南との接触
遂に南の国家との接触です
帝国を滅ぼした共和国か?
十月十九日 誤字報告ありがとうございます
一部、わざと表記してありますので、そちらは直しませんでした。ご了承ください
十月二十一日 時系列がかなり怪しくなりましたので、南遣艦隊は一度日本に戻って出直したことにします。
南遣艦隊は台湾を発ち、南下していた。いくつか無人島を発見して日の丸を立てながらの航海なので行程はゆっくりとしたものだった。
艦隊は、日本で立てられた基本計画に基づき行動するが、南下限界は艦隊に任されていた。
艦隊は、物資の三分の一を消耗した所で引き返すことにして南下を続けた。これは基本計画四千海里よりも一千海里は南下する事になる。
台湾から二千海里南下した所は大小の島々で構成される多島海になっていて、大型船の航行には緊張した。
途中で星座ががらりと変わり、どうやら赤道を越えたことはわかった。
哨戒機を飛ばしているが大小の島はあれど、大陸と呼べるような大きな陸地は無かった。
哨戒機は九十七式艦上攻撃機二十二型だった。翔鶴と瑞鶴には彗星と天山が搭載されるのだが、彗星はエンジンのロールスロイス・マーリンエンジンが輸入出来なくなり生産停止中。天山は配備されたのだが、新鋭機であり不安があるとして下ろされた。
搭載機は零戦、九十七艦攻、九十九艦爆であり、すべて同じエンジンだった。飛行性能よりも整備や補給が楽な方を艦隊は選んだ。
南遣艦隊は、多島海で旗を立てすぎて時間と資材を消費してしまい、一度日本に戻ることにした。
十八年九月、南遣艦隊は日本に帰ってきた。
新聞や雑誌は「新たな領土獲得」「広がる日本」とか景気の良いことばかり書いて、その領土をどうやって維持するのかなど一言も書かなかった。
南遣艦隊と東遣艦隊の派遣を批判した新聞や雑誌・弁論家は、手のひらを返したように褒め称え、勝手な将来像を描いた。
南遣艦隊が再び出発したのは、艦艇の整備や補給が終わった十八年暮れだった。
今度は多島海は無視して南下する。多島海には、まだ旗を立てていない島々が多数有る。前回旗を立てたのは、大きな島や将来的に航路上重要になると思われた島だけだ。
赤道を越えたと思われる南遣艦隊は、赤道祭如何する?赤道自体分からんから無しで。じゃあ軽く酒保の開放で。ちょっと息抜きをした。
正和十九年一月
艦隊は四千海里を越えた所で引き返すかどうか、もう一千海里南下するかどうか再び会議を開こうとした所だった。最初は頑張っていこうという気になっていたが、はっきり言って、この方向でいいのか不安になっていたのである。
そこへ、九十七艦攻から航空機と接触したと言う連絡があった。
愕然とした。接触するのはカラン村の人達程度の科学技術と思っていた。それが航空機だと。
追信は乙二号暗号で来た。引込脚・双発機・液冷・単葉・銃座あり・金属製、洗練されていないという感想が来た。
戦闘機の派遣も検討されたが、敵対状態に無いとして見送られた。手の内は見せない方が良い。
九十七艦攻は固定脚でいかにも旧式に見える。侮ってくれるなら都合は良かった。
艦隊は接触時点で針路を百八十度反転させた。まだ見つかるわけにはいかない。
これより隊内通信は禁止。電探の使用も止められた。哨戒機との通信も乙二号暗号に切り替える。乙二号暗号は戦術暗号の一種で、複雑な語彙は無かったが、不明機との接触程度なら機数、方位、速度など必要最低限の語彙をセットしてある符号表のようなものだった。哨戒機には通常この暗号表を持たせていた。
対応をどうするかの会議が始まった。
強電波を出すとこちらの位置がばれる。日本との通信はこちらの存在がばれるまでしないことになった。
艦隊の中で一番古いのは陽炎級だが、電探を装備している。これは見せたくなかった。雪風の電探を外し、艦隊補給艦一隻と南に向かわせることになった。艦隊補給艦の電探も外した。
この二隻は決死隊だった。拘束される可能性は有る。哨戒機が攻撃されなかったので可能性は低いと思われるが、攻撃されるかも知れない。いざという時のために、暗号書は降ろし、酸素魚雷はもったいないが投棄した。トランジスタ利用の通信機も予備の全真空管式の物と付け替えた。艦隊補給艦の補給物資もほとんどを他の艦に移した。補給艦には外交官を乗せる。
それだけで三日掛かった。
十六ノットで進む二隻はやがて艦隊と接触した。巡洋艦一と駆逐艦二か。
雪風は主砲に俯角を掛け、戦闘の意思がないことを示した。地球では通用したが、この相手はどう出るか。
相手も俯角を掛けたか。どうやら通じたようだ。
速度を落とし、同航になるよう舵を切る。やがて距離百程度で同航した。
「こちら日本海軍所属、雪風、初めまして」
「ディッツ帝国海軍、エルベ、初めまして」
言葉が通じるか。神様に感謝だな。
相手は巡洋艦か、こちらが先に礼をしたのが正解だったようだ。これも地球と変わりないか。
巡洋艦はアメリカ海軍のオマハ級に似ている。
着いてくるよう要請があったので、後続する。無視してもいいことはなさそうだった。
島影が見える。あそこに行くのか?
島の入り江で碇を下ろした。こちらも碇を下ろした。
ボートを下ろしている。見ると海岸には桟橋と小屋が有った。あそこに行くか。
こちらも付き合おう。補給艦からもボートが下りてくる。
向こうは先に上陸して、小屋を開け椅子と机を持ち出してきた。
慣れているな。と言うことは先に彼等と接触した同程度の技術力を持つ相手がいると言うことなのか?それとも用意周到なだけなのか?
「雪風艦長、紫原敏夫」
「エルベ艦長、フリッツ・フォン・レンネンカンプ」
「なぜか言葉が通じます。お互いに意味はわかるのでしょうか」
「紫原君だね。意味はわかる。不思議なものだ。他の初めて会った人間とも言葉が通じる」
「そうなのですか。確かに不思議ですね」
「本題に入ろうか」
紫原はうなずく。
「君たちは日本と言ったな。その目的は?」
「私たちは、この星に転移してきたのです。まだ自分の国の周囲がどうなっているかわかっていません。現在はこうやって、偵察行をしています」
「転移だと?我々だけでは無いのか」
「ほう、そちらも転移してきましたか。我々は一年半ほど前です」
「こちらは三年前だな。苦労はわかるよ。海軍は海図も無い船出をしなければならなかった」
「そうですね。電波だけが頼りでしたから遠くには行けませんでした」
「うむ、良くわかる。天測は出来るかね」
「いえ、まだデータ不足で出来ません」
「そうか我々ディッツ帝国は、幸い星の運行がわかったのでな。天測は出来るぞ」
「うらやましいことです」
「我らが主神ローエングラムにより導かれた我がディッツ帝国は、大陸を我が手に収めたのだよ」
「我が手にですか」
「そうだ。帝国の四倍以上の面積を治めるのは大変だが、なに、人で在って人で無い者達など問題では無かったな」
「人で在って人で無いものですか?」
「獣人とか、エルフ・ドワーフといった者達だよ。普通の人間は我々に賛同し、人の居住圏の拡大に手を貸してくれる」
まずいな。拡張主義か。
「そういう者達はどうしていますか?人で無い者達です」
「興味あるのかね」
「出来れば労働力に欲しいと思いまして。我々は人手不足なのです」
出来るだけ保護しなければ。
「ふむ、そうだね。それなら彼等を引き取ってくれないか」
「引き取る、ですか」
「そうだ。我々は彼等の行き先に困っているのだ。このままでは陸軍がやりかねん」
「まさか」
「恥ずかしいことだが、陸軍の中に過激な連中がいてな、ディッツ帝国国民以外は大陸に不要だと唱える連中がいる。そう言う連中は得てして声が大きい。君は心当たりが無いかね」
「大変良くわかります」
「君の国にもやはりいるか。どこにでもいるな」
「海軍はどうなのですか」
「海軍は出来れば彼等に新しい土地を用意したい。だが見つからないのだ。彼等が生きていけるだけの土地が」
「では、話し合いの甲斐が有りそうです。我が国の外交官と交代します。これ以上は、一軍人の手には余ります」
「そうなのか、中々やりそうだが」
「私はただの駆逐艦長です。政治家ではありません。あなたは政治家か貴族なのでしょう。そういう雰囲気がします」
「良くわかるね。いかにも貴族だし、叔父は帝国議員だ」
「日本は最初に接触出来たのがあなたで幸運でしょうか」
「そう思って欲しいものだ」
「では、こちらが外務省の中村と田中です」
「中村君と田中君か。よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
「君たちは、先住民を引き取ってくれると言ったな。それは間違いないか。国としての見解か」
「はい、労働力が足りないのは確かです。行き先の無い人達がいるなら確保して働いて貰います」
「何かありそうだが、訊くのは止めよう。引き取ってくれるというのだ。感謝せねばなるまい」
「ありがとうございます」
「では、まず引き取る人達の人数を教えて頂きたく思います」
「うむ、我々も正確な数は把握出来ていないが、おおよそ百~百五十万人くらいと見込まれる」
「・・百ですか・・」
「そうだ。いらないのか」
「少々お待ちを」
(おい、多くないか)
(ちょっと待て、確か有効求人倍率が1.2とか言っていたな)
(出航前の新聞だとそうなっていた)
(じゃあ百万人引き取ってもその中で働けるのは半数くらいだろう)
(百五十万人としても多くても労働人口が百万なら、吸収は可能か)
(あとは、農家でも人手不足が深刻となっていたな)
(そうだよ、農家だよ。工場や事務所では無理でも農家ならいけるんじゃ無いか)
(農地が馬鹿みたいに広がったからな。日本が希望する農業生産高に対して人が足りなすぎる)
(じゃあ可能か)
(船はどうする?)
(船か。おい、海軍さん)
(なんでしょうね)
(百五十万人日本へ運べるか?)
(時間があれば可能です。いっぺんには無理ですよ)
(そんなに船があるのですか)
(今、外国航路がありませんから、かなり空いています。船腹量は充分足りるでしょう)
(じゃあいけるな。いざとなれば食料は神倉庫に頼る)
(では、そういうことで)
「お待たせしました。すべて引き取らせて貰います」
「ほう、引き取るというのか。剛毅なことだ」
「こちらにもいろいろ有りまして」
「ではこの島で、交渉をしよう。国に帰ると陸軍の過激派が五月蠅い」
「わかりました。我々はこの島で待っていれば良いと?」
「そうだ、政府交渉団を作って連れてくる。一週間と言ってももわからないか。十日前後待って欲しい。最大で二〇日だ。帰ってこなかったら、交渉は失敗で君たちの国とも敵対状態になると思う。それは避けたい。期待して待っていてくれ」
彼はそう語ると、駆逐艦一隻を監視のために残して去って行った。
ディッツ帝国の登場だ。どうやら日本と同じように異世界に飛ばされたらしいこの帝国は、あからさまな膨張政策を採っていた。
カラン村の人達がいた帝国を滅ぼした共和国を征服したという。人種の中でも獣人やエルフ、ドワーフなどは宗教上認められないとして、すべて占領地区から追い出したらしい。殺戮や弾圧をするほど酷い宗教観では無いらしいが、同じ所には住めないと言うことらしい。
陸軍の過激派が気になるが、今は待つしか無い。
ぱっと見、科学技術は日本と同等らしい。向こうも当然だが見せない技術はあるだろう。
ディッツ帝国国旗
さてどうする。100万人ですよ
行き先はありますけどね
受け入れ準備が出来ません
手は貸しますが自分でやって貰うことになるでしょう
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