東インド大陸沖海戦 6
乱戦は困るなー
船の名前が混乱して
空母同士の対決は引き分けに近かった。若干英日が上回る戦果を上げただけであった。
これは、英日が合同攻撃では無く目標を分散したせいも有った。後年、空母のみに攻撃を集中させるべきという声が上がるが、英日艦隊は商船団を守らなければいけなかった為、空母と戦艦に目標を分散するしか無かった。と言うのが多くの専門家の声である。
ガミチス側の記録では英日の商船団は発見されていない。これを持って空母に集中攻撃をと言うのだが、当時の英日艦隊にそのようなことが判るわけも無く、商船団は見つかったと考えるのが常道である。
ライオンと大和は敵戦艦を追撃することにした。敵戦艦が後退するそぶりを見せているからだ。「水に落ちた犬は叩け」と言う。叩く機会だった。
「魚雷が一本と二本、それぞれ命中しましたから」
航空参謀の言葉だ。
「大和も二本受けたぞ」
島崎司令が答える。
「大和なら二本は余裕で耐えます」
艦長佐々木大佐だった。
「案外、水中防御に余裕が無いのか、変なところに当たったのかも知れませんね」
機関参謀が言った。
「それはあるな」
ハウスラーは2本の航空魚雷の命中で速度の発揮が不可能になりつつあった。
どの軍艦でも装甲の継ぎ目はある。1本目でそれがズレたのだった。2本目で缶室外板に亀裂が入り浸水が始まった。応急をするにも缶のそばで場所が悪く近づくのが困難との事。浸水は徐々に酷くなり排水が追いつかなくなってしまった。今は六基ある高温高圧缶の内一基を停止している。機関長の報告だった。速力も27ノットが一杯だろうと。
航空魚雷の2本程度でこうなるとは思わなかった。
応急長からは速度を落として欲しいと言われるが、敵がいる以上落とせなかった。
ハウスラー艦長メルストム大佐はツキがないと思った。
その時司令長官入室の合図がなった。
「クムリエ参謀長」
「ワルメルーズ司令長官」
「先程の震動はなんだね」
こいつは現状を認識していないのか。艦橋にいる全員が伝令まで含めてそう思った。
大体、何故こんな時に部屋から出てくる。司令官室に引っ込んでいてくれ。
「魚雷2本被雷しました」
「2本も当たったのか」
戦争をしているのだぞ。何を考えている?
「本艦隊は無事任務を達成出来るのだろうな」
「「「「!!!!????」」」」
「如何した」
「いえ、失礼しました。現状では大変困難と考えております」
「なんだと」
「先程もお知らせしましたが、同等の敵艦隊が道を塞いでおります。戦況は我に不利です」
「我らは栄光あるガミチス海軍だぞ。蹴散らせ」
こいつは戦況をしらんのか。全員が思う。
「申し上げた通り、現状では難しいです」
「お前、参謀長。ワシは撃滅しろと言っただろう!何故出来ない」
「戦力差がありません。いえ、向こうが上回っていると」
「何とかしろ」
「無理です」
「・上官反抗だぞ」
「事実を申してるだけです」
「かまわん、全艦突撃だ。艦長、敵戦艦に向け突撃だ」
「拒否します」
「な・何だと」
「拒否すると言いました」
「抗命罪だ。戦闘中の抗命罪は重罪だぞ。衛兵、衛兵を呼べ」
「司令長官。いえ、ワルメルーズ中将。精神錯乱で拘束します」
「何だと!ワシは司令長官だ。中将だぞ。貴様らごときが逆らえるものか」
だが艦橋には味方がいなかった。ほとんどの将兵によって取り押さえられる。
手錠と猿ぐつわを枷られ司令官室に入れられてしまった。非装甲区画だ。戦闘中、命中弾で名誉の戦死だろう。命中弾はきっと有る。無ければ・
「時間を無駄にしたな」
「そうですね。しかし、敵との距離、詰まっていません」
「デカい方に魚雷二発ですから」
「向こうも無理はできんか」
「とにかく敵魚雷はもう撃てんと見ていいのか」
「1回撃ってますから、普通なら」
そう普通ならだ。敵の性能を一切知らないのだ。断言は出来ない。
「よし、撤退する。上陸船団には北ソレイル島基地への帰還を命じろ。我々は後詰めだ」
「了解しました。戦艦戦隊は如何しますか」
「不安がある。付けておけ」
「了解しました」
「艦隊を再編する暇は無い。このまま敵を振り切る」
「向こうの戦艦次第ですね」
「全くだ。ついなかったな今回は」
「まあ振り切りましょう。幸い敵戦艦の1隻は速度が我々同様出ないようですし」
「そうだな。水雷戦隊に期待するか。空母は如何なのだ。航空参謀」
「雷撃機がもう6機しか無いそうです」
「やれると思うか?」
「敵戦闘機がいますので行くだけ無駄かと」
「分かった。艦隊直援はどうか」
「戦闘機も同様です。稼働12機です」
「忌々しいな」
上空をには10機以上の敵機が居座っている。さっきの忌々しい高速偵察機や水上偵察機もいるそうだ。対空砲火は上がっているが射程外を旋回している。
「レーダー。距離は」
「28000です」
「このまま諦めてくれれば」
都合良くは行かなかないものだ。
「敵先頭艦発砲」
「いくら観測機がいたとしても、この距離だぞ」
「着弾。左舷後方400」
「下手くそ なのか」
「先頭艦敵発砲」
「着弾。左舷前方200」
「先頭艦発砲」
「着弾。右舷後方300」
敵の発砲は止んだ。これでは当たらない。無駄だと思ったんだろう。
「レーダーです。敵戦艦接近してきます」
「見張り、見えるか」
「判別出来ません」
「当たらないのは分かるが、ばらつきが大きくないか」
ヘンリー司令長官が疑問を呈する。
「25000以上の遠距離射撃は訓練もほとんどしていないのですよ。予算の都合で」
オーウェル参謀長が返した。
「よし詰めよう」
「大和は如何しますか」
「後から来るだろう」
「伝えます」
「頼む」
「艦長、キツネ狩りだ。キツネにしてはデカいがな」
「アイ・サー。ライオンでキツネ狩りですか。キツネがかわいそうになりそうです。増速します。機関。両舷前進最大戦速。針路このまま」
ライオン艦長マクレガー大佐が答えた。
「だが奴の牙はキツネとも思えん」
「どのくらいの牙なんでしょうね」
「本艦の装甲が牙に貫かれないよう祈るか」
「最近イエスは信じていないのですよ」
「ほう、ではどの神だね」
「ウェールズの出なので、アリアンロッド様です」
「では祈ろう」
二人は適当に祈った。
遠ざかっていくライオンを大和は見ているしか無かった。右舷に二本喰らった魚雷のせいで速力が出せない。それに二十五ノットも出すと抵抗のせいか直進性が怪しかった。今も二十五ノットだが微妙に当て舵をしないと、真っ直ぐ進むのも苦労している。
「ライオンは狩りに行くか」
島崎司令長官が呟いた。
「大和は後から来いとのことです」
中川参謀長が答えた。
「艦長、本艦から敵戦艦は」
「前が三万、後ろが二万九千です。撃ちますか」
「勿体ないような気がするが、遠距離砲戦をする。観測機にはよろしく言っといてくれ」
「了解しました」
「司令長官、撃ちますか」
「撃つ、本艦の最大射程は五万だ。射程内だろう」
「それはそうですが、弾をばらまくだけという気もします」
「ライオンの援護だよ」
「そういう事にしておきます」
ライオンが突撃し大和が援護射撃を始めた頃、巡洋艦以下の艦艇は乱戦だった。
魚雷を戦艦に届けようと突進するガミチス駆逐艦を阻止しようとする英日艦隊。
英日艦隊を妨害しようと撃ちまくるガミチス巡洋艦。
各艦の艦橋やCICで航海記録を取る主計科や航海科の将兵が投げ出したくなるほどの激しい転舵を繰り返していた。
真の乱戦は次回か
あっさり片付けているかも知れません。
ご容赦を
次回 六月二五日 05:00予定