セーラム情勢
厄介なかほりが
11月26日更新予定だった文です。
セーラム沖で接触した船には、以前救助した冒険者チームとセーラムを取り仕切る領主の名代だろう家令が乗っていた。他にも居るが大きな問題は、家令だろう。
「諸君、我々も南遣艦隊と同じような判断をしなければいけないのか」
「司令長官、よろしいですか」
「なにかいい考えでもあるのか、畑中君」
「はい、いい考えではありませんが、ここであーだこーだ言うよりも実際に話してみましょう。そうすれば彼等が何を求めているか判るはずです」
七航戦司令の畑中二郎少将が発言する。
「そうですな。ここでの最高責任者は司令長官です。我々は本国との通信も出来ません。今判断することが重要かと思われます」
艦隊参謀長の大村寛少将は言う。
「よろしいでしょうか」
捕魚母船の船長、細川隆一が発言を求めた。彼は中佐待遇で艦隊に配属されている。
「構わない。良い意見があったら発言して欲しい」
「では。港湾長ですが我々の上陸を拒みました。そして今来た船には港湾長と関係ある者が乗っていないようです。これは現地で勢力争いが有ると見なければならないと思います」
(まあ、普通に考えればそうだな)
頷いて続けるように促す、司令長官木村徐福中将。
「我々が、南遣艦隊のような難しい判断を迫られることはないと考えます。戦力差は圧倒しています。ここはお客さんの希望を聞いて、砲艦外交でも良いのではないかと思います」
「砲艦外交か。何故そうなる」
「はい。セーラム港はギルガメス王国連邦で二番目の港と言うことです。そこを治めるのが男爵では面白くない人間が国内上層部にいるのでしょう。ここは我々が悪役になってもいいと考えます」
「悪役か、つまり男爵と港湾長は悪くないと?」
二十二駆司令の中村幸太大佐が言う。
「そうなれば、彼等の顔を潰すことになりますが、勢力争いからは距離を置けると考えます」
「同時に、彼等の考えが判るか」
四戦隊司令の田中二郎少将が言う。
「そうか、それならば時間は稼げるな。情報を集める時間と考える時間が」
十四戦隊司令古奈川庄司少将が利点を言う。
「だが、後で印象が悪くないですか?」
甲斐艦長相良良一大佐だ。
「そうだな、情報が無いことは確かだ。確かめるためにも彼等を招いてみよう。その後の話し合いで、どう出るかを判断する」
司令長官が締めた。
「「「「はっ」」」」
「では、参謀長。この艦に招待しよう。他は解散だ」
「「「「はっ」」」」
副ギルド長と男爵家家令は呆然としていた。勿論他の面々もだ。自分の理解を超えるものに対しては、仕方が無いと思う。
見るのが二回目のサイデリアの面々も遠くからしか見なかったので近寄って見ると、まさかこれほどとは思わなかった。
「おい、アルス」
「なんですか、副ギルド長」
「これはなんだ?」
「なんだって。彼等の船ですよ」
「私たちに接触してきて乗せてくれた船も充分大きいと思っていました。この船を見るまでにも恐ろしいほどの大きい船がありました。でも、これは大きすぎる。あの大砲はなんですか」
「そう言われても、彼等の船ですし」
「あなたは知っていたの?」
アルマが聞く。
「いっいえ、みっみっ見ただけです」
(おい、リーダー。完全にビビっているぞ)
(無理よ、アルマ女史相手に強気に出られる男は少ないわ)
「そこ!何か言った?」
「「いえ!何でも有りません」」
「それならいいけれど」
彼等は、再び小舟で(今度は甲斐のランチだった)に乗り、甲斐に向かう。
「乗船を歓迎します。この艦の艦長 相良です。甲斐にようこそ」
「歓迎ありがとうございます。乗船許可して頂きありがとうございます。セーラム家家令マクダレフです」
「では皆さんこちらへどうぞ。そうそう、失礼ですが武装は置いていって貰いたい。こちらでお預かりします。艦内は狭いですし、武装の持ち込みは禁止されていますので」
サイデリアの面々とアルマ女史は渋渋武装を預ける。勿論小型の物までは渡さない。外から見える物だけだ。彼等も何も言わないので、これでいいのだろう。
「このように大きな船でも「狭い」ですか」
「はい。客船ではありません。この船は戦艦という船です。戦うための船であり、快適性は二の次です」
「このような船が必要な相手がいると」
「相手が持てばこちらにも必要になります」
地球最大の戦艦で在る事は言わない。
「理解は出来ますが、考えると恐ろしいですな」
「抑止力にもなります。強大な戦力は相手をためらわせるに十分な効果を発揮します」
「理解は出来ますが、良く維持が出来るものだ」
「国家の経済力に裏付けられた物です。経済力を無視してはその先は国家の崩壊しか在りません」
「崩壊ですか」
「そうです。マクダレフさ、殿は男爵家家令とおっしゃいましたな。収入を上回る武力を持てばどうなるかはお分かりのはずです」
「そうですな。他領への侵攻ですか」
「多くの場合はそうなります。ですから維持できる以上の戦力を持たないことです」
「そうですな。分かりますぞ」
「ありがとうございます。さて、この部屋で皆様と話し合いをしたいと思います。どうぞ」
室内には、司令長官の木村徐福中将と参謀長の大村寛少将に複数の参謀がいた。他には橿原丸船長の南雲忠治と捕魚母船第五海新丸の船長、細川隆一がいた。
挨拶の後、席に着いた皆の前に従兵が日本側にはお茶、ギルガメス側には紅茶を配る。砂糖とミルク付きだ。
「さて、有り体に言います。セーラム側として我々に何を望むのか。お聞かせ願いたい」
「いきなりですな。そうですね、セーラム家としましてはそちらの希望に添いたいのですが、反対する者がいまして難しい判断を迫られております」
「国交の樹立と交易が火種になると言われますか」
「まことに」
「あの、すみません」
アルスだ。
「なんでしょう」
「私たちはここにいるのがそぐわないのでは無いかと思います」
(国内情勢に巻き込まれてたまるか)
「かまわないだろう。家令殿」副ギルド長は逃がす気がなさそうだ。
「そうですね、第一接触者として有名ですからね。あちらの手も伸びてくると思いますよ」
(うわ、どうしても巻き込む気だ)
「私たちはただの冒険者ですが」
「ほう、冒険者ですか。話には聞いていましたが、初めて見ました。政治関係者以外の意見も聞きたいので、いてくれていいですよ。専門家以外の意見と言う物は、案外参考になることも多いのです」
航海参謀の吉田中佐が言う。
逃げ道がなくなっていくアルスは諦めた。
「分かりました」
「話は付きましたか。では続けましょう」
「それでは。お恥ずかしながら現在ギルガメス王国連邦の政治勢力は二つに割れております。ここはよろしいですね」
皆頷く。
「セーラム家が繋がりを持つのはイシュタル公爵家です。対して港湾長はエンメルカ侯爵家に連なっております」
「少しいいですか」
「どうぞ」
「セーラム家はイシュタル公爵に繋がっているのですね。対して港湾長はエンメルカ侯爵家に連なっているのですか。つまり港湾長は一族であると」
「そうです。ですからやりにくいのです。早朝密かに出航してここまで来たのもそのためです」
「どう違うのでしょか」
ズバリ聞いたのは参謀長だ。
「エンメルカ侯爵家は国政を壟断しようと画策しておりますな。ギルガメス王国連邦と言う国名はご存じか」
「一応は」
「連邦なのが問題でしてな。頂点に立つ者がいないのです。規模の大小はあれど独立国の連合体なのです。それでエンメルカ侯爵家は経済的に苦しい王国をまとめ上げて連邦内に一大勢力を作り上げ統一王家を作ろうとしているのです」
「失礼。要するにエンメルカ侯爵家が王家になると言うことですか」
「それが厄介なことに、王家にはならないと言っているのです。これは話を持ってこられた王家の安心感を得ようとしているというのが、こちらの判断です」
「実権を握ることが出来れば、王でなくとも良いと」
「そうです。それが困るのです。王になろうとすれば皆から叩かれますが、そうでないなら大きな問題には出来ません」
「その場合の政体はどうなるのですか」
「頂点に統一王家を作り、その下に地方領主という形でまとめ上げるつもりです」
「地方領主では納得しないのではないのですか。今までは王様だったのに」
「それが経済的に苦しいと言うことと繋がります」
「もしかして、既に国内経済が行き詰まっていると?」
「そうです。そういう国に話を持って行くのです」
「厄介ですな」
「そうです。一番金が掛かるのが軍備です。連邦内では国家間の全面戦争はここ百年はありません。ただ、国境での小競り合いはあります。国という形を取っている限り軍備は戦争に備えておかないといけません。それが重いのです。地方という形になれば領内警備で良くなります」
「でもそれはいいことなのではないのですか」
「そうですな。経済的に行き詰まっている国にとっては」
「もしかして、裕福な国と苦しい国が場所的に入り交じっていると」
「そうです。ですから国内に統一王家などが出来れば、国がバラバラになります」
「それが狙いですか」
「連邦でなくなり統一王家を作り、自分は影で操れるような強大な権限を持とうとしているのです」
「今はどちらが優勢なのでしょうか」
「エンメルカ侯爵家です。裕福な国は少ないのです」
艦隊首脳は困ってしまった。ディッツ帝国以上に厄介じゃないか。
さてどうするのでしょうか。
次話で外地進出編は終わりです。
次回 11月30日 05:00予定
国内編ですかね?