セーラムにて
セーラム側の日本への対応?
セーラム冒険者ギルドの到着したマクダレフは早速副ギルド長に面会をする。
「マクダレフ殿、先ほど別れたばかりだが」
「これを」
セーラム男爵の封蝋がされた封筒を出す。
「私が今見ても良いのかな」
「はい」
「では、失礼します」
ペーパーナイフで封を切る。
「ふー。これは難しいですね。港湾長を出し抜けですか」
「はい。アレスという冒険者を利用すればさほど困難では無いと思われますが」
「港湾長はアレでも有能です。手下も多い。その監視をかいくぐって日本人と接触ですか」
「閣下のご希望はそうなりますな」
「やってみましょう。それよりも中に入っていたもう一通の中身が気になります」
「そちらは、恐らくエンキドからの指令でしょう。私も想像つきません」
有能で知られる家令様だ。想像は付いているだろう。
「では、こちらはあなたがお帰りになった後で拝見するとします」
「お願いします」
「男爵様はこれを機会に港湾長を排除しようと?」
「おそらくは。そしてこちらの派閥の中から任命したいのでしょう」
「あの港湾長が尻尾を出すとも思えませんよ」
「尻尾を掴めなくても結構です。警戒してくれれば良い」
「やがてはボロを出すですか。恐ろしいですね」
「これでも首都の無能どもと戦っていますので」
「分かりました。冒険者ギルド、いや統一ギルド・セーラム支部としてお手伝いしましょう」
「有り難く」
「一つお願いがあります」
「なんでしょう」
「ボラールが一匹献上されるようですが、肉はともかく残りの素材を統一ギルドに頂けないでしょうか」
「継続的に供給される可能性もあると言うことでしたな」
「はい」
「継続的に供給可能ならば良いでしょう。ただし、物別れに終わってしまい、この一匹だけの時は全部は無理ですな」
「やはり無理ですか。相当数贈り物になると予想はしていますが、少しでも流して頂きたい」
「分かりました。そこは男爵様と調整します」
「ありがとうございます」
その後セーラム周辺の情勢を確認し合った後で、家令様は帰った。
疲れるな、あの家令様は。俺じゃあ太刀打ちできないよ。
さて、エンキドからか。良い感じはしないね。しゃあない。封を開けて確認するか。
見るんじゃ無かった。やはり、公式な物では無いじゃないか。
要するに港湾長の親玉である侯爵に日本を関わらせるなと。
無理だろ。これをやったら、確実に男爵様の派閥に取り入れられると言うことだ。親玉は公爵だったよな。
いくら統一ギルド支部長が宮廷序列で男爵扱い副ギルド長が騎士爵扱いと言っても、これは窓口に貴族のお坊ちゃまが来て難癖付けられないように当主扱いになっているだけだぞ。正式な貴族じゃ無いんだ。
如何するかな。港湾長が関わるのは職務上避けられない。だから、港湾長以上に行かないようにしてみるしか無いんだよな。話が全部男爵様の所に集まるようにすれば良いか。
港湾長の権限と職掌をもう一度確認してみるか。穴か見つかるかも知れない。
その前に、あいつらを呼んでおくか。
冒険者ギルドでは、レイラ、ササラ、カーラの「サイデリアのラララ」と言われる三人が、いや「ラララ」で通じるんだが、他の女冒険者達に囲まれていた。ついでに言うなら受付嬢もいる。
「ねえ、カーラ。その耳、やけにサラサラしているじゃない。髪の毛もつやつやだし」
「ササラも、凄く艶めいているじゃない」
「レイラ、如何したの。その髪の毛」
「「「「教えて(ろ)」」」」
「いや~、私ら難破したの知っているよね。外国船に助けられてさ、その船がまた凄いの。私らなんて「お嬢様よ、お嬢様!」」
「ムキ-!あんたらがお嬢様なら私たちならお姫様ね」
「負け惜しみは、お・や・め」
「「「「キー」」」」
「でもさ、ほんとに如何したの。その髪」
「だから、これが地だって言ってるじゃ無い」
「もう良いからさ。さっさと教えなさい」
「しょうがないなー」
「もったいつけるな」
「本当にその外国船おかげなんだよ」
「うそ」
「ほんとだって」
「ねえ、ササラ。しょうがないからアレを使おう。皆に実感して貰えば?そうすれば信じるでしょ」
「まあそうだとは思うけどね、カーラ。でもアレはそんなに大量にはないわよ」
「でも、上陸すれば売ってくれると言っていたし」
「その上陸がダメだったんですけど」
「どうでも良いけど、そのアレとやらを使わせなさいよ。それが髪の秘密なんでしょ」
「そうだけど」
「いいじゃない、良いこと思いついた」
「良いこと?レイラ」
「そうよ、上陸できないなら海の上でいいじゃない」
「「「「「「なによそれー」」」」」」
「あんた、港湾長を通さずに、海運ギルドに直接頼むつもり?」
「別に港湾内じゃないからいいじゃないの?」
「確かに言えてるかも」
「よし、その前にアレとやらを実感させて貰おうじゃないか」
「「「「そうだ、そうだー」」」」
「じゃあ皆で風呂屋へ行こう」
「「「「「「おおー」」」」」」
「なんだあいつら。やかましかったな」
「髪とか言っていたな。まあ、お前には関係なかったか」
ゴン「痛~い、なにすんの~」
「俺の髪はな、剃っている。禿げじゃねーよ」
「禿げはみなそう言うね」
「この野郎、全国の頭で悩んでいる皆様に喧嘩を売ったな」
「「「そうだな。全くだ」」」
「え?みなさん、如何したんですか。こめかみに怒りマークが浮かんでいますけど」
「こういうことだよ。この野郎」
ゴン、ドカ、バキッ!!☆/(x_x)
「参りました。許して下さい。一杯奢りますから」
「おーい、ビール。何人だ?」
「五人だな」
「ビール五杯、頼むぜ」
「はーい、そいつに付けとけば良いのね」
「そうだよ」
女冒険者達は「ラララ」を引き連れて、風呂屋に入っていった。
あの髪の秘密を、私もツヤツヤに、等いろいろ考えていた。妄想はどこまでも自由だった。
「髪の汚れはね、温かいお湯で丁寧に洗えば7割方落ちるそうよ。そしたら、このシャンプーを使うの」
「水じゃダメか」
「石けんじゃダメ?」
「水だと汚れ、特に頭の脂が取れないんだって」
「石けんだと後でゴワゴワでしょ」
「それで水浴びだけでいるとベタベタしてくるのか」
「確かに、櫛が通らないし」
「長い髪は体の前に持ってきて、こう洗うの。頭はね、もむようにするんだって」
「めんどくさ・・」
「なんだって?」
「いえ、ちゃんと洗います」
「それで、泡だらけになったら綺麗なお湯ですすぐの」
「フムフム」
「泡を流し終わったら、お風呂に入るんだけど、出来るだけ洗った髪はお湯につけない。分かった?」
「はい、おねーさま」
「ギャー、止めろ。鳥肌が立つ」
風呂場は笑い声に包まれていた。
風呂で良い気分になったし、髪も綺麗になってスッキリしている。
風呂から出て、温風魔道具で髪を乾かす。
「ちょっと待ってね。乾かしすぎないでね」
「「「???」」」
「最後に塗る物があるから。これがツヤツヤの秘密よ」
「「「何?」」」
しまった。周辺の人達も集まってきた。仕方がない。いずれ、分かることだ。やってしまおう。 *この時点で交渉が物別れになるなど、考えていません。
「取り出しましたるは。コレ」
「何、それ?」
「だからコレをほんの少し塗るの。乾ききる前の髪に少し塗って、櫛で伸ばすの」
「ほうほう」
「じゃあやってみる。貸して」
「はいな。凄く良く伸びるから、適量は自分で決めてね。沢山付けすぎると、ベタベタするし、ほこりが付くわよ」
「うそ~ん、どのくらい付ければ良いの」
「その人の髪の状態によって違うから、付けてみないと分からないと言っていたわ」
渋渋ほんの少しずつ付けては櫛で鋤きを繰り返していく。
やがて、ツヤツヤになった。
「うっそ。ほんとに私の髪なの」
「凄い、嘘みたい。ツヤツヤすべすべだ」
「「「「凄い、凄い」」」
「あのう、それはなんですか」
「コレは髪をツヤツヤすべすべにする、凄い液なの」
「売っているのですか」
「まだ売っていないわね。悪いですけど」
「ではいつ売りますか。すぐ買いたいです」
「コレは、今日港に凄い船が来たでしょ。あの船の人達に分けて貰ったの」
「ああ、皆驚いていました。凄かったらしいです」
「私たちは運が良いことに、船が難破していたところをあの人達に助けられたの」
「それは良かったですね。それとその液がどう関係が?」
「船にお風呂があったの。お風呂が付いた船。凄かったわ」
「船に風呂ですか?どこの王様が乗っているのでしょう」
「王様じゃないですけど、全部の船に風呂が付いていると言っていたわ」
「嘘じゃないんですか」
「私が乗った船は二種類あったけれど、客船の方は豪華なお風呂があったわ」
「どこの国なんでしょうね。ガンディスでもラプレオスでもないようなことは聞きました」
「日本です」
「「「「日本?」」」」
アルスは困っていた。
副ギルド長から、なんとしても日本人につなぎを付けろと言われてしまった。
付けろと言われてもあの人達、上陸許可が出なかったものだから沖合のずっと遠くで夜を明かすらしい。
如何しろと。
港湾長は
日本人をこちらの都合の良いように引きつければ、大手柄だ。こんな田舎では無くエンキドに返り咲くことが出来る。何が必要だろう。カネか?女か?まあいい。どのみち奴らは私を通じてでしか、陸に上がれないのだからな。
などと考えていた。
日本人は
早く交渉を行って日本に帰るのだ。絶対に山下少将や紫原のようにはならん。
と固い決意をしていた。
女子ですから、世界が変わっても髪は命。
凄い液の概要は次回で
次回 11月24日 06:00 予定