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転移国家日本 明日への道  作者: 銀河乞食分隊
第一章 日本 外地進出
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カラン港 入港

ようやく着きました。

 南遣艦隊は一路柳素湾へと向かう。

 南雲忠一中将はこの任務で海軍生活も終わりだと思うと、感慨深い物が有った。

 最後に破壊ではなく、再生に関われたことを良しとしよう。老将に花道を持たせてくれた海軍に感謝だ。

 あの面倒そうな訓示は、山下一水戦司令官に丸投げしてやった。わしはもう引退だ。田舎に引っ込む。それにはあの訓示は邪魔に思った。それに若い奴の方が新しい環境に慣れるのが早いだろう。頭も柔軟なはずだ。頼むぞ山下。


 一方の政府と海軍は、ただ単に行って帰ってくるだけだろうと思っていた。せいぜい多島海の詳細な調査で終わると思っていた。

 あの訓示は万が一のためで、現実になるとは思ってもいなかった。

 あの訓示とは「もし友好的存在になり得る勢力が居たら積極的に介入しても良し」であった。

 まさかそれを実践し、あまつさえ部下に一任するとは。その度量に感服する。



「柳素湾電波灯台一番、電波拾いました」

「方位はどうか」

「艦隊針路若干東寄りですが、問題ありません」

「では、このまま行こう。もう日が暮れる。夜間の艦隊進路変更は危険だ。それに変針の回数は少ない方が良い」

 

 南遣艦隊は柳素湾まで後五百海里まで近づいていた。明日午後には湾口をくぐるだろう。

 翌日昼頃、陸影が見えた。山並みだ。乗客は歓声を上げる。

 午後、艦隊は湾口をくぐった。

 カラン湾まで後五十海里だ。夜間接岸するか、それとも洋上待機にするか。ちょうど迷うような時間に着いた。

 出雲丸からで「夜間接岸ヲ希望ス」ときた。乗客のことを考えてだろう。

 出雲丸と御着に夜間接岸の許可を出す。カラン港からも許可が出た。誰を乗せているか知って知るのだろう。

 他の艦は洋上待機だ。



 艦内放送で「これより接岸する。衝撃に注意」と、放送があった。

 皆歓声を上げる。それはそうだ。いい加減船にも飽きたし、何より狭苦しい。

 やがて少しの振動が収まると「接岸した。上陸準備をするように。上陸の順番は乗組員の指示に従うよう」という放送があった。

 俺たちの所にも乗組員はやってきた。

 

 「この区画の人は、あと一時間程度後になります。それまで落ち着いて待てというのは無理かも知れませんが、現在でも混乱しています。どうかわかって欲しい」

 

 そう言うと去って行った。


「まあ仕方が無いか?混乱すれば上陸が遅くなるだけだし」

「それはそうだ。まるでギルドの早朝のようじゃないか」

「っはは、お前も経験者か」

「一級と二級の頃は大変だったよ」


 その後、昔の苦労話で盛り上がった。周りの人間もやってきた。意外に冒険者が多い。十日間もあって何も知らないというのもなと思う。

 俺たちが上陸出来たのは、充分夜中だった。こちらの時刻で、夜の十時となっていた。それでも港は灯りが煌々と照らせれていて暗くなかった。

 宿舎と食事に風呂が用意されていると聞く。案内されると想像以上に立派な宿舎だった。先に風呂に入って、それから食事と言われ素直に従う。これだけ待遇が良いのだ。わざわざ逆らう奴はバカじゃないかと思う。

 風呂はマジで最高だった。最後に風呂に入ったのはいつだっけと思いながら夜空を眺める。気持ちの良い露天風呂だ。

 清潔な着替えも有り難い。ただし、自分の衣類は自分で洗濯してくれと言われたが。

 俺たちが目にしたことのない料理だったが、旨かった。

 宿舎に案内され、清潔なベッドに横になる。皆話をしていたが、すぐに静かになった。俺も静かになったようだ。


 


「山下少将、では現政権が望ましいというのだな」

「はい、話を聞く限りでは残りの勢力はろくでもないようですし、実際、酷い妨害を受けました」

「時限発火装置か。艦内での出火は命取りだからな」


 山下少将は大艇で先行して大阪に入っていた。移住者の三人が総理に歓待を受けていたのとは対称に総理以外の政府首脳部から厳しい質問を浴びせられていた。


「政権に金三トン半を渡してきたというのは事実なのだな?」


 大蔵大臣が聞く。


「確かに渡しました。一部は現地通貨と引き換えにしてあります。現地の印象を良くするために現地通貨で買い物をさせるためです」

「それは理解出来る。現地の印象を良くするのは大事だ」


 外務大臣が賛同する。


「三トン半は多くないのか」

「いえ、感触では大分助かったという印象でした」

「ではさらに必要と言うことか」

「はい、転移時に何かあったのか、国庫の金が無くなっていたと言うことです」

「金本位制で、国庫の金が消えていたか。考えたくないな」

「ですから次回の派遣艦隊でも金を渡すことはやった方が良いと判断しました」

「確かにその方が良いだろう。中村や田中も賛成と言うらしいし」

「しかし、君の報告書によると百五十万人か?さらに増える可能性があるだと?」


 首相補佐官が聞く。自分の責任じゃないと行動が正確で早いと評判だった。


「彼等、ディッツ帝国が把握している人数が百五十万人です。さらに増えるのは必然であろうと、中村さんと田中さんとで話しました」

「確かにその可能性は大きいな。その人数をどこへ回すのだ」

「基本シベリア大陸ですが、本土の農業と漁業に林業にもと言っていました。冒険者は東鳥島へとも」

「それは良いな。確かに人手不足が深刻だ。増えた農地に人手が追いつかん。食料生産も想像以上に低調だ」


 農林水産大臣が言う。


「しかし、いきなり本土に入れるのは防疫上問題が有ると思う」


 厚生大臣が言う。


「シベリア大陸で、陸軍部隊と近い所で行動して貰って半年様子を見よう。それで伝染性の病気が確認されなければ、本土に入れてもいいのじゃないか」


 首相補佐官が言う。自分に責任がないと切れ味がいいとも評判だった。 


「それなら問題ないように思う。そうしよう」


 厚生大臣が決めた。これで責任が補佐官から厚生大臣に移った。

 陸軍大臣はモルモット代わりは御免したかったが、他にやりようもなく同意した。

 海軍は既に彼等と行動を共にしている。高野海軍大臣は、転移時海外に在った資産のほとんどをなくし(一割ほどはあった。それでも国家予算の二割はある)勢いはなかった。


「次回、金はどのくらい渡せばいいと思う。山下少将」


 大蔵大臣が問う。


「今回、中村・田中両名に五十トンの使用許可が出ています。次回も同じで良いのでは無いでしょうか」

「問題は五十トン中いくら渡すかだな」

「多すぎると足下を見られかねんし、少なすぎても現体制の強化には繋がらないか」


 外務大臣が悩む。


「五トンかな」

「まあそのくらいなら」

「合計五十トンまでなら、初期投資として認めたしな」

「五十トンを超えたらまた考えよう」


 先送りは得意である。


「そう言えばその金の名目は如何する」


 内務大臣が爆弾を放ってきた。その名目で責任の所在が違ってくる。


「移住希望者保護金でいいのでは」


 さすがの切れ味で、首相補佐官が内務大臣または外務大臣になすり付ける。


「「そうですな、賛成です」」


 厚生・農林水産の両大臣が賛成する。


 とっさの首相補佐官の切り返しと、両大臣の反応の速さにあっけにとられる内務・外務両大臣。

 さらに賛成する他の大臣達。

 金何トンという巨額な問題の責任者にはなりたくない。その一心だった。


 内務大臣が「これは国交に関する重大案件ですから」と言って外務大臣を推す。

 外務大臣の逃げ場がなくなってきた。

 そこへ

「これは最終的には千トンとか二千トンとかでは済まない万トン単位の問題だろう?なら管理者の許可が必要になるのではないか?その許可は誰が取る?」


 通産大臣が最大級の爆弾を放り投げる。そう、誰が取る?である。自分で取る気はサラサラなさそうだった。


 転移時に当面の生活や国家活動の補助をするために神が様々な物資を神倉庫に入れてくれていた。

 ただし無条件で引き出せる物ではなかった。以前無条件で使えるようにして一つの文明が惑星単位で滅びた。

 その経験から神倉庫開放には条件が付いた。管理者の許可が必要。食料・資源関係は監督が緩かったが、貴金属関係は国家の状態を見極めてという条件があった。つまり大量の貴金属を必要とする場合には管理者の許可が厳しくなる傾向にあった。


 そう言えばと、皆の心が一つになった。下っ端が一人いるじゃ無いか。現地の様子にも一番詳しい。


「山下少将、君、管理者の説得を頼む」


 さすがの切れ味、首相補佐官。


「「「「「頼んだぞ」」」」」


 他の出席者。


「はあ」


 弱々しい返事の山下少将。

 決まってしまった。

 上村に続く丸投げ被害書の誕生だ。


(勘弁して欲しい。管理者に会って、説得しろと?何故こうなった?ひょっとして南雲中将はこのことを予想していた?)


 皆して南雲中将を持ち上げすぎである。彼はただ単に面倒なだけだったのだから。


 山下少将を除く出席者は満足な様子だった。

 そこに首相がやってきた。会議の経緯を聞くと、満足そうに「山下少将、ご苦労だが頑張って欲しい」山下は、とどめを刺された気分だった。


 山下は道連れを作ることを考えた。そう、中村と田中である。後は雪風の紫原艦長だな。レンネンカンプも話に乗せたほどだし、使えそうだ。


 山下少将はそのことを訴えた「一人で万トン単位とされる金など扱えるか!」の心だった。

 皆もそうだな。一人ではつらいだろう。分かった。その三人を付けよう。

 自分ではないので気楽なものだった。


 翌日、山下は辞令を受け取った。おかしい。海軍もお役所である。こういうことは時間が掛かるはずだった。


 辞令


 宛

 海軍少将山下恭司

 第一水雷戦隊司令官の任を解き、首相直轄たる移民担当官の任に付く事。

 任期未定。


 海軍大臣

 高野五十六



 簡潔に過ぎた。たった三行じゃないか。しかも、やられた。任期が無い。これは終わるまでお前はこの仕事という事か。しかも、移民担当先が南大陸とは書いていない。もし他の地より移民希望者があれば担当と言うことか?


 付帯条項として、神倉庫管理者との交渉を任す。

  部下として、紫原少佐を就けてくれることは決定された。悪いな紫原。

 

何か山下少将がかわいそうなことに

でもきちんと道連れは作ります


次回 十一月〇二日 05:00予定

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