表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移国家日本 明日への道  作者: 銀河乞食分隊
第一章 日本 外地進出
37/219

カラン村再び

確保した上位種をカラン村へ送ります。

カラン村と言えば上村中尉。

未だに現地交渉責任者の任を解かれていません。任を解くのを忘れているのか、上手くいっている間はこのままなのか、さあどっちだ。

 上村は呼び出された連隊本部で待ちくたびれていた。

 場所は江戸県練馬市であった。ここに陸軍歩兵十二連隊が置かれたのは明治の終わりだった。

 建物の二階に上れば江戸城が見える。大阪のように空気が汚くないので視界は良好だ。まだ周囲は田畑が多いのどかな所だった。


 まだかな。待ちくたびれたぞ。俺は江戸城が好きなのだが今この時間に屋上に上がって眺めるわけにもいかん。

 車が入ってきたな。フォードか。偉いさんでも乗っているのだろうか。


 「上村中尉、待たせたな」


 ドアを開けながら連隊副官の藤村少佐が言った。

 上村は立ち上がり直立不動の体勢でいる。


「失礼する」


 聞き覚えの有る声だと思って見ると、カラン村で半年付き合った防疫部隊隊長の本間医師だった。


「お久しぶりです。お元気だったでありましょうか」


「わしは元気だ。君も元気そうだな」


「おかげさまで」


「いいことだ」


「では、上村中尉。詳細は本間さんに聞いてくれ。既に命令は出ている。拒否権は無いぞ」


「了解であります」


「では、本間さん。あとはお願いします」


「ご案内ありがとうございました」


 藤村少佐は去って行った。

 俺になんの用だろう。まあ予測は付くが。三回目か。


「まあ座ってくれ。ゆっくり話そう」


「ありがとうございます。では失礼して」


「わかっているとは思うが、また行ってもらおうと思う。やはり君が一番カラン村で人気がある」


「人気ですか?」


「ふむ、人気と言うよりも信用度かな?心を許せるというか、そんな所だ。仲間と認識されているのかも知れない」


「まあ悪くないですね。日本のためにも」


「君は東鳥島攻略戦を知っているか」


「攻略に行ったという噂くらいなら」


「そうか。では最新情報だ。混沌獣の上位種が現れた」


「なんですって」


「そうだ。上位種だ。小型だがかなり強力だったらしい。後で報告書を見ることもあるだろう」


「それで今回のカラン村行きとの関係は?」


「上位種の素材がまるごと手に入った。それを見聞して貰う。我々では価値がわからない」


「それはまた。確かに見て貰わなければいけませんね」


「そういうことで付き合って貰う。まだ素材は大阪に着いていない。明日到着する予定だ。カラン村への出発は明後日だ。ここからでは汽車で行ったのでは間に合わない。飛行機を用意してある。明日、福生から乗ってくれ」


「分隊全員ですか」


「前回前々回と同じメンツで頼む。かなり重要になると思う」


「わかりました」


 その日自宅に戻り、またカラン村だよと言うと、娘にお土産をせがまれた。どうやら友達に見せるらしい。自慢しないなら買ってこよう。自慢するためなら買ってこないと言うと、自慢しないよ見せるだけ、けっこう出回っているから。と言った。なら少し毛色の違う奴を買ってくるか。


 翌日、いつもの面々と福生から大阪に向かう。

 お大事の荷物は大阪に入るというので待とうとしたら、こっちだと言って連れて行かれたのは海軍の飛行艇基地。

 ここからカラン湾まで一気に飛ぶという。荷物が届き次第飛ぶのでここで待てと言われる。

 過去二回は船だった。俺たちもずいぶん偉くなったもんだと冗談を言い合っているうちに荷物が届いた。

 

「お客さん方、今から飛びます。準備お願いします」


「もう夕方ですよ」


「当然夜間飛行ですね。大丈夫、朝起きれば柳素湾です」


「途中、何処かへ寄るのでは」


「いえ、直接いきます。ああ、そうですね性能を知らないか。こいつは四千海里、七千km飛べます。直通ですよ」


「はあ、よろしくお願いします」


 搭乗した飛行艇は輸送機型で動力機銃座や、側面と艇尾の機銃を撤去し人員輸送用に注力した機体だと言うことだが、生粋の岡人おかびとである上村には何のことかわからなかった。


 夕方、飛行艇は上村分隊や本間先生達20人の乗客を乗せ和歌山沖を飛び立った。

 翌朝、柳素湾を望む空にいた。速いな、船だと一週間くらい掛かるはずだ。

 カラン湾の飛行艇桟橋に無事接舷した時には、ようやくという思いだった。だってあの便所は無い。小便をカップの中に出せば霧となって空中に漂っていくと言う。大はと聞くと、「下のことは気にするな」と言われた。

 皆そんな便所はいやだったのだろう。事務所横の便所に列をなしていた。


 我々を迎えに機動乗用車とトラックが来たが、わかっていたよ。上村分隊はトラックで先生達が機動乗用車だと言うことは。

 鉄道は引けていたが、便の都合で時間が遅くなる為、このまま車でカラン村に向かうことになった。


 カラン村に着いたのは、夏の夕日が暮れようかと言う時間だった。

 村近郊の駐屯地で車から降りて、歩いて行く。皆は軽輸送車に荷物を移し替えて村に行くので、中尉は早く言って下さいと。


「ジンイチ、ジンイチ」


 タマヨが走ってきてまとわりつく。

 

「タマヨか、元気だったか」


「元気だったよ」


 そう言って、頭を腹にグリグリしてくる。頭を撫でていると満足したのか離れてくれた。

 

「久しぶりだね。なにしに来たの」


「ニャは付けないんだな」


「んもー、それは言うな」


「ははっ、ごめんな」


「しょうがない、許す」


「ありがとうございます」


「うん、いいよ。長の所?」


「そうだよ。案内してくれるか」


「こっち、着いてきて」


 手を引かれるままに着いていく。村の皆が何か生温い目で見てくる。見慣れているだろうに、勘弁して欲しかった。


「おさー、ジンイチだよー」


「タマヨ、ジンイチが来たのか」


「そだよー」


「お久しぶりです。長」


「よく来たな、ジンイチ。何か用かな」


「はい、こちらとしては初めての物が手に入りましたので、教えて頂きたく」


「どんな物かな」


「小型上位種です」


「?もう一度」


「小型上位種です」


「そんな物よく手に入ったな。では、ケイルラウの所に行くか。彼も元気だぞ」


「彼?」


「そうだ。君たちの所の医師が一人残って勉強しているよ」


「そうですか。自分が帰ってからのことはわかりませんので、そうなっていたのですか」


 誰だろう?


「彼は熱心でね。遂に魔法陣を発動させることが出来るようになったよ」


「魔法陣ですか。それは凄いですね」


「まだ小さい、ほんの初歩の魔法陣だがな」


「いえ、それでも魔法陣を発動させたということ自体、凄いと思います」


 魔法陣を発動?日本人でも出来るのか。これは報告書にはないが、最近のことなのか。


 上村の所には、カラン村やシベリア大陸での出来事が最高機密以外は報告書として送られてくるので、それを読み解くだけでもかなりの時間を必要としていた。おかげで少し運動不足になっていた。


「こんにちわ、ケイルラウ」


「ジンイチか?久しぶりだな」


「はい、ケイルラウもお元気で」


「うむ、日本から持ってきた道具や資料には驚かされる。毎日が楽しいぞ」


「良かったです。聞きたいことがあるのですが、今良いですか?」


「ん?問題ない。聞こうじゃないか。急ぎと言うことは面白いことなのだろう?」


「実は、ケンネルの上位種が手に入りました。それで私たちでは価値がわかりません」


「上位種か。ケンネルといえども手強いはずだ。よく倒せたな」


「自分もまだ倒したと言うことしか知りません。現地から報告書が来ていないのです」


「急いで来たのか?」


「鮮度が落ちない内と考えまして」


「それは正しい。では、どのくらい経っている?」


「えーとですね。倒してから五日でしょうか。あの保存袋に入れてあるそうです」


「役に立っているようだな」


「あれは有り難いです。小型中位くらいの混沌獣の魔石を使えば、日本人でも発動しますから」


「ではもっと作るか?」


「是非お願いします。あとですね、以前持ってきた大型魚型混沌獣ですが、継続して狩るようです」


「それはいいな。内臓と魔石に肉だな。後はヒレと骨か。もうウロコはいらんぞ。村には多すぎる」


「ではウロコは減らしますね。混沌獣の肉は腐りにくいんですよね」


「うむ、以前持ってきてくれた魚の混沌獣だが、外側は傷んでいて食べられなかったが、その部分を除ければほどよい食べ頃だったぞ」


「あれで15日くらいなのですが」


「大物ほど肉の持ちは良い。小物ほど早く駄目になる」


「そういうものですか」


「そういうものだ」


「肝心の上位種ですが、そろそろ村に着く頃です」


「そうか。どうするかな」


 広場の方で歓声が上がる。なんだと思って広場に行く。

 そこでは。ケンネル上位種が披露されていた。


「ジンイチか。すまんな、わしが披露させて貰うように頼んだ」


「かまいませんが、そんなに歓声が上がるような物ですか?」


「おお、これは凄いぞ。外見にほとんど傷がない。胸を切り開いた後と頭が割れているだけだ。ここまで状態の良い上位種も珍しい」


「そんなものですか」


「だいたい皆で寄って集っての魔法攻撃と剣や槍で、あるいはハンマーで潰すとかの攻撃で倒すのだ。だいたい外見はボロボロだ」


「どんな攻撃をしたんでしょうね。そのうち報告書が来ると思いますので、わかったら教えますよ」


「頼む。大怪我用の魔法陣を増やすことが出来るかもしれん」


「あれは帝都の限られた職人でなければ書けないのでは?」


「素材の問題でな。大型中位・大型上位の混沌獣の素材からは、村の者では知識不足・資料不足で出来ないのだ。だが、ケンネルでも上位種となれば話は違ってくる」


「増やすことが出来る可能性があると」


「この村でな」


「出来たらいいですね」


「一枚では不安でな。二枚あれば安心出来る。多ければ多いほど良い」


「賛成します」


「長、このケンネル上位種はいいな。とても状態が良い。これだけでは全身は無理だが、腹だけとかなら作れそうだ」


「おお、それでは作ってくれるか」


「もちろん。ただ一ヶ月くらい見てくれ。難しいのでな。資料を見ながらの作業になる。時間は掛かる」


「かまわんが、この獲物は日本の物だぞ」


「あ!そうだった。ジンイチ、いいだろ。使わせてくれ」


 上村は考える。価値を調べてくるようにと言うことだが、大怪我用魔法陣となれば価値は計り知れないな。


「いいですよ。使ってください。魔石と心臓は別に取ってあるそうです。あともう一体有ると言うことですが、そいつは強力な攻撃でバラバラだそうです。わかる範囲で集めた物が、三日後にこちらに着くようです」


「バラバラか。どんな攻撃をしたのか知らんが恐ろしいな」


 チハの五十七ミリ戦車砲なのだが、言ってもわからないだろうしどうするかな。


「魔石と心臓も取ってあるだと。素晴らしい。それも使っていいのだな。よければ出来る」


「是非使ってください。我々では使うことも出来ない。宝の持ち腐れです」


「ありがとう。感謝する」


 大怪我用魔法陣が増える可能性が大きいか、要報告だな。




大怪我用魔方陣量産可能か?

あれば嬉しい種類の魔方陣。

カラン村は儲けていると書いたことがありますが、全身麻酔に代わる麻痺の魔方陣とか、とても良く効く薬草ベースの塗り薬や呑み薬でかなり儲けています。

特に麻痺の魔方陣は、原材料が手に入らなくなった麻酔剤の代わりになると期待されています。

原材料は、芥子から抽出したものであるが、日本は海外からの輸入に頼っていた。


この儲けで、村の家も少し森を切り開いて綺麗に整地した上に、工兵隊が真面目に家を建てました。


この世界では、首都は大阪です。東京はありません。東京は江戸県です。人口も100万人行くかどうか。関東は利根川の改修とか行っているのは同じですが、完全な穀倉地帯です。

一次産業が六割、二次産業が二割、三次産業が二割という具合です。

代わりに岡崎から西に人口が集中していて、水源の不足から度々水不足を起こしています。また少ない平地に人口が集中するものだから、当然、地価を始めとする物価は高いです。

そのため政府は広がった国土への人口の再配置を図っています。人口は7000万人。


転移前は対立状態だった日米ですが、一部の産業は日本に進出して良い業績を上げていました。代表的なのがフォードです。転移前、国産で民生用乗用車を作っていたのが、日産と豊田のみ。フォードは中高級車という位置づけでした。機動乗用車は民間には売られていません。中高級車におけるシェアはフォードが六割、フォード以外のアメ車が一割、ヨーロッパ車が二割、国産が一割という具合でした。

普及価格帯は勿論国産車でしたよ。これは安い車には高関税を掛けたためですが、こんなことはどこの国でもやっていることなので問題にはなっていません。関税を下げろ。じゃあお前の国はこの関税を下げろという感じですね。


以前軍用自動二輪がハーレーダビッドソンと書きました。そろそろ黒鉄とか陸王が出現するはずです。転移した世界自体違いますのでライセンスもクソもないですね。良いものはどんどん好き勝手に国産化します。技術力があればですが。


次回 十月十七日 05:00予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ