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コマンド上陸

 その船は海面下を静かに進んでいた。

 深度30で4ノットを10時間続けている。

 そろそろか。


「モーター停止」


「モーター停止、サー」


「行き足止まります。停止しました」


「ソナー、何か聞こえるか」


「何も聞こえません。とても静かです。サー」


「いい事だな」

「潜望鏡深度まで浮上する。メインタンク・ブロー」


「メインタンク・ブロー、サー」


「潜望鏡深度まで10フィート、サー」


「ブロー止め」


「ブロー止め、サー」


 練度は高いな。水平バランスを部下が細かく調整しているのをイギリス海軍潜水艦セルシー艦長、エドモンド・スミス中佐は指示をしながら満足する。


「潜望鏡深度までちょいブロー」


「ちょいブロー、サー」


「潜望鏡深度まで2フィート、サー」


「ブロー止め」


「ブロー止め、サー」


「潜望鏡深度です、サー」


「ESMアンテナ上げ」


「ESMアンテナ上げ、サー」


「電波、受信しません」

「レーダー波、感度なし」


「レーダーアンテナ上げ」


「レーダーアンテナ上げ、サー」


「レーダー、反応ありません」


「夜間潜望鏡上げ」


「夜間潜望鏡上げます。サー」


 スミス艦長はサッと潜望鏡を1周させる。

 夕暮れ直後でまだ空は明るいが敵影は見えないな。


「ナンバーワン、見てくれ」


「代わります、サー」


「艦長、視界には何も見えません」


「よし。潜望鏡下げ。メインタンクブロー、浮上する」


「メインタンクブロー、サー」


 心持ち、復唱に力が入っているな。無理も無い。ろくな海図も無い海域の敵中深く潜り込み任務を遂行しようというのだ。緊張感は高い。


「セイル出ます」


「上がるぞ」


 そう言って、司令塔を出て艦橋のハッチを開ける。海水がしたたり落ちてくるが、新鮮な空気にも触れる事が出来る。一番最初に新鮮な空気を吸う。艦長の特権と言ってもいいだろう。

 首から提げた双眼鏡で辺りを見回すが、艦影らしき物は無い。だいいち暗くてよく見えん。見張り員が引き続き出てきて艦橋設置の双眼鏡を準備している。やはりこいつらも大きく呼吸をしている。


「サー、周囲敵影無し」


「了解だ」

「機関、ディーゼル始動。充電開始」

「換気急げ」


「ディーゼル始動します、サー」

「換気開始します、サー」


 シュノーケルから真っ黒い煙が出ると共に力強い音と振動が伝わってくる。


「前進原速」


「前進原速、サー」


 艦内では換気が始まっている。新鮮な空気に騒いでいる。


「ナンバーワン、3人ずつ5分交替で上げろ。タバコは禁止だ」


「イエッサー」


 さて、天測か。しかし、俺は天測において神殿と異名をはせた男。ここはナンバーワンに任せよう。


「ナンバーワン、上がってくれ。交代だ」


「イエッサー」


 ナンバーワンに引き継ぎ艦内へと降りる。と、待っている奴がいた。

 SBS上陸部隊の指揮官。ボンド中佐だ。ボンドはコードネームらしい。本名は内緒だと言うが、海軍兵学校で同級生だろ。コネリー君。何格好つけてるの。


「そう言う仕様だ。他人にはボンドで通す。それよりも貴様、天測やらずに降りてきたな。神殿」


 こいつ古傷をえぐりやがる。航海実習でマルタ島に行った時、ちょっと数値と計算を間違えたただけだ。マルタ島沖合になるはずがパルテノン神殿の座標が出ただけじゃ無いか。他にもっと離れた酷い奴はいたが俺のが一番話題になった。そのせいで神殿だ。


「何か話か」


「上陸地点までは近いのだろう。敵の警戒もきついはずだ」


「そうだな。今のところ艦のレーダーには反応は無いが」


「無事に着くといいが」


「お前達は上陸したらしたで大変だが、この艦もついでに周辺を荒らしてこいと言われている。お前達の事を隠すためにな」


「そう言う任務だ。諦めろ」


「A部隊、B部隊のことを思うとまだマシかなとも思うがな」


「B部隊は完全に囮だからな」


「まあまだ時間はある。焦るな。お前も外の空気吸ってこい」


 そう言って、奴を押し出した。

 数時間したが、おかしい。奴ら、夜間哨戒機を飛ばさないのか?


「レーダー、反応は?」


「ありません、サー」


「おかしくないか。以前は4時間おきにレーダー波を探知していたぞ」

 

「艦長、A部隊が成功したのでは無いですか」


 ナンバーワンが言った。確かにそれなら分からないでも無い。一応こちらの上陸予定時間は作戦に含まれているはずだが、都合良く行くものかな。本当なら助かるが。

 上陸は夕方に行う予定だ。夜になれば事故の心配も増える。いくら訓練を積み重ねたコマンド部隊とは言え危険を減らす方がいいだろう。


「通信室、先ほど拾った電文はどうか」


「暗号を解読中です、サー」


「そうか。いい知らせならいいが」


 程なくして暗号が解読され届けられた。いい知らせだった。


 A部隊、攻撃成功セリ 敵飛行場に大ダメージ 艦艇にも多大の損害を与える


 そうか。それなら昼間上陸とするか。相談してこよう。

 コネリーならぬボンド中佐は部下と供に機材にチェックに励んでいた。こいつ拳銃は敵国のワルサーPPKだと?ウェブリー拳銃じゃないのか。アレは嵩張るから小型自動拳銃の方がいい?兵隊のはエンフィールド小銃じゃないのか。エンフィールド小銃もあるぞ。狙撃用にな。メインはステンMKⅥだ。機関銃も有るじゃ無いか。ブレンは支援火器で部隊に1丁だけだ。

 などなどとしゃべっているが、本題に入るか。


「ボンド中佐、上陸だが明るい方がいいか。それとも夜でないといけないのか」


「艦長、明るい方がいいな」


「では、早朝上陸を始めたい。よろしいか」


「助かるが敵は大丈夫か」


「A部隊が成功した。かなりの損害を与えたらしい」


「では早朝としたい」


「了解した。それまで体を休めてくれ」


「ありがとう」


 セルシーは海岸まであと少しというところまで浮上航走してきた。今のところ敵の反応は無い。上陸地点は航空写真によると、砂浜で森がすぐそばまで来ている、少人数の上陸には絶好の上陸地点だそうだ。

 夜間これ以上海岸に近寄るのは危険だ。夜明けまで着底して待つ事にする。俺も休もう。

 

 早朝、明るくなると共に上陸作戦は決行された。SBSコマンド17人が森に入るのを確認後、離脱。

 さて、どうするか。



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― 新着の感想 ―
[良い点] コネリーさんのご冥福をお祈りします。
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