ディッツ帝国 入港はしたものの
ディッツ帝国に入港しました
移民の様子がおかしい?
ディッツ帝国の地図を作っていません
腹ごなしをさせ、人々を落ち着かせた。
よほど腹が減っていたのか、皆二人前は最低でも食べた。子供もだ。
阿賀野と御着の提供した飯が無くなりかけたときに、出雲丸の飯が届く。見ていたかのような絶妙のタイミングだった。見ていたのだろう。あの船長ならやることが出来る。
如何してこうなったのかレンネンカンプ子爵に問い合わせると
「すまぬな、列車が速く到着してしまった。到着時刻の確認不足である」
表情を見ると、若干怒りが浮かんでいる。強硬派か。嫌がらせをしてきたわけだ。
これではこの先も一筋縄ではいかないかと思っていると
「理解していただけたようだ。次回からはこのような事は無いだろう」
全権大臣の妨害をして恥をかかせたのだ。強硬派達は自分たちの罪状を積み上げたようだ。帝国首脳部はこの状況を利用して、粛正をしようとしている?
日本でもいろいろやったからな。分からないでも無い。
「大臣、人は間違えるもの。上司が泰然としていればこのようなことは無くなるでしょう。いや、失礼しました」
しっかりしてください。今後のためにも。
「そうだな。このようなことは無くなるだろう。帝国に恥をかかせおって」
強硬派達の運命は風前の灯火か。
だが意外と勢力が大きいのかも知れない。外務省の連中と考えるか。
「レンネンカンプ大臣様、山下司令官、お二人とも出雲丸へお越し願えないでしょうか」
呼ばれたが、外務省の連中だろうな。呼びに来たのは出雲丸の人間だった。
「うむ、伺おう」
「私は一度阿賀野に帰ってから向かう。そのこと伝えてくれ」
「承りました」
南遣艦隊司令長官南雲忠一中将から預かった物を、阿賀野に立ち寄り持ち出した。渡す判断は任せると言われたが、今しか無いだろう。
「おくれて申し訳ない」
山下少将が出雲丸に到着して案内されたのは特別室だった。
「では海軍が来ましたので、説明をしておきます」
「確認の意味もある。どうぞおこなってくれ」
「ありがとうございます」
「山下少将、ここまでのことを説明する。まず、移民達の状態が悪いのは説明を受けたと思う」
頷いておく。
「その理由だが、分かっているはずだ。そこでこれからのことを相談していた」
「どういう手段を執るかと言うことですか」
「そうです。ここだけの話にして欲しいのだが、ディッツ帝国首脳部は強硬派及び選民思想派の排除、あるいは弱体化により影響力を極小にするという。そうですね。レンネンカンプ大臣」
レンネンカンプ大臣は肯定する。
「では協力しようと?」
「その通りです。海軍には何か協力出来ることはありませんか」
「海軍ですからね。政治的なことは無力です。出来ることと言えば軍事面での協力しか出来ません」
「だから、それをして欲しい」
「そうですね。大臣閣下、失礼ですがディッツ帝国には飛行機を船に乗せて運用するという思想はありますか」
「突然だな。正直に言おう。以前は無かった。この世界に来てから必要性に駆られて研究が始まった所だ。阿賀野は飛行機が積んである。是非教えて欲しいと思っていた」
「それでは、最初に接触した航空機のことは?」
「君たちはどこか我々が知らない島から飛ばしたのでは無いかね」
「アレも船から飛ばしました」
「船からだと。だが陸上機という報告を受けている」
「そういう技術があります」
「有るのか。信じられないが、阿賀野を見ると信じざるを得ないだろう」
「その技術、欲しくはありませんか」
「欲しくないと言えば嘘になるな」
「ふーむ、では明日、実際に阿賀野から飛行機を飛ばしましょう。展示飛行をします。軍用機が領土内を飛行する許可を戴きたい。またそれに必要な付随した事項も」
「やってくれるのか。それならば許可しよう」
「ありがとうございます」
「失礼します」
「どうぞ」
ドアがノックされ、出雲丸の船長が入ってきた。
「移民の乗船が終了しました。今は荷物を確認している段階です。阿賀野の方からも人数を出して貰っていますので、今日中に積み込みは終了出来る予定です」
「早いですね」
「実は荷物の中から、見つかってはいけない物が見つかりました」
「口止めは?」
「見つけたのが阿賀野の砲術士官です。大丈夫でしょう」
「すまないが、見つかってはいけない物とはなんだね」
「レンネンカンプ大臣には失礼かと思います」
「良いから言って欲しい。我が国の問題なので有ろう?」
「実は、防疫上の理由で万が一が有ってはいけないため、全ての貨物を開封検査しています」
「うむ、それは理解出来る」
「時限式の発火装置が見つかりました」
「発火装置だと?」
「はい、現在は無効化して確保してあります」
「強硬派か選民思想の奴らか。クソ!」
「大臣、落ち着かれてください」
「すまない、興奮したようだ」
「少し休憩を入れましょう」
さすが船長だ。良い所で助け船を出してくれる。電話で軽食を用意するよう指示した。
レンネンカンプ大臣はソファーに深く沈み込み考えに集中しているようだ。
特別室内の別室で
(これは少し不味くないか)
(明らかに不味い。以外に権力基盤が脆弱なのかも知れない)
(海軍としては、現政権を支持したい)
(山下少将は、そんなこと言って大丈夫なのですか)
(出航前に総理大臣他から、指示されていることが有ります。もし友好的存在になり得る勢力が居たら積極的に介入しても良し、と)
(我々は聞いていません)
(政治と軍事はある程度離すという方針のようです)
(それなら理解できんでも無い)
(だが独断では無いのか)
(これを)
一枚の書類入れを渡す
(これは、委任状か。しかも全権となっている)
(南雲中将から頂きました。私は全体の指揮を執らねばならないと言って)
(では明日飛行機を飛ばすのも)
(はい。この権限の内です)
(私も同じような指示は貰った)
(では、現政権を支持で)
(それしか無いですな)
今まで黙っていた、出雲丸船長宮田惣左ヱ門が発言した。
(船長、賛成ですか)
(はい。乗船してきた方々の状態が意外に悪いですな。アレでは移民とは言えない。まさに難民でしょう)
(我々は短時間しか接触していません。それ程ですか)
(栄養状態がよろしく有りませんな。かなりの人数に痣や打撲が有ります)
(扱いが悪いと)
(そうです)
(如何しますか。我々が支援すると言っても、限界が有ります)
(実は、実力行使に近いことまでは許可されております)
(戦闘が許可?)
(違います。ただ首都または最大の港湾都市の沖合に艦隊を展開しようかと)
(砲艦外交はしないのでは)
(はい、出来る限り控えるよう訓示は受けています)
(では、最後の手段にしましょう)
(政権側と協調して、強硬派と選民思想派に対抗します。でなければ、難民達の命が危ない)
(第一に難民達という認識で間違いないですか)
山下少将が確認する。
(そうです。我が国が必要とするは、難民達です。極端な話、難民達が確保出来れば政権の運命はどうでも良い)
(時にはそれを匂わせねば利用されるだけですな)
船長が話してきた。
(その通りです。問題はどうやって難民達を救出するかです)
(私は、いち船長なのでね。戦争や政治は分からない。だが経済は多少は分かる)
(なにが言いたいのですか?)
(ディッツ帝国は、属国や植民地を失ったと言っていましたね)
(はい、そう聞いています)
(ならば、国庫は相当苦しいはずです)
(まさか、金で難民を買うのですか)
(そんなあからさまなことはしません。足下を見られて終わりです)
(ではどうしろと)
(ここは田中さんの出番でしょう。民政・経済担当でしょうから)
(そうですが、実践は経験が無く)
(では、当船からお手伝いを出しましょう。以前は北米航路や東南アジア航路、あるいは欧州航路を経験した者達です)
(心強いです。ありがとうございます)
(では、経済的な協力体制を見せ、最悪の事態には砲艦外交も在りと言うことでまとめたい)
(((賛成です)))
「お待たせしました。落ち着かれましたか」
「私は大丈夫だ。何を相談していたのかね。とても気になる」
「はっきり言わせていただく。現有戦力で何が出来るかという相談をしていた」
「まさか我が国を攻撃すると」
「しません。それは最悪の事態です。ただ現政権と協力は出来そうだと言うことです」
「現政権か」
「はい。今回の工作はかなり杜撰ですが、このような破壊工作がおこなわれると言うことは、現政権への不満・不平が背景に有ると推測します。いかがですか」
「隠しても無駄か。開かすなら早いほうが良いだろう。正直に言おう」
「お願いします」
「現皇帝は三男だ。意味が分かるだろう」
「継承順位を無いものとしたと?」
「そんなことはしない。国の恥をさらすようで申し訳ないが、継承順位を持っている人間が、三男以外は使い物にならなくてな」
「失礼しました。そこまでおっしゃらなくとも」
「いや、構わない。今回の妨害は国交を結ぼうという相手国への破壊工作だ。徹底的にやる」
「現皇帝を降ろして他の継承者に帝位について欲しい勢力の仕業ですか」
「それ以外には無いな。宗教的なものや本能的なもので見た目の違う者達を嫌うのは確かだ」
「理解出来ます」
「感謝する」
「だが、命までは奪おうとも思わない。それが大多数の帝国民の気持ちだ」
「だから移住先を探していたと?」
「そうだ、そこに君たちが現れた。神に感謝したね」
「ではなぜ」
「そこだな。強硬派は分かるね。君たちの所にもいるのだろう」
「大凡理解出来るかと」
「では、選民思想は?」
「それは、我々の元いた世界でも有りました。我が国には、ほとんどいません」
「では、理解出来るのだな」
「はい」
「第一皇子を担ぐのが、強硬派だ。軍を思いのままに操って、他国を征服、あるいは屈服させようと画策している」
「我が国にとっては危険ですね」
「ご理解いただけたな。では第一皇女を祭り上げているのが選民思想派だ。こいつらは、元々の帝国民以外は不要な存在だと考えている」
「では、今回は選民思想派の仕業だと」
「この杜撰な手口は間違いないな。強硬派はこんなことはしない。なぜか正面から来る」
「想像が付きますね。なぜか理解不能な思想を大声でわめきながら切りつけてくる」
「想像力では無いな。実際にいたか」
「お恥ずかしながら」
「第二皇子だが、行方をくらました」
「「「は?」」」
「駆け落ちだよ。表面上はな。第一皇子と第一皇女の間に挟まれて身の危険を感じたのかもしれん。年の近い侍女と共に行方をくらました」
「失礼だが、亡き者にされた可能性は?」
「悔しいが、便りが来る。彼しか知らない花押をした奴がな。早く、兄と姉をどうにかしてくれと」
「ある意味賢明?」
「言ってくれるな」
「失礼しました」
「他には第二皇女がいらっしゃるが、まだ八歳だ。こんなことは言いたくないが、若すぎるせいかお花畑だ。担ぎ上げる勢力も無い」
「そういう事情でな、議会に指定されたのが、第三皇子だ。冷静な判断力と冷徹な思考を買われてな」
「なら、国政を手にしているのでしょう。対立勢力を潰すのは訳は無いと思いますが」
「君たちの国には、貴族はいないのかな」
「貴族ですか。貴族はいます。ただ、法律でかなり制限を受けています。力を失って三百年近く経ちます。名誉職のようなものです」
「私も貴族だが、我が国の貴族は存在が大きい。国政にも影響力がある。ないがしろには出来ないのだよ」
「資金力や人脈が豊富だと?」
「有り体に言えばな」
「では、第一皇子派は武力で、第一皇女派は政治力と資金力で、と言う考えで良いでしょうか」
「概ね合っている」
「移民にはどちらの方が危険なのでしょうか」
「第一皇女派だな」
「ですが、法律と国庫を背景にした資金力で影響力を排除出来ませんか」
「法律は反対される。金は向こうの方が有る。我らは資金不足だ」
レンネンカンプ大臣が酷く渋い顔をした。
「国庫が有って資金不足ですか」
「我が国は、豊富な金産出量を背景にした金本位制だ。これは分かるね」
「理解出来ます。我が国も以前はそうでした」
「その国庫に有るはずの金が転移と同時に失われた。今国庫に有るのは借用書の山だ」
「それはつらい」
「そうなのだ。あのバカ皇帝め。おかげで国家までボンビーされたじゃ無いか!」
「落ち着いてください」
「すまない。だが一気に喋ったせいかすっきりした。ありがとう」
(こちらは疲れました)
「では大臣、失礼ながら資金が有れば抑えることは可能でしょうか」
「金が有ればな。だが鉱山も失われた今では回復は困難だ」
「しばしお待ちを」
(確か金塊を持ってきていたよな)
(現地との交易用で、余り量は有りません)
(海軍は、全体で二十トンです。阿賀野には五百kg)
(この船出雲丸には三十トンですな)
(どのくらい渡しても良い?)
(とりあえず一トン単位ではどうでしょうか)
(多すぎませんか)
(我が国が財政的に余裕が有ると見せなければ)
(実際有るそうですが)
(田中はそちらが専門だから)
皆で田中を見る
(私の判断で使えるのは五十トンまでです)
(それ以上は内閣の決裁が必要です)
(?出雲丸には三十トンじゃ無かったか)
(申し訳ない。公式には三十トンです。実際には五十トン積んでいます)
(それなら一トン単位で行こう)
「お待たせしました」
「どういう結果になった」
「資金提供をさせていただきます」
「なんと!」
かくして南遣艦隊はディッツ帝国の政争に関与していくことになった。
難民の安全を確保するために。
難民の安全という名目で政争に関わっていく日本
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