東鳥島攻略戦 捕魚
対巨大漁です。
陸軍が苦労している時、海軍は暇だった。
そんな中、哨戒中の艦攻が魚影を発見した。比較物は無いが、波を参考にして大凡三〇メートルから五〇メートルの巨大魚と推定された。
東鳥島南東二〇海里で有る。
前回も島の南東だった。ここら辺が生息域か回遊範囲なのだろうという予測がされた。
海軍の主目的は怪魚の補足だった。陸軍の護衛はついでみたいなものだ。おろそかにはしていないが。
東遣艦隊司令長官小西淳三中将は攻略部隊総司令官羽田純一陸軍中将との検討の末、怪魚補足を決定した。
怪魚捕捉部隊を結成するに当たって、前回の経験者が黒鶴しかいなかった。 二水戦は前回いたものの直接交戦した野分は損傷修理中で参加していない。
駆逐艦は白露級は小型であり不安が有るとして、朝潮級か陽炎級とした。夕雲級はでかくなった分小回りがきかなくなっていた。最新鋭で損傷させたくなかったとも言える。
捕鯨母船一隻とキャッチャーボート二隻で組む捕鯨船団の護衛として七駆の朝潮・大潮・満潮・荒潮が選ばれた。航空支援は経験者黒鶴だった。
キャッチャーボートの捕鯨砲は、前回手に入れた巨大魚を研究した結果、従来の捕鯨砲では刺さらないことが判明。
陸軍の七十五ミリ野砲を改造して搭載している。かなり重くなってしまい後部と船底にはバランスウェイトを仕込まなければいけなかった。上手くいけば専用捕鯨砲を作る気でいる。
捕鯨砲が命中しても死なずに海中へ引き込まれそうになった場合は、綱を切ることも許可されていた。
捕魚の方法は、航空機で見つけ六番対潜航空爆雷で痛めつけ浮いた所へ捕鯨砲を撃ち込むという大雑把なものだった。
泊地を発った捕漁船団は、朝潮を先頭に一二ノットの速度で島の南島海面に向かっていた。一二ノットの速度は聴音機が良く聞こえる一杯の速度だった。
南島の岬を越えて少しいった所で哨戒機から巨大魚発見の報がある。二匹発見し、南西に向かっているという。速度は大凡一〇から一五ノットらしい。
その日は日が暮れた。船団は速度を落とす。
翌日、夜明け前の発艦した黒鶴哨戒機が巨大魚を再び発見した。二匹だという。同じものでは無いかという希望的観測があった。針路は南東だった。速度は昨日と同じ程度。
朝潮と大潮が二隻のキャッチャーボートと共に速度を上げ船団から離れていく。
二時間後、怪魚が進路を変更して北東に向かっていると言ってきた。
キャッチャーボートは針路を南に変えた。
黒鶴からは対潜爆雷装備機が発艦したという連絡があった。
哨戒機の誘導で迎撃地点に向かう。後一〇海里程度で遭遇という所で九九艦爆がやってきた。4機編隊だ。
後三海里という所で巨大魚が気がついたのか、こちらに向かって速度を上げたという。
距離二〇〇〇で降爆が開始された。二機が投弾した。一五〇〇で海面に着弾。水しぶきが上がる。
一匹はダメージを受け海面に上がってきた。
もう一匹はさらに速度を上げ向かってくると言う。残りの2機が降爆を開始した。八〇〇で着弾。水しぶきが上がる。効果はあったようで、速度が落ちたようだ。
キャッチャーボートが速度を上げ、巨大魚に向かう。朝潮と大潮も向かう。朝潮が遠い方の巨大魚、大潮が近い方の巨大魚だった。
近い奴は海面には出てきていなかった。まだ水面下だ。哨戒機に居場所に誘導して貰う。探針儀を打ちたいが他の巨大魚を引き寄せる可能性が捨てきれず使わないことになっていた。
それでも駆逐艦だ。キャッチャーボートより高い見張り位置から巨大魚を見つけ接近していく。
「目標巨大魚、対潜迫撃砲撃ち方始め」
大潮艦長川上二郎少佐が命令した。
「目標巨大魚、対潜迫撃砲撃ち方始めます」
防空指揮所にいる水雷長が復唱する。
「巨大魚、右舷に廻ります」
「右舷用意射角九〇」
「用意良し」
「巨大魚、離れます」
「上空の哨戒機より、大潮右舷一〇〇〇で右舷に向けて突進している」
「右舷、てー!」
大潮右舷の対潜迫撃砲が発射された。どうだ?
水しぶきが上がる。信管は潜水艦相手なら着発だが、巨大魚相手の時は深度二〇で信管が作動するようになっている。盛大なガチンコ漁だ
巨大魚が浮き上がった。キャッチャーボートに場所を譲る。
キャッチャーボートが近づき、捕鯨砲を発射した。運良く目に当たり頭の奥で弾頭が炸裂したようだ。巨大魚の動きが止まった。
キャッチャーボートは成功したとみて、捕鯨母船を呼び寄せる。物が大きすぎて自分で引っ張っていくのが無理だった。下手をすれば海中に引きずり込まれるだろう。浮き袋が萎まないよう祈るだけだった。
大潮はそんなキャッチャーボートの周囲を旋回して脅威からの警戒を図るのだった。
一方のキャッチャーボートはそんな幸運は無かった。もう少しで捕鯨砲の射程に入るという所で気がついたらしく、尾びれを激しく振り潜って行ってしまった。
上空の哨戒機からは「一度遠ざかりキャッチャーボートの方へ突撃するようだ」という通信が入る。
朝潮座乗の七駆司令太田中佐は艦長浦田少佐にキャッチャーボートの支援を第一にせよと下命し、後は任せると言った。
「機関前進全速、操舵手面舵、キャッチャーボートと怪魚の間に入る」
「対潜迫撃砲撃ち方始め」
「前進全速よ~そろ~」
「面舵ヨーソロ」
「対潜迫撃砲撃ち方始めます」
「舵戻せ」
「舵戻せ、ヨーソロ」
「機関速力落とせ前進半速」
「速度落とします。前進半速よ~そろ~」
「取り舵、針路キャッチャーボートと併走する」
「取り舵、ヨーソロ。キャッチャーボートと並進します」
朝潮はキャッチャーボートの右舷で並進する。
「朝潮へ、上空カラス、貴艦へ進路変更のもよう。速力三〇ノット程度」
「朝潮、了解」
「カラスより朝潮、艦爆が二機増援に来た。艦爆が爆撃をする」
「朝潮、了解」
「行くぞ近藤、着いてこい」
「近藤了解」
黒鶴艦爆隊長は今日も元気だった。
巨大魚の前方二〇メートルほどに着弾させる。水しぶきが上がる。
巨大魚は元気に突進していた。
「こちら艦爆。失敗した」
「朝潮、了解」
押っ取り刀で出てきて失敗するなよと思うが、失敗した物はしょうが無い。
「水雷長、任せる」
「了解」
「右舷対潜迫撃砲、てっ」
「発射」
水しぶきが上がる。どうだ。
「カラスより、朝潮。早すぎた。突破して貴艦に向かう」
巨大魚は弾幕を突破してきた。
「朝潮、了解」
「全艦、衝撃に備えよ」
ドーンという衝撃と共に船体が揺れる。巨大魚はなんだ?浮いている?動きが悪い。衝撃で目を回しているようだ。
左舷にいるキャッチャーボートに急ぎ捕鯨砲を撃ち込むよう要請する。
「機関、後進微速。盛大に音を立てるな。魚が起きる」
「後進微速、よ~そろ~」
「各艦被害知らせ」
「右舷機関室、軽微な浸水」
他は異常なかった。
「応急急げ」
キャッチャーボートが巨大魚に捕鯨砲を撃つ。命中したがはじかれた。こちらは初撃で目に当たるという幸運は無かった。
「砲術狙っているな?」
「狙っていますが、近すぎて俯角一杯でも苦しいです」
「キャッチャーボートに向かっていくならば、撃て。こちらの許可はいらん」
「了解、キャッチャーボートに向かっていく場合のみ撃ちます」
「機関前進微速」
「前進微速よ~そろ~」
「取り舵一杯」
「取りし舵一杯ヨーソロ」
キャッチャーボートは二発目を撃つ所だった。今度は良い所に当たったのか銛が突き刺さった。そして爆発。苦しそうにのたうつ。まだ死なない。三発目が発射された。今度はちょうど突き刺さる寸前で巨大魚が大きく動きはじかれてしまった。
巨大魚が気がついたのかキャッチャーボートに向かう。
ドーン、一番砲塔が発砲した。
水柱が二本上がった。
「カラス、朝潮。背中に命中」
「朝潮、了解」
動きが悪くなっている。あと少しか?
キャッチャーボートが四発目を撃った。今度は突き刺さり爆発する。動かなくなった。死んだようだ。
捕鯨母船はまだ合流には至らなかった。こちらも浮き袋が萎まないか祈らなければいけなかった。
一匹目は無事収容し解体中だ。
二匹目が少し沈み始めた頃ようやく捕鯨母船に収容することが出来た。
捕鯨母船ではなれない作業で怪我人が出たようだ。無事だと良いが。
これで泊地に帰ることになる。
成果は捕獲二匹。損傷一だ。本艦だな。
「艦長、そう肩を落とすな」
「司令」
「まだ皆慣れていないのだ。一発で成功する方がおかしい」
「慰めてください」
「なんだ、慰めて欲しいのか」
「はい」
「冗談が通じるならいいな。帰ろう」
「了解です」
帰途は何も無く平穏だった。
「奴らは回遊しているのかな」
「どうでしょうか。前回もここら辺の海域だったようです」
「案外そうかも知れないな。だとしたら北側は安全になる」
「他の奴がいなければです」
「それでも脅威が一つ減ったと思えば良い」
「そうしますか」
朝潮は損傷修理のため捕鯨船団と共に帰還することになった。護衛は帰ってきた熊野と夏雲だった。
熊野と夏雲は南アタリナ島でまた東鳥島に帰ってくる。
日本海軍は、相次ぐ損傷艦とキャッチャーボートでは小型でいかにも不安であり、巨大魚捕獲用専用艦種を設計建造するとした。
一回出撃するごとに損傷艦が出てはたまらなかった。
基準排水量二千五百トン
このくらい無いと五〇メートル級巨大魚には海中に引きずり込まれたり転覆する可能性があった。
予備浮力をかなり多めに取る設計をする。
幅を広げ安定性重視とした。
舷側及び艦底部は三重底とし最も外側は二十ミリ厚とした。装甲板では無く圧延鋼板。サポート材を多くする事で外板の変形を防ぐとした。
捕鯨砲を艦種と艦尾に装備。捕鯨砲は新設計の百ミリ口径の連装とした。機力操作として砲手は一人。
貫通力を重視し高初速という巨大魚専用設計。再装填に時間が掛かるのが問題であった。
通常の砲は装備しない。
三式対潜迫撃砲を片舷二基装備。
一式三十三ミリ連装機銃を片舷二基装備。
従来の爆雷は投下軌条のみとする。投射器は設けない。
メインマストは高くし、見張り台の位置を高く取れるようにした。艦で一番怖い配置だった。
機関出力は七万馬力とし、三〇ノットを出せるようにする。巨大魚の最大速度がこのくらいと見積もられており、逃げ切るためと追いかけるには必要だった。
スクリューと舵はウィークポイントだが、現状これに代わるものが無く仕方が無かった。
研究中のポンプジェット推進が実用化されれば導入するはずだった。
艦首部にバウスラスターを装備したが、作動させると聴音に酷い騒音が伝わり聴音機の位置と装備方法の変更が部隊配備後行われた。
捕鯨母船も三重底と外板二十ミリとし、巨大魚の突進に耐えられるものとした。
後に捕漁船団として、捕鯨母船一隻、捕魚専用艦四隻、軽空母一隻、駆逐艦四隻が一船団とする標準船団が構成された。
この巨大魚はかなり味が良いらしいです。ボラはあまり旨い魚じゃ無いんですが混沌獣だと言うことで旨いと。
現在は捕鯨式ですが、トローリング式も出してみたいです。おぼこ釣りなら浮き下十センチくらいですから小型のものに対しては延縄式もありかなと。
大きさはとどのつまりどころでは無いです。ボラでこれだ。海中にいるものと言えばやはりアレを出したい。
他にも混沌獣として、内臓、骨、ウロコ、ヒレとほぼ全身が使えると言うことで、捕魚が盛んになります。
他国との重要な交易品になるのでした。
東鳥島の南方に海中の混沌領域が在りそこから発生しているという設定であります。本文読めば四角に泳いでいますのでその中心かな。
次回 十月十五日 05:00予定