ディッツ帝国 反攻 ホイカル奪還
短いです。
どんより曇った空からそいつらはやって来た。こちらの陣地の有る場所を特定しているようで、かなりの正確性を持っていた。塹壕とトーチカに閉じこもって頭を下げているしか無かった。
下手に状況を知ろうと頭を上げれば爆風で吹き飛ばされる。砲弾の破片や吹き飛ばされた土や石、以前は何かの物だった破片など様々な物が致死レベルの速度で飛んでくる。
ようやく終わったのが、二十分ほどしてからだろうか。耳がおかしい。口の中が土だらけで急いで水筒の水でゆすぐ。鼻の中はフン!とばかりに吹き飛ばす。
良い場所では無いな。ガミチス帝国東部戦線東大陸派遣軍所属、第百三十二師団第三連隊第二大隊第二中隊第三小隊小隊長ウィリバルト・ヒンデンブルク少尉は思った。
士官学校卒業後配属二年目でそろそろ古参の下士官に馬鹿にされなくなってきた。最近敬礼がきっちりされるようになった気がする。
現実を見ると、何本か向こうの塹壕が穴になっていた。あの塹壕にいた隣の小隊の分隊は全滅だな。
ようやく聞こえるようになってきた耳にいやな音が聞こえる。飛行機の音だ。あの軽快な戦闘機は小型のロケット弾を叩き込んでくるいやな奴だ。こんな曇天で雲高が低くても平気で飛んでくる。
「全員頭を引っ込めろ!狙われるぞ!!」
先任曹長の厳しい声が聞こえた。そうだったと頭を下げる。あ~、なんか機関銃の音が聞こえる。どいつだ対空機関砲か?違うな普通の機関銃か。バカヤロウ、狙われるから撃つなよ。気持ちは分かるが。
先日中隊長や大隊長に歩兵全員で歩兵銃を戦闘機に撃ちましょう。ビビって逃げるかも知れません。上手くすれば操縦ミスで落ちてくれるかも。と言ったら、馬鹿にされた。トンビに狙われた小動物が態々居場所を教えて如何する。とまで言われた。間違ってはいないと思うのだが。
その戦闘機はやはり機関銃陣地を狙ってロケット弾を発射した。チビチビ何回かに分けて撃つ奴と一気に撃つ奴がいるのだがこいつは一気に撃った。
塹壕から頭を出さなくても斜め上にいるのだから見える。本当は塹壕の前側にへばりついて敵に姿を晒さないようにするらしいのだが、曲がりなりにも隊長である。状況は見なければいけない。
一瞬パイロットと目が合ったような気がした。気のせいだろう。ロケット弾は味方を減らしてくれた。機関銃という頼もしい味方を。
畜生と思いながらも再び現実は厳しかった。敵の戦車が見える。不味いな。対戦車砲陣地は生きているのだろうか?あそこに在ったはずだが、在ったはずなんだ。おかしい見えないじゃ無いか。
双眼鏡で見ると低倍率だがちゃんと見えた。私物のオペラグラスだ。小隊配備の軍用双眼鏡は先日の空襲で持っていた兵隊共々細かくなった。
「通信兵、敵戦車だ。型はチクショウめR5の新型らしい。視認出来るだけで6両は居る」
「二中隊本部、こちらD4K7地点、敵戦車R5の新型。6両視認」
『本部了解。小隊長は居るか』
「本部、替わります」「小隊長、中隊本部です」
「三小隊ヒンデンブルク少尉」
『少尉、状況が悪ければ後退しても良い。集合場所は規定の地点だ』
「了解しました。周りの対戦車能力は無さそうです。後退許可を」
『許可する。本部以上』
「通信終わります」
受話器を通信兵に返して周りに大声で命令する。
「後退だ。場所は分かっているな。焦らずに見つからないように急げ」
各分隊に伝達されていく。
「小隊長。負傷者五名。戦死三名です」
先任曹長が報告する。
「曹長も出血しているな。手当を忘れるな」
「了解です。それよりも後退場所なのですが…」
「如何し……」
敵戦車が装甲車を伴って回り込んでいた。
なんてこった。これでは後退出来何じゃ無いか。小隊に対戦車能力は無い。周囲にも無かった。マズい。大変マズい。
先任曹長と相談の上、小隊をふたつに分け一つは自分が、もう一つは先任曹長が率いて後退をする事に成った。「無理で有れば降伏もやむなし」と指示をした。ドメル司令長官も命は粗末にするなと言っている。今負けても次の戦場が有ると。
ヒンデンブルク少尉の小隊は運が良かったのだろう。ホイカル市街に設けられていた連隊本部は砲撃で全滅。各大隊が個別に動かざるを得なくなってしまった。中には全滅同然の損害を出してしまった中隊も有った。
悪天候の中、飛んできてくれたOs210も敵戦闘機に追い払われてしまった。
残された連隊砲などで抵抗するも優勢な敵戦力を押しとどめることは出来ず、ジリジリと後退していった。
ヒンデンブルク少尉はホイカル郊外の丘陵地まで後退出来た。まだ先任曹長とは会えない。
そこで他の奴らに聞いた。
戦車?最初に半分吹き飛ばされた。らしい。運の悪いことに戦車中隊の整備場所に何発か落下した砲弾で補給車に載っていた砲弾が誘爆。砲撃被害と合わせて戦車半分が使えなくなってしまった。四両いたⅤ号戦車も敵S1戦車に撃破されしまったようだ。残りの戦車はS1戦車を扱いかねている間にR6にやられたと言うことだ。
それでも敵戦車四両撃破。装甲車二両撃破。歩兵一個大隊程度が消える損害を与えてやった。
最初に頭を潰され、主戦力も潰され、如何しろと。相手の方が戦力でも上回っていたし。
それで勝てれば、士官学校の教科書に載るわ。
と、後退してきた部隊を問い詰めたある大佐が逆ギレされた。
悪天候を利用したホイカル奪還作戦は無事成功した。
次は春の攻勢までここを維持出来れば。
ディッツ帝国は陣地化を急いだ。
次回 七月十八日 05:00予定
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