転移先では
ようやく日本人が出てきます。
果たしてどうなるやら
日本標準時、正和十六年七月二十九日十一時三十四分
日本は、転移した。
転移時のショックでまたいろいろ壊れたが、神々と見えざる者達で復旧した。
人間は眠らせてある。事故になりそうな物は運転を停止させた。
日本で一番早い夜明けはウェーク島である。
田中整備兵曹長が目を覚ました。おかしい、時計を見る。起床ラッパはもうとっくに過ぎていた。
こんなことになれば、分隊士が目の色変えて怒ってくる。なのに誰も来ない。静かな物だ。
「おい、みんな起きろ」
「お、おお」
佐藤一等整備兵曹がぼやけた返事をする。
「なんで眠ってた」
鈴原二等整備兵曹が不思議そうに問う。
「怒られる!」
千原一等整備兵曹が飛び起きる。
「多分怒られないと思うぞ。起床ラッパさえ鳴らなかった。おかしい」
兵どもに朝の挨拶といくか。
「居眠りはしておりません」
新入りの中野二等整備兵が気まずそうに言う。
「分かっている、みんな寝ていたようだ。だが、なぜだ」
「分かりません」
藤原一等整備兵が返事をする。
みんな原因に心当たりは無いようだ。
それでもやらなければならない、朝の日課を行う。
朝の日課が終わった頃、士官がやってきた。
整備隊隊長の山田大尉だった。
「「おはようございます」」
整備隊下士官・兵の敬礼と挨拶を受け、山田大尉も答礼と挨拶をする。
「おまえ達、身体に異常は無いか」
「「「ありません」」」
「無ければ良い」
「大尉、どうなっているのでしょうか?」
「どうなっているか、俺にも分からん。今、無線で本土と連絡を取っているが返信が無いようだ」
「本土は大丈夫なのでしょうか」
「聞かれても困るな。そのことで基地司令からお話があるようだ。全員で聞く。〇九:〇〇に飛行場指揮台前に集合。復唱」
「〇九:〇〇に飛行場指揮台前に集合。了解」
「解散」
山田大尉は去って行った。
「なんだろうな」
「分からんな」
「今、〇八:二五か。如何します」
「ここにいても暇だしな。かといってあそこは暑い。どこかの日陰で休むか」
「じゃあ格納庫扉を開けてきます」
「おお、行ってこい」
「我々も行くか」
格納庫にいると主計の奴がやってきて、主計も同じような状態で、朝飯は司令の話が終わってからと言われた。
ウェーク島飛行場指揮台前 〇八:五〇
整備隊下士官・兵が集まるとすでにほとんどの人間がいた。驚いたことに港湾関係者の軍属達も含まれていた。
基地司令の矢口中佐が指揮台に上がった。
先任軍曹の合図で敬礼・挨拶と司令の答礼と挨拶があった。
「全員いるな。本日朝、不思議なことに全員寝入っていたようだ。原因は分からん。気圧が一晩で三十ミリも下がったのが不安だが本土や南鳥島との連絡もつかん。現状、孤立したともいえる。南鳥島に連絡機を飛ばそうと思ったが、曇天で天測も出来んから飛ばすのは止めた。食料・燃料は一ヶ月分備蓄がある。今後一週間は平常勤務で食事も普通に出すが、その後は節約に入る。新しい情報があれば逐一知らせる。各自動揺すること無く平常心でいて欲しい。では、解散」
司令が解散と言ったところで、司令の横に何かキラキラとした光が出現、徐々に大きくなっていった。
これには司令も驚き慌てて指揮台から飛び降りた。陸戦隊は武器でも取りに行くのだろうか、兵舎に走って行った。
光はやがて人型になり光が収まったときには、そこに人がいた。やけに神々しい女性が。
人は言った。
我は神である
なんと神とな。みんながひとしきり注目した後、司令を見やる。司令は俺か?という感じでいる。
みんなの代表ならあなたでしょう。あなたが一番階級が上です。責任者でしょう。
司令以外の全員の気持ちは一つだった。
司令は肩を落とした。
「神様、私はこの基地の基地司令、矢口です」
ソナタが、ここの代表か
「そうです」
ここは日本で一番先に日の昇るところで間違いないか
「そうです」
よろしいでしょう。わたくしは天照大御神じゃ
「天照大御神様、で・す・か」
そうじゃ。今日この日より新しい地で日本の新しい歩みが始まる
「この日より?新しい地?」
わたくしは最初の地に降り立つとこで、日本に祝福を与えました
「祝福ですか」
そうじゃ。日本がこの先どう進むかはわたくしの思うところではありません。日本の人々が決めること
「この先とは」
わたくしはこれ以上この地にとどまれませぬ。説明の出来る者が訪れるでしょう
「はい、もう何か圧倒されてしまって倒れそうです」
そうよの、ではさらばじゃ。皆息災でな
天照大御神様は光となって消えていった。
みんな光が消えた後、その場でへたり込んでしまった。
神様ならとか、神々しかったとか、天照大御神様か、美人だったな、などとしゃべり始めた。だが、腰はぬけたままだ。
司令は大丈夫か?一番近くでしかも話をしたぞ。
司令を見ると、やはりへたり込んだままだった。
気がつけば、雲が消え頭上には太陽が見えていた。
それを影から見ていた見えざる者達は、あれ天照様だよな。おかしい。何か神様らしかった。などとしゃべり、頭頂部を皿状に軽く焼かれるのであった。ぎゃ~。
「勘弁してください。神様に付けられた傷は中々治らないんです。このままハゲたら如何するんですか」
罰当たりなことを言うでない。わらわの本質はこちらじゃ。そなた達の前ではそなた達に合わせていただけじゃ
そなた達、禿げめよ
「当ててから言われても」
「天照様、なにか言い間違い」
気にするでない
「はぁ~、彼等に説明しに行くか」
「そうするか」
ウェーク島の基地要員は天照様が去った後、ようやく起き上がることができはじめた。
「主計、飯の用意はどうだ」
「今確認して参ります」
「司令、飯ですか」
「そうだ、こんな時だから食って力を付けなければな」
おや、主計長が走ってきたな。如何したのか。
「し・し・し、司令、大変です。飯が、飯が」
「落ち着け主計長。飯が如何した」
「用意した献立では無くすごく豪華になっています」
「なに?」
とりあえず食堂に行く。士官食堂は
「なんじゃこりゃー」
兵員食堂では
「「「「「うおおおおおー」」」」」
凄かった。赤飯・鯛の尾頭付きをはじめとする豪華料理が全員の目の前に並んでいた。
男が一人出てきた。
「先程、天照大御神様に紹介された説明できる者です。その食事は、祝福の一環としてご用意しました。どうぞお召し上がりください」
矢口司令が問う
「あなた方も神様なのですか」
「違います。神様候補と言ったところでしょうか」
「候補ですか」
「候補です。神様に成れるかは分かりません。助手と思って頂ければ」
「はあ」
「食事が冷めてしまいます。どうぞお召し上がりください」
矢口司令が思い詰めたような顔で、ついに言った。
「戴きます」
「「「「「「「「戴きます」」」」」」」
この基地でこれ以上声が揃うことは無いだろう勢いで戴きますをした。
とても豪華で美味な、この面々では二度と食べられないだろう食事を終えた。お茶も最高級らしくおいしかった。後で聞くと港のほうでも同じ食事だったそうだ。
「ではお話をしましょうか」
「メモはご自由に。今から概要を書いた冊子を全員に配ります」
矢口司令は先ほどの食事で吹っ切れたのか、次々に質問をしている。少し待ってくれとはぐらかされている。
「日本は、いや地球は無くなりました」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まあ、そうでしょうね。信じられるわけがありません」
では、と言って手を叩いた。その瞬間、暗くなり何かの映画が始まった。
地球近傍に巨大惑星がいきなり出現し、月がバラバラになり、地球では風が狂い踊り、海が荒れ狂い、地が割れた。
その後元凶の惑星との交渉や、他の国々のその後などを上映した。
皆無言であった。信じられるわけが無かった。異世界へ転移だって?地球はバラバラ?では、ここはどこだ?あんな事になってみんな無事なのか?分からないことだらけだった。
そんな中、ついに声を上げた者がいた。安田上等飛行兵だった。
「あのような事になって、家族は無事なのでしょうか」
ああ、そうだ。みんなそう思った。なぜ思いつかなかったのか。
「ご心配だと思います。ですが大丈夫です。神々と我々で怪我は治しました。ついでに病気も少しは良くなっていますよ」
「ありがとうございます」
あいつ、家族が病気とか言っていたな。それは嬉しいだろう。
安田上等飛行兵をきっかけに次々と質問だとんだ。
「他の国も同じように怪我や病気は良くなったのですか」
「なりました。差別はありません」
「どの国がどこに行ったか分かりますか。親戚が外国にいるのです」
「連絡は取れるようになっています。希望すれば帰国も可能ですよ」
「ありがとうございます」
「この地はどういう所なのですか」
来たなという顔で目配せする神候補達。
「この星ですが、名前は「ランエール」と言います。この星の主神の名前です」
おお、主神だと。凄いな。騒ぐ。パンパンと手を叩いて注目を集める神候補。
「大きさは直径で地球の約2.5倍、重力は同等、重力は皆さん普段と変わりない事で実感できると思います」
「一日ですが、地球時間で約二十五時間。時計が大変ですね」
「自転方向は地球と同じ。地軸の傾きもあります」
「気温は変わりません。気候もあまり変わりません。ただ大きい星なので極地は厳しいです」
「基本、現地の人たちが食べているのもは食べられます」
「基本?」
「あなた方も、毒のある部分をわざわざ毒抜きして食べますよね」
「フグとか?」
「まあそうです。そんな感じです。昆虫食が主な人たちもいますので、そこは注意してください」
「昆虫食?イナゴとか?蜂子?田舎の人間なら多分大丈夫だ」
「大丈夫ですか、日本じゃ無くて東南アジア並なんですが」
「どのくらい?東南アジア並と言われても行った事無いから分かりません」
「まあ、見れば分かりますよ、見れば」
「米はありますか」
「日本米と同じものはありません。東南アジアで取れる長粒種になりますね」
「あなた方が広めても良いですよ。制限はしません」
「魚の種類はどうでしょうか」
「ほぼ同じです。見た目が同じなら味も似通っています。ただ、まあ何です経験してください。釣りが出来るようですし」
「地球と違う事はありますか」
再び、来たなという顔で目配せする神候補達。
天照様、祝福はなに?
星に名前付いていました。決して大地球とか、おおちたまとか呼ばないように。
この地の秘密?
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