ディッツ帝国 反抗 フェザーン奪還
奪還はまだか?
ディッツ帝国の強襲は前回と同じように航空撃滅戦から始められた。
とにかく制空権を確保しないことには地上でどうやっても損害が多くなるだけである。
基本的には敵を上回る戦力を敵が集中しきらないように運用する。敵の裏をかいてとか言う戦術論を言う者もいるが、大きな戦場では正攻法こそ損害を最小にする。正面でやり合うしか無い戦場では細かい場面で戦術は有効であるが、情報収集能力の高い近年では「兵は詭道なり」は目的と時期を悟らせないと言うことに通じる。
目的を悟らせないは、目的がはっきりしすぎていて無理である。
時期を悟らせないは、前進基地への航空機配備を迎撃戦闘機中心とし小型の戦術機は後方から作戦開始後に前線投入という手段で「まだ時期では無い」と考えさせた。物資の集積も同様である。ほどほどにしか、つまりいつもの集積と同じ量である。ただじわじわと各地への集積は始まっていた。
ある意味危うい物の流れだった。だが後方が地続きの本国であり鉄道も複々線という環境が可能にした。
まず事前に前線の物資集積所に集められたのは、多数のトラックとフォークリフトだった。敵の偵察機に見つからないように巧妙に隠蔽された。
貨物列車も、水と石炭の補給に手間取り転車台が無いと向きが変えられない蒸気機関車は貨物列車到着後に分離され、一時保管場所に退避していく。最後尾に連結されたディーゼル機関車がほぼ空になった貨物列車を牽引して戻っていく。ディッツ帝国製のディーゼル機関車はまだ力不足であったが、空のコンテナ車が多い貨物列車なら多少長くとも一編成を引っ張るだけの力があった。蒸気機関車は転車台で向きを変え石炭と水の補給が終わり次第戻っていく。線路にループ部分を作り転車台無しで回頭させようという声もあったが、候補地の地形が悪く中止となった。
このとき活躍したのが、統一規格コンテナだった。コンテナは数種類の規格で決められたサイズであり、下手な積み方さえしなければ積み重ねても崩れる心配は無かった。積み荷が少なくてもコンテナ一個になるため、そういう事態の容積における効率は悪いが輸送や保管に関する品質や安全性、効率はそれを補って余りある物だった。そのコンテナをフォークリフトで貨物列車から降ろしトラックに乗せ、集積所で分配する。ある物はそのまま基地へ行く。
少し前までは、荷役労務員が沖仲仕同様大汗をかいて運んでいた物である。一編成で運び込める量は減ったが荷下ろしの時間は格段に短くなった。コンテナも同様に有ったが各社で規格が違い混載と積み重ねは危険だった。
コンテナからの小分けや積み込みは、以前と同じで荷役が汗をかくが次の貨物列車の時間を気にしなくてもいい分仕事に余裕が出来、事故や仕分けミスが減っていた。
統一規格は国が音頭を取り強引に決めた。これにより物流効率が一気に改善された。広い面積は必要だったが、それさえも強引に確保していった。
そんな状況で強襲開始とともに大量の物資が運び込まれている。
「おい監督、このコンテナはどこに置く?」
「あ~、それか。ジョンさん、B-3の列に頼む。気をつけてな」
「こんだけ、安全確保の人員が立っていればまあ大丈夫だよ。それじゃ行ってくる」
現場には、安全確保のため大量の誘導員が存在していた。交差点には足場を組んで上から見ている者も居る。そこには信号機も有った。事故があれば時間と人員を取られる。ついでに金も飛ぶ。必要な物資が届かないのは困る。信用も失う。だから事故を最小限にするために安全確保を丁寧に行う。基本だった。
そんな後方の苦労を無駄にしないためにも作戦は成功させると、物資現着の確認に来ていた軍人達は思う。
航空撃滅戦は前回のように時差攻撃と異方向同時進入を仕掛け、的を絞らせないようにした。
最大の的はフェザーン郊外に在る大規模飛行場だった。それは敵も分かっているだろうが、他の飛行場や基地が攻撃を受ければ対応せざるを得ず、戦力が分散されていく。
そこへ低空侵入した高速攻撃機の群れが一気に押し寄せた。細かい爆撃目標は指示されず、とにかく大量の小型爆弾をばらまいて飛行場の機能を一時的にも奪うことが目的だった。もちろん少数の大型爆弾も投下され、それの目標は滑走路だった。
攻撃後の偵察で概ね成功したことが確認された。推定で敵飛行場能力の五割を奪ったとされた。
最初にやった航空撃滅戦では、敵も初めてのことか鮮やかに決まりすぎた。敵も対策をし、さすがに一気に能力を奪われることは無くなっている。
この攻撃で気になることがあった。敵の新型機が確認された。単発の戦闘機で空冷機だった。高高度迎撃機であるTe192や主力戦闘機であるOs109/G系よりも大型で主翼にMG18を六丁積んでいるらしい。
報告によれば、高空性能以外はTe192を上回る可能性を指摘していた。後から出てきたのだから当然だが、高性能機の出現は現場を困らせる。MG18六丁の破壊力は、二十ミリ四丁を上回る。防御力も強力でOs109/Gなら撃墜確実級の射弾を浴びせても逃げ切ったという。
やっかいな奴の出現だった。
救いは運動性能が余り良くないようだと言うことだった。戦闘機が来れば逃げ、もっぱら爆撃機専門に襲撃してきたという。
敵の迎撃態勢が変わる可能性があった。従来は高空以外すべてOs109/Gが主役であった。今後あの機体が多く配備されるようになれば、対戦闘機がOs109/G、対爆撃機が新型という役割区分が出来るだろう。
航空撃滅戦は、三日にわたる波状攻撃で一旦終了した。偵察機により周辺飛行場で機能の五割を奪ったとされた。
最初にやった時は、敵も初めてだったのかこちらの思惑に乗ってくれて成功裏の中に終わった。今後はあのような完全に近い成功は無いだろうと思われる。
今回も敵飛行場の能力は五割残っている。
お代わりが始まった。こちらの損害も馬鹿に出来ないが、敵の方がより酷い。前回と合わせ六日間にわたる波状攻撃でほぼ周辺飛行場の機能を喪失せしめた。後は後方から飛んでくる機体だけだ。これで常時地上支援機を前線に出せるようになった。
地上戦の始まりだ。
『青葉城、青葉城。伊達五番。敵新型戦車を認める。大きい。七十五ミリ砲を弾かれた。支援を・
『伊達五番。青葉城だ。応答せよ』
『伊達五番小隊、応答せよ』
『ザーーーー』
「やられたのか」
「やられたようですね」
「小隊全車か?」
「ですが応答がありません」
「七十五ミリ砲を弾かれたと言ったな」
「一式中戦車では対抗不能か」
「すぐに各部隊に警告を出せ。一式中戦車で対抗不能な戦車が出現。出来れば情報を持って帰れと」
「「了解」」
青葉城こと戦車連隊本部では焦燥感が出てきた。ひょっとしたら対抗可能かも知れない試製八式戦車は足回りの完成度が低く、前線で使えないことがはっきりし持ってきていない。
航空支援が頼りだった。
「あいつか」
小松崎軍曹がつぶやく。
「デカいですね」
大河原一曹があきれる。
「通信兵、中隊本部に通信「ワレ敵新型戦車確認セリ」だ」
「了解「ワレ敵新型戦車確認セリ」送ります」
「小松崎軍曹、中隊本部からです。出来れば写真を持ち帰れ」
「言うのは簡単だな。官給のカメラを持っているのは小隊長だろ。ここには居ない」
「加藤兵長が私物のカメラを持っていたはずですが」
「大河原一曹、加藤兵長と頑張ってこい」
「・了解です」
小松崎分隊は他の一分隊(大河原一曹指揮)と共に小隊から分離して遊撃戦を展開していた。そこにこの戦車とコンニチワであった。
大河原一曹と加藤兵長はカメラを持って近づくが、レンズの反射で発見されないか気になり軍人手帳に詳細メモをイラストと共に書き込んだ。
後に戦場アートに模型のボックスアートやメカデザインの先駆者として名を上げる小松崎スタジオは此所から始まったのかも知れない。
対地支援機がやってきて、銃撃を始めた。一式戦だ。ロケットや爆弾は使ってしまったのか銃撃だった。だが、二十ミリが効いていないのか当たり所が悪いのか分からないが、戦車は平然と動き出した。銃撃には辟易しているようで、隠れ場所を探して移動するように思えた。
やがて撃ち尽くしたのか銃撃は止み、上空で旋回するようになった。
それが翼を翻して去って行った。敵後方からのの救援機だろう。数機の敵戦闘機が周辺を飛行している。
歩兵は隠れるしか無かった。
そうしている中に、戦車は後退していった。
フェザーン周辺の飛行場を使用不能にし局地的な制空権を手に入れたディッツ帝国の攻勢は強まった。
敵が刹那的にならないように脱出可能にしている。ベルフィスヘルムへ向かう鉄道や道路の破壊は意図的に避けられた。
逃げ道を塞いで頑強な抵抗をされ損害が増えることを懸念した結果だった。
徐々に撤退していく敵が増えていた。やがて雪崩を打った逃走に変わった。
そんな中、操車場と駅で大爆発が起こった。郊外にある石油火力発電所でも爆発が起こり炎上している。
もう撤退は完了したのだろう。残っているのは逃げ遅れた奴らか、任務を帯びた奴だろう。掃討戦が始まる。
フェザーン市街は奪還された。後は油田方面だ。だが敵は思い切りが良いのか油田からも撤退していった。
設備の破壊と油井の炎上という置き土産があったが。
ここにディッツ帝国はフェザーン奪還を宣言した。
破壊して後退は当然ですね。
新型機のイメージはP-47でお願いします。排気タービン無しで代わりにより大出力エンジン搭載で。
戦車のイメージはⅥ号ですね。二十ミリ弾がエンジンカウル部分等の弱点に命中しなかったと言うことで行動は可能。
コンテナサイズは海コンでは無くて、フォークリフトで運べるサイズです。JRコンテナと思ってくれれば。
次回は、やはり不定期で。