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転移国家日本 明日への道  作者: 銀河乞食分隊
第一章 日本 外地進出
21/219

駆逐

駆逐します。地味ですね。ドンパチとか有りません。

 村の上空は良く晴れていた。

 長は、皆に体を洗われている。そんなことしなくても良いとか、くすぐったいから止めろとか、長は言っているが本気ではないようだ。

 こちらが提供した、石けん・シャンプー・リンスでとても綺麗になった長を見て、村の皆も驚いていた。


「長、ほんと」

「凄い綺麗、エルフって」

「今までなんだったんだろう」

「これがほんとのエルフ、これがほんとのエルフ・・」

「あれで七十。嘘だろ」

「私も、綺麗になれるかな?」

「ん?ああ、間違いなく綺麗になるよ」

「ありがとう。ウフ」


 一部で花が咲いていたが、長が綺麗になったのはほんとだった。カメラ持っている奴はバシャバシャ撮っている。フィルムがもったいない。止めろ。


 長はケイルラウの所に向かう。

 ケイルラウは長を見て驚き、へー、ホー、フーン、と意味もない声を上げた。


「そう言えば帝都に居た頃はこれが普通だっけ。ずいぶん汚れていたんだ」

「五月蠅いですよ。ケイルラウ。それよりも早く始めましょう」

「はい、はい」


 長はケイルラウと共にあの魔法陣の書かれて台のある小屋に向かう。


「成功すると良いですね」

「何言ってるんですか。成功するに決まっています。私を誰だと」

「知っていますよ。ケイルラウが言うなら大丈夫でしょう。でも、長として最初にやるのが務めです」

「強情なんだから」

「でなければ長など出来ませんよ」


 ケイルラウは小屋に着くと、シカの混沌獣から取れた真っ赤な魔石を魔法陣の中央に有る凹みに入れる。

 そして魔方陣の上に布を引く。長を横たえると、長の顔に魔法陣の書かれた布をかぶせる。

 日本人からすれば、不思議だった。後であの布の意味を聞こう。

 長の脇腹に溝の掘られた板を添える。


「皆、静かにしてね」


 ケイルラウが言う。皆うなずく。


「長、起きている?」


 返事がない。まるで・・・


「では、寄生虫の駆除を行います。あ、そうだ。日本人。そのパシャパシャ言うのも止めて。気が散る」

「はい」


 カメラをしまわせる。出しているとやりそうだからな。

 ケイルラウの顔つきが変わる。いつのも穏やかな顔ではない。真剣な顔だ。あの顔を見れば誰も茶化したり出来ないだろう。


 ケイルラウが何やらつぶやきながら長の体に手を添える。む!手がうっすらと光っている?なんだあれは。

 やがて、下の魔法陣もうっすらと光り出す。

 長の体が魔法陣の出す光に包まれる。幻想的な光景だ。

 しばらくそのままでいると、血の臭いがしてきた。どういうことだ。誰も長を傷つけたりしていない。

 やがて、魔法陣の光が弱くなり、消えた。


「喋っても良いわよ」

「長は、長は如何した。成功なのか」


 村人の第一声はそれだった。

 それに対してケイルラウは、これを見なさい。と言って、長の脇腹の板を見せる。見た人間は、うっと言って顔をしかめたり青くしたりしている。

 なんだ?見ると、うぇ、これは写真で見せてくれた住血吸虫の成虫じゃないか。成功したんだな。


「どれどれ、上村君。場所を代わってくれ」


 本間医師が言うので素直に代わる。他の医師達もやってきた。


「おお、凄い。これは本物ですな」

「成功だ」

「しかし、この周囲の白いのは?」

「恐らく卵と幼生ではないかと思いますが」

「では、さっそく顕微鏡で」

「待て待て、村の皆さんの確認が先だろう」

「そうでした」


 長の脇腹を見ると、一筋の血が流れていた。誰も切っていないはずだ。医師達も疑問を抱いているが、今は村人に長の無事を見せるのが先だろうと言うことで、おとなしくしている。

 ケイルラウが、清潔な布で血を拭き取り、また新たな魔法陣の書かれた布を長に被せる。

 次に長の顔に被せた布を取る。

 医師達は、顔に被せた魔法陣は恐らく麻酔の作用の有る魔法陣ではないかなどと話している。

 

 時間を見ると、長が台に横たわってから三十分くらいだった。


「恐ろしいな。あれだけのことをたった三十分か」

「手術をするにしても準備だけでそれだけかかるぞ」

「あの魔法陣と顔に被せた布は譲ってもらえるのかな」

「如何かな、貴重な品らしいが」

「でもあれが有れば、我が国の住血吸虫患者の希望になるぞ」

「その前に長の回復を見届けねば」

「確かに」


 皆ケイルラウに突進したいだろうが、村人が長を見守っている状態で突進してはひんしゅくを買うだろう。医師達も分かっているのかおとなしくしている。


 村長が目を覚ましたのはお昼過ぎだった。起き上がろうとするが力が入らないのだろう。身じろぎするだけだ。誰かが見かねて起こしてやる。


「ありがとう。この麻痺の魔法陣は効き目が良すぎないか」

「そんなことないですよ、村長。そのくらいでないと痛みで目を覚ますじゃないですか」


 ケイルラウが答える。


「そう言えば結果は如何だった。成功か?」

「成功ですよ。ただ日本人達は一週間くらいしないと確定出来ないと言っています」

「なぜ?」

「便の中に卵がないか、見極めたいそうです」

「そうか、で、この魔法陣は体内の傷を治す魔法陣だな。必要だったのか」

「ええ、寄生虫の正体と居場所を日本人に教わった結果、必要になりました。最初の魔法陣に修正を加えてあります」

「そんなに厄介なのか」

「はい、私たちではあとどのくらい解決まで掛かり、どのくらい死者が出たか」

「それは。日本人達よ、ありがとう。礼を言う」


「受け取っておきましょう。ですが医者として当然のことをしたまでです」


 本間が答えた。他の医師もうなずいている。


「ケイルラウ、疲れているようだが、まだ出来るだろうか」

「村長、その大怪我用の魔法陣は、それだけなんです。村長の回復次第ですね。だから動かず、おとなしく寝ていて下さい」

「あ、ああ、分かった。分かったからそんな目で見ないでくれ」

「分ければ良いです。安静ですよ」




 日本人医師達とケイルラウは、村長から離れた所で話をする。


「ケイルラウ、あの光はなんなのだろう」

「あれは魔法が発動するときに出る光ですよ」

「村長の顔に被せた魔法陣はなんですか」

「あれは麻痺の魔法陣でも強力な奴だ」

 ・・・・・質問が尽きない。

「待て、皆でいっぺんに質問をするな。こちらから説明する。良いですね」

「「「お願いします」」」

「あの台に書いた魔法陣は、寄生虫を体外に排出する魔法陣だ」

「凄すぎる。どうやって体外に出すのですか」

「あの魔法陣には、人に有ってはいけない物を殺す術式が組んで有る。あなた方に見せてもらった寄生虫の卵や幼生を殺す。これは見た者が頭の中に現物を思い浮かべながら行う必要がある。だからあの魔法陣だけでは殺すことは出来ない。ここまでは?」

「はい、魔法を知らないので理解が追いつきませんが、なんとか」

「では続いて、殺した相手を体外に排出する。これは寄生虫や毒虫・毒草などを排出する術式が書き込んである。具体的には脇腹を切り開いて人体に有ってはならない物を排出する。これは分かりますね」

「はい」

「ここまでは、先人が開発してくれた魔法があり、その組み合わせです。問題はここからでした。あなた方が捕まえさせたあのシカから成虫の場所が分かりました。あの太い血管の中とは思いませんでした。あの血管の中から寄生虫を取り出したり、殺してバラバラにするのが大変危険だと教わりました」

「お役に立てて嬉しいです」

「これも先人が開発した術式なのですが、血管の中から異物を取り出す術式が有ります。この術式を使いました。この術式は出血を抑えながら異物を取り出すという非常に優れた物です。ただこの術式は発動に非常に魔力が必要です。今回使った良質な魔石でも五回が限界でしょう。他の者も感染しているのでしょう?」

「はい、検査した限りでは、四十六人の方が感染しています」

「三人に一人なのですか」

「そうです。潜伏期間が長いので感染しても分からないでしょう」

「同じくらいの魔石が後十個必要なのですね」

「今回簡単に持って帰ってこれたようですが」

「いえ、あのクラスの魔石はかなり危険な混沌獣を倒さないと手に入りません。ロウガとミカヅキの二人が無理をしたのでなければ良いのですが」

「あのシカは大物なのですか」

「恐らくあれで中の中じゃないかと思います」

「中の中?」

「大雑把に混沌獣の強さを分ける分類です。小型と中型と大型があり、それぞれにまた下位と中位と上位があります」

「九段階ですか」

「そうですが、そう単純なものではありません」

「それは分かる気がします」

「ではケイルラウ。中の中の魔石が十個必要と言うことですか」

「そうです。それ以下の物だと効率が悪くなります。中の低の魔石では三十個近く必要になるでしょう」

「でもそれだけ危険度は低いわけですよね」

「狩りの効率や難易度という問題も有りますから。一概には言えません」

「それでは狩りをする人達に任せるしかないと」

「そうです。彼等は出来るだけ希望に添ってくれますが、危険を冒せとは言えません」

「その通りですね」




 真田連隊長は、住血吸虫の体外除去が成功したという報告に驚いた。医者に聞いた限りでは日本、いや地球では出来なかったはずだ。


 遅ればせながら、村の名前も判明した。カラン村である。


 だが同時に送られてきた報告の方が頭が痛かった。歩兵銃が通用しない。

 

 上村報告では、混沌領域から出て弱体化した混沌獣の中型の下位クラスになら通用するが、それ以上の混沌獣には通用しない可能性が大きいと言う。


 混沌領域から出て、弱体化した相手にだ。領域内の混沌獣はどれだけ硬いのか。


 後でサンプルを送るが、イノシシの混沌獣で中型下位の個体に対して六発命中、頭蓋骨を貫通した物が一発。今後の活動に不安があると言う。


 真田は、艦隊に日本へ転送してもらった。後は偉いさんが考えること。俺たちは今有るもので如何するか考えることだ。




駆逐成功。経過も良好のはずです。

困ったのは軍部。歩兵銃が戦車・装甲車に通用しないような物。さあ大変です。


石けんはともかく、シャンプーとリンスがあるのは年代的におかしいですが、化学産業の技術水準が上がっているという設定がありました。設定しておいて良かった。


次回 九月二十四日 05:00予定

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