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転移国家日本 明日への道  作者: 銀河乞食分隊
第一章 日本 外地進出
54/219

カラン港 喧噪の中で

ようやく受付開始です

 その日、上陸の次の日。

 実質難民である移住者達は、不安と期待の入り交じった、どちらかと言えば不安が多い気持ちで係の者に促され受付に向かった。

 そこで彼等は自分達と同じ姿の者を見た。

 不安が薄くなり期待が大きくなった。


「おい、アレ獣人だよな」

「おお、信じられん、聴いてはいたが見るまではと」

「いたんだ」

「本当だったのか」

「後ろにいるのエルフだよね」

「あの人、見たことが有る」

「じゃあ帝国の人って言うのは、本当だったんだ」


 意外に有名なエルク、元帝国魔導院教頭だった。


「む!ドワーフか奴は」

「確かに、共通語で書かれた垂れ幕には「ドワーフの皆さんはこちら」と書いてあるな」


 何故かその机は離れていた。


「あいつ髭がないぞ。あ、いや、違う、短くしているのか。髪も短い」

「ドワーフとしたら許せん」

「行くぞ」

「「「おお」」」

「あ、待て、ほんとに鍛冶をしないドワーフは」

「どうしますか。親方」

「ほっとけ。あいつもドワーフの鍛治士なら、今行った奴らごときに負けるとも思えん」


 別のドワーフのグループだった。彼等は髭も髪も短かった。


「おお、あの胸はいいな。俺と結婚して子供を作るのにふさわしい。オレは行くぞ。嫁にするために」

「あーあ、行っちまいやがった。あの人結婚しているぞ。おなか大きいだろう」

「言っても無駄だ。何でかな」

「多分舞い上がってんだろ。ここでは自由に生活して良いと言われたしな」

「働けばな。忘れてるぞ、あいつ」


「おかーさん、おしっこ」

「えー、ちょっと待ってね。我慢出来る?」

「うん?」娘、何故疑問形、何故首をかしげる?

「兵隊さーん、トイレどこー?」



「今から受付を始めます。種族ごとに分かれてはいますが、全部の種族はいませんので適当に並んでください」

「酷い放送だ。誰だ?」

「これは和田主計中尉じゃないか」

「受付を済ませた人は、出口と書いてある所から外に出てください。外に飲み物とお菓子が用意してあります。そこでお持ち下さい」

「気が利くじゃないか」

「そうですか。え?」


 後ろから声がしたので振り向くと、真田司令官と唐沢参謀長が居た。


「ようこそおいで下さいました」


 上村と中村は敬礼で迎える。


「あー、構わないでくれ。今後の参考のために見学に来ただけだ」

「中々整理されていていいんじゃないか」

「「ありがとうございます」」

「しかし、いくら初めてとは言え、今後もこれが続くのか」

「そうですな。こちらは経験を積めても受付に来る人間は初めての者ばかりですから」

「そこは考えないとな」

「君たちが主体になるのだ。しっかりとやってくれ」

「「はっ」」


 そう言うと真田司令官達は去って行った。ドワーフの巻き起こす混乱とか、初めて見る魔族らしい人間に注目しながら。


 上村と中村達はこの光景にあっけにとられていた。予行演習程度の人数でこれだ。次からはもっと人数が増える。どうなるんだ。



「あの!魔導学院教頭のエルク様ですよね」

「如何にも、私はエルクだ。君は?」

「はい、魔導学院最後の生徒でした」

「そうか、君はあの時生徒だったか」

「はい、教頭の活躍は生徒皆で見ていました。凄かったです」

「君たち生徒には、帝都から避難するよう言ったはずだが」

「エーとですね。一度避難しました。でも、義勇軍として戻りました」

「なんという無茶をした!君たちでは戦えないだろう」

「はい、実力不足は分かっていました。でも救護くらいは出来るはずでした」

「そうか、思いは分からんでもないが無茶をしたな」

「すみません」

「いや、君たちが助けた人も多いのだろう。感謝する」

「ありがとうございます」

「では、私が帝都を去ったのも知っているな」

「はい、皇帝陛下の命令で皇女殿下を逃がすために数名の近衛や冒険者達と帝国から逃げたのは聞いています」

「そうか、君は逃げ出した私をどう思う?」

「どうって、皇帝陛下の命令ですよね。中には悪く言う人も居ます。でもほとんどの人は無事生き延びてくれと思っていました。ここでお会い出来て、良かったです」

「そうか、そう言ってくれると嬉しい」


 エルクは少し下を向いた。顔を上げ


「さあ、外へ出てお菓子でも食べながら待っていてくれ。後ろが詰まっている」

「はい、また後で」



「魔族はここでもいいのか」

「魔族様ですか」


 受付の兵は、戸惑う。獣人やエルフ・ドワーフは見たことが有る。でも魔族は初めてだった。


「はい、ああ、有りました。受付をします」

「私も手伝おう」


 アビゲイルがやってきた。魔族という言葉を聞いたのだろう。


「助かります。お願いします」

「私たちの仲間だから手伝うのは当然です」

「では、始めます。名前を教えて下さい」

「真名は言えないぞ」

「?真名」

「ああ、私が説明する」

「お願いします」

「真名は言わなくてもいい。これは公的に記録され残される物だ。ばれると不味いだろう」

「よく知っているな」

「これでも帝国では近衛だったからな」

「近衛か。それなら知っていてもおかしくない」

「帝国魔導院の教頭もいるぞ。「常識知らず」もだ」

「なるほど、魔族のことは知られていると」

「分かってくれればいい。では名前だ」

「トシゾーだ、トシゾー・ヒジカタ」

「土方歳三と、え?違うか。トシゾー・ヒジカタ。はい、登録しました」

「トシゾーは何が出来る」

「何が出来るとは」

「今まで何で飯を食ってきたかとか、得意な事とかだ」

「農業だな。たまに混沌獣の相手をしたり、医者の真似事をしていた」

「へえー、これはいい人材だ。兵隊さん、この方はこの条件に当てはまります」

「そうですか、凄いですね。では、トシゾーさん?ヒジカタさん?」

「トシゾーでいい。さん付けも無しだ」

「トシゾーはこの札を首に掛けて、外で待っていて下さい」

「この札は?」

「心配しなくてもいい、何の呪術も魔法も掛かっていない」

「ならいいか、では外で待っている」



「おい、お前ドワーフだな」

「ドワーフだが」


 受付に居たドワーフ、サイトスは戸惑っていた。なんだこいつら。


「なんで髭を切る。髪も短くしやがって。ドワーフの風上にも置けねえ」

「なんだ?」

「誇りはねえのか。ドワーフだろ」

「そうだ。髭こそドワーフ。我らの誇り」


 周りは面白そうに見ている。日本人達は慌てているが、ジンイチが抑えた。

 ふーん、分かった。こいつら、アレか。


「おい、文句ばかり言うな。これだから街ドワーフは」

「てめえ、俺たちを街ドワーフだと」

「俺たちは冒険者だ。みろ、この冒険者証を」


 なんだ四級か。たいしたことないな。後ろにいたロウガとミカヅキに、いらんと手を振る。


「親方、イキってるわりには四級ですよ」

「あいつも後ろにいる奴にいらんと手を振った。大丈夫だな」

「じゃあ見物ですか。酒がありませんが」

「見物だ?奴が不利になったら助けるに決まっている」

「不利になりそうに見えませんが」

「不利になったように見るんだよ」

「なんだ、ただ喧嘩したいだけですか」

「馬鹿野郎。人助けだ。ちょっと発散させて貰うが」

「ひでえ」

「うるさい」


「おい、お前らこんなとこで騒ぎ起こすんじゃないぞ。ここは受付だ。分かっているだろうな」

「そんな事、どうでもいい。お前が髭がないのが悪いんだ。髭を伸ばすよう体に教えてやる」

「なんだ、やるのか」

「テメエら、やっちまえ」

「フン!」 ドガ

 

 一人さっそくサイトスのボディを喰らって蹲る。


「ギャプラン!」

「この野郎、ギャプランをよくも」

「遅い」 ゴン


 もう一人頭突きを食らい、仰向けにおねんねする。


「ドーガ」

「喰らえ」


 サイトスは軽く避ける。


「親方、まだですか」

「そろそろかな。見ろ、イキってるのが集まってきた」

「ほんとだ、じゃあもう少しで出番ですね」

「おう」


「上村大尉、止めなくてもいいのですか」

「大丈夫だ、彼等の問題だ。周りの人達に害が及ばなければ手を出すな。それにアレはドワーフだ。俺たちより力は強い。下手に抑えると吹き飛ばされるぞ」

「周りの人は、落ち着いていますね」

「だから大丈夫と」

「了解しました」


「痛え。よくも殴りやがったな」

「この野郎、散々俺たちを殴っておいて、なんだその言い草は」

「ぐだぐだぬかすな。バカ」 バコン


 また一人、顔を殴られた。かろうじて踏みとどまっているがふらついている。


「おい、行くぞ。お助けだ」

「へい、親方」


「テメエら、一人相手に大勢で恥ずかしくないのか」 ドカ

「親方、止めるのか殴るのかどっちかにして下さい」 ガン

「じゃあ、殴る」 ボコ

「てめえ、突然殴り込んできて誰だ」

「ドワーフだよ、この街ドワーフ野郎」 バチン

「ああ、ザク-」

「テメエもおとなしくなれ」 ガン

「ズゴクー」


 サイトスの回りに数人のドワーフが助太刀に入る。


「ありがとよ」

「なに、いいって事よ。お前も鍛冶やってるんだろう」 バン

「まあな。小さい村の鍛冶だが、一応任されている」 ゲシ

「いいな、後で見せてくれ」 ガン

「いいぞ、許可を取っておく」 ドカ

「すまん」 ドン

「なに、仲間じゃないか」 ゴン


 そう言いながらもイキッてる連中を殴り倒していく。時々蹴りも入っているが。


「この野郎、もう我慢ならねえ。こいつを喰らえ」


 一人ナイフを出した。さっき冒険者と言っていた奴だ。


「素手にナイフか。さすが街ドワーフだな」

「なあ、それ安物だな。どこで買ったんだ」


 さすが鍛冶ドワーフという疑問を投げつける。


「そこまでだ」


 ロウガがやってきてそいつを押さえつけた。上村はナイフを見た時点で介入しようとしたが、ロウガが大丈夫と手を振って行ったので任せた。


「お前、冒険者か?」

「それが如何した、離せこの野郎、おれは六級のアガイー様だぞ」

「ふーん、冒険者が一般人に武器を見せたらどうなるか知っているのだろうな。忘れたとは言わせん」

「離せ、六級に逆らうのか」 

「へー、六級か。たいしたもんだ。どれ」


 胸に下げている冒険者証を見る。


「なんだ四級じゃないか。嘘をつくな。これで罪が一つ増えたな」

「罪ってなんだ。こんな所に冒険者ギルドは無いだろう」

「四級じゃ知らないか。五級以上に上がるのは力だけじゃ駄目なんだよ。知識と良識が求められるんだ」

「なんだよそれ、そんなこと関係ないじゃないか。デカい獲物を捕れればいいんだ」

「五級の試験を受けたこともないか。それとも受けさせてもらえないか」


 ロウガは押さえつけたまま器用に手錠を掛けた。




まだ受付中です。


街ドワーフ

冒険や修行の旅にも出ることなく、生まれ故郷や居着いた街で、俺様は強いんだぞと一般人相手にイキっているドワーフ。実力はせいぜい冒険者ランク四級。いわゆる街の鼻つまみ。

何故か髭と髪に執着している。


鍛冶ドワーフが髭と髪を短くしているのは、燃えるから。髭や髪は案外簡単に燃える。

毎年、何人かの髭と髪を大事にするドワーフが燃え上がって重症になっている。

とても良き効くが、とてもお高い薬で助かるのだが、治療費で貧乏になってしまう。


次回 十一月七日 05:00予定

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