国内 その二
チュートリアル回が続きます
五戦隊 足柄
「本艦の位置ですが、天測が出来ません。太陽の位置は分かってもその他の条件が地球とは違います。長波を拾って三角測量を行います。それで本艦の位置も特定可能です」
と島航海長。
「いつでも可能です」
と相原通信長。
「では実行だ」
土方艦長が決断した。
足柄の位置は硫黄島より三〇〇海里くらいの北東にいるようだった。海図は当てにならなかった。僚艦の位置も大体判明したが、五〇海里程度離れているようだ。
「硫黄島に向かう。本来の訓練目的である硫黄島までの往復だ。硫黄島で合流する。各艦艦長と五戦隊司令で決めた」
加藤飛行長が
「艦長、水偵を出しましょう。帰投も本艦から電波を出せば航法によらずとも可能です。電探の探知距離内での行動なら本艦から誘導も出来ます」
中々良い提案だった。僚艦とも相談の上、各艦から一機出すことにした。硫黄島に向かわせる。
「艦長、水偵からです。硫黄島が無いと言ってきました。硫黄島では無く直径50km位の島があると言うことです」
「手紙には大きくしたと書いてあったな」
「そうですね」
「それが硫黄島かもしれん。水偵に桟橋が無いか確認を取ってくれ」
「了解」
「硫黄島は無人で桟橋と小屋しか無いですから、その確認を?」
「そうだ、桟橋があれば硫黄島だろう」
水偵は高度一〇〇〇メートルで島の上空を周回していた。五戦隊の他の水偵も集まってきた。バンクして挨拶をする。
足柄を発艦してから海図上の位置に有るはずの硫黄島を発見出来ず、周辺を偵察した結果そのデカい島があった。
「香川飛曹長、今の場所をもう一度確認したい。戻ってくれ」
偵察・航法員で機長の中川中尉が言った。
「了解、戻ります」
船着き場が有るなら入り江だろうと言うことで入り江を探していた。各機で担当を分け、綿密に偵察をする。
「機長、羽黒の機体が建物を発見したと言っています」
通信員の若井二飛曹が報告してきた。
「先を越されたか。建物で船着き場では無いな?」
「はい、建物だけだそうです」
「那智の機体からです。隊内無線を使おうと言っています」
「12人でおしゃべりか。良いが届くのか?」
「隊内無線、繋ぎます」
雑音混じりだが、僚機の声が聞こえた。島の反対側にいる機体までは届かないようだ。
「こちら那智の塚田大尉だ。桟橋らしい物を発見した。高度を下げ確認する」
先を越されたか?
「塚田だ。船着き場らしい物を発見した。さらに近づく」
「塚田だ。桟橋を確認した。ボラードもある」
やられたな。
「塚田だ。着水を試みる」
危険じゃ無いのか?
塚田大尉は自分の操縦技術は信用していなかった。だからいつも慎重に飛行をした。それが良い評価につながるとか思ってもいなかった。
「佐々木、宮木、海面を注意しろ。不審な波頭や浅瀬・暗礁をよく見ろ。行くぞ」
「大尉、不審な海面は見られません」
「宮木です。同じく」
塚田大尉、佐々木一等飛行兵とペアを組むようになってになって言われるのは、「お前名前に一本線が足りないぞ」だった。俺は宮木だ。宮本じゃ無い。何度言ったことか。しかし、いつも剣豪ペアと呼ばれる。塚田大尉も、よく俺は塚田だ。塚原じゃ無い。と言っている。
全部佐々木が悪いのだ。しかも奴の名前は次郎だ。
などと考えつつ、海面を見張る。普通だな、障害になるような物は見受けられなかった。
「よし、降下して着水を試みる。衝撃に注意しろ」
「「了解」」
いつも思うが大尉の操縦は慎重だった。着水の時酷い衝撃を受ける事は少ない。しかし、よそ見していると時たま酷い衝撃が在り首にくる。しっかりと前を向いた。この二人には剣豪ペアと呼ばれるきっかけになった、佐々木一等飛行兵だった。
着水は入り江の海面が穏やかだったことも在り、静かだった。
「佐々木、宮木、機体を寄せるから桟橋に日本を示す物が無いか確認しろ」
「「了解」」
「宮木です。大尉、ボラードに何か文字らしき物が見えます」
「文字だと」
「らしき物です」
「これ以上寄せると機体が接触するかもしれん。宮木、双眼鏡で読めないか」
「大尉、通り過ぎました。もう一回お願いします」
「よし、一周する」
「見えました。日本語です。日本海軍硫黄まで読めます」
「もっと見えんか」
「消えてしまっています」
「残念だな。だが良い発見だ。よくやった」
「佐々木、離水したら那智に発信しろ。「硫黄島であることを確認」と」
「了解」
硫黄島確認の報は那智から横鎮、横鎮から海軍省、海軍省から首相官邸へと伝えられた。
那智は足柄と共に、硫黄島の調査を命じられた。妙高と羽黒は沖ノ鳥島捜索任務についた。
首相官邸
「硫黄島の確認は出来たか」
「硫黄島も巨大化しているようです」
「瀬戸内海や九州の島も大きくなっているな」
「本州も大きくなっています」
「沖縄などはあの手紙にあった以上です、北海道並みになっています。台湾は大きすぎて、まだ全体像がつかめません」
「問題は、南鳥島南方に出来た南アタリナ島だが」
「現在、海軍が空母部隊を派遣して調査に向かっています」
「海軍と運輸省から、海図も天測も役に立たないと言っていたが、如何するのだ」
「本土から発信する長波を元に航海しているようです。南鳥島も電波を出していますので、間違えることはないかと思います」
大高首相は、
「仕方ない。国家非常事態宣言を出す」
「首相、良いのですか」
「今出さないで、いつ出すのだ」
「まだ国民の大部分が実感がわいていません。と言うよりも夢を見ているような気になっているはずです。も少し様子を見た方が良いと思います」
さすがに責任がかかってくることとなると、慎重だな。この補佐官。
「だから実感がわかないうちに出す。そうすれば現実味を帯びるだろう」
「もうすぐ国家公務員も夏期休暇の時期ですが」
「悪いが短縮だな」
「では如何しても出すと」
「出す」
「首相が決定されたなら従うまでです。各省庁に伝えておきます」
「頼むぞ」
運輸省事務次官溝口、鉄道省事務次官君沢、建設省事務次官海江田の3人は
「海運関係がしばらく使い物にならん。海図も天測も使えん」
「鉄道はいきなり勾配や踏切の位置が変わっている。安全に運行できん」
「道路とか橋とかが広がっている箇所が多くて、道が分からんという苦情ばかりだ。おまけに河川や湖沼の形が変わっていて凄く怖い」
「「「はあ~~」」」
「とにかく一番最初にやらなければならないのは、地図だな」
海江田が言う。
「それは決定だな」
溝口が賛成する。
「だが人がいないぞ、どうする気だ?」
君沢が疑問を。
「全く、地図のサービスくらいしてくれても良いのですよ、神様」
海江田が愚痴をこぼす。
「ほんとだな」
溝口が賛意を示す。
「そう言えば海軍は硫黄島とかウェーク島に行くのだろう。海図も無しで行けるのか」
海江田の質問に、溝口は
「とりあえず水深は問題ないらしい。神様情報だとな。自艦の位置は、本土から出ている長波を元に位置を決定しているようだ」
「長波?」
「電波の一種だ。長距離まで安定して届く。ただしこの電波を受信出来るのは海軍くらいだ。民間船舶にはそんな設備は無い」
「それは良いが、地図だ。とにかく信頼の置ける地図だ。差し当たっては簡易な物で良いだろう。人を動員してやろうと思う」
「「賛成」」
「国家非常事態宣言を出すそうだから、人手には困らんと思う。外国との取引が無くなって暇になる工場や商社が出てくる。その人員を使う」
「予算は出るんだろうな」
「出るさ、金はあるんだ」
「金がある?噂の高野資金か」
「いや違う。大蔵省だ。内緒だが、国庫の金が増えていたそうだ」
「「はあ?」」
「驚くよな。俺も聞いたときはなんだと思った。国庫の金だが、床が抜ける心配をしなければいけない量だそうだ」
「「へ?」」
「そうだよな。だから予算については心配いらないそうだ。その気になれば今の国家予算の数倍は金本位制で保証出来るとか言っていた」
「「はあ?」」
そこへ大蔵省事務次官の小川がやってきた。
「やあ、ちょうど良いところへ来たみたいだ」
「なあ、教えろよ。金てなんだ」
「金は、金。元素記号Auだ。それが如何した」
「いや、たくさんあるという噂を聞いてな」
「お前か?」
「すまん」
「まあいいさ。どうせ明日には知れ渡ることだ。もう本日から株式市場はしばらく閉鎖だ」
「国家非常事態宣言か」
「そうだ。国家の思惑を無視して、勝手に動かれても経済を混乱させられても困るのでな」
「金の保有量か」
「そうだな。こいつから聞いたと思うが国家予算数年分を金本位制で保証出来るだけはある」
「そんなことしたら金相場は暴落だろう」
「確かにな。無いから高い。大量に有れば安くなる。それが相場だな」
「でもそれなら機密じゃ無いのか?」
「人の口は塞げない。いつか漏れる。それなら最初からコントールする。少しずつ漏らしていく。こいつが拾ったのはそんな情報だ」
「こいつはその情報に踊らされた方か?」
「何か言ったのか」
「予算は潤沢だと」
「アハハ、見事に食いついた口だな」
「踊らされたのか」
肩を落とす海江田。
「そうだ。で、ここからは本当の機密だ」
ゴクリ、そんな音が聞こえてきそうだ。
「金の量はそんな物では無い。一〇〇万トン単位で有る」
聞いた3人の顎が落ちた。
「一〇〇万トン有ると?」
「一〇〇万トンでは無い、単位だ」
「「「な!」」」
「そうだ、だから機密だ。しゃべるなよ」
「おおぉ、分かった。確かにしゃべれんな」
「正直な話、どれだけ有るんだ?」
「片手かな」
「五だと」
「そうだ」
「そんな量、日銀の金庫にしまえないだろう」
「誰が金庫の中と言った。神倉庫という物を与えられたのは知っているか」
「いや、初めてだ」
そうかと言って、小川が説明を始めた。
「神倉庫というのは、神様が貸してくれた倉庫だ」
3人がうなずく。
「今のところ知っているのは、首相官邸と、日銀・大蔵省・農林水産省・通産省の一部の人間だけだ」
「我々が知らないのは?」
「今のところ関係ないからな。神倉庫に入っているのは、金だけじゃ無い。食料が現在の日本の人口を養える二〇年分の量が入っている」
「待て待て待て。そんな量すぐ腐らないのか。第一どこにそんな馬鹿でかい倉庫が有る」
海江田が激しく食いつく。
「神倉庫の秘密を教える。時間が遅いそうだ」
「「「???」」」
「そうだよな。俺も最初はそうだった」
「教えろ」
溝口が恐ろしい顔つきで迫る。
「そうだな、日本で一年たっても、倉庫の中に入れてある物質の時間は一分だそうだ」
聞いた3人の顎が落ちた。
「待て、それだけでは分からん」
君沢が言う。
「落ち着け。神様曰く、時間の流れの違う空間に倉庫を設置して有るそうだ。出入り口はこちら側の空間だな」
3人はなにも言えない。
「続けるぞ。神倉庫は中身を出せばそれだけ容積は減る。神倉庫に入っていた物の出し入れは出来るが、こちらの物資を入れることは出来ない」
3人は無言だ。
「神倉庫の中に入るには特別な加護を受けた人間しか入れない」
待て、と溝口。
「特別な加護ってなんだ。そいつは人を選ぶのか?」
「もっともな質問だな。特別な加護が無いと、中に入った途端に倉庫内の時間で動くことになるそうだ。こちらで一年でも中では一分だ。どうなると思う。食糧不足で出そうと思ったら出てくるのが数年後とかだとしたら」
君沢が
「あー、なんとなく分かったような気がする。中で作業をする人間がこちら側の時間で動けるようにすると言うことだな」
「正解だ。続けるぞ。時間は理解出来たことにする」
「するのか」
海江田が口を挟む。
「でなければ話が進まん。人を選ぶのかという疑問だが、選ばない。ただ、中で作業をする人間にのみ与えられる。で、入ったら、必ず出なければいけない。もし中で事故があって出られなくなった場合は、神倉庫の監視に見えざる者達が付いているので連れ出してくれるそうだ」
「では、加護を受けた人間が中の物資で暮らすことも出来そうだがその対策は」
溝口が聞く。
「時間制限がある。こちらの時間で四時間。それ以上中にいても強制排除されるそうだ。以降その者には加護は与えられない」
他にもいくつかの事項を聞かされ、その日の会合は終わった。
沖縄や台湾が大きくなりすぎたのは、天照様が気合いを入れ過ぎた祝福をしたせいです。
そのせいで神々や見えざる者達は尻拭いに大変でした。
決して作者が地図を間違えたせいではない。
済みません。まだ続きます。
チュートリアルを前章としますので、読み飛ばしてくれても結構です。
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