総技研な日々
魔石の研究をしています
総技研
この言葉を聞くと震えたり蕁麻疹が出る人が一部にいます。ごく一部ですので、普通の方には何の害悪も無い・・はずです。
ランエールに転移後、魔法や魔道具の存在を確認した日本は、それらを応用すべく日本総合技術研究所、通称「総技研」を立ち上げた。
陸軍技術研究所と、艦政本部・技術開発室が主になり、理研や各大学の研究者を集めて発足した。
勿論、当時魔法や魔道具と言う言葉はうさんくさいものであり、参加メンバーは良く言えば個性的、悪く言えば主流から外れた日陰者だった。
彼等は集められたときに、全くの新技術で在り短期での成果は期待しない。短期的には基礎データの収集が主になると言われた。
同時に、好き勝手やって良いぞとも。ただしデータ収集が主目的だから、忘れるなと念を押された。
しかし、好き勝手やって良いと言質を取った。いや違う、相手がくれた。フッフッフ、クックック、ハーハッハッハ。
最高だ、この職場。
勿論最初から魔法や魔道具など無い。シベリア大陸からもたらされた少数の魔石を研究するだけだった。
彼等に渡された魔石は、小型下位の生きた魔石と、中級の使用済み魔石だった。
魔石の形状はいびつながら球形、どちらかと言えばラグビーボールに近い。
比重は、使用済みの魔石は脂肪と同等。生きた魔石は色によって差が出た。これにより、内包する魔力の量によって重量が違うと言う仮説が立てられた。
魔石は魔力が大きければ重くなると言うのは、魔力エネルギーに質量があると言うことになる。
理論物理学の世界では喧々囂々の騒ぎになった。
硬さは、真珠と同等だった。これは生物の体内で生成されるためでは無いかという仮説が立てられた。
ただし、真珠のような組成や積層では無く、生成過程は資料不足にて不明とされた。
電気抵抗はゼロに近い。-五十度から+三百度まで変わらなかった。設備の関係でそこまでの観測しか出来なかった。
使用済み魔石を充電してみたが、無駄だった。魔力は電気と違う事が分かった。
ここからが独壇場の始まりだった。
温度が八十度を超えると、徐々に柔らかくなる。これは生きた魔石も使用済み魔石も同じだった。百五十度を超えると、自由に成形可能になる。サイコロ形状にしても生きた魔石の色は変わり無かった。
カラン村で魔道具を動かして貰ったが、異常なく使用可能と言うことだった。形状による魔力の消失は無いようだ。
毒性試験では無毒と出た。よって舐めてみたも無味無臭である。
勇士によって
「書き間違いでは無い、有志では無く勇士」
生きた魔石を粉末状にして食してみた。今も健康である。
試験的に粉末にした魔石に接着剤を加え成形したものを魔道具に使って貰ったが、異常なく使えた。考えていた電池的なものとは違うようだ。
この技術はランエールで実用化されており、帝都には大規模な工場があったという。
様々な形状にしてみた。魔石型抜きを作って遊んだという資料もある。
生きた魔石でワックス弾のように整形し、実際に混沌獣相手に使用して見るも相手を元気にさせてしまい、非難を浴びる。
ただしこの結果から、混沌獣は魔力が有る物から魔力を吸収出来るのではという仮説が立てられた。
東鳥島攻略戦で小型上位種が混沌獣の魔石を食べて体力を元に戻するらしき事が認められた。
魔石の成形が可能になった事から、魔道具の普及に拍車が掛かることが予想された。今までは魔石の大きさを削ることによって揃えていた。かなりの無駄が出ていた。また、小型下位の魔石でも数を集めれば中級魔石と同等に使えることが確認された。
これはカラン村に設備が無く出来なかっただけで、普通に普及している技術だと言われてがっくりきた。
だが、総技研、最初の成果である。一応自信は持ったようである。
ただしどうやっても上位種の魔石には近づけなかった。
上位種は魔石からして違うようである。
上位種の魔石は今のところ勿体ないので彼等には供給されない。
魔道具の普及については、現状では日本には魔道具職人はいなかった。
カラン村の魔道具生産量はごくわずかで、ほとんどが医療機関に流れていた。
魔道具の普及が始まったのは、南大陸から大量の移住者が来てからだった。彼等の中に多くの魔道具職人や研究者が居た。
勿論、総技研が採用した者も居た。
混ぜるな危険!
次に、魔石に溶解性が在ることが確認された。様々な溶剤をテストした所、全く溶けなかったのである。ついで、各種液体で試したところ、椿油で溶解することが判明。この時点では用途は不明であった。一度椿油に溶かせば、今まで魔石を溶かすことの出来なかった溶剤にも溶けた。
原理は不明である。
彼等は総技研で使用されていた機動乗用車に補給した。ほんのわずかで在り、燃料との重量比で行けば魔石分は一億分の一程度であった。しかも小型下位の魔石で色も薄い物だった。彼等でも多少はブレーキが有ったようである。
心持ち元気になったような気がした。排気ガスの臭いが、かなり薄くなった。
ついで少し色の濃い魔石を使ってみた。
あきらかに馬力が違う。排気の臭いが、ほとんどしなくなっていた。吹かしても黒い煙が少なくなっている。
ならばディーゼルだと、どうせならデカいのでやろうぜ。戦車でやろう。
チハに新開発の燃料添加剤だと言って使用した貰った。タンクが空に近い戦車に給油時に添加してしばらくアイドリングをして貰う。
そして次の日の朝。
掛かりが違うらしい。今まではグローが赤くなっても中々掛からなかったのが、一発で掛かった。
奇跡の添加剤だと喜ばれた。
走行試験では、加速が違うと言われ登板能力も大幅に上がっていた。ガソリンエンジン同様排気ガスも薄くなっている。
魔石のどういう作用か分からないが、これが二つ目の成果だった。
これで、総技研の評価が格段に上がった。何しろ入れるだけで濃度にも因るが、出力が最高で50%もアップする。しかも排気ガスが綺麗になる。素晴らしい開発だと褒められた。
ただし、50%アップさせたエンジンはすぐブローしてしまった。ガスケットが耐えられなかったようである。その後バラしたところ、コンロッド曲がり、クランクシャフトねじれ、ベアリング損傷などエンジンが馬力に耐えられなかったようであった。
20%アップまでなら魔石も入手性の良い小型下位の物で十分であった。軍用機や戦車などの軍用車両で試験してから、民間に開放する予定である。民間に開放する時は、2%アップ程度に収め排気ガスの浄化を主眼にする予定だ。2%アップならば小型下位の魔石で色の薄い物でも充分だった。しかも燃料の硫黄分を減らせば燃料重量比で十億分の一で済む。
濃度を濃くすれば性能は上がるが、民間の需要を考えると魔石が足りそうに無かった。
この魔石需要が一級とか二級の初心者冒険者の生活を大きく支えることになる。今までは屑魔石と言われており需要も無かった。色が薄すぎると魔法陣が発動しないのである。これを日本政府がギルドに補助金を出して買い取りをした。
初心者の生活が安定することで無理をしなくなり、生存率が上がり負傷から引退する初心者も減った。
溶剤として椿油の需要が増え、全国的に栽培する農家が増える。
正和二十二年までは日本国内に流通する魔物素材は魔石を含めて全て国からの供給だった。
正和二十二年四月一日より冒険者ギルド正式稼働開始。この日より魔物素材は軍が入手した物以外は冒険者ギルドより提供されることとなった。
それまでの活動で予算が増え資金力が有った総技研は、独自に冒険者ギルドより素材の入手を始めた。
暴走モード突入である。
魔石を粉にして染料や顔料と混ぜて使用する。
既に在る技術です。
やはりか。ガク
魔石の消失温度が七百度くらいであることが判明した。
コレも既に解明されていますが、温度が分かったのは初めてだと思います。
良し! 後日、他の大陸では判明していたことが分かり、ガク
此までに日本独自の魔石技術は、燃料添加剤のみ。
まあ、とても優れた応用だと自画自賛するが。
真空管のカソードとアノードに塗布してみた。
此は凄い成果があった。ノイズの激減である。何故かは例によって不明。
ヒーターを小さくする事が可能で同じ信号を流すのに要する発熱量も減少した。
発熱量の減少は低消費電力と言うことだ。
フッフッフ どや!
真空管で効果があったのならばと、ダイオードのカソードとアノードに使ってみた。効果はあったような気がする。測定誤差程度か。
ひょっとしたら、粒子度が大きいんじゃ無いのか。もっと細かくしないと効果が無いのでは?
細かくか。細かいどことじゃない、液があったな。境界面に塗布してと。
失敗であった。電気抵抗がゼロに近いと言うことを忘れていたのだ。超良導体。塗ればどうなるか分かりそうなものである。液なので広がってしまい、短絡しました。
実験結果は失敗。厳重に記憶の彼方に封印された。
トランジスターでも同様の結果になる事は予想された。
半導体には使えないと考えられた。
ただ、液を固体化するという訳の分からん技術があれば、使用も可能であると主張する一派はいる。
そしてそれが魔石であることに遅まきながら気がついた。アホである。
魔石から直接削り出そうとしたが、そんなに薄く小さく削り出す技術は無かった。ある程度の厚さにしてから研磨するという奴もいたが、そんな無駄な事が出来るかと言われる。
粉は再利用出来るしと言って反論するが、コストがどんだけ掛かるんだと言われ引っ込む。
各種電気回路への応用では、接点に溶液を塗ることでスパークの抑制や信号品質の向上が見られた。
接点の耐食性も向上した。(注)
総技研が考えつく利用法は、既に燃料添加剤・真空管・接点保護材以外は実用化されておりカラン村でやっていなかったのは、単に設備が無いと言うだけであった。
この部分は、まだ南との接触以前です。
原理は不明 ご都合主義の良いところですね
グロー ディーゼルエンジン独特の物で、燃焼室内にあるグロープラグを加熱しないと上手く掛かりません。
昔のディーゼルエンジンは、運転席付近に加熱すると赤くなる線が付いていてグロープラグと同じように熱を持って赤くなります。
赤くならないと、掛かりません。盛大に黒い煙を吐くだけです。しかも赤くなってもすんなりとは掛からないことも。
戦車はどうか知りませんが、車の場合はグロー専用のキーポジションがありました。
注
実際に、ダイヤモンドやカーボン、金・銀の超微粒子をスクワランなどに混ぜた液体を塗って接点や端子部の保護及び導通の改善をする商品は売っています。かなりの効果があり、特に端子の導通性の改善はめざましい物が有ります。普通のボリュームでもバラすことが出来れば、塗ることでかなりの効果があります。
導通性の改善は、腐っている部分では効果がありません。
次回 11月10日 05:00予定