連邦首都
エンキドへ
本日これ一本
その男は日本外務省東地域統括局長、佐々成重と名乗った。
その男の後ろには、同じ服を着ている三人の男とどう見ても軍服だろう五人の男がいた。
そのうちの三人はどう見ても護衛の類いだなとダイクストラは思った。
「こちらこそお初にお目に掛かる。私はギルガメス王国連邦商業卿のダイクストラであり、こちらは同じくギルガメス王国連邦財務卿セルネルカである」
「ダイクストラ卿、セルネルカ卿。私は貴国と国交を結べないかと思いやって参りました」
「国交でありますか。しばし、お待ちを」
(ダイクストラ卿、外務卿はどこにおいでかな)
(エンキドであろう。だが、外務はお飾りも良いところだぞ)
(確かにそうですな。相手はガンディス帝国とラプレオス公国だけみたいな物ですから)
(あやつにあのような船で押し寄せてきた連中の相手が出来ようか)
(無理ですな)
(では、我々でここは収めてエンキドでとなろうか)
(それがよろしいかと思いますな)
「佐々殿、まずはお話を伺いたい。こちらへどうか」
「その前にです。失礼をしました。忘れておりましたが、こちらボラールの魔石です」
後ろの軍服が二人で重そうに持っていたのは魔石の入った容器らしい。
「おお、それはたいそうな物を。ありがとうございます」
「おい、君、こちらの荷物を受け取ってくれ。連邦財務局保管庫に入れるまで護衛を頼む」
「はっ、了解です」
(しまった。セルネルカの奴)出し抜かれたダイクストラだった。
しかし、商業局よりも財務局の方がこういう物を保管するには正しいと思い我慢する。
「では佐々殿、あちらの急作りですまぬがテントがあるのでお招きしたい」
「ありがとうございます」
「私の他に随員が八名おりますが一緒でよろしいでしょうか」
「かまいませぬ。どうぞ」
「それでは」
その間に騎士達が荷物を受け取る。厳重に警備されるだろう。何しろボラールの魔石だ。
ふと船を見ると河原にはものすごい人だかりだった。あんな船が来れば見に来るか。そうだな、他に何か取引というか挨拶代わりになる土産が無いか探ってみるか。これでも商業卿だしな。ダイクストラは思った。
「さて、国交と言われましても日本という国のことを知らないのです。教えて頂けませんかな」
ダイクストラが聞く。
「はい、まずこちらの資料をご覧下さい。共通語で書かれていますので大丈夫なはずです」
「共通語ですか。有り難い。では、拝見します」
(おい、セルネルカ卿。人口が七千万人となっているぞ)
(西三国全部と同じか。大きい国だな)
(陸軍はたいした数では無いな。しかし、この海軍はなんだ。とんでもない数では無いか)
(陸軍が少なければ攻めてくることは無いか)
(海軍に海上封鎖されぬか)
(それがあるか)
(それにこの転移してきたというというのはな)
(あんな国が他にも有ったか。どうする)
(聞いてみるしかない)
「佐々殿、伺いたいのだが、転移してきたとはどういう事なのだろうか」
「それですが。実は住んでいた世界が破壊されまして神の助けでこの世界に受け入れて貰いました。ですから、この世界の方とは出来る限り仲良くしたいのです。受け入れてくれたランエールの神々と助けてくれた神々の顔に泥を塗るわけにはいきません。皆様と仲良くしようというのが国の方針で有ります」
「さすがに信じられませんが、友好的にと言うなら我がギルガメス王国連邦も国交を結ぶのはやぶさかではありません」
「では、外交を結んで頂けると」
「いや、我々には決定権はありません。確かに国の要職ではありますが外交となると別の話です」
「分かります」
「では、あなた方を連邦首都までご招待いたしましょう」
「ありがとうございます」
「お連れの方達八名でよろしかったですかな」
「はい、私を含めて九名です。いつ招待して頂けるのでしょうか」
「今からでも」
「では、荷物がありますので、一旦船に帰らせて貰います」
「そうですな。もう暗くなる。連邦首都まで夜行はしたくありません。明日、朝もう一度ここに集合しましょう。船着き場の物には言い聞かせておきます」
「明日の朝ですね。分かりました。では本日はこれにて失礼します」
「良い夜を」
?「良い夜を」
「良い夜を」と言うのは日本で言えば「おやすみなさい」と「明日もまた」を合わせたような意味合いなのだが佐々に判るわけも無く、ただ反射的に答えただけであった。
佐々達は第十六鳥島丸に戻り一夜を明かすことになる。大発艇の乗員も交代しながら第十六鳥島丸で夜を明かすようだ。
翌朝、船着き場に顔を出す佐々達一行。第十六鳥島丸はここで待つようだが、河川航行の邪魔ということで少し離れた位置に行くようだ。
一行は馬車に揺られながら連邦首都エンキドを目指す。
一行は馬車の乗り心地に驚いた。凄く良いのである。板バネらしき物は見えたのでそれなりの乗り心地だろうと予想していたが、予想以上に衝撃も伝わらず落ち着いた乗り心地だった。
「佐々さん、この馬車侮れないですよ。この乗り心地は素晴らしい」
佐々の部下である外務省東地域統括局課長田中一郎が言う。
「そうだな。もっとガツンガツンした乗り心地だと思った」
「この構造の秘密は教えて貰えないでしょうか。これフォードよりもいいですよ」
通産省から来ている課長級職員の津田恒雄が言う。彼はもし文明圏と接触したなら出来る限り技術情報を持ち帰れと命令されたいた。
「確かにそうですな。日本で乗る馬車とは次元の違う後心地だ」
内務省からは法制局課長級職員である吉田保が来ていた。
「吉田さんは馬車に乗ったことが?」
「ええ、田舎ではまだ現役の所もあります。農家では牛車と共に主役のところもまだまだ多いですよ。実家も牛車で街へ出て下肥にする材料を大根等の野菜と交換で貰ってきています」
「下肥の材料って、アレですか?」
「アレです。肥溜めで正しい発酵をさせれば大丈夫。と、聞きました」
この時代化学肥料が出回ってきていると言っても、まだまだ人糞が使われているのであった。
「吉田さんも?」
「ええ、小学生の頃はともかく中学生は労働力ですから」
津田が話題を変える。これ以上は話題にしない方が良さそうだった。
「そう言えば、護衛兼交渉役の海軍さんと陸軍さんと別れましたがいいのですか」
「彼等は問題ないと言っていましたよ」
「問題ないですか?襲われたらどうするのでしょう」
「周りを連邦騎士団に囲まれているのにですか」
「いえ可能性として、その連邦騎士団に襲われるとかは」
「ああ、我々が命を落とすですか。または人質と」
「そうです」
「そうしたら、海軍が艦砲射撃で港町を全て吹き飛ばすとか言っていました。航空攻撃で首都や大きな都市を攻撃するとも」
「過激ですね」
「最初に艦隊は見せてありますので、無碍に扱われる可能性は低いと思われます。ただし、現実が見えない勢力はどこにでもいますから」
「本当にやるのでしょうか」
「海軍さんは「ブラフだよ」と言っていました。「多少はやるが全力ではやらん」と」
「ならいいのですが。せっかく国交を結んでくれそうな雰囲気です。台無しにはしたくない」
「彼等次第だと思います。我々は仲良くしたいと言った。彼等がこちらをどう相手にするかは分かりません」
「上手くいくといいですね」
「「本当に」」
「おい、これ機動乗用車よりも乗り心地がいいぞ」
「いやそんな物じゃ無い。偉いさんの乗るフォードよりいいぞ」
「どうなっているんだろうな。板バネ風には見えたが」
海軍から来ている飯島秀典少佐は、陸軍の西河幸司少佐と話していた。
「俺の戦車もこのくらい乗り心地が良いと良いな」
「戦車に乗り心地か」
「それがな、距離を移動すると疲れが違うんだ。分からないかな」
「分かる気がする。駆逐艦よりも巡洋艦、巡洋艦よりも戦艦の方が疲れない」
この馬車には彼等の他に海軍少尉と陸軍少尉に海軍一等兵曹がいた。彼等はだんまりだ。一等兵曹が少尉二人のお守りであることは明白だった。
昼前に連邦首都エンキドを見た。一度休憩を取る。馬が持たないという理由で。
一行はキドレン河の船着き場からほぼ一直線の良く整備された道を通ってきた。
エンキドは連邦成立後に作られた行政の街で年月を経て今の形になったという。
道も川沿いにうねった道が有るだけだったののを広い直線道路を作ったという。この広い直線道路が流通にもたらす意味は大きく、以降、各地に同じように広い直線道路が作られるようになったと言うことだ。ただし、余りにも単調な道に眠ってしまう御者や速度を出しすぎる馬車も多く事故が絶えないという。いずれは改修されるだろうと。
休憩した場所も街道沿いの各地に作られた休憩所だ。馬という理由と供にここから連邦首都を見せたかったのかも知れない。
昼過ぎにキドレン中央の大通りへ出る。広い。幅は五十メートルありそうだ。キドレンのほぼ中央、通りの西に連邦議会と主席官邸があるという。
かなりの賑わいである。政治都市として作られたがかなり商業も盛んである。連邦中や国外からもかなりの商品が集まる。後で時間があれば案内しようと言われた。
そして一行は連邦主席官邸に到着した。
「そなた達が日本という国からやってきた者であるのに違いないか」
「はい、その通りにございます」
「私が連邦主席、カルロ・デ・マロイスである」
一行は連邦主席から挨拶された。
連邦主席から挨拶を受けました。
どう返すのでしょうか。
次は火曜日です。 十二月十日 05:00予定




