として出ております」
「実力行使をする場合が有るのか」
軍務卿としては当然の質問だった。
「反撃ですね。こちらからの先制攻撃は出来る限りしない。民間人への被害は最小限に抑える。これが方針です」
海軍の飯島少佐が答える。
「先制攻撃の場合も有ると言うのか」
再び軍務卿が問う。
「あくまでも我々日本にとって危険とみなされる場合に限ります。大規模な魔法攻撃に対する、先制攻撃の場合であるとか、です」
「情報によると凄い艦隊のようだが、魔法攻撃は危険なのか」
「魔法攻撃を受けたことが有りません。こちらに対する威力、それによる被害。全く分かりません。危険であれば排除するのはお分かりいただけるかと思います」
「理解できるが、魔法を見たことが有るのか」
「有りますし、艦隊には魔方陣を発動できる者もいます」
「その者は魔法使いでは無いのか」
「いえ、単独で魔法を使えません。あくまでも魔方陣を利用できると言うだけです」
「少し時間が欲しい。こちらで協議するので休憩に入ろう」
主席が言った。
次回は交渉の続き
一応、十二月十二日 05:00予定